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 サンクチュアリの外でとんでもない事が明らかになっているとは露知らず、アスランは聖域の中で、排除すべき存在と対峙していた。甚だ旗色は悪かったが。
「こんな事をして、どういうつもりだ」
「君がちっとも思い出してくれないからじゃないか」
 やや拗ねているように見えるが、気を抜くわけには行かない。なにせ、船のメインコンピューターに侵入しようとする輩なのだ。そんな危険人物に知り合いはいない。
「悪いが俺は君の事を知らない。誰なんだ君は」
 君と言ってしまったが、人であるかさえ疑わしいのだ。
「僕はコーディネーター。人類の為に惑星の最適環境を維持管理する存在」
「そんなこと、どうやって・・・?」
 できるわけないだろう。
 惑星の環境を操作するなど。力の入らない足腰を木に支えてもらって、怪訝な眼差しで睨み返す。
「アスラン、君もだよ」 
「でたらめを言うな!」

 僕の声が聞こえるのが何よりの証拠。

 今度こそ身体を支えられないと思った。ずっと見続けた夢、脳裏に直接響くこの声が確かに自分にしか聞こえないもの。見た事もない世界の歴史を辿る自分の頭に、否定したくてもできない現実に膝が崩れそうになる。ずるずると木にもたれていた体が滑る。その木は人工の太陽の光を反射して眩しく光る湖面の岸辺にあった。
「お前は一体、誰なんだ」
 俺は一体・・・。
 宙に浮かぶキラがアスランに手を伸ばす。疲れきった手でノロノロ空中に手を伸ばすと、指先から力が抜けるような、何か解放されていく気がする。ふんわり体が軽くなって目を閉じようとした時、空が。
 閉じかけた瞳が空の亀裂を捕らえ、やや時間を置いて、大きく空気が振動した。
 あれは・・・。
「イザーク?」
 外部から侵入を果たしたガーディアン達が上空を旋回している。目の前の少年が舌打ちしてふわりと身体を浮かせた。

 ったく、本当にしつこい生命体だねっ!
 地表の害虫を思い出すよ。

 こちらにやってくるガーディアン達を一瞥して、彼が矢のように飛び上がった。


 内部で今まさに、コーディネーター対ガーディアン達の攻防が斬って落とされようとしている時、閉ざされたサンクチュアリのゲートの前にニコルと少年キラがいた。
「ここは開かないのですよ」
 レシーバーの誰かがキラに説明したが、彼は紫の瞳を煌かせただけでゲートを見上げた。
「お願い。開けて」
 キラが呟くと同時に、その場にいたレシーバー達の耳に、あの音が広がった。

 ザザーン。ザザーン。

「この音!」
 巨大な扉のロックが次々と外れていく様には、いささか似あわない音楽をバックにサンクチュアリへの道が開かれようとしていた。
 目の前に広がっている光景に、ニコルが息を呑んだ。


 そのゲートが開く数分前、サンクチュアリの上空でガーディアン達は侵入者を確認する。
「なんだよっ! あれっ」
 ディアッカが文句を言うが、イザークだってそれに答えられる訳ではない。船を乗っ取り、地球環境を破壊したのがたった一人の少年だなどと思いたくもない。
「俺が知るかっ!」
「お前の専門だろっ!?」
「無駄口を叩く暇があったら、このポッドをアイツに向けろ。いや、アスランを探せ!」
 攻撃力の高い修復キットをぶつけるが、シールドみたいに空間が歪むだけでダメージを与えられない。そればかりは向こうは飛行ユニットを背負ったイザーク達よりも自在に、しかも早く飛ぶ。捕らえられたが最後、見えないエネルギーの塊を受けて落下するのみ。
「ぐわっ」
 また一人、墜落する。
 ついに、イザークに迫るエネルギーの弾。最初のは避けられても、続けて放たれる第2弾、第3弾目が避けられない。
「くそっ」
 イザークが覚悟を決めた時、追っている少年が急に視線を外して、サンクチュアリの一角を見下ろす。つられてイザークも視線を追えば、信じられない事に、閉ざされたゲートが開き始めていた。

 あと少しだったのに!

 紫の瞳が交差する。
 上空から見下ろす少年と、ゲートの中央に立つ少年は紛れもなく同じ姿をしていて、イザーク達もニコル達も言葉を失った。それはほんの一瞬だっただろうけど、気が付くと、サンクチュアリ一面に水の眩い光が広がった。
 あの、音と共に。
 ザザーン、ザザーンとその場にいる全員が耳にし、それが何なのか記憶にうずもれた原初の記憶を蘇らせた。
「これが、海・・・」
 誰ともなく呟かれた単語が、スッと心に落ち着く。
「アスランに伝えて、後は頼むって」
 ニコルを初めとするレシーバー達は、少年の願いを確かに聞いた。どれだけ唐突であっても、そこに込められた想いを彼らは感じる事ができたから。
 満面に空のブルーを映す海に、レシーバーを連れてきた少年が消える。紫の光の粒となって、あわあわと上空に登っていく。行く先には、イザーク達が排除しようと躍起になっていた少年がいて。
 イザーク達が点のようにしか見えない上空で、見えるわけもないにアスランには確かに見えていた。その姿が透き通って消える。
 なぜか直感的に、彼がその姿で自分の前に現れる事がないような気がした。
 これが最後だと。

 君が思い出してくれるまで、名前は教えないよ。
 でも、忘れないで。僕には君の力が必要なんだ。


 彼らの前に残されたサンクチュアリの片隅、岸辺に身の半分を水を浸したアスランを見つけたのはそのすぐ後だった。ガーディアンスーツを取っ払ったアンダーウェア状態で、気を失っていたのだ。少し離れた所には彼のバイクが転がっていて、ご丁寧にガーディアンスーツもあった。
 急いでメディカルセンターへ運んだ頃、メインコンピューターがしばしの眠りから目覚めて、船は全機能を回復させた。ブリッジのスターボードに映し出され航路。
「地球への航路復帰しました。地球への空間ゲートまであと20」


 それからの航海は至極順調で、何事もなく宇宙船の前に異空間連結ゲートが姿を現した。あれだけ聞こえた海の音も消え、ついに待ちに待った地球へと辿り着くのだ。この空間ゲートを通って、遠い昔先祖は地球から各地の星系に散って行き、今、その逆のコースを辿って地球へと向かう。
 ただ一つ、晴れない顔のアスランを除いて、皆、期待と興奮で船内は沸き立っていた。


段々苦しくなって来ました。