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Men of Destiny 48

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駆け抜けていく奇跡



「こんな波動感情をぶつけてくるなんてっ!」
 白い機体の中で叫ばれた声がシンに聞こえるわけもない。攻撃をかわしまくる深紅の機体とすれ違えば引き込まれそうになる。


 レクイエムに横付けされたモニタールームでアラート音が鳴り響く。
「カオス、シグナルロスト!?」
「何!? いや、何だこれは」
 一番右端のモニタとその隣のモニタが真っ赤に染まっている。白衣を来た技術スタッフが一斉に駆け寄って覗き込む。
「γ波フラット? 心拍、脈拍共に規定値をオーバー、血中酸素濃度、脳内圧力、危険域だっ!」
「ステラもかっ、一体どうしたんだと言うんだ2人とも!?」
「リセットしろ、早く! 潰されるぞっ」
 この2人に共通する点に気が付いた彼らが背後の埋め込まれたモニタを見た。
「馬鹿なっ・・・ブラックアウト」
 真っ暗なモニタには本来、受信した数々の身体データがリアルタイムで表示されているはずだった。


 頭の中でチリチリと燃えるような感覚。
 声が聞こえそうで、言葉にならない苛立ちがシンを襲っていた。その一方的な衝動が、自分の中を駆け抜けていく。
 これは、俺の感情じゃない。
 ものすごい挙動を見せて動き回っている赤い機体が、黒煙を貫き、フリーダムからの攻撃を壁面スレスレで交していく。だが、外壁にはフリーダムの攻撃が命中する。
 ブロックを崩すように火が上がるイメージが浮かぶ。誘爆する。
「ステラっ、ルナ! 急いで外壁から離れろっ」
 このままじゃ、巻き込まれるだけだ。
 灰色の新型も持ち直したようだし、一端引いて・・・。
『シン! 突撃命令が出た』
「なっ、突撃っ!?」
 小さな爆発が発射口で起こるのみで、ダイダロス要塞そのものはあまりダメージがなかったのだ。
『侵入ルートだ。急げっ!』
 急げ!? そうか、次のレクイエムが来る。
 送信されたダイダロス基地のデータに1本ルートが赤く浮かび上がった。
 ドックから伸びたライン・・・ここを進めば破壊できる。
 機首を向けようとした時、ルナの声が飛び込んできた。
『シン!』
 分かっている。灰色の新型が阻止するために2機ともビームを乱射し始めるのだ。
 戦場を網の目に切り取るレーザービームの嵐。戦場に充満するビームの光が機体に反射して、灰色の新型は水色と黄色に染まっている。
 これは怒りだ。
 戦場を染め上げるのは、怒りと嘆き。
 目の前の地球軍の機体から感じられる純粋な感情が、散った命の仇へと収束する。
 シンは戦場にステラに良く似た少女と、いつか自分で止めを刺した少年を見た。敵意を剥き出しにして全包囲に向けて放っている攻撃を一斉に傾ける。
 標的は白い機体が青いフレアを引く、フリーダム。


 アスランに引き込まれるなっ!


 トリガーにかけた指を慌てて外した。
 誰だ? 今の。

 戦場は相変わらず混戦していて、ルナとステラはおろかレイまで前線に出て戦っていた。その中心にいるのは白いフリーダム。
「なんで、あいつがっ!?」
『今はそんなこと言っている場合じゃないわよ!』
 カオスを失った代わりにその穴を埋める深紅の機体は2機の寮機を従えて、4機の攻撃を防ぎきっている。突入を試みるザフトの機体も見えるが、ダイダロス要塞の防衛にあって突破が敵わない。
『ここはあたし達が引き受けるから、シンは行ってっ!』
「でもっ」
 頭はずっと軽くなったが、戦況が好転したわけじゃない。
 皆で掛かればこの防御を崩せるかも知れない。
『ステラ、頑張るから。ステラ分かるの、こんなのは嫌だって・・・』
 迷っている時間はない、こうしている間にも時間はなくなり、レクイエムがビームを曲げてコロニーを狙う。発射口は一つではないのだ。
『お前のデスティニーが一番早い』
 レイに最後の後押しをされて、シンは機体を翻して出力を最大にして突入ルートにのる。すぐさま反応したインフィニティが後を追うが、間にフリーダムが立ちはだかった。
 そんな光景を振り返りもせず、シンは雨霰と降り注ぐダイダロス要塞のドック近くの自動レーザー砲や追尾ミサイルを掻い潜る。
 交しきれるか!?
 辿り着いてみせるっ!
 ミネルバの仲間達が、ステラが、フリーダムがシンに行けと言ったのだ。今この瞬間も戦っている。ルナの愚痴やステラの息遣い。レイがコンソールに滑らせる指の動きが見える。
 意識を繋ぐようにして辿り着く一つの頂点にはかつて戦った白い機体がいて、言い知れぬ感情がシンになだれ込んでくる。それはもう一つの頂点を形成する赤い機体と絡み合って戦場の命の波動を引き寄せた。
 拡散する意識が戦場に解けるように広がって、シンの目の前に道を作る。
 HUD上のルートと重なって、火器を確認する。
 ミサイルチェック。チェックOK。
 殆ど出払っているドックにはまだ留まっている艦があった。黒味がかった船体に見覚えのある艦だと思ったが、ロックのアラームを耳にするのと同時にトリガーを引いた。
 発射される、両翼の下につけていた2本のミサイル。
 一直線に要塞に向かって伸び、ドック奥の通路に吸い込まれるように消えた。



 ダイダロスの中央センターで思わず腰を浮かせた男が最後に見たものは、モニタの中でどんどん迫るミサイル。
「第3防衛ライン突破! 駄目です・・・ 最終防衛圏突破されました!」
「デストロイは何をやっているっ!? さっさと打ち落とせ」
「衛星軌道艦隊からの回答はっ」
 泳ぐようにダイダロス要塞の前に踊り出た機体はすでにすっかり汚れて、自慢のトリコロールも褪せてしまっていたけれど。
「隔壁閉鎖、被害を最小限に抑えろ。たかが、ミサイルごときで、このダイダロスは落ちん」
 モニタを見つめる要員が目を見開いて振り返る。
「隔壁閉鎖できません! メインコンピューターに拒否され―――」
「ミサイル、エネルギー集積パイプに着弾!」
 ジブリールが腰を浮かせて背後の入り口を目指すが、足元から沸き起こる振動でたどり着くことはできなかった。あっという間に火の手が回り、中央センターは煙と火花、瓦礫の山で押しつぶされた。


 灰色のデストロイの前に展開されたバリアがルナ達の攻撃を防ぎ、隙をついて攻撃を仕掛けてくるが、ステラもレイもそれをよける。それとは違う猛スピードでの攻防が所狭しと宙域を駆け周り、白と赤の機体が過ぎた後に残る両軍の残骸。
 カオスが持っていてた移動砲台を翼から分離させてインフィニティを攻撃するフリーダム改と赤い翼のブレードがスパイラルを描く。

 なぜ君がそんな所にいるっ!? アスランッ!

 お前こそ。こんな所まで、のこのこ誘き出されて何を言う!

 激突する二人が瞬時に同じ方向に視線を向けた。死闘を繰り広げた2機がもつれ合うこと数秒後、悠然と構えていた筈のダイダロス要塞が衝撃と共に火を吐いた。



「ジブリール。君は間違っていない、より進化した生命体に取って代わられる事に恐怖を感じるのは生物の本能だ」
 メサイアからもその様子は見て取れ、多くのコーディネーター達が胸を撫で下ろしたことだろう。評議会議長のデュランダルもヤヌアリウスから脱出して、間一髪ここへ逃れることができた。コロニーを守るため前線にまで移動してきた要塞メサイア。
 その後にはコロニーと再び宇宙に戻ったプラントの、残骸。
「そうなる前に排除しようと動くことも当然だろう。ただ、その対象を間違えたのだ、君は」
 戦闘宙域を厳しい視線でデュランダル議長が見つめる。
「舞台を整えてくれた礼を言うよ」


 宙域にいる誰もが視覚に飛び込んでくる映像に轟音を被せる。爆煙の中から飛び出してくる機体が、二人の間を突き抜ける。弾けるように距離を置くインフィニティとフリーダム。
 隔壁の割れ目から煙と炎を噴出すダイダロス要塞を背後に、シンのデスティニーのキャノピーがその光を反射する。
『シン! やったわねっ』
『お前ならやると思った』
 次々に活躍を喜ぶ通信が入る。
『シン』
「ルナ、レイ、ステラも無事か、みんなのおかげだ」
 これでコロニーが撃たれずに済むんだ。
 シンは心なし爆発やレーザービームでの戦闘が減った宙域を見渡す。
 ダイダロスという後ろ盾を失った地球軍は指揮命令系統が寸断されて、軍隊行動そのものに支障が出ているようだった。

 こんな所で、止まるわけにはいかない。

 君達の負けだっ。

 まだだ。

「何をごちゃごちゃとっ!」
 今だ戦いつづける機体があった。
 翼をブレードにして宇宙を切り刻むインフィニティと複翼を散らして光の雨を降らすフリーダム。寸分の狂いもなく弧を描いて激突する翼から火花を散らし、エンジンが吐くフレアと翼のブレード、舞い散るビームの嵐。
 戦争は終わる。フリーダムの言うとおりダイダロス要塞は落ちる。
 これで戦争は終わるというのに戦い続けていては―――。

 そこにミネルバからの通信が入る。
 軌道上に大規模地球軍艦隊出現、メサイアへと侵攻中。

 これじゃあ、いつまでも終わらないじゃないか。
「もう止めろ―――っ!」
 シンは戦いつづける2機の間に割って入り、どちらにも向けて機銃を放った。意図を好意的に解釈したフリーダムのおかげで結果的に2対1になったが。
 フリーダムの遠隔攻撃を紙一重で避ける深紅の機体だが、シンにもその動きは見えていて、その2機の動きがゆっくりと瞳に映る。
 インフィニティに向かって上から、左から、2回連続して下から左に交されたところにフリーダム、それをインフィニティがパワーにものを言わせて一発は受けて、横スライドロールで下方へと減速して反転する。
 後にいたシンのデスティニーとはちょうどそれで正面。
 お互い胴を張り付かせるほど近い位置でトリガーを引く。
 機体にめり込む銃弾も最初は避けられたけれど、何発かは当たったはずだ。確認する間もなく、悲鳴をあげる被照準と機体を揺らす衝撃。
 喉が渇いて、まるで息を吐けば一瞬で張り詰めた緊張が解けてしまうよう。

 焦ったら負けだ。
 相手はアスランさんなんだ。

 ここで、戦いを終わらせるために、俺は貴方を討つ。

 ここで、お前に討たれるわけにはいかない。

 その声は記憶にある声と同じ。聞こえる息遣い、熱い鼓動を糧にシンは機体を走らせた。
 インフィニティが要塞に背を向けて、一直線に宇宙を駆ける。

 追って! アスランを止めて。

「アンタに言われなくたって、そうするさっ!!」
 操縦ではまだ敵わないかも知れないし、戦い方だってなっちゃいない。けれどこいつはめっぽう足自慢で。
 シンは深紅の機体を追いかけた。
 メサイアを目指すインフィニティの向こうに、密集した小さな光の大軍がいる。そして、その向こうには、十字型をした自軍の要塞メサイア。


 両脇に防衛軍を従わせたメサイアの中央指令所。一段高い位置に議長の座る大げさなイスと周りを取り囲むように配置された透過ディスプレイ。戦況を映し出す武官達が戦況を議長に説明していた。
 ダイダロス要塞のレクイエムが沈黙しても、地球軍にはまだコロニー攻撃用の艦隊が残っている。コーディネーター排斥を声高に叫んで軍を扇動したジブリールが消えた所で、地球軍を動かす者がいなくなるわけではない。
「ネオ・ジェネシス、目標、地球軍並びにダイダロス要塞」
 復唱されて、攻撃座標が入力される。
「ミネルバに伝達。これより、オペレーション・SEEDを発動する」
 議長・ギルバード・デュランダルが真意を静かに語る。
「コーディネーターの、いや、我ら人類に対する脅威があそこにいる」




究極に眠いです。一日経って誤字脱字修正なんて、駄目駄目じゃん・・・。あと、ちょっと、ちょっとだ。

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