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「大丈夫ですか? アスラン、ずっと元気がありませんよ」
「そうか?」
 落ち着いた船内をいつものメンバーが歩いている。
「フン。いつもこいつは不景気な顔だ」
 イザークが挑発するが、何も言い返さないアスランを見て、ディアッカまで頭の上で腕を組んだ。いつもならここで軽く口喧嘩である。
「やっぱ、あそこで何かあったわけ?」
 あそことは言うまでもなく、サンクチュアリである。戦っていたのならともかく、アスランは肌を晒して倒れていたのだ。
「何もあるわけないだろ・・・」
 最後の方は消え入りそうな声で、また黙りこくってしまう。
 実際、アスランには何が起ったのかを言葉にできなかった。メディカルチェックの結果は、多少、疲労が見られるが外傷無しと判断されたので、あえて黙っていた。
「そうですか。じゃあ、アスランに伝えたい事があるんです」
 僕たちも迷ったんですけどね、とニコルは続ける。今から話すのはレシーバー達の話し合いの結果だから、伝えるのが遅くなってすみませんと。
「伝言です、アスランに」
「誰からだ」
 過敏に反応するイザークを無視して、ニコルをはっきりと口に出した。
「後は頼む」
 アスランにはニコルの声に被って、彼の声に聞こえた。
 茶色の髪と紫の瞳を持つ少年。今はもうはっきりと彼の姿を思い出せる。
 また、頭の中で海の音が繰り返される。
 何を俺に頼むというのだろう。

 僕たちは―――。
 彼が言っていた存在の意味。アスランは首を振ってそれを否定する。
 俺は人間で、そんなことできるわけないのに。

 逃げたって駄目だよ。
 運命の時は刻一刻と近づいているんだからね。

「!?」
 血の気を引いて、顔を上げてあたりを急に見回すアスラン。
 どうして、声がまだ聞こえる?

 ふふ。僕達、精神的に繋がっているでしょ。

 少し揶揄するような声に、今度は顔が真っ赤になりそうだった。
 んぐっと詰まって、喉まで出かかった一言が出ない。
 それを口に出したら負けのような気がして、全て彼の思い通りになるものかと、アスランなりのささやかな抵抗だった。
 青くなったり赤くなったりするアスランに、一同が疑うような視線を向け、伝えた伝言がそんなに大事だったのかと、心配してニコルが覗き込む。
「大丈夫ですか? アスラン顔が赤いですよ」
「何でもない!」
 およそ、彼らしくないなと、そこにいた全員が、アスランでさえもそう思えるほどの狼狽振りをみせて、その日のパトロールを終えた。


 それから、数日して、ようやく船は最終チェックポイントに到達する。
 そのゲートを潜れば、地球は目前でだった。
 しかし、今彼らの前にあるのは輪を持った色褪せた惑星ただ一つ。
 夢にまで見た、青い惑星などどこにもない。
 アスランはどこかでその姿を予想していた。惑星が荒廃していく様を、この航海で確認したばかりじゃないか。
 荒れた惑星が元に戻るまでには、幾星霜では足りなかったのだ。消えそうなリングに一層、アスランは胸が痛む。
 かつて俺たちが守っていた地球。
 もう要らないと言われたけれど、俺達だって地球が本当に大好きだったんだ。
 湧き上がる切ない気持ちに、涙を抑えきれない。
 頭はそれを必死に否定するけれど、溢れ出す感情が自分は地球を知っていると、紫のリングがなんなのかを知っている。
 俺はあいつの言う通り、コーディネーターなのか。
 キャビンのガラスに両手をついて、死に行く星を見つめる。
 本当なら、ああして星を巡って再生の為に力を尽くす存在。
 地球環境の調整と維持管理の為に産まれた生体機械。思い出す、その中でも一際優秀だったのが、キラ。
「キラ・・・」
 俺はどうしたらいい?


 やっと来てくれたんだ。

「でも俺は、お前のアスランじゃない」
 吐き出したアスランにイザーク達が視線を向ける。確かに痛々しい地球の姿だが、アスランの慟哭はもっと違うもののようだ。
「俺にはできないんだ」
 逃げるように参加した地球探求の旅だったけれど、ちゃんと家に帰って父上とも話しがしたい、できればイザークとももっと仲良くしたいし、将来は工学博士になりたかったんだ。あのドーム都市でみんなの役に立つものをいっぱい作りたかった。
 地球の為に、ここで俺の旅を終りにしたくないんだ。
「ひどいな・・・こんな選択をするために、ずっと俺の夢に出てきたのか・・・」

 ごめん。
 君には君の人生があるって分かっているのに。
 この星を救って欲しいって願ってしまって。ごめん。

 アスランにもキラの気持ちが痛いほど分かる。何せ精神が繋がっているのだから。
 自分一人がちょっと諦めるだけで、あの星が元の青い星に戻るならその方がいいに決まっている。しかし、アスランはガラスについた両手を強く握り締めた。自分には確かにあの星のコーディネーターとしての記憶がある。
 キラが言うように、自分の根っこの部分は地球が荒廃するときにいたアスランというコーディネーターなのだろう。
 しかし、惑星プラントで生まれ、今まで生きてきたアスランでもあるのだ。果たしてそれで、キラの期待に答えられるのだろうか。
「謝るのは俺のほうだ。だって俺には、どうしたらいいのか分からないんだ」

 諦めないで、君の協力が要るんだ。
 僕にはもう、ちょっと無理で。

「だからどうやって!」
 キャビンのクルーが一斉に目を見張る。急に大声を出したアスランの向こう、漆黒の宇宙空間で、白い光が形を作ろうとしている。それは見る見るうちに人の形に、イザーク達が名を呼ぶより早く少年の姿を取った。差し出した手が。
 キャビンのガラスを通り抜けて、アスランの手を掴む。
 アスランは自分の手を掴む、半透明の手を見た。顔を上げれば、キラがいる。

 君の力を貸して。

 ふわりと浮かんだのは一瞬だった。ぼうっと淡いグリーンの光に包まれて、キャビンのガラスを越えていってしまった。イザークとニコルが慌てて駆け寄って、ガラスをどんどんと叩くがびくともしない。
 彼らの目の前で紫の輪に寄り添うように薄い緑色の線ができる。1連のリングがいつのまにか2連の輪になって地球を巡っている。
 そこからこぼれた光が地球の色を変えて行く。土気色から褐色へ、やがて黄緑から緑に、そして鮮やかな青へと。
 待ち望んだ青い星。
 地球の荒廃と再生の瞬間を目の当たりにして、誰もが口を噤んでいる。その瞳に涙を浮かべている者もいた。船は惰性でゆっくりと星の周りをめぐり、蘇った地球を余すところなく納める。
「では帰ろうか。我々の星へ」
 名残惜しくはあっても、ここで旅を終えてしまった少年の為に。今はまだ、ドーム都市で暮らす小さな人類だけれども、いつか地球のように美しい星にすることを誓って、地球探求の残り半分のために船を反転させた。
 進路、惑星プラント。発進。


 航海75日目。順調に復路を辿る。
 何事もなく、それこそ侵入者など現れず、ガーディアンはもっぱら開店休業状態だった。非番に突入する前に、もう一度星の海を眺めようとキャビンに向かう影はイザーク。そこから見える宇宙は、星の海と銀河の深淵のみ。薄く自分を映すガラスを軽く叩いてみるが、コンコンと硬質の音を立てるだけ。
 アスランがここから飛び出す直前の心境はキャビンにいたレシーバー達には聞こえていたのだと言う。後になってニコルがこっそり教えてくれたのだ。
「安心しろ。惑星プラントをこの銀河中で最も美しい星にしてやる」

 相変わらず、ロマンチストだな。

 アスランの声が聞こえたような気がしてイザークが振り返った。暗いキャビンにはイザークしかいない。背後には冷たいソファーとテーブルが整然と並ぶだけなのを見て、顔を顰める。
「フン。寝るか」
 ため息を付いて、キャビンを出ようとして気に止まる、僅かに視界の端に映る影。確かめようと目を凝らすが何もない。しかし、一度気になってしまうと感覚が鋭くなってそこにいる何かを掴んでしまった。一歩一歩近づくキャビンの端、普通は見えない一番奥まったところ。
「お前・・・」
「や、やあ、イザーク」
 ソファーとソファーの間に身を潜めるように見上げているアスランがいた。その隣には、同じように姿を隠していたらしい少年がもう一人。
「見つかっちゃった」
 笑顔で笑う紫の瞳は、サンクチュアリで苦渋を舐めさせられた侵入者キラ。
「アスランが外が見たいなんて言うから」
「だいたい、こんな時間に来る奴がいるなんて思わないだろ」
 イザークを無視して、敗因を話し合う二人にイザークのこめかみに血管が浮かび上がる。
「何でこんな所にいる―――っ!!」
 イザークの怒声が船内に響き渡った。
「僕達は人類の為に惑星を最適に調整して維持するための存在だよ? 惑星プラントに行くに決まってるじゃない」
「キラ、俺は人間を止めたつもりはない」
「往生際が悪いよ、アスラン」
 そう言ってキラが拗ねるが、その実笑っている。
 そんな事が可能だろうか。アスランは星の表面にへばりつくように建設されたドーム都市を思い出す。岩石だけの硬く冷たい、惑星プラントをあの地球と同じ美しい星にする事が。
 アスランの不安を感じ取ったのか、キラが肩に手を置く。
「二人ならできるよ」
 何でもないことのように優しく言うけれど、膨大な時間を費やして地球の為に一人でがんばってきたキラ。
 今度は俺も。
 いや、俺達だけじゃない。
「馬鹿だなあキラ、みんなで美しい星にするんだよ」




終り

うむ。書いているうちにどんどん違う話になっていきました。実際のグランオデッセイはこんな話じゃないですから。4体合体は壮大なネタバレになるのでここでは割愛させていただきます。イザークをこんなに出すつもりはなかったのですが、1回で学友として意外と出てきてしまってびっくり。おかげでラストまで引っ張ることに。

例によってまたまた翌朝誤字修正してます。3回まではそこそこ見直していたのですが、もう最終回は眠くて。なんとかまとめようとあちこち弄っていたせいか、内容がごっちゃです。最後にはつじつまを合わせることを放棄したせいで、結局、ワケワカメなラストになってしまった。ヨヨヨ。