Mystery Circle 作品置き場

癒月ハルナ

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nightstalker

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Last update 2007年10月08日

嗚呼、青春の日々~男の勲章~ 著者:癒月ハルナ


 ――あの時の俺とそっくりだった
 …今、目の前に立っているこの親友の姿は。


「…お前…半年も姿を見せないと思ったら突然電話で呼び出しやがって……一体何があったってんだよ……」
「ハハハ、まあそう難しい顔すんなや兄弟」
「…誰の所為だと思ってんだよ」


豪快に笑い乍らバシバシと俺の背中を叩く親友に、人知れず盛大な溜息を吐いた
え?何でかって?…そんなの決まってんだろ…。
何と言っても、今現在目の前に居るこの親友――基、高宮源五郎は…

ゆうに1mはあるだろうリーゼントに短ラン、ボンタン、トン靴。…そして何故かインナーの赤いロンTには『明菜命!』の四文字

まるでグレていた中学時代の自分を見ている様で、俺は静かに米神を押さえた。…いや、此処迄酷くは無かった筈だが。
10人居れば10人が皆、口を揃えて「何時の時代のヤンキーだ」と小一時間問い質したくなる様な出で立ちだ。
だが、当の本人は全く其れを気にした風も無く、相も変わらず俺の背中をバシバシと叩き続ける。
 …いい加減、痛てぇんだけど。こいつは昔から力の加減ってモンを知らない野郎だ。



「おい、大概にしろよ!大体何なんだよ!?半年も家にも帰らず音信普通でよぉ!御袋さんなんか心配して初中俺んとこ電話掛けて来てたんだぞ!?」
「いやぁー、悪りぃ悪りぃ!ちぃーっとばかしな、…あー、なんつーか、海が俺様を呼んでる気がしてよ「呼んでねーよ」
「…ま、まあ聞けって!…そんで、ちっとばかし熱海迄一っ走りしてたんだよ」


ははは、流石に所持金500円で足ひとつで行ったもんだから、途中で金と腹が尽きたけどな。そう言ってゲンは又笑った。
…アホだ。こいつは正真正銘の馬鹿だ。世界馬鹿選手権があれば間違い無く金賞で1位を取るに違いない。
俺は余りの親友の馬鹿さ加減に、一瞬言葉を失って開いた口が塞がらない。
ていうか足一つで交通機関も何も使わずに県外の熱海に行ったっつーのも信じられん。
伊能忠敬も真っ青だ。どんだけ人類の常識を無視すれば気が済むんだコイツ。


「……お前なぁ…本物のアホだろ。つーか馬鹿だろ。イヤ、寧ろバホか」
「なっ…、ひっでえなあオイ!可愛い親友がのたれ死にかけたってのによぉ!」


カズちゃんたら酷ぉーい!ゲンちゃん泣いちゃうんだから!…何てほざきやがるゲンに、取り敢えず拳骨をお見舞いしておいた。
誰が可愛い親友だ。誰が。『可愛い』何て形容詞に最もかけ離れたこの暑苦しい男の何処にそんな可憐さなんてものがある。
可愛いってのはな、C組のアケミちゃんみたいな子を言うんだよバカヤロウ。アケミちゃん好きだぜチキショー!…おっと、話が逸れちまった。


「と、兎に角!今迄何があって何がどうなってこんなんなってんのか分かりやすく尚且つ簡潔に説明しろ。そもそも何だその馬鹿げたTシャツは」
「何ィィ!馬鹿げただとぉー!?俺様の明菜をブジョクする奴は例えカズちゃんだろうと断じて許さんー!」
「あー、いいからちょっと待て!悪かったって!話逸らすなよ」
「あ、ああ…悪りぃ。でもよォカズちゃん、俺頭悪りーからそんな難しい事言われても上手く説明出来ねんだけど」
「…ハァー。いいからゲンが此処に帰ってくる迄何があったのか話してくれよ」
「なーんだそういう事か!んだよカズちゃん意地悪だなぁ!それならそうと早く言ってくれよー。」


だからさっきから何があったんだって訊いてんじゃねーか。


「そんなだからアケミちゃんが何時迄経ってもカズちゃんに振り向いてくれねーんだよ」
「う、うるせーよ!ほっとけ!それは今関係ねぇだろ!」


 …因みにC組のアケミちゃんはデラ別嬪だ。おしとやかで気さくで気立てが良くて可愛くて、芸能人で云えば綾瀬はるかチャンだ。
はっきり言って、超俺好みのタイプ。ど真ん中ストライク。…おっと、今はこの話じゃなかったな。


「ゴホン。…で?何があったんだよ」
「ああ。それがよぉ――」


 ――どうやら、ゲンが言うにはこういう事だ。
ある夜突然、海に呼ばれている様な気がして(マジ有り得ねぇ)体一つで飛び出したのはいいものの、所持金もたったの500円だった上、自分の足一つで家を飛び出して来たもんだから直ぐに金は底をつき、腹も限界を達して、ある日到頭道端で倒れてしまった。
然し、そんな窮地を通り過がりの女の子が助けてくれて自身の家に運んでくれ、暫く其処で厄介になった。
自分の絶体絶命の窮地を救ってくれ、尚且つ家に迄置いてくれたその女の子(名前は聖子というらしい)に次第に情が湧いて来たゲンは、直ぐにその聖子の事を好きになり、勇気を出して告白したものの
「私の好みじゃないからw」と断られ、後にその子が尾崎豊だとか嶋大輔だとか、そういった少しワルい男がタイプだと分かり、此処で又この単純なゲンの野郎は、粋な不良に成るべく暴走族になって暫く町を走り回って居たのだが、何か自分に物足りなさを感じて一先ず此処へ戻って来た…というわけらしい。


「…姿が見えねえと思ったら…何しっかり青春してやがんだよ。…でも可笑しいな。

ゲンって態々暴走族に入る迄も無く、その容姿とガサツな性格だけで立派な不良って感じがすんだけどなぁ。」

「俺も今迄そう思ってたんだけどよ…、どうも聖子ちゃんの云う『粋な男』の領域には達してなかったらしくてよ…」


粋な男って…。ダメだ、こりゃあかなりその聖子チャンって子に惚れ込んでるな。
こいつは一度女に入れ込むと一途過ぎるくらいに周りが見えなくなるからなぁ…。
 …チッ、仕方ねえな。此処は親友として、一肌脱いでやるとしますか。


「あのなあ、ゲン。幾らその子のタイプがワルい男だからって、形だけそうしたってダメなんじゃねえ?」
「えっ、でもそれじゃあどうすれば…」
「だからさ、こう…、何て云うか、粋な男になりてえんなら男意気ってモンも知らなきゃいけねえじゃん?」
「ああー!成る程!さっすがカズちゃん頭いいぜ!」
「へへ、よせやい照れるべ。褒めても何も出ねえぞ」
「流石は授業中ボーっとしてても一応学年主席なだけはある!…イテっ!」
「一言余計だっつの!」


その日から俺とゲンの、題して『男意気を学ぶ修行』が始まった。
大自然に囲まれた、人里離れた山奥にある俺の別荘に泊まりこみ(自慢じゃないが俺の家は結構金持ちだったりする)、
身も心も研ぎ澄まされた強い男になるべく、早朝から滝に打たれたり熊と格闘したりと鍛錬をして汗を流し(俺は傍で傍観)
その後は、極道映画や三国志、新撰組関連の映画や書物等を見て真の男というものを只管研究する日々が続いた。


「遅っせぇなぁ…」


修行を始めて一ヶ月、何時もの様に早朝トレーニングを終えて銭湯へと出掛けたきり中々戻らない相棒を待ち乍ら、手に持った『男はつらいよ』のビデオを弄ぶ
彼是二時間は経つんだが…あの早風呂のゲンがこんなに遅いのは可笑しい。


「…まさか前の二の舞になったりしねえだろうな…」


 …そのまさかだった。
だが、今回は以前とは違い、存外早く僅か五日で帰還してきた。


「高宮源五郎、今帰ったぜー!」
「!…ンの野郎…!」


玄関から聞こえた無駄に元気の有り余った様な聞き覚えのある野太い声に、俺は一目散に部屋を飛び出した。


「おい、ゲン!今迄何やって…」


今迄何やってやがった!
 …そう叫ぼうとした俺の口は、言葉を失って金魚の様にパクパクと虚しく動いた後、其の儘固まった。


「お…お前…」
「おう、カズちゃん!今帰ったぜ!悪りぃな、ちぃっと遅くなっちまった」


何とか言葉を搾り出した俺の前で、ゲンは別段悪びれた風も無く、ガシガシと頭を掻きつつ背中の緑色の物体を抱え直した


「お、おい、何だよその緑の…つーか何処に行ってたんだよ」

「ああ。それがよぉ、何時も通り朝の修行が終わった帰りに銭湯行ったんだけどよ、銭湯出る時に聖子ちゃんを見つけてな」

「聖子だあ!?ちょっと待てよ、そいつは静岡に住んでるんじゃなかったのかよ!?」

「いや、なんか男も連れてたみたいでよぉ、…その、そいつは婚約者だったらしくて…」

「はぁ!?婚約者って…許婚でも居たワケ?」

「そうじゃねんだけど、…俺が熱海を去ってからな、その男と――杉田っつう医者やってる優男なんだけどよ――知り合ったらしくて、それから意気投合してトントン拍子で縁談が進んだんだとよ」

「っは、マジかよ…」

「ああ、マジだ。…ったくよお、告白する前に失恋なんて…我乍らカッコ悪りぃぜ」



そう言うと、ゲンは肩を落として力無く笑った。


「ゲン…」


元気出せよ。女なんて何も世界に聖子ちゃん一人じゃねえだろ?お前ならもっとイイ女捕まえられるって。
流石に可哀想になってきて、そう声を掛けようとしたのだが…


「なあ、元気出…ゴフッ!」
「でも、いいさ、いいんだ!俺にはあややが居る!」
「ゲホゴホッ……は?」


急に勢い良く顔を上げて、1mもあるリーゼントが見事鳩尾にクリティカルヒットして噎せ返る俺を他所に、ゲンは更に息巻いた。


「そうだ、俺には…俺には…っ、あややが居るぅ~!」
「……(…何泣いてんだコイツ…)」


ゲンは、空いている左手で徐に懐から一枚のブロマイドを取り出すと、今度は一人絶叫し乍ら勝手に自分で言った言葉に感動して泣き出した。…忙しい奴。



「おい…」
「うおおおー、あやや最高だァァー!」
「おい、ゲ…」
「気ィーがァーつけば傍にィーあァーなたが居たー何時までーもォォー♪」
「…ちょっ、ゲン!聞い…」
「枯ぁーれぇーなァーいー愛ぃーでェー抱ぁきぃーしめーてぇー♪…抱きしめてやる
ぜ何度でも!」
「~~ゲン!いい加減にしろ!」
「うおっ!?」


一人でド下手糞な唄歌って陶酔してやがるゲンを大声で一喝すると、漸く気がついたのか、やっと此方に顔を向けた。


「…で?何でお前はいつの間にかあややファンになってんだコラ。明菜はどうした明菜は」
「はっ…!い、いや、俺の愛に限度は無い!明菜もあややもどっちも平等に愛してるぜ!」
「だから、そういう話じゃなくてだな…」
「まっさかさァーまァーにぃー落ちてDesire♪炎のよーおーにィー燃えてDesire♪」

「お、おい…」
「恋もdance,dance,dance,danceほーどー夢中になれなーいーなぁーんーてねー淋しいィー♪」
「………」
「飾りじゃなーいのーよ涙はーハッハァー♪好きだと言ってるじゃーないのーホッホォー♪」
「…ダメだ聞いちゃいねえ」


こんな状態が一時間程続いた後、歌い疲れたゲンに何があったのか話を聞けば(よくもまあ野太い声で女の歌を歌いやがって…)、失恋したショックでその場に立ち竦んでいたゲンの耳に、番頭台のオヤジが見ていたテレビからあややの歌が本人主演のCMと共に流れ込んできたらしい。その後は…まあ、想像通り、こいつは直ぐさまアイドル写真館に飛び込んだそうだ。


「でも、それなら何で五日も帰って来なかったんだよ」

「それがよぉ、アイドル写真館で会ったあややファンの奴等と意気投合しちまって、

其の儘暫くそいつ等の内の一人の家に厄介になって、あややについて語り明かして色々とあややグッズの御裾分けを貰ってきたわけよ」

「……ハァ。そうかよ。ったく、それならそうで連絡くらい入れろよな。」

「いや、悪りぃ悪りぃ!遂、夢中になっちまってよぉ」

「…で?その後ろの緑のヤツは?」

「ああ、コレか?コレは…」


言い乍ら、何やらウキウキと緑色の物体を玄関の中に引き摺り込むゲン。


「さっき言ってた、同士共から貰った御裾分けたちよ!」
「……マジかよ…」


得意げにバシン!と叩かれた巨大な緑色の物体は、あややグッズが詰め込まれた風呂敷だった。
俺は唐草模様の其れを視界に入れるや否や、言葉を失った儘、只々脱力した。
 …何しろソレは、サンタクロースにでも貸して遣れる程のビッグサイズだったのだ…。





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