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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:七夜実


「何しろ、自分が殺したとしか思えないような状況だからね」

「自慢しながら話すことじゃないと思うけど」

「仕方ないじゃん。こんなにもはっきりしてるんだもの」

「でも、何にも憶えてない。そうだよね?」

「そうなんだよねぇ、全く」



ロッカーに詰まった彼は、見るからに悩み満々だった。

私はそれを、スパゲッティーを食べながら見つめていた。



「で、どうするの?」

「どうするって、何を?」

「死体」

「あー・・・入れたまんまにしておく訳にもいかないか」

「臭うしね」

「そう?」

「あんたは別、あんたは」

「そういや風呂入ってないんだな、長いこと」

「笑いながら言うな、それを」



一段と派手に笑う顔の横にもう一つ、こちらを向いた顔が見える。

最も、明らかに死んでいる、という顔をしているが。

死体が上になっていたならば、この笑い声もアヒルの悲鳴にしか聞こえなかったに違いない。

全く、惜しいことだ。



「ところで何食べてるの?」

「ナポリタン」

「・・・こんな状況で、よくもまぁ食欲が」

「あんたが言うな」

「なら続きを言ってくれる?」

「言わない」

「なら言う」

「言わなくていい」

「じゃあ、ちょっとくれ」

「・・・食べたいなら食べたいと」

「そこで食うからだろ」

「テーブルが無い」

「買えよ」

「このロッカーが邪魔」



四畳半の部屋に2メートル近い箱が置いてあって、一体何を置けというのか。

それまで使っていたちゃぶ台も、こいつの『引っ越し』の時に「邪魔だから」という理由で、勝手に捨てられたのだ。

ロッカーをその代わりに使ったからといって、一体何の文句がある!



「とりあえず、ドアに腹が密着してるから、そこに置かれると熱くてたまんない」

「置くところがない」

「なら台所で」

「ここ共同」

「じゃあ床」

「・・・あんたの上にベニア板でも乗っけてあげようか?それだったら臭いもしないし、熱くもないんじゃない?」

「・・・・・・出て行けと!」

「その状態で出来るんならね!」



小休止。

食事は終了。

とりあえず、食器を洗わないと。

話は後・・・・・・ん、話?



「あ、そうだ」

「どうした?」

「話逸れちゃって忘れてたけど、その死体」

「あ」

「忘れてた?」

「すっかり」

「で、どうする?」

「どうするって、捨てるんだよ、もちろん」

「・・・ドアを開け」

「駄目」

「即答するんじゃない」

「そういう約束だ」

「した憶えはない」

「うんって言った」

「言ってない」

「うなづいてた」

「見えるのか?」

「気配だよ、気配」

「分かるわけないだろ!」



小休止。



「そもそもだよ、そもそも」

「ん?」

「このドアには鍵が掛かっているから、何人たりとも開けることは不可能なのだよ。忘れてたね?」

「不適に笑うんじゃない」

「悔しいだろ?」

「んな訳あるか!」

「まぁ、だからこそ殺したのは自分しか考えられない訳でして」

「無視か・・・」

「ともかく、このドアは開かないのだ!不可能!インポッシボー!」

「だから威張る・・・じゃあ、誰が鍵を掛けたんだ、このロッカー」



そうだった。

こいつ、自分で鍵掛けられないじゃない。

その質問に対し、幾らか落ち着いた様子で答え出す。



「それは鍵を捨てた人が・・・」



そこではた、と声が止まった。

あわてて隣の死体の顔をのぞき込む。

そして、素っ頓狂な叫び声をあげた後、見たこともないような顔をして黙り込んでしまった。



「何だよ、その、ビタミン剤と間違えて下剤を呑んでしまったことに唐突に気付いたかのような、よじれきった顔は」





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