Last update 2007年10月07日
タイトルなし 著者:亜季
「私の悩ましい欲望は、油を注がれたように、恐ろしい勢いで燃え上がったのである。」
なんて、いかにも文章みたいな台詞を、キーちゃんは口に出して真顔で言う人だった。
ちょうど初体験の話を、みんなで面白おかしくバカ笑いしていた時にあまりにも真顔過ぎるのが妙に可笑しくて、みんなで笑い転げていたことが懐かしかった。
今夜も女同士、バカな話をするために同窓会を開いている。
「京子~、キーちゃんのあの時の台詞覚えてる?」
「覚えてるも何も忘れられないって!」
「だよねー!・・・でも、もうあの文書染みた台詞も聞けないんだね。」
「・・・うん。」
1年前、居酒屋の同じひとつのテーブルを囲んで笑っていたキーちゃんは、今年からはもうこの場に来れないのだ。
「でも・・・キーちゃんのことだから、きっと天国で今日の話にも文章口調で突っ込んでくれてるよ。」
「ププッ・・・そだね。」
みんなして一緒に思い出し笑いした。
――みんなで集まるときは、姿は見えなくてもキーちゃんは傍にいる。――
そんな風に、私は時々思うことがある。