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Ab Plante Condita




 シン達の前に立ちはだかるのは、今や人としての形を失ったギルバートその人であった。端から零れ落ちる黒い闇、炭を溶かし込んだように不気味に固まった髪とひび割れた顔から投げかけられる言葉。表情もなく、息も整わない彼らを見下ろしていた。

「何を」

 意味が分からないとシンが呟くが、全員が肩に力を込めていた。敵でもなければ味方とも言い切れない。確かに彼はシン達を助けた、調停者達を敵と定め帝国の存在をかけて戦いを挑んだ張本人である。歴史を取り戻さんとして兄弟達ですら駒と扱った非常の人であった。しかし、今はどうであろう。

「兄上、奴らはもう・・・」

 倒したのだと、いなくなったのだと言えない事にシンもアスランも気づいてしまっていた。その危険が完全に取り払われたわけではないことに。そう、ギルバートは不断の人物であるが故に、必要であれば取り込んだコーディネーターの力を使うことに躊躇わないだろう。

「美しい世界だ。彼らが夢見る世界は、そうなればいいと私ですら憧れるほどにな」
「貴方ともあろう人が、そんなものに惑わされるのですか!」

 ラクスが問うが、小さな不安の種が何時か芽吹くのではないか、そんな不安を拭いきれない。日常がそっくり消える恐怖が。
 涙も笑いも全てなかったことにされる。ここまでの長い苦難の旅でさえ。
 これで全てがうまく行くというのに、何を言い出すのか。
 これすらもコーディネータの仕組んだあらすじなのか。

 足元の石舞台がゆれ、シードの青い輝きが弾けて空に上がっていく。
 時間がない。いつだって決断の前に迷っている余裕はなかった。
 空の青さが乗り込んだときよりも薄くなっているのに気がついた時、じゃりと破片を踏む音がした。

「こんな事、シンにはさせられない」

 抜き身の剣を持つアスランが一歩ずつギルバートへと向かう。藍色の髪が風に舞い、人工種石の透けた刀身からはシードが雫となって彼を渦巻いていく。

「こうもあっさり覚悟を決められると寂しいものがあるな」
「ご自分の剣よりいいかと思って」

 二人の間の張り詰めた空気にキラもカガリも口を挟めない。ミーアやラクスならなおさらだ。一歩一歩近づくアスランをギルバートもただ見つめている。

 これではまるで。
 断罪を待つ罪人。

「兄上!」

 叫びはどちらへのものだったのか。
 一瞬の煌きの向こうでアスランが剣を振り下ろしていた。




 カイィィン。




「・・・お前」



 冗談じゃない。



 空に響く甲高い音は人工種石同士がぶつかり合う衝撃だった。
 波動はシードを乗せて四方に散らばり、見えない空気の振動が石舞台の空間に一気に風を呼び込んだ。


 ギルバートとアスランの間には懸命に剣を受けるシンが驚くべき速さで割り込んでいた。キラが一歩を踏み出し、カガリが魔法を投げかけるより早く。ラクスが手を伸ばすより前に。 

 これで終わりだって?
 アスランが兄上を倒すだって?

「何やってんだよ! 二人とも!!」

 ギリギリと切り結んで剣を受けるシンがアスランを見上げていた。いや、それは力の限り睨みつけていると言ってよく、見下ろす凪いだグリーンの瞳を射抜いていた。仕方ないと、これが正しい選択だと振り下ろした剣を受け止めている。

「シン・・・」

 ギルバートもアスランも覚悟を決めていた。
 けれど、それは。

「これじゃあいつらと同じじゃないかよ!」

 一瞬でも上回った気迫でシンはアスランの剣を打ち返す。肩で息をして、もう一度剣を構えなおす。切っ先は崩れた石畳に置いたまま呼吸を整えて。

「こんなの誰が望んでるって言うんだ! あるかどうか分からない可能性に怯えて兄弟で殺しあうとか! 黙って殺されるのを待つとか! そうすべきだって?! 冗談じゃないっ!!」

 舞台の片隅で大きく岩盤が持ち上がって崩れた。
 シードの嵐が一層激しく空中に撒き散らされる。

「俺達が選ぶのはもっと違う可能性だろ!!」

 シンを挟んだ二人が息を呑んだかは分からない。
 ただ確実に言えることは二人の見開かれた瞳にシンが写っていただけだ。 
 最悪の可能性とは反対の理想、しかしそれは皆が願い、常に心に留めておけば必ず現実となる望むもの。

「兄上のことが怖くないって言ったら嘘さ、でも、それは俺が兄上のことを良く知らないからで!」

 もはやシンは誰も見ていないのかもしれない。
 叫ぶ相手は自分自身で、戦う相手も自分自身。憧れて、いつも追いかけた自分。




「だから、俺は・・・・・・アンタは間違ってる!」

 まともにやり合って勝てる相手じゃない。だけど。
 いつまでもそうだとは限らないじゃないか。

 最初に鬼気を治めたのはアスランの方だった。内側からシードの光を発する刀身が下がり両手から力が抜けた。

「間違ってるか。そうか・・・」
「これは―――アスランの負けだね」

「本当、主人公だな」

 剣を持っていない手でシンの頭に手をやった。

「あ」
「お前の言うとおりだね、俺は何に縛られていたんだろう」

 それは気負いのない微笑というものだったけれど、シンはずいぶんと久しぶりに笑った顔を見た気がした。




「和んでいる所悪いけどさ、なんかあちこち崩れてるみたい?」

 キラが茶々を入れて初めて、皆は置かれている状況を思い出す。

「少しずつ落ち始めている気がしますわ」
「気がしますわ? じゃなくって、これは落ちてるんだ、王女!」
かわりらしく首を傾げるラクスにカガリが怒鳴れば、まーまーとミーアが諌めに入る。

「さっさとこんな所退散しましょ、ね? アスラン、セイバートリィってこんなに大勢乗れましたっけ」
「満員御礼だ」

 言うが早いか全員が走りだした。
 シンとアスランが振り返った先でギルバートが手を振る。別れと言うよりは早く行けと追い払わんばかりにシッシッと。

「ラウの力で私はなんとでもなるからね、さあ弟達よ、頑張りたまえ」
「あ、兄上?」
「驚くな、と言うか構うなシン、時間がないぞ」

「でも・・・」
「気にするな、あーゆー人なんだ兄上は」

 アスランがシンの背中を蹴って、石舞台からほっぽり出すと最後にもう一度振り返る。動かないギルバートを遠めに視線を交わす。正直これでよかったのかは分からない。世界の為にも、帝国の為にも。

 しかし、この不安定さこそ世界に必要なものなのだと思うことにした。
 解放された自由意志を常に自分自身に問う為に。

 彼が石舞台から大きく飛び降りた時、背後で大きな振動が起こり巨大なシードの柱が立ち上った。岩の大地の割れ目から見えるものは巨大なシードの塊。来る時に駆け上がってきた天空の大地を全速力で駆け下りる。
 おびただしい帝国軍の残骸の間を通り抜けると、通り過ぎた2軍のメサイアの装甲がはがれて宙に舞っていた。その中には同じように横たわるレイの身体もあったのだろう。

 シンは見たくなくても、その光景を目に焼き付けた。

「セイバートリィまではまだなの!」
「そんなの、走るしかないだろ」

 精一杯坂を下り降りる。いっそ、転がり落ちてしまえと思うほど。

「シン、足を踏み外すなよ崩れ始めている」
「分かってるよ!」

 足元から立ち上るシードが弾けて、瓦礫と共にぶつかってくる。
 先頭を走っていたミーアがうずくまって空の大地に手を当てる。

「ミーア!」
「この大陸全体が燃えるよう。まるで、一つの大きな飛空艇なの?」
「え・・・」

 こじ開けた天空の門をカガリを先頭に次々に潜ると、真っ赤なセイバートリィが横たわっていた。

「急げ!」
「早くエンジンを回せ、ヨウラン、ヴィーノ、何やってる!」

 しかし機関部からの連絡は冗談にしては性質が悪過ぎで、泣きそうな声で二人が怒鳴り返してきた。
『だから、出力が上がらないんですよ!』
「なんだと、シン、ちょっと代われ!!」





「えっ」
「早く、いいな、教えたとおりにやればいい、合図したら思いっきりやれ、いいな!」

 一瞬目の前が真っ白になって、慌てて頭を振った。
 代わるって、何を? 問うまでもない、自分がいるのはセイバートリィのコックピットだ。握っているのは操縦桿だ。

「見て、あれ、何?」
「コックピットのキャノピー越しに空の端に黒い帯状のものが見えた」

 雲にしてははっきりしている、この上空に鳥や虫はいない。だとしたら、それは。

「飛行戦艦!? そんな所まで落ちてるの」
「やばいよ、ちょっとアスランまだなのさ!」

「アタシもいくわ! シン、しっかりね」

 ミーアが慌てて出て行って数分、操作盤の右隅からアスランの声がした。

『今だ、シン。行け!』

 シンは間髪入れずにフルスロットルで飛び出した。瓦礫の中を飛ぶのはこれでもう何度か目だけれど自分で操縦するのは初めてで、避け方なんて習っているわけがない。降ってくる瓦礫。横から被さる土煙とシードの嵐に船体が揺れるが、ゴツゴツと派手な音がするのはぶつかっているのが煙やシードだけではないからだ。

「うわっ――――――っ!」

 煙の向こうに迫る巨大な岩。
 全員の悲鳴が広がった。



「ぶつかった! ぶつかった! まじぶつかった!!」

 瓦礫をなんとか避けたものの、ガゴンと船尾をぶつけて操作盤に頭をぶつけそうになる。ブリッジでは皆が何とか身体を支えて怪我がないか確かめはじめて、はたと気がついた。

「そうだ、兄上は!?」

 慌てて呼び出すものの、返事はヨウランとヴィーノから無事だと返るばかりで。心臓が一つ大きく波打った。ドクン、と。身体の芯から熱がジワリと広がって、何も不安なことはないはずなのに嫌な予感が一気に広がる。

「この空中大陸落ちるよ」
「落ちるって・・・」

 シンはゆっくりとキラを振り向いた。
 空中大陸は緩やかに弧を描いて下降していた。垂直に落下すれば被害はまだ少ないかも知れないのに、全員がキャノピーの向こうを見た。帝国、共和国の大船団が会戦中の空域と、その向こうに広がる平原を。
 瓦礫の雨も少しは収まってセイバートリィはようやく崩れつつある空中大陸全体を見上げることができた。こんな巨大なものが落ちたら、何もかもがただでは済まない。激しい鼓動を繰り返す心臓を無視して、機関部にもう一度通信を入れる。

「アスランさんとミーアは大丈夫なのか?!」
『・・・・・・』

 なぜ、答えない。何よりも沈黙が怖い。

『そう心配するな・・・ガガガ・・・ちゃんと・・・ガサ・・・ガ・・・無事だから』

「今、どこに!?」

 シンが叫ぶのと同時にキラがブリッジを飛び出して行った。

『だ・・・そうびびるな・・・ガガ・・・ちゃ・・・イバートリィを操縦でき・・・』

「そうじゃなくて!」

『ガー・・・てた所・・・直して・・・このデカブツの事はなん・・・ガ・・・やるから』

 必死に通信を拾おうとつまみを操作するが雑音はひどくなるばかり。

『・・・つも飛空艇・・・俺に動かせないわけはな・・・・・・ガガ・・・ガ―――』

 今度こそ通信が途絶える。その瞬間、奇跡的にアスランの言葉を拾った。




 お前が皇帝だ。




 キラがヨウランとヴィーノをつれて戻ってきたのを見て、シンはアスランとミーアがどこにいるのか上を覗き込んだ。滑空を続けるセイバートリィの上空、シードの光を放ち崩壊しながら空を軋ませて滑り落ちてくるあの場所を。

 皆が固唾を呑んで見守る中、一角が大きく崩れ落ちる。
 一旦は浮上したものの、落下は免れえず、それはもうどこに落ちるかそれだけだった。帝国、共和国の艦隊が攻撃を仕掛けるもののシードの障壁に守られてて届きはせずただ漫然と見送るのみで。

 シン達が両隣を飛ぶ飛空艇に気が付いたのはそんな時。
 船体に描かれたマークは帝国軍のそれだった。

 独裁官ギルバート・デュランダル・プラントはもはや人前に出ることは叶わず、イザーク・ジュール・プラントも戦火に散った。もとよりアスラン・ザラ・プラントは死して7年経つ。彼らに命を下せるものはこの戦場に一人しかいなかった。

「この飛空艇はこのまま帝都へ戻りますの?」

 ラクスが凡庸とシンに問いかける。
 ヤキン・ドゥーエと多くの艦隊、飛空艇に囲まれて帝都へと向かうのだろう。だけど、シンは思い出す、この旅の始まりを。

「できれば途中で降ろしてくださいな」

 途中の砂漠にある征服した国を。
 初めての冒険の地で忍び込んだ王宮で見た種石、数々の奇跡と惨禍を引き起こしたあれは確かにアプリリウスにあったのだ。

 あそこで俺は兄上に会って、地下を逃げる途中にラクスと出遭ったんだ。
 勇ましく戦う彼女はレジスタンスのリーダーだった。

「僕も途中で降ろしてくれる?」

 つかみどころのないアプリルの将軍キラも、彼女を守ると言ったのだから当然だ。彼らの目的はアプリルの復興、帝国からの独立なのだから。
 世界を震撼させた未曾有の危機が過ぎ去ってみれば、目の前に残るのは初めから突きつけられていた現実で、シンは一つ深呼吸をした。

 あの時感じた違和感を今も持ちつつけている。
 けれどアプリルの地理的重要性も分かっているし、最後はイザークが執政官を努めた地でもある。

「いいよ・・・うん・・・送ってやる。俺があの王宮までちゃんとね」
「あらあら、まあ。それは少々予定外でした」

 ラクスが笑顔とともに肩の力を抜くと、キラも残念とばかりに両手を挙げた。

「シンにしちゃ上出来な判断だ」

 アプリルの復興は許される、シン・アスカ・プラントの名の下に帝国とアプリルとの新しい関係がここに築かれることになったのだ。
 カガリに頭をぐしゃぐしゃにされて手を払いのけると、深紅の飛空艇は青い空に大きな弧を描いて砂漠の都市へと進路を取った。




 プラント皇帝パトリックの4男にして末弟シン・アスカ・プラント。
 この日、少年はプラントの帝位を継承し、皇帝となった。

 戦場に立って病床に倒れた第1王子の独裁官の任を解いて療養を許し、会戦状態だったコスモス連邦と即時停戦し、和平協議に入る。

 また、イザーク・ジュール・プラント戦死の後空席であったアプリル執政官にかつてのアプリル第一王女であったラクス・クライン王女を指名、アプリル自治領として復領する。
 皇帝パトリック崩御、元老院解散、第1王子の危篤、第2王子の戦死と相次ぐ不運に見舞わられながらも、経済面では交易の発展と安全の為に海賊・空賊行為の交易ルートの取締りを強化する。




 そびえる様に建つ帝都の王宮の離れ。
 木々に囲まれ緑に覆われた庭と、太陽の光を反射する噴水。正午を少し過ぎた日差しが庭を照らし、面した部屋に僅かに入り込んでいた。

 その庭を背にしてシンは立っていた。
 部屋の隅で畏まるアデスが口を開く。

「亡き陛下もギルバート殿下も、よくその絵をご覧になっておりました」
「兄上は?」
「西の対にてお休みに」

 どうにでもなると宣言したとおり、ギルバートはあのあと知らぬ間に帝都へと帰還して西の離宮に居を構えて事実上隠棲した。表向きは慣れぬ行軍に体調を崩し病床に伏したと言う事になっているが、無論事実は違う。
 あの変わり果てた姿をどうすこともできなかったからだ。
 それでも、ギルバートは彼なりにシンに助言をしながら、穏やかに過ごしているようだった。

「相変わらずか」

 向かい合う壁に掲げている絵をもうずっと見つめていた。
 まだ両手すら握られたままの自分を見下ろす二人の兄と、3人を見守る一番の上の兄とついぞ笑った所を見たことがなかった父。

 あの空中大陸から帰還してからと言うもの、驚くように早く月日が過ぎていった。目まぐるしく過ぎる毎日に無類の冒険を思い出す暇も無い程、それはもう遠い過去のように。

「陛下、お時間でございます」
「時間・・・」

 目を離さずにシンは繰り返す。

「コスモス連邦からの使者が到着してございます」
「そうだった」

 ようやく絵から目を離して部屋を後にする。
 閉じられた扉の向こうでは、誰一人いない空間に整然と並べられた調度品、絵画、そして庭が昔から何一つ変わらずそこにあった。

 帝都、王宮の謁見の間の手前でシンは手っ取り早く身なりを正されてる。コスモス連邦からの使者を待たせてしまっていたから、それすらもおざなりに足を進めた。

 ハルバートンの後継者として政界入りしたラミアス議員から、連絡があってまた急に来たものだと胸のうちで毒づいた。
 要件は使者から直接伝えるゆえと、手紙にはあったそうだ。
 少しの間に長ったらしいローブの翻し方も様になったと、カガリに褒められたばかり。皇帝として恥ずかしくないように謁見の間へと踏み入れる。

 玉座の前に来て初めて随分と遠くにいる使者を見た。

 白く広がったドレスに金色の頭をレースで飾った少女が照らされた光に浮かび上がっていた。

 シンは目を瞠る。
 かつて一緒に旅をした少女。見知らぬ街で出会い、競い、殺しあって、別れた仲間。あれからどれだけ月日がたっただろう。

 彼女が傷つき苦痛に歪む顔を思い出す。



「・・・ステラっ!」

 シンが駆け出すより早く、ステラが赤い絨毯の上を駆けていた。並びいる警士、近衛兵に制止の手を上げたのは控えるフェイスマスターのカガリとディアッカで。上段を気にせず思いっきり飛びついたステラを、シンは手を広げて向かえていた。

 ステラがラミアス議員の娘となって帝国に輿入れする。それが彼女が携えていた書状の中身だった。








 広間に歓声と花びらが舞う頃、帝都からもアプリリウスからも離れた地の湖が真っ青な空を映していた。草原と、白や黄色の小花に彩られた湖は、岸辺の半分を埋める巨大な飛行戦艦さえなければ、さぞや美しかっただろう。

 しかし、その湖も実は湖面に突き刺さって佇み今は鳥と魚達の住処となっているヴォルテールが作り出したものだと誰もが知っていた。

「来るのが遅くなってごめん」

 湖のほとりに立っていたのはアスランだった。
 手には瀟洒な細身の剣を持っていた。華美にならない程度に装飾された鞘を掴んで、鏡のように空と雲を映す湖面の向こうを焦点の合わない目で見る。

「シンとステラはうまくやってるよ。振り回されてるみたいだけどね」

 ぽつりぽつりと短く報告していく。

「ラクスとキラはアプリルで何だかんだ言って納まっちゃって、もうすぐ子供が生まれるらしい、カガリが先を越されたって」

 何もない空中から青い光が湧き出す。砂が零れるように青いシードが集まって、アスランの前に、水面の上に一つの形を作り出す。

「兄上は・・・西の離宮で静養されてる。もう、自分では起き上がれないそうだ・・・」

 静かに差し出した剣を受け取るのは向こう側が透けて見える手で。
 グリーンの瞳が見開かれる、唇が音を出さすに名前を紡ぐ。


 ―――イザーク


「これは返すよ。もう、必要ないんだ」

 アスランの視線が焦点を結んで、ぼんやりとシードを纏ったイザークを捕らえていた。

「俺は、相変わらず空賊やってる、かな。シンのお陰で空の検問は厳しくなったけど、今はコスモス連邦の空も俺の庭だからね」

 そう言って、アスランは苦笑した。

「もう行くよ」

 手を離すと剣は幻の手に中にとどまり、彼が踵を返した瞬間に湖に落ちた。飛沫のかわりにシードの珠が浮かび、覗き込んでももはや剣を探すことはできなかった。

 草を踏みしめて歩き、振り返って眼下に湖を見下ろす。風が吹き上げて、行方に深紅の飛空艇が翼を休めている。

「出発だ、ミーア!」





CAST

プラント第4王子 シン・アスカ
プラント第3王子 アスラン・ザラ
プラント第2王子 イザーク・ジュール
プラント第1王子 ギルバート・デュランダル
プラント皇帝 パトリック・ザラ
フェイスマスター カガリ・ユラ・アスハ
フェイスマスター ディアッカ・エルスマン
フェイスマスター レイ・ザ・バレル
フェイスマスター ハイネ・ヴェステンフルス
フェイスマスター タリア・グラディス
ドクター ラウ・ル・クルーゼ
侍従長 フレデリック・アデス
第3軍参謀 シホ・ハーネンフース
プラント帝妃 レノア・ザラ

元アプリル王女 ラクス・クライン
元アプリル将軍 キラ・ヤマト
レジスタンス構成員 マーティン・ダコスタ

自治領ターミナル領主 アンドリュー・バルトフェルト

深紅の空賊 アレックス・ディノ
深紅の空賊の相棒 ミーア・キャンベル
深紅の空賊のクルー ヨウラン・ケント
深紅の空賊のクルー ヴィーノ・デュプレ
空賊 ミゲル・アイマン
空賊 ラスティ・マッケンジー

情報屋 ニコル・アマルフィ 

キャンベラの里長 ルナマリア・ホーク
キャラベラの里の娘 メイリン・ホーク

マルキオ教主 マルキオ

オーブ地質調査員 サイ・アーガイル

商隊長 ネオ・ロアノーク
商隊の子供 スティング・オークレー
商隊の子供 アウル・ニーダ
商隊の子供 ステラ・ルーシェ

連邦安全保障理事会理事 ムルタ・アズラエル
連邦安全保障理事会理事 ロード・ジブリール
連邦上院議員 ハルバートン
連邦軍大尉 マリュー・ラミアス
連邦軍軍人 アーノルド・ノイマン

覇王 ジョージ・グレン





 あれから月日は流れ。
 一人のキャンベラが窓からを空を見上げていた。

「時の后妃ステラは身体が弱く子供が産めなかったそうです」

 その後姿を見つめるのは、喪に服しているプラント皇帝だった。
 午後の気だるい空気と日差しが部屋を満たしていた。

「祖父はアプリル生まれの養子に過ぎなかった、貴方は知っているはずですね」

 桃色の髪を膝裏まで伸ばした彼女が振り返る。空色の瞳に映るのは、藍色の髪を持ち彼の人の面影を宿す現皇帝。もう若いとは言えない歳の彼が穏やかに問いただすのを風の声のように聞く神秘の一族。

「聞かせてあげるわ、この大地が自ら歩み始めるきっかけを」

 懐かしいものを見るように、彼女が歌うように紡ぐそれは
 もはや伝説の中に消えた種石と4人の王子の物語。







 おわり





終わったと言うか終わらせた感バリバリですが! 終わった~。最初に考えていた話が元からこんな話だったかどうか今となっては思い出せません。