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Last update 2007年10月08日

部長 著者:暇子


かじりかけのピザトーストが皿の上ではねる。

同時に、僕のメガネが床に落ちた。
父親にも打たれた事の無い僕の左頬が赤く腫れ、目はチカチカする。

「バカに、しないで。」

彼女は自分の鞄を持ち、小走りで店を出て行った。

 ・・・泣いて、いたのか?

「あ、メガネメガネ。」

そう言って僕は床に膝をついて手探りをする。
ようやく見つけたメガネには少しヒビが入っていた。

彼女をバカにしたつもりなんて無かった。
むしろ、僕がバカにされているような劣等感と共に今まで付き合ってきた。

 ・・・付き合ってきた?

そんな言い方をしたら、彼女に失礼かも知れない。
一緒に居てもらっていた。隣に居てもらっていた。



小学生の頃、僕はいじめられっ子だった。
付いたあだ名は『のび太』君。

対して、彼女は男子にも女子にも好かれる人気者だった。
彼女の周りには必ず笑顔の輪が出来ていたものだ。
僕とは正反対の位置に居た彼女が、僕は苦手だった。



6年生の時の二学期。
学校の帰り道の空き地の隅に、僕は小さな捨て猫を見つけた。
僕は給食をこっそり残しては子猫に持ってくるようになっていた。

僕だけの秘密。
そう思っていたある日、後ろから声がした。

「給食、残してるから弱いままなのよ。」

振り返ると、彼女が笑って立っていた。
珍しく、彼女は1人きりだった。

「名前、あるの?」

「いや・・・まだ・・・。」

「部長!」

突然彼女が叫んだ。
確かにこの子猫の鼻の下のブチはチョビヒゲのようであり、額のブチは七三分けのようにも見える。
なんだこの貫禄。なんだこの威圧感。
そう言われると、そうにしか見えなくなって来た。

「決まり!この子の名前は、部長ね!」

その日から、『部長』は僕だけの秘密から、2人の秘密になった。
あんなに人気者の彼女が誰にも言わないでいてくれるのが嬉しかった。
毎日2人で給食を残して帰るようになった。



秋が来て少し寒くなってきた頃、僕はインフルエンザで1ヶ月近く学校を休んだ。
日々の連絡帳に、彼女が父親の仕事の関係で転校する事が書いてあった。
僕が回復して学校に行った頃にはもう彼女は居なかった。

空き地には重機が入り、「マンション建設予定地」という札が立ててあった。
近くを探したが、部長は見当たらなかった。

冬が過ぎ、春には僕は私立男子中学校へ入学した。
勉強が忙しくなるにつれ、彼女の事や部長の事は次第に忘れていった。



そして、3ヶ月前。

偶然彼女と出会って「久しぶり!」と言葉を交わすうち、何故かこんな関係になっているのだけれど・・・。
臆病で冴えない僕は、手を繋ぐのがやっとだった。
それでも僕にとってはすごい進展だと思っている。

だけど、僕は薄々思っていた。
彼女には、ちゃんとした男が居るに決まっている。
何故こんな僕なんかと一緒に居てくれているのだろう?

僕の父親は、少し名の有る会社の役員だ。
いずれ僕もそこを継ぐ事になるだろう。
そんな僕の、経済力が魅力だったのだろうか?

数日前、父親が取引先の社長令嬢との見合い話を持って来た。
彼女とこんな関係を続けていても、先は無いだろう。
僕は見合いを受ける事を決め、今日彼女にそう告げたのだ。

「もう、こんな僕なんかと無理して一緒に居てくれなくていいんだよ」と。



支払いをカードで済ませている僕に、テーブルを片付けていた店員が近寄ってきた。

「お客様、お忘れ物です。」

差し出された携帯電話は僕の物では無かった。

彼女の・・・。
いけないとは思いつつ、恐る恐る開いてみる。
どうせ、僕とは違うカッコイイ彼氏でも待ち受け画面にしているのだろう、と。

そこには・・・!!

「部長!?」

あれから10年。
瞳は年寄り猫のそれだったが、紛れも無くこのブチの配置は部長の物だった!
寒い冬が来る前に、彼女が部長を引き取ってくれていたのだ。
おそらく引越し先の新しい家はペットOKだったのだろう。
そして、今でも部長を大事に飼っていてくれていたみたいだ。

僕は、彼女に謝らなければならない。
まずは、携帯を勝手に見てしまった事を。
そして、やり直そう。今度こそ卑屈な思いは抜きで。

間に合うだろうか?
僕は、これ以上ないぐらいに走った。彼女の家まで・・・。
改札をかけ抜け、三段とばしで階段を転がり降りる。





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