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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:シーメル


「よし、しりとりでもしない?」

不意にメグミは僕に言った。

「いくらなんでも、そんな場合じゃないだろう」

辺りは真っ暗で、外ではビュービューと強い風と雨が吹き荒れている。
年に何度かの台風接近、しかもでかいのがきたという事で、ニュースが騒いでいたのは数時間前。
それからテレビも点かなくなって1時間は経ったと思う。
そんな時に隣に座ったメグミが言い出したんだ。

「うーん、だって暇だしさ。テレビもないし」

生粋のテレビっ子で、1日何時間だって見ていられるようなメグミにとってこの状況は結構きついのかもしれない。
うちの両親がラジオすら用意してなかったもんだから、それで暇を潰すって事もできない。

「しょーがないな。じゃ、りんご」

乗ってやったのが嬉しかったのか、メグミは僕の腕に巻きついて「ごー、ごー…」と呟き出した。

「ゴールドエクスペリエンス」
「すずめ」
「メメタァ」

ジョジョかよ。
まともなしりとりをする気はないらしい。
とりあえずケチは付けておく。

「あー?擬音じゃないのか、それ?」

というかそれ以前の問題。
メグミの思考がいかがなものかと思う。

「レンは細かい事気にしすぎだよー。時間の無駄無駄無駄」

ふと気付くと、点けていた蝋燭が残り少なくなっていた。
懐中電灯があればいいんだけれど、僕は置いてある場所を知らず、隣人のメグミも知るわけがないというもんだ。

「だーわかったよ。続けりゃいいんだろ。た?あ?」

メグミはうちのハナ(2歳雌)を抱えている。
変なポーズを取らせている。
にゃー。

「あ、ハナちゃんは『「あ」でも「た」でもどっちもでいいにゃー』と言った」

嘘付け。

「多摩」

と言うと、僕は立ち上がった。
メグミは「まー、まー…」と悩んでいるようだ。
蝋燭の代えを取ってこなくちゃいけない。

「ま、ゆっくり考えておけよー。僕ちょっと蝋燭出してくるから」

「ラーメンついでに作ってきてよ、お腹すいたからついでに」

軽い口調でカノジョは言う。
僕はためいきをついてハナを持ち上げた。

「にゃーん…と、『よく考えろよにゃー。何で停電にゃんだっけ?』」

僕はメグミの真似をしてやってやる。

「ケーブル切れて停電してるからだよね?」

ハナと顔を合わせるように、メグミは見上げる。
にゃうー。
ハナもそうだとばかりにタイミングよく鳴いた。

「ね?って、よくわかってるじゃんか。つまり湯は沸きません。ラーメンはできないの」


僕はハナを下ろしてやり、メグミにそう伝える。

「No!まぢ?晩御飯食べられない?」

「いや、パンくらいならあるから。ほら、お前が好きな三星堂のくま」

中学生にもなって動物パンが好きなんておかしな趣味をしているが、妙にメグミはこれが好きらしい。
熊の顔を模った、子供向けのパンだ。
両手で受け取ったメグミは、わーいと喜んでくまパンにかぶりついた。
ついでに僕は近くにあったラスクを一つ咥える。
もぐもぐと口を動かしながらメグミは続ける。

「マジシャンズレッド」

しりとりの続きらしい。

「どー、どー?」

「ドドドドドドドドッとかは、なしよ」

(言わねぇよ)と思いつつバリッとラスクを噛み砕いて、僕は蝋燭の入っているだろう棚に手を出す。
蝋燭の箱の上に乗っている救急箱なんかが結構重い。
それをどけるのに少し手間取ってしまう。

「よっと…わかってるよ」

箱の中から数本取り出して、蝋燭台代わりに使っている皿の横に置いておく。
夜はまだこれからという所で、停電もなかなか直りそうもなかった。
使ってしまうという事もないだろうが、置いておくにこしたことはないだろう。

「よし、こんなもんだろ。真っ暗になる心配はないよメグミ。えーと、次はど?」

揺らめく薄明かりの向こうで、うんとメグミがうなずいた。
陽炎のように揺らめく彼女の顔は、ほてったように赤く見えた。

「どげざ」

二人のパンを齧る音よりも大きい風の音が吹き抜ける。
ガタガタと揺れる窓枠に、思った以上に早くなる鼓動を感じた。

「ざっと見て、危ない所。ないよな?」

周りを見回してみてそうメグミに聞いてみる。

「ないと思うけど…大丈夫かな銀座?」

銀座には今頃帰れなくなった、メグミのお母さんがいるはずだ。
店に泊まって帰るから、今日は隣の家(つまり僕の家)に行くように言われたらしい。

ところが僕の両親も一泊日帰りの旅行が、途中足止めを食らって帰りが明日になるという事で、思わず二人っきりになってしまったというわけだ。
どことなく気まずい気持ちを抱えているせいで、メグミもしりとりなんかを言い出したんだろう。

「ザ・ワールド。あ、アタシの番よね?」

うちの両親はそんなに台風の影響のないところに泊まると言っていたので問題ない。

ただ、今日は二家族みんなで、手巻きパーティーにでもしようと言っていたのでそれは残念で仕方がない。
材料も全部冷蔵庫の中に入れてあるっていうのに。

「ねーちゃんたちもいるし、向こうには男の人もいるだろうから、大丈夫だと思うよ」

少し心配げなメグミを慰めて、僕はそう言った。

「夜も早いけどさ、今日はさっさと寝よう」

僕は大きなあくびをした。
元々夜は早い方なんだ。

「うーん、しりとりはアタシの勝ち、よね?」

メグミは悪戯っ子のような微笑を浮かべた。
僕は黙ってソファーにかけてあった毛布の中にもぐりこんだ。

「寝る。お前の勝ちでいい。」

不意に変な感触を感じた。

「いッ、おい!お前の布団はあっちに用意しておいたじゃないか!」

いきなり自分の毛布の中に潜り込んで丸くなるメグミに、どぎまぎする。

「構わないでしょ~昔はいっつもこうやって寝てたんだし」

そう言って僕の腕に自分の腕を絡ませてくる。
腕に感じる柔らかい感触に、僕は諦めたように小さく嘆息した。
外では地鳴りのように鳴り響く轟音も、家の中には何の影響も及ぼさない。
静かとは言えない夜だったけれども、なんだかこんな二人だけの夜も悪くないと思った。

「しゃーねぇ、蝋燭消すよ」


こういうとき立たなくていいのは結構便利だなと思う。
そのまま強く息を吹きかければそれでおしまいだ。
腕の中で小さくメグミがうなずくのがわかった。
真っ暗になった部屋の中。
じっとそんな暗闇を見つめていると、微かに腕に伝わる感触が震えているのに気付いた。
よくよく考えればそうだ。
一人が怖くなければ、僕のところにくるわけがない。
そんな事に今更気付いてしまう自分に、ちょっとした自己嫌悪を覚えつつ、不思議と笑みがこみ上げてくる。

「夜の間…今夜だけだからな」

僕は小さくそう言うと、そっとメグミの背中を抱きしめた。
伝わっていた小さな震えが静かに消えていくのを服ごしに、肌ごしに感じる。

「…ないも」

毛布の中から消えそうな声が漏れた。

「問題あるの?」

僕はそう言って頭を撫でる。
もぞもぞとメグミが顔出して上目遣いに僕を見た。

「…No。いつでも問題ないも」

舌ったらずにそう言うと、顔を真っ赤にして毛布を被った。
僕はそんなメグミの態度に、軽く笑みを浮かべて毛布の上からポンポンと優しく叩いてあげた。
何分経っただろうか。
優しい寝息が毛布の中から聞こえてきた頃に、僕は毛布の中の寝顔を見つめた。
静かな安心しきったその頬に、軽く顔を近づける。
シャンプーの甘い香りが鼻をくすぐる。
心臓の音が聞こえまいかドキドキする。
触れようか触れまいか。
僕の中で相対する感情が葛藤する。

「もぉ」

不機嫌な声をあげて急に飛び起きたメグミが僕の唇を奪ったのは一瞬の事だったけれども、その瞬間が僕の中では一生のように続くようだった。
メグミは何事もなかったように、毛布をぐいと引っ張ってそのまま丸まってしまった。
僕といえばそのままの姿勢で固まったままだ。

「おやすみね」

小さく毛布の中から聞こえる。
右手で唇に微かに残った感触を確かめながら、僕は小さく嘆息する。
端から見たらにやけ顔になっていたかもしれない。

「寝てろよ、見ててあげるからさ」

僕もカノジョにそう伝える。
微かに頷いたような雰囲気を感じた。
逆に僕の高まりきった心臓では、この夜は寝れそうにもなかった。
夜はまだまだ長い。

気付けばすずめが鳴いている。
カーテンの隙間から、眩しそうな日光が差し込んでいる。
蒸し暑い空気に満たされた室内で、僕の服は汗で濡れてしまって気持ち悪い。
吹き続けていた風も、強かった雨も今ではどこへやら。
きっと僕たちのいない場所では、誰かが震えているのかもしれないけれども、僕たちにとってはもう過ぎ去った話だった。
電気のスイッチを入れてみる。
駄目だ。
どうやら停電はまだ直っていないらしい。
静かな寝息を立てているメグミを揺り動かして、僕は時計を見た。
12時をさしている。
本来なら学校に行かないとを急ぐ時間だけど、今日は日曜日。
大して急ぐ必要もない。
テレビのスイッチをつけてみようとして、まだ電気が通ってないのを思い出して、自分に笑ってしまった。

「さって、とりあえずごはんにしようか?」

戸棚をごそごそとしてから、にんまり笑う。

「缶詰くらいしかないけどな」

シーチキンにイワシの煮付け、鯖の味噌煮。
あとは残り物の少し湿気たラスクにパン。
朝から食べるにははちょっと重い食材を、何個も机の上に並べていく。

「なんか喉渇いちゃいそうだよ」

メグミは食卓の上を見てげんなりとした顔を見せる。
食べたくなきゃ食べなければいいさ。
ラスクを咥えて、僕は庭の様子を見てみる。
塀が倒れてたり、瓦が飛んできたりしてないかとも思ったけれど、思った以上に平気だった様子。
少し木の葉っぱが減ったかなって程度で後は、いつもと変わらない風景だ。

「よかった、そんな問題なさそうだぞ」

メグミに向かって声をかけた。
けれども、当のメグミからは返事がない。
いぶかしく思って振り返ってみると、メグミは冷蔵庫を拓いて鼻を押さえている。

「ぞればよがったわ」

鼻を押さえているせいか、変な声。
僕は思わず笑ってしまう。
メグミは少し冷蔵庫から離れて中を指さす。

「笑い事じゃないよ、もー」

何となく僕も近づいてみる。
普通ならヴーンという冷蔵庫独特の稼動音が聞こえてくるところなんだけれども、その音がしない。
当然だ、停電しているんだから。
むっとむせ返るような生臭い匂いがそこから漏れてくる。
わかったでしょ?というような顔でメグミは苦笑いをうかべて言った。
僕も苦笑するしかなかった。

「問題は冷蔵庫よ」





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