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声を殺し泣いた遠い記憶



 例えば回避運動に入るタイミングとか、左右どちらに機体を振るだとか、相手のやることが分かってしまって、ステラがHUD内の敵機を睨む。機体の特性は全くといっていいほど違うのだ、同じ動きをするわけがないのに。
 無論、相手のほうが上手であることは分かる。
「どいて! 邪魔、しないでっ!」
 それを落とすのはステラの目的ではないから、ただ退いてくれればいいのだ。
 機動だけでなく、パイロットもそうなら事は簡単だったに違いない。しかし、相手はこの防衛戦が初陣となる新米パイロットだった。
「どうして・・・当たらないっ!」
 確実に当たるコースなのに、なぜか避けられる。ザフト機の動きに予感めいたものさえ感じるのに一歩及ばない。
「これが、実戦!?」
 灰色の機体のコックピッドの中でステラは吐き捨てた。


 シンはそんなステラの窮地を知っていた。
 知っていたが援護に向かえなかった。自分もまた同じくらいピンチだったのだ。
 インフィニティが砲撃をものともせず突っ込んでくる。
「嘘だろっ!?」
 戦艦の主砲の軸線上にいるのにお構いなしで、それを放った味方の艦が落ちる。
 多少の砲撃には耐える装甲ってことかよっ。
 シンの機体とて一発食らったくらいでは爆散しない、それと同じ事なのだ。
「今まで俺が戦ってきたのは、何だったんだよっ!」
 付きっきりでドックファイトをするわけではない。向こうは数ある敵機と戦いながら、ある一定の範囲外に出ようとすると、攻撃を受ける。それもまた絶妙の逃れられないタイミングで、逃さないといわんばかりに特定の宙域に足止めされる。
「ステラはっ!?」
『右下よっ』
 ルナマリアが下から上にロールするついでに通信を繋げて敵機を追いながら去っていく。
 言われた方角に目をやれば、まるでじゃれ合っているかのような動きを繰り広げている。誰か寮機に援護に向かって欲しいとレイに伝えたが、誰もが皆、精一杯だった。自分が引くのが一番いいのだろうが、それではアルザッヘル攻略からシン自身が撤退することになってしまう。
 何やってんだよ、俺はっ!
 ミネルバを、ステラを守るんじゃなかったのかよ。
 誰かを守ることと、向かってくる敵を倒すことは同じじゃないのに。しかし、無抵抗のままやられれば自分が誰かを守ることができなくなってしまう。
 そのためには相手を倒すしかない。
 だが、今の自分ではどうあっても敵わないのだ。
『シン。インフィニティの解析データを送る』
「解析データって?!」
『今までの戦闘データから、あの謎の装甲に、おおよそのスペックと行動パターンを分析したものだ』
 そんなもの、いつの間に。
 シンはリンク回線から流れてきたデータをキャノピーに映しながら、予測行動をシュミレーションする。その間にも自機の周りで上がる爆発や、機体の破片が飛んでくる。そんなものでも当てれれば致命傷である。
「むかつくほどうまいじゃないかっ」
 どれも紙一重で交し、狙いは正確。
 今も、連続してザフト軍機を3機撃墜したところだった。しかも、今回、インフィニティは灰色の寮機を従えていた。今はもう散開してしまっているが、時折、1機が近づくことがある。編隊を組んでいたところを見ると彼の部下か、同僚か。
 部下、同僚という存在にシンは少し胸が痛んだ。


『スティングっ!』
 体よく、ザフト艦と遊んでいるスティングの元に、上官から通信が飛び込んできた。
『ステラを助けてやれ。嫌な予感がする、遊んでいる余裕がない』
「アンタがやれよっ!」
 もう少しでザフトの駆逐艦が沈む。
『俺はアウルの方を見る。左翼が特に押されているからな、そっちへ向かう』
「また負けるってか? 冗談じゃねえ」
 仲間がどうなろうが、基本的にエクステンデットに連帯感はない。ラボ出身者は補充が利く消耗品と影で言われている事も知っている。いなくなったらそれまでの存在で、今までにどんな奴がいたのかすら覚えていない。
 しかし、今の上官は違った。寮機を庇ってMIAになりかけ、子供の新兵を気に掛ける。全くもって気に食わない存在だが、いつもなら従わない指示も上官の命令だからと納得させた。
 せっかくできた子分を初出撃したその日に失うのも気分が悪い。
「全く、使えねえ新米だぜ」
 緑の機体、カオスが戦場を縫うようにステラの元へ向かった。俊敏とはいえない機体をよく動かしているのは感心するところだが、決定打を打てないままでは時間の無駄である。2機がぶつかり合う寸前、緑の機体が割り込んだ。


 防衛ラインの左が突破されて、基地に直接砲撃が届く距離になった。シンはそれを見て内心『勝った』と思う。追いかける赤い機体は必死にザフト艦を落としていくが、もはや焼け石に水に見える。
 思ったより手ごたえがないなと、なし崩し的に右サイドでも砲撃が加速するのを見る。勢いに乗るザフトが地球軍を基地に追い詰める。
 もう、引いてくださいよ。
 味方機を援護しながら後退するインフィニティは、それでもシンの前で寮機をばんばん落としていく。隙あればあの両翼でブリッジを切り裂いて戦艦まで。
 今だ華麗に舞いつづける敵陣の中の1機にザフト軍艦もザフト機も意地になって落とそうとする。体勢が判明する中で一番の手柄になるその深紅の機体目掛けて攻撃が集中する。
 この攻防戦には勝ったけれど、シンの中では今だ負けたままの決着に再び火が点る。一対一で決着をつけるなんて、格好いいことは言わない。ただ一矢報いたいではないか、レイがせっかく届けたデータを無駄にしたくない。
 背後の戦艦の主砲と共に乗ってインフィニティに迫った。
 その余裕過ぎる動きが。最適を選択する能力が。
 命取りだ!
 今、あの機体の後には奇怪な形の新型がいる。
 あの機体はレーザービーム砲を回避せずに機体表面の装甲で受け流すだろう。さっきそれを目撃したばかりだ。味方の艦の射線退避通告。放たれた主砲を盾に、途切れる後ろに潜んで。
 ビームを防ぎきったインフィニティの前に、忽然と姿を現す機体。
 デスティニー。
 回避行動を取るが、シンの一撃の方が早かった。
 右翼で上がる爆発。
「避けられたっ!?」
 ああ、でも。
 消失する右の光のブレードは代わりにバチバチと火花を散らせていた。
 しかし、バランスを失ったのは一瞬でシンの2撃目は宙を切った。
『今のは、お前の勝ちだな』
 漂うように近づいた一瞬の接触で、回線に割り込んでくる声。
「ここはもう俺たちの勝ちです! 引いて下さい」
『お前も引け。ステラを連れてさっさと戻るんだ』
 片翼の深紅の機体は残った左のブレードを展開して自機を守るように機体を振ってヴェールを作ると、灰色の機体を連れて撤退していく。
 あっ、ステラ・・・。
 慌てて、現在位置を探る。


「おい!お前っ」
 スティングが回線を開いて呼びかける。しかし、肝心のステラは戦闘に夢中になっているのか返事がない。通じていないのかと周波数をいろいろと変えているうちに敵機の方とも繋がった。
『どいてー! ステラ、シンの所、行くのっ!』
「手前、寝ぼけたこと言ってんじゃねーよ」
『シンがやられちゃうっ! ステラ行くのっ』
「おい、ステラ!?」
 シンと言う名前に引っかかりを覚えるが、やはりそれはステラの声で、もう一度元のチャンネルを合わせる。しつこく呼びかけた後、やや遅れて、返事が返ってきた。
『大丈夫。ステラ、まだ、死んでない』
「ったく、相変わらずだな、ステラは」
 ステラとは確か、配属になったばかりの後輩のはず。着任の挨拶以外は口も利いていない後輩の口調の変わり様。初めは切羽詰ったように叫び、次は硬く落ち着いた声で答えを寄越した。
「なんで俺はこれがステラだって知っている。どうなってんだ、おりゃ」
 多少混乱していても、操縦においては二人より上のスティング。混乱した精神を戦闘行為に最適化できるのがエクステンデットの強みでもあり、この状況で戦況を読んで現状を分析するだけ経験も積んだ。
「なるほど、遊んでいる場合じゃなさそうだ」
 なだれを打ってコーディネーター陣営、今はザフトを名乗る軍が迫っている。砲撃も近くなり、基地へ直接爆撃できる位置まで降下している。
「戻るぞっ、新入り!」
『うん・・・いやな予感、する』
 ぼそりとした呟きが聞こえた。
「こいつっ、あの野郎と同じ事を!?」
 カオスがグレーの新型を連れて母艦へと機首を向けた時、アルザッヘルの管制より緊急暗号電文が届く。急いで復号化して目を通してみれば、基地前面に展開する部隊への退避命令だった。


『月の裏側に高エネルギー反応!』
 なにっ!?
 展開していた両軍のブリッジが一斉に光に満たされたことだろう。
 その宙域にいたものが皆、横から迫る光に目を焼かれた。
 その湾曲する光は宇宙を一時的にでも照らし、アルザッヘル基地周辺に展開していた艦隊を薙ぎ払って彼方へと消える。ステラを探して戦列を離れていたシンは眼下を流れる光の奔流と、その上に浮かぶ点のような機体を見つけた。
「ステラっ!」
 しかし、巨大なビームエネルギーは流れつづけ、ステラを伴って逃げるシンのキャノピーも光で埋め尽くされる。
 咄嗟にステラを庇うように機体を滑らせたが、激しい警告音以外何も聞こえなかった。


 今はもうその力を失った白い戦艦のブリッジからも、月の裏側から発射された光が月を半周して、月面でいくつもの小さな星を産み出しているのが見えた。
「地球軍の新兵器・・・こんなものをいつの間に」
「マリューさん。やっぱり、行きます」
 ブリッジ越しに光が点滅するのを見ていたのは、艦長のマリューとキラ。紫の瞳を瞬きせずに凝視している。
「新型には敵わないかも知れないわ」
「大丈夫です。どちらも僕の愛機だったんですから。あれを破壊しなければ、世界はまた泥沼の報復戦争に逆戻りです」
「もう私達は正義の味方じゃないのよ?」
 ブリッジから出て行くキラがマリューを振り返る。
「そうですね・・・でもあそこには彼がいる。そしてアスランも、きっと」
 二人の間にあるモニタには近くの監視カメラが送信する映像を傍受したのだろう、壊滅して戦艦の破片を漂わせる荒れた宙域が映っていた。


 アークエンジェルのモニタに映っていた映像よりはるかに多くの映像を次々に変えながら映すスクリーン。室内は電子機器のLEDでうっすらと光っている。
「初弾観測。射軸修正コンマ027」
「照準誤差、想定の範囲内です」
 広いオペレーションルームの中央に浮かび上がる巨大なスクリーンに地球と月が描かれている。
「レクイエム、ファーストインパクト準備」
 一言一句文言を違えずに復唱されると、メインスクリーンの映像が切り替わる。画面の右半分を埋めて、カウントダウンが始まった。



サブタイが。どうしてこれを選らんだったのか思い出せませんがな。なんだったんだろう。つまり、何かやり忘れていることがあるってことだよ・・・。

改めて読み返してみると、なんだかシーンがぶつ切りですね。