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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:kazumi


私を玄関に見送る彼女の顔が、淋しく悲しげにさえ見えたほどだった。

「馬鹿な・・・」
私は自嘲をつぶやき首を横に振った。
彼女は、つい10分前まで、わたしに監禁されていた「被害者」だ。
本来なら連行される私の背中につばを吐きたい心境のはずなのだ。
この2日間、彼女は私に両手足首を縛られ、自由を奪われていたのだから。

あいつらに追われて、行き詰まりにたどり着いたのがこの部屋だった。
もう走れない、吐き気とめまいでほとんど、やけになっていた。
どこにももぐりこめないとなれば、最上階に行って飛び降りてもいいさ、そんな心持でいた。
ろくな人生じゃなかったな・・・。
表札が女名前の部屋を選んでせわしくチャイムを鳴らし、ドアを叩いた。
「すみませーん、車急いでどかさなきゃいけないんで、至急ハンコいただきたいんですがぁ!」
彼女は、宅配便のふりをしてドアチャイムを鳴らす男を覗き穴から見ることもせず、あわててドアを開けてくれた。
こんなねじのゆるい女が、よくこの都会で一人で暮らしていられるものだと、押し入った自分を棚に上げて彼女を縛り上げながら思ったものだ。
ストッキングが床に、椅子に何枚も転がっていたおかげで、とっとと縛り上げることができた。
明かりを消し、彼女を眼で威嚇し息を潜める。まだとりこんでいない新聞が留守宅様のカモフラージュになったのか、足音は通り過ぎ戻ってこなかった。
それから、夜が来て朝が来て、また夜が来て。
2日間をだんまりを通す私と彼女はこの部屋で対峙していた。
最初は泣きじゃくっていた彼女が、段々と平静を取り戻し、けして私を見なかった目がこちらを向き、私を観察しはじめ、「冷蔵庫にチーズはいってるから。食べる。出して。」と しばられたまま怒った顔で私に初めて声をかけたのが
5時間後あたりだった。
冷蔵庫の中は、物悲しいくらい空っぽで、確かにチーズが一箱入ってはいたが、後は化粧水と、これまたストッキングが数枚まだ下ろしていない様子で入っているだけ だった。
「変な 女・・・」頭の中でつぶやいた。
だまってチーズを出し、彼女の口に運んだ。
「気が利かないな、口の中がもさもさするじゃない、水も!」
にらむように言って、それから、「あなたも食べていいよ」と、幾分優しい声をだした。
        • こんな状況に、なれているはずもないが、女って奴は、わからん、と、無言のまま少し口のはじが笑いを帯びた。
そのとたん、彼女の態度が、あきらかに変化したのだ。
饒舌に話しかけてくるようになった。
無論 私はだんまりを通していたが、それにお構いなしに、彼女はまるで一人芝居をするように話しかけては、答を自分で用意し納得していた。
監禁の恐怖心を和らげようと必死なのかと最初は思っていた。
だが、「手、前でしばってくれてよかったわ、おトイレできるし(笑)」 
命にも貞操にも危機感のかけらもない様子で、ぴょんぴょんとしばられた両足ではねて、トイレに向かう彼女を、制する気さえおきず、私は部屋の隅で壁に背中を預け、ぼんやりしていた。
ぼんやり、というか、彼女を、楽しんでいた。
「変な、おんな ・・・」
私のことを聞き出そうとすることに飽きた彼女は、自分を語り始めた。
この間見た映画の話から、好きだった男のこと、離婚した両親のこと、10歳離れた弟が2歳で死んだこと・・・。
話し疲れると、わたしのそばにゴロゴロと転がってきて顔を覗き込んで笑い、またごろごろと転がって部屋のまんなかに戻ったりした。時折、水をせがんだ。
コップで水を彼女に飲ませると、のどがこくこくと鳴った。昔飼っていた猫を思い出した。
私は、楽しんでいた。
だが、彼女は、喜んでこの状況を受け入れているはずはなく、逃走か反撃のチャンスを待って私に気を許した演技をしつづけているのだろう、時折、小さくため息をついていた。

眠らないまま2日目の夜が来て、朝方堪えきれずがくっと深い眠りに落ちた瞬間があった。
はっと目が覚め、目の前に彼女が転がっていないのを見て、すわっ、助けを求めに外へでたか、と部屋の中を見回すと、ローテーブルの向こうに右ひざをクッションの上にのせて熟睡している彼女が薄暗い部屋の中に見えた。ほっとしながら、今度は声が出てつぶやいていた。
「変な 女・・・」
結局その朝、新聞配達人が残ったままの2日分の新聞を奥に落としてついでに覗いたポスト口から、彼女が縛られている様子が見え、通報されて、踏み込まれたわけだが、踏み込まれた瞬間彼女も私もすっかり眠っていたので、抵抗もできないまま静かな逮捕となった。
あいつらに捕まるよりは、なんぼかましな結果かもしれない。
両脇を手荒にかかえられて玄関に向かう私に、ストッキングを解かれた彼女が駆け寄った。
一瞬、見送る彼女の顔が、淋しく悲しげにさえ感じた。 が、すぐ打ち消した。
一発、お見舞いされるかと、腹か?顔か?と少し力を入れて待機した。

あの時の彼女のセリフは、今も、耳に残って離れない。
変な女だ。ホントに。

「・・・また、話、聞いてよね。待ってて、いい?」
彼女は小さな声ではあったが、心を込めてかきくどいた。





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