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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:おりえ


「えらく遠大な計画だな、おい」 「それはそうさ。夢はでっかく持たなきゃいけねえよ。ハッピーに行こうぜ!」
俺は相棒のいつもの掛け声を聞きながら、地面から足を浮かせた。
人目を忍んで空を飛ぶには、夜が一番最適だ。だが最近はどうだ。俺たちの他にも空を征服する輩が増えた。飛行機然り。ヘリコプター然り。未確認飛行物体然りだ!
「相棒! 今日の気分はどうだい!」
「はっはぁ! ハジけてますよ! ハジけまくりだぜ! イェー!」
俺のケツの下で、相棒はラップでも口ずさみそうな勢いだ。
「それでは始めようか! 相棒!」
「いえあー!」
相棒はぶるっと身体を震わせると、俺を乗せたまま、一気に加速した。
「ひゃっほう! 冷たい風が痛いぜ相棒!」
「関係ねえさ! もっと飛ばすぜ!」
夜空の星が俺の横で一直線に流れていく。このままどこへでも飛んでいけそうだ。
頭髪も、服も、何もかも置き去りにする勢いで、俺と相棒は空を切る。
ああ俺ってば、将来ハゲても、ヅラはかぶれまい。

世の中は「魔法ブーム」だ。仕方ない。世界に改革をと叫んだとある作家が、魔法使いの本なんか出版しちまったせいで、俺たちの生活は一変してしまった。
それまではあくまでも「こっそり」魔法を使うのが常だった俺たちは、世間の前に引っ張り出され、「堂々と、大げさに」魔法を使うことを望まれてしまったんだ。
別にそれは悪くはない。目立ちたがりの俺と相棒にとって、それは願ったり叶ったりの話さ。堂々と? OKOK。あなたのために、一肌脱ぎましょう? 全部脱ぎま しょう? え、ああやりすぎやりすぎ。
というわけで、俺たち魔法使いは、今では普通に人間の前で魔法を使っている。
勿論魔法使い同士の掟もあって、命に関する魔法は使わないとか、あまり広範囲に影響を及ぼすものは使ってはいけないとか、制約はある。
俺たちが何故人目を忍んで飛んでいるか。
…今から俺たちは、その制約を破るつもりでいるからなのさ。

「あら、こんな夜更けに物凄い速さで飛んでいるのね」
縦横無尽に飛び回る俺と相棒に平然とついてきて、軽く話しかける声があったのは、しばらくしてからだった。
半分意識が飛んでいた俺たちは、とろんとした目でその声に応じる。
「このご時勢、ゆっくり飛んでなんかいられるかい」
「ひゃっはー! どうよ、ネェちゃん、俺と夜明けまでドライブしない!?」
相変わらず俺のケツの下では下品な相棒が、声の主とは別のものに声をかけている。

「まあ、あなたのホウキは、随分と変わってるのね?」
声が面白そうに和らいで、ころころと笑う。
相棒は完全に舞い上がり、スピードを緩めた。俺は慌てて相棒の身体をつかむ。
速度を落とし、相手もそれに合わせて俺たちの横に並ぶ。
そこには魔女が、ホウキに優雅にまたがって飛んでいた。
「ネェちゃん、綺麗な身体してんなぁ、あんたに使われてるホウキモロコシ、何製?」
これまで共に空を飛び、馬鹿をやってきたホウキだが、俺の相棒だ。
どこから声を出しているのか俺にはわからないが、お世辞にも紳士的とは言えない態度で、魔女のホウキに話しかけている。
「アメリカ製ですわ。この間新調したばかりですのよ」
魔女の下で、ホウキがすました声で答える。
「まじでぇ!? おーい聞いたか、おまえも俺の取り替えてくれよぉ。何年同じもんが俺にくっついてると思うんだよぉ。俺もう稲は嫌なんだぁ」
「…え、ホウキって、それが本体じゃないの? おまえらって一体どんな仕組みになってんだよ?」
思わずまじまじと見下ろすと、相棒はぶるぶると束ねた稲を震わせた。
「そればっかりは言えねえ。企業秘密だ」
「どんな企業だよ」
「ふふふっ」
魔女は笑い、優しく自分のホウキを撫でた。
「誰にでも隠し事はあるものよ。ねえ?」
「その通りですわ」
「見ろ、ネェちゃんたちはああやって分かり合ってる。お前もつまらんことは気にするな」
俺は相棒に、ホウキに諭されてどこか納得いかない面持ちでうなずいた。仕方ねえ。
ここで相棒に見捨てられたら、間違いなく死ぬからな。
「ところであなたたち、こんな夜中にどこかへ行くの?」
魔女が月明かりに照らされて、その輪郭をはっきりと浮かび上がらせながら聞いてきた。
うむ、なかなかの美人。防寒用に羽織っているマントも、風になびく背中まである髪の色も真っ黒で、いかにも魔女! といういでたちだ。
俺はにやにやしながら答えた。
「これから魔法を使うんでね、あちこち飛び回って、よさそうなところを探してたんだ」
「…あちこち?」
魔女は柳眉をひそめ、考えると、口を開く。
「それって、依頼もないのに、勝手に魔法を使うということ?」
「その通り」
「…ねえ、いくら世間が私たちを認めてくれたからって、あまり好き勝手に魔法を使うのは、感心しないわよ」
俺は肩をすくめて、相棒を見下ろした。
「あんたもそう言うか」
「あんたもって、何よ?」
「どいつもこいつも腰抜け揃いだな!」
俺の相棒が笑い飛ばす。
「人間の依頼がないと魔法を使わないなんて、俺たちゃやつらの使い魔じゃねえんだ。せっかく堂々と人間の前に姿を現せるようになったのに、なんでこそこそしなくちゃいけねーんだよ!?」
「そういうことではありませんわ。わたしたちの力は彼らにとって、興味の対象であり、恐怖の対象でもあるのです。その自覚を持って行動するべきだと、彼女は申しているのです」
魔女のホウキが、真面目に言う。俺の相棒は鼻で笑うような声を出した。
「まあ実際魔法を使うのは俺じゃねえしぃ。いいんじゃね? ちょっとくらいやつらに俺らの力を見せ付けてやるのも! 何も命をとろうってわけじゃねーんだ。見逃してくれよ!」
「返答次第よ。あなたたち、何をするつもり? 広範囲に影響を及ぼす魔法を使うなら、魔女として、私が黙っていないわよ」
風に逆らって、魔女の黒髪がざわりと揺れた。魔法使い特有の、魔力を使う時に光る目の輝きが、俺と相棒をにらみつける。
「…おい、俺の上でチビったら、こっから振り落とすからな」
「チビるか! アホ!」
俺たちの足元にはネオン街が宝石のように動きながらきらめている。ここから落ちたらどうなるか、想像するだけで眩暈がするぜ。
「さあ、白状しなさい。何をするつもりなの?」
爛々と輝く瞳の輝きに魅せられて、俺は降伏した。


「………嫁さん探し」


「は?」
「ごめんなさい、よく聞き取れなかったのですけど」
目が点になる魔女と、魔女のホウキが困惑した声を出す。
夜でよかった、夜でよかったと思いながら、俺は真っ赤になって、ぼそぼそ言った。

「嫁さん探し」
「俺も俺も!」
息荒い声の相棒。
魔女と魔女のホウキはしばらく放心し、はっと我に返った。
「ふ、ふざけないで、真面目に答えなさいよ!」
「ネェちゃん、そりゃないぜ? 男がこんな情けねえこと冗談でも言えるか? なあ言えるか?」
「相棒…ちょっと黙ってろよ」
「まあ聞けよ。俺たちは、世間に出るまで女ってもんをまるで知らないピュアな少年そのものだったわけ!
それがどうよ、今じゃ堂々と、嫁さん探せるご時勢になったわけだ! イェー!
美人のカミさんもらって、子供は十人と十本。絶対に腐らないお菓子の家建てて、そこで一生スウィートな生活を送る! どうよ!? 素晴らしいプランだろ!?」
くああっ! やめてくれ! 男ひとりといっぽんだったからこそ馬鹿な話で済ませられたのに、何も女の前で言うことないだろ! 恥ずかしくて死にそうだ!
頭を抱える俺と、得意げな相棒を穴が開くほど見つめた魔女と魔女のホウキは、
「十人…」
「十本…」
恥さらしの告白よりも、そっちの方にショックを受けているようだ。
「ちょっと待ってよ。お嫁さん探すために、なんで魔法がいるの?」
慌てたように魔女が言う。驚いた拍子に、瞳の輝きは元に戻っていた。
「まさかあなたたち、手当たり次第の女性に、禁断の魔法を使うつもりだったのでは…!?」
魔女の下で、魔女のホウキがわなわなと震えだした。
「ええっ!?」
「あ、バレちまったか」
「ちぇーだな、相棒!」
あーあと言い合う俺と相棒に向かって、魔女は冷たい視線を浴びせた。
「異性を虜にする秘術…それを使った者は末代まで軽蔑と哀れみの目を向けられる、禁断の魔法ね」
「そこまで言うなよ」
「悲しくなるだろ、ネェちゃんよ」
「悲しいのはこっちよ。情けない…人間にはない優れた能力があるのに、こんなことに使うつもりだったなんて、ご先祖様に顔向けできないと思わないの?」
「だってしょうがないだろ! 俺たち女と仲良くなる魔法なんて知らねえし!」
「ついでにだな、俺はホウキ同士で子が成せるのかどうかも知らんのだ! 俺のことなのに!」
力強く叫ぶ俺の相棒に向かってため息をついた魔女は、首を振って、自分のホウキを見下ろした。
「ホウキのくせに色気づくなんて…あなたからも、何か言ってやって」
「えっ」
「ホウキ同士で子供なんか作れるわけないじゃない。幻想だ、妄想だ、ありもしないことだって、はっきり言ってあげなさいよ」
「女って、変な所で現実的だよなー」
「全くだぜ、夢見た子供時代もあったろうに。男の夢を壊すことに命かけてやがんだよ」
「そこ、ヒソヒソしない!」
「あ、あの、わたしにも、その…」
魔女のホウキの声が、小さくなっていく。
「どうしたのよ?」
「あ、あの、魔力を持ったホウキですし、全く可能性がないというわけでも、ないと……思います」
「ええっ!? な、何言ってんのよ!?」
慌てふためく魔女を無視して、相棒は歓声を上げた。
「いやっほう! 聞いたか相棒! 子供は十本だぁーっ!」
「うわああ、やめろ、暴れるな!」
上下左右に身体を振り回す相棒に、俺は必死でつかまった。
「信じられないわ…ホウキが子供を……………」
呆然とつぶやく魔女が、最後に俺を見た。俺も魔女の目を見る。
「……」
お互い色々な想像をし、ふたりで静かに首を振った。
知ろうとする方が馬鹿なのだ。

それからふたりとにほんで夜空の下を、静かに飛んだ。
「眠れないから気晴らしに飛んでただけなのに、これでますます眠れなくなっちゃったわ」
魔女は両手でホウキを持ち、ふうと息をつく。
「睡眠の魔法かけてやろうか? 自分じゃかけられないだろ」
「…いい。自力で眠るから」
「遠慮すんなよネェちゃん!」
「遠慮じゃないの。丁重に、心から、お断りしてるのよ!」
「うわー。聞いたか相棒。女ってほんと、はっきり言いすぎだよな。傷つくっちゅーの」
「それに耐えてこその男さ! ああ気にしない! 俺は気にしないさ!」
「やめてよーもー」
魔女は笑い出し、俺たちもつられて笑った。
「で、恥知らずな魔法かけてお嫁さんゲットはどうするの? まだやるの?」
「ぐはっ、何か心に刃が来た!」
「俺も俺も!」
胸を押さえる俺と、稲の束を震わせる相棒に、相変わらず魔女は冷ややかな目を向ける。
「候補がここにいるから、やらないことにしたよ」
「候補? 誰?」
わざとらしく後方を確認する魔女。ふふ、鉄壁だぜ。
「ネェちゃん、これから二本で、どうやって子供が作れるか、試行錯誤を繰り返していこうな!」
「…え…あ、は、はい」
「ちょっと! 何肯定してんのよ!?」
「後は俺たちだけだな!」
「勝手なこと言うなぁ!」
突っ込んだ後、魔女はこめかみに指を当て、きっと俺を見た。
「いいわ、私ひとりが犠牲になればすむことですものね」
「おいおい」
「まずは、お互いのことを知ることから始めましょう」
「……え、あの、いいの?」
俺は急に不安になって、上目遣いで魔女を見る。
どこか上ずった声で、魔女はぎこちなくうなずいた。
「あたしもね、実は男の人とこうやってお話しするの、あんまり経験がないのよ」
「そうなの!?」
「そうなの! だ、だから実は、緊張してて」
うつむいて、しおらしくなる魔女がたまらなく可愛いと思えて、俺は頭を掻いて、笑った。
人間世界と切り離された狭い世界で、俺たち魔法使いは細々とやってきたけれど、こうやって知らない相手とこれからももっと交流することができるのだと思うと、目の前がぱっと開ける気がした。
現にこうして、当初の計画通り、俺は嫁さんになるかもしれない相手と巡り会えた。
相棒にもそういう相手ができた。いいことばかりじゃないが、悪いことばかりでもない。
俺は場を和ませ、なおかつふたりが徐々に親密になれるためには、何をすればいいのか考えた。
だが俺の貧困な発想では、こんなことしか浮かばないわけで。
それでも彼女が笑ってくれたら、俺たちはうまくやれるだろう。
俺は星たちに祈りながら、彼女に言った。


「じゃあ、しりとりでもする?」





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