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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:松永夏馬


「その証拠に、ちゃんとビールジョッキまで冷やして、用意してあるやないか」

「は?」
「今みたいあな残暑厳しいあっつい時期は、ビールはキンキンに冷やしたジョッキでなきゃあかんからな。通やね」
「何を言うてんねん」
「ん、何がやねん」
「何が……て、話聞いてた?」
「あたりまえやがな。密室やろ?」
「密室言うてもただの密室ちゃうで。舞台は4階建てのワンルームマンション最上階。通路に面した玄関にもベランダに面した掃きだし窓にもキッチリカギが掛かってて、玄関の内側にはドアを塞ぐかのようにゴミ袋が山になっててん」
「一人暮らしの若い兄ちゃんやからな、やけにコ汚い部屋や思うたわ」
「ホトケさんに失礼やろ。……ガイシャは倉雲医科大の学生さんや。エリート中のエリートやで」
「エリート言うたかて部屋コ汚いし」
「それはもうええがな。とにかく密室や」
「密室や言うたかて部屋コ汚いし」
「もうええっちゅうねん。……で、なんでビールジョッキやねん」
「入ってるやん冷蔵庫と冷凍庫にギッシリとビールジョッキが。見えへんのか? 老眼?」
「見えるわ。コレ見えへんかったら老眼どころちゃうやろ。……いや、だから、そういうことでなくてな」
「みなまで言うな。一からちゃんと説明したるがな。……いや、面倒やし五ぉくらいからの説明でええか?」
「なんでやねん、一から説明せぇよ」
「それが人に物を頼む態度か?」
「うっさい、ええから早ぅ言え」
「ふふん。ええか? この密室の謎は解けてるも同然や。このガイシャのキッチン見てみ? 片手鍋一個しかあらへん。包丁もガイシャのどてっぱらに刺さってるのんがコイツのやとしても一本きり。つまりコイツは料理なんてせえへん不精もんや。まぁ学生時分こんなもんやろ」
「万年独りもんのお前かて料理なんてせえへんやろが」
「チャチャを入れるな。……そんな男の冷蔵庫には当然なーんも入ってへんな」
「そらそうや。マヨネーズとペットボトルのお茶以外、入ってるもんはビールジョッキが18本。ご丁寧に冷凍庫にまで詰められるだけ詰めてあるわ」
「ほななんでビールジョッキなんて詰めてんのと思う?」
「そんなもん、お前がさっき言うたやんけ。ビールはジョッキも冷やして飲むのが通や、って……アレ?」
「そう。ビールがあらへん」
「どういうことやねん、ビールが無いのにジョッキだけ冷やすんか」
「まったくお前はアホやな。このジョッキはビールを飲む為に冷やかしてあるんと違うんや」
「……は?」
「犯人はガイシャを殺した後、自殺に見せかける為に部屋の鍵を閉めて密室を作ったんやな」
「どうやって部屋を出たんや?」
「ここまで言うてもわからんか? ……しゃぁないなぁ、お前のアタマは飾りか?」
「お前のアタマは飾りにもならへんな」
「あのな。……ええか? 犯人はある場所に身を隠した。そしてその場所に自分が隠れる為に邪魔になったビールジョッキを別の場所に移動させたっちゅーわけや。冷蔵庫に隠れるわけにはいかへんけども、ビールジョッキなら冷蔵庫に入っててもさほど違和感がない」
「おおお。なるほど、そういうわけか。つまり、ビールジョッキが置いてあった場所に犯人は隠れている、ということか」
「せや。したがって、その犯人が隠れているのはソコやッ!! もうバレてんねん、犯人よ、観念して食器棚から出て来いや」
「観念せぇッ!!」



「……入ってへんやん」
「……うん、まぁ、当然やろな」
「当然て。……いや、まぁこんな戸棚に隠れとったらどっちにしろバレバレやったしな」
「こんなもんやわ」
「得意げに語りおってからに、何をえらそうにしてんねん」
「まぁ、ええがな、推理なんてもんは」
「なんでやねん」

「あんなのどうせ、ビールの泡みたいなもんやってんから」





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