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Men of Destiny 44

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全てを捨てる時



 ミネルバに戻ったシンをヨウランとヴィーノが出迎える。ヴィーノが抱きついてきて、シンは困ったようにヨウランを見た。その後にルナがいてレイもいた。
「よかったよお前、ミネルバは移動始めるって言うし。メイリンからロストしたって聞いてさ!」
「心配かけてごめん」
 ヴィーノ達格納庫のメカニック達が早速、シンの機体の検分に入る。入れ替わるように格納庫に現れたステラが走ってくる。
「シン!」
 まずは着替えようと歩きだそうとしたのだが、そうは問屋が卸さない。腕組みしてシン達の前に立ちはだかる男がいた。
 パイロットスーツを来た銀髪の男、イザークである。
「貴様に聞きたい事がある」
 シンは来たなと思う。
「一緒にいた奴のことだ」
 ああ、やっぱり。
 黙っていても相手はどいてくれるわけでも諦めてくれるわけでもなく、シンはじっとイザークの顔を見たまま立ち止まる。
 そう言えば、この人もアスランのこと知っているっぽかったよな。
 何から話せばいいのかと思ったけれど、シンにはあまり話すことがなかった。あの閉じられた空間で話したことといえば、お互い相手のことだけだ。それに彼は地球軍のエクステンデットだとはっきり名乗ったではないか。
「地球軍のパイロットです・・・エクステンデットの」
「それで貴様は納得したというのか。あれはアスランだろう。多少色は違っても、奴らは記憶を操作するという話だ」
「でも、やっぱり違います」
 俺たちが彼をアスランさんだと決め付けても、本人がそう名乗らない限り、彼は前大戦の英雄、アスラン・ザラではないのだ。かつて、辺境の都市でアレックス・ディノであったように。
「貴様の頭は飾りかっ! そんなことだからアイツをみすみす一人で行かせることになるんだ! なぜ奴の目的を聞き出さなかった!」
「そんなっ俺だって、戻って来てくれって言えたら苦労はしないっ。でも、あの人はもう決めてて・・・っ!」
 シーザクは舌打ちして、拳を握り締めたようだった。
「また、あの時の繰り返しかっ。今度は何を考えてやがるっ」
 シンとイザークが口を噤んだ時、恐る恐るルナマリアが口を挟んだ。「あの・・・」と言った時は文字通り、イザークに睨まれていた。
「あの時って、アスランさん、何したんですか?」


 コロニー群の外れ、静かに置かれたやや大ぶりの原型を留めない宇宙船のような建造物。地球から飛び立った、プラントの残骸は今、自治評議会加盟コロニー、ディセンベルの外れギリギリに位置していた。
 その光景をモニタに大きく映して、臨時の自治評議会が始まろうとしている。ここ連日の地球軍との戦闘により大きく移り変わる情勢に、連夜のように開催されているのだ。
「ヘブンズベースが落ちたということは、いよいよアルザッヘルですな」
「これで、憂いなくナチュラルを叩けるというものです」
「ザフトの名も復活しましたしな」
 評議員に混じって、紫の軍服を来た軍の政治局員が席につく。
 最後に、議長であるデュランダルが着席して会議が始まった。あいも変わらず、会議の議題は地球軍との独立戦争の行方と、講和への道であった。どれだけ有利に、終戦に持ち込めるか、現在優勢のコーディネーターがどこで止めるか、勝っている方は特にその見極めが難しいのだ。
 4年前のコーディネーター陣営は、ジェネシスでもって、絶対的優位を築くまで講和への態度を軟化させなかった。おかげで、そのジェネシスを失ったことで一気に形勢が傾き、敗北を喫したのだ。ジェネシスを抱えたコロニーの落下というとんでもない事態と共に。
 確かに両陣営入り乱れての攻防戦だった。
 しかし、力を過信し、守りきれなかった所に敗因があった。
 だが、本当にそれだけだったのか。


「ジェネシスの破壊だ」
 イザークの口調は静かだった。
 え? は? 
 息を呑む者もいれば、意味が分からずに頭の上にハテナマークを飛ばすものもいたが、言葉を反芻するうちにそれが意味することに気づく。補完するようにイザークが続ける内容が、推測を確定に変える。
「理由など知らん。どうしても破壊する必要が奴にはあったんだろう」
「じゃあ、プラントが地球に落下したのは・・・」
 アスランさんが狙ってやったかも知れないと?
 その場にいた誰もがその言葉の続きを連想し、そんなことがある分けないと思った。プラントが落下した影響は当時計り知れないものがあった。海上に落下したことで、沿岸部や一部の国では津波による大災害が起こり、巻き上げられた海水が上空の水分濃度を急激に変化させて地球環境を狂わせたのだ。
 だいたい、ジェネシスはあのハイネも守っていたのだ。
 それをあの人がなぜ?
「そこまで奴が考えていたかどうかなど、知らん!」
 なんだ、知らないんじゃん。
 ぷーと膨れてシンが斜に構えてイザークを見るから、ヒヨッコのはずのシンに思わぬ反応をされたイザークがすっかり素をさらけ出し始める。
「あいつはボーっとしているようでいて、とんでもないことをしでかす奴なんだ! お前達、一緒にいながらこの様はなんだっ」
 イザークが手振り身振りを駆使し、最後にはビシっとシンを指差して豪語する。当然、諸悪の根源のように『犯人はお前だ!』とばかりに指差されたシンも黙ってはいない。
「なんだよ、いきなり来て。アスランさんはいつも俺たちのこと考えてくれて、大戦の英雄が大丈夫だって言うのに、俺たちがそれを疑えって言うのでありますかよっ!」
 妙な敬語が奏でる内容にルナマリアがいささか驚き、ステラが不思議そうにシンを見上げる。
 ヨウランとヴィーノなどはシンを見て『いや、お前は反発していたぞ』と突っ込みの視線を送るが、周囲のギャラリーを無視してイザークとシンはますますヒートアップする。
「あの顔に騙されるなっ!」
「アンタだって前の戦争の時、騙された口なんでしょうがっ」
 もはや外野を置き去りにした二人の会話を止められる者がいたとしたら、よほど猛獣の扱いに慣れた人物という事になるだろう。
「イザーク、もう終わっちまったことに文句言っても仕方がないと思うぜ」
いつの間にこのミネルバに来ていたのか、イザークの副官がやれやれと首を鳴らしていた。
「うちの隊長引き取りに来ましたってね。イザーク、俺たちの次の作戦はアルザッヘル攻略だぜ」
 タイミングを会わせたように、ブリッジからグラディス艦長のミネルバの今後について連絡が入った。
「ミネルバ乗員に艦長から伝達。これより、本艦乗員、軍属を含め、ザフト所属となった。ザフトとしての攻撃目標は地球軍月面基地アルザッヘル。心して掛かれ」


 守る側にも、その侵攻は容易に推測されるわけで、地球軍の月面基地では防衛体制が築かれていた。前面には戦闘機を満載した宇宙戦艦の戦列が並び、月面基地からの砲塔も迎え撃つ準備が着々と進みつつあった。
「そんなに驚くようなことかよ、俺だってあれくらいガキの頃からやってたぜ?」
「君は何も思わないのか?」
「アンタがおせっかい過ぎんだよ」
 戦列の中央、黒っぽい戦艦の中の格納庫で、スティングがからかい混じりで言う。相手は顔の上半分をバイザーで覆った同僚。そして二人の前には配属されたばかりの後輩達が並んでいた。5人の補充要員は皆それぞれ個性的な面持ちをしており、年齢層もまちまちだったが。特に水色の髪の少年と金髪の少女は特に若い。
 ラボの技術仕官が5人を紹介した後、一言ずつ着任の挨拶をする。年長である3人の後に続ける2人。
「アウル・ニーダであります」
「ステラ・ルーシェであります」
 まだ少し様にならない敬礼姿に、一層、この舞台の指揮を任される人物は眉を潜めた。無論、それは誰にも分からないのだが、上層部が数だけはいると豪語したことは彼の知るところではなかった。


 ミネルバでコンディション・レッドが発令され、オールウェポンズフリーが出される。ついに後門の虎である、地球軍月面基地に総攻撃を仕掛けるコーディネーター陣営。4年前、コーディネーターの軍をザフトと呼んだ、その名が復活する。
「レイ、いいのか?」
 シンは待機室でパイロットスーツを着たレイを見つけて話し掛ける。レイはずっと議長と一緒にいたのだが、ここのところずっとミネルバにいた。
「正式にミネルバ乗員になったんだ。転属命令がある、見るか?」
 あれだけ、議長を守りたいと思っていたレイがどういう心境の変化だろうと、シンは疑問に思ったが、あっさりレイが言うものだからここはしつこく聞き返すことは止めた。評議会の議場にいるのだから、安全は保障されている。
「そっか。俺も、ルナも心強いよ」
「ここからが正念場だ。猫の手も借りたいところだろ?」
 月面基地は守り手である要塞を失っても、単独で同じだけの兵力を有するのだ。何しろ宇宙における地球軍の活動拠点である。勢いに乗るザフトとは言え、風だけで勝てるほど戦争は短絡ではない。
 前線で活躍するミネルバにパイロットと機体の補充が来たと言う事だ。シンとレイ、そしてミネルバの女パイロット(彼女はこう呼ばれることを嫌うだろうが、その存在は既に有名だった)が格納庫に揃う。
「ルナ! ・・・と、ステラ?」


「あっ、シン。シンからも言ってやってよ、ステラがどうしても出るって聞かないのよ」
 ステラがルナに腕を引っ張られながら格納庫に姿を現した。ルナに引っ張り戻されそうになりながらも、しっかり、ルナと同じパイロットスーツを着込んでいる。
「出るとは?」
 見て分からないの? とルナが目でレイを刺す。
「予備の機体あったでしょ? あれで」
「乗れるのか?」
 真面目な顔をしてレイが言う。
「おい、レイ!?」
 これにはシンもビックリして、レイを振り返る。ステラは現地徴用扱いの軍属で、ミネルバ艦内の雑用係だ。食事の配給や洗濯などが彼女の仕事なのである。
「この子がそんなことできるわけないでしょ!」
「だが、エクステンデットだ」
 あ・・・。
 ルナがうっかり手を離してしまったため、パイロットスーツ姿のステラがシンの傍に駆け寄ってきた。
「ステラっ! どうしてそんなこと!?」
「シン、守るから。帰ってこなくて、すごく、心配した。だから、ステラ、守る」
 言葉足らずで単語を繋げただけなのに、それはあまりに簡潔だった。シンが心配だから自分が守る、とステラがシンに訴えている。
「何言ってんだよ! 俺は大丈夫だから、ステラはミネルバにいろって!」
「駄目っ!」
 シンに抱きつくステラが、シンを見上げる。きつくシンの腕を握る力は確かに普通の女の子の力じゃない。もしかしたら、うまく戦闘機を操縦できるのかも知れない。
「ステラ、あれ乗れるよ? 練習した。だからシン守るの」
 目に涙を溜めてまで言う事だろうか。
 思わずもらい泣きしそうになって、慌てて気を引き締める。ステラが出撃するなんてありえないではないか。格納庫には出撃のコールサインが点り、にわかに慌しくなっている。
「正直、手は一つでも多いほうがいい」
「レイ、お前っ!」
「その状態ではお前まで出撃できないだろう。だが、いきなり実戦と言うわけにもいくまい」
 意図を察したルナマリアがステラの肩を寄せて、頷く。ステラがしきりにシンを守るというのは勿論、ヘブンズベース戦で行方不明になりかかったからだろう。しかし、それだけではないような気がしたのだ。
「ならステラはまず練習からね、ステラはミネルバの外にいてシンの帰りを待ちましょ。シンの帰る所を守るのよ」
「うん!」
 シンは唖然とした。二人の意図がわからない。
 ステラがパイロット?!
「女だからって見くびらないでってことよ。さっ、あんたはさっさとスタンバイする!」
 少しだけルナマリアが通訳してくれたらしいのだが、やはりさっぱり分からない。
「ステラっ、絶対に駄目だからなっ!!」
 とりあえず、ルナマリアに手を引かれていくステラに投げかけるが聞いちゃいない。ちゃんと念押ししようにも発進コールが始まってしまっていて、コックピットに入らざるを得なかった。そうなってしまえば、もう頭を切り替えるしかない。
 ステラのことは心配だが、シンはミネルバのエースで、数少ないパイロットなのだ。
 発進コールを進めるメイリンに事情を聞く余裕もない。
 ああ、くそっ。
「シン・アスカ。デスティニー行きます!」
 毎度のごとくGを身体で受け止めて、宇宙空間に飛び出せば、反対側のカタパルトからレイが上がってくるところだった。続いて、シンの後からルナマリアが上がってきて、反対側からもう一機。まるで歴戦の勇者のように危なげなく。
「まさか、本当に!?」
『シン。ステラ、守るから』
 驚いているわけにはいかなかった。ザフトの各艦から出撃した機体が正面の宇宙軍月面基地に向かって編隊を組んでいるのだ。
 レイの駆るレジェンドと管制リンク確認。
 後方に1機残して、3機のミネルバ隊がその戦列に加わった。


 無数の艦影に挟まれた空間にエンジンの炎が奇跡を描いて衝突する。
「スティング、来るぞ」
『見えてるよ』
 迎え撃つ地球軍の中の赤と緑の機体の後には、配属されたばかりのエクステンデット達が続いていた。カオスともフォルムの違うグレーの機体は巨大な円盤を背負っている。
『どれだけ生き残るか、見ものだなこりゃ』
 既に最前列では打ち合いが始まったのだろう。爆発が起こり始めている。流れビームが編隊を掠めて、ついに敵機が姿を現した。


「いる」
 うじゃうじゃいる戦闘機の中から、ただ1機をシンは感じ取って知らずその方向にターンしていた。もう何度目か分からないヘッドオンで、見慣れた深紅の機体とすれ違う。
 だが、今回は暢気に通り過ぎるなんてことはなかった。輝きを増した翼が弧を描いてシンの機体に切りかかる。
 シンは歯を食いしばって何とかそれを避けたが、計器から嫌なアラーム音が鳴り出した。右下のメーターに赤いアラートサインが浮かんでいる。燃料計だ。まだ満タンあるが、浮かぶ警告は燃料漏れ。
「食らったのかよっ!」
 避けきれずに燃料タンクを掠めたのか、モニタや後方カメラを確認すれば確かに筋を引いている。容赦なく第2撃が迫り、冷や汗もので交す。インフィニティを目で追いながら、機体のセルフチェックを行って、破損部分の燃料タンクを破棄する。時間は持たないが、ビームでも掠めて引火でもしたら目も当てられない。
「いきなり、全開かよっ」
 シンもサイドスティックを目いっぱい引いて、赤い機体をHUDに納めた。
 戦艦の主砲が敵機をなぎ払う応酬が始まり、お互いに相手戦艦を沈めようと、宙域が交戦状態になる。妨害を受けにくい管制を中継しての短距離通信から引っ切り無しに砲撃の軸線通告が入った。


「シン!」
 デスティニーとインフィニティの激突を、コックピッドで見つめていたステラが叫ぶ。ミネルバを守れと言われているが、シンのことが気が気でない。
「あっ、ステラっ!」
 メイリンが気がついた時には、ルナマリアと同じ機種インパルス3番機のエンジンはフレアを棚引かせていた。あっという間にミネルバから離れていく。
「シンを虐めるの、駄目」
 ブーストを使ってまで戦場を一直線にシンの元へ向かうステラの前に、地球軍の戦闘機が立ちふさがる。丸い円盤を背負った特殊な機体。
「誰っ!?」
 それはどちらの言葉だったか。立ちふさがる灰色の機体のコックピッドにいるのは、A・Zの前でステラ・ルーシェと名乗った少女だった。
 二人の鼓動が重なる。


*

自分でも唐突な展開だと思うんだが、これはやっておきたいことだし。重力下でないのが残念だけど、ステラ2、何かいい名前が思い浮かべば良かった。あー、こっからが大変ですよ。もうアルザッヘルまで来てしまってますからね~。
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