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 目を閉じるアスラン。
「僕達、さっきどんな風に見えた?」
 少しからかうような口ぶりは明らかにシンの胸の内を読み当てていて、シンは顔が赤くなった。絡み合う二人の姿が頭から離れない。
「まあ、人と同じではないけれど、全く違うってわけでもない。種は力のある精霊が共同で霊力を練り上げて創るからね」
 練り、上げる?
 シンにはちょっと想像がつかない。
「分からない? 君が見たまま、想像したままだよ。フフ」
 フフって、俺が見たのは、何というかちょっと口に出せない。
「それをね、アスランは産みの親との間でやったんだ」
 人の世にもあるように、精霊の世界でもあまりに近いもの同士では近親による弊害が出る。
「でもそれは、禁忌だから」
「キラ、もういい」
 アスランがどんなことが起こったのか、口を開く。


 里長と里長の最初の種から生まれた精霊との間の種は、最強に凶悪だった。
 育てる間もなく、芽吹き、急激に成長して花粉を巻き散らして勝手に増殖して、それでいて精霊を宿していなかった。
 最悪なことにそいつは木々の中で最も寿命の長い杉で、おかげで処分するために力を使い果たした里長は朽ち果て、俺は父との交配と子殺しの、穢れを負った。
 穢れた精霊は種を創ることができない。
「だから、里から追放になった」
 いつか、穢れが浄化されるまでとは聞いているけど、戻った話を聞いたことはない。


 シンは思考がついていかずに、言葉が見つからない。ただ一つ分かることと言えば。
 居場所をなくしたのはシンだけでなく、彼も同じ。
 一体、どんな気持ちでシンに『君は歩いていけるだろう?』と言ったのだろう。
「そんな顔をするなよ、追放になったこと、少しは感謝しているんだ」
 シンもキラも冗談を言うなとアスランを見る。
「外の世界を知ることができたから。迷い込んでくる人間をからかったり、彼らの話を聞くのも面白いものさ」
 後始末を押し付けられたキラには悪いけど、俺はそれなりに楽しんでいるんだ。そう言って、肩を竦める姿はさっきまでの吐露する青年と同じには見えない。
「キラはこっそり、外の世界に行ったりしていただろう。ちょっと羨ましかったんだ」
 アスランが笑って、手にしたマグカップに口を付ける。
「シンにも出会えたし。まさか、あのフィールドで助けてもらえるなんて思わなかった」
 向けられた笑顔がなぜか、どこか物寂しい。
 それをシンはなんと呼ぶのか知っている。空元気はここ最近のシンの十八番でもあったのだから。


「ほんと、僕とアスランのラブラブ空間に割り込んでくるなんていい度胸しているよ」
 誉められて悪い気はしないけれど、すっかり自分が子供扱いなのに複雑な心境になる。それでもいいと思っていたのは比較対象がいない昔のこと。
 カッとなって飛び出したはいいが、格好よく止めに入るまでには至らなかった。
 弟で満足できる自信が今はない。
 シンは悶々として、立ち上がるアスランを見る。
 そうしたら、キラと目が合った。
「今度こそ、うまく行くと思ったのにさ」
「何度やったって、駄目なものは駄目だ」
 何度も、やった?って、えっ?
 緑の大地に広がる青い髪、横たわる白い肢体と、森林の空気に漂う甘い匂い。
「如何わしい想像をするなっ!」
 空になったマグカップで頭を叩かれる。
「えっ、なんで分かっ・・・!?」
 ゴンと今度は拳でもう一発。
「お前の恥ずかしい妄想を垂れ流すんじゃない!」
「えー、でも、結構当たってるかも」
「キラもいい加減諦めて、里に帰れ!」
「また来てもいい?」
 はぁ・・・とため息をつくアスランは、それでも優しい笑顔で「勝手にしろ」と答える。キラはアスランの髪をひと房持ち上げて、さらりと流して背後の森に帰っていく。
「シンも、風邪引きなんだから早く寝ろ!」
 ソファーのカバーを直して、壁にかけたカレンダーを捲る主がシンを頭ごなしに命令する。
 照れてる。この人、面白いかも。
 あっ、人じゃないけど。
 けど、民宿の主人で、俺は紛れ込んだ旅人。
「ひどい言い方ですよね、俺ってば、この寂れた民宿の唯一のお客なのに」
「なっ」
 んぐっと、喉を詰まらせて、民宿の主がシンを見る。心なし目を瞠って。
 こんな兄がいたらきっと楽しいだろう。
 まさか、ど田舎の温泉郷で出会いがあるなんて思いもしない。
 でも、出会いには別れが付き物で、俺はまた現実に帰っていく。
「そうだな。布団も変えよう、汗をかいただろうから」


 真新しいシーツを広げ、毛布を広げようとする手をシンは掴んだ。
「手を離してもらいたいのだが」
「嫌ですね」
 紹介された旅館がなくて途方にくれていたのも、この人が追放されて迷い込む人間を監視していたのも、もしかしたらそこに出会いはなかったのかも知れない。それでも、シンはアスランを見つけ、彼の後に広がる世界を垣間見た。
 ならば、偶然の積み重ねが奇跡を呼ぶことさえできるかも知れない。
 たった今、きれいにしたばかりの布団の上に二人して倒れこむ。
「何を考えているんだっ、俺はっ!」
「俺なんて都会育ちで穢れまくってますから、ちょうどいいですって」
 雨が降りしきる夜更け。
 森に溶け込む民宿の2階の部屋で、シンは自分が想像した通り、深い緑の闇の中に浮かび上がる白い肢体を見る。濃密な空気を息遣いと共に吸い込めば、かすかに香る甘い香り。仰け反る首から胸への曲線がしなり、震え、自分の身体を締め付ける淡い緑の帯に締め付けられる。
 冷たっ!
 そう感じたのは一瞬のことで、あっという間に感じられなくなった。
 二人の周りの空間は色めいてざわめきたち、自分の鳩尾あたりに集まり始める熱を感じた時、シンは練り上げる感覚がこれなのかと、どこか頭の片隅で思い立つ。
 彼の中で何かを作り上げるような、新しく生まれるモノを形作るような錯覚。
 無心で全身を使って、衝動のままに何度も突き上げる。
 どこまでも静かな夜の森に、吐息と喘ぎと短い悲鳴が駆け抜ける。
 人であらざる者はシンを包み込んで、若い精を受け止めていた。


 朝日が差し込む碧い世界で、シンは目を覚ました。意識を取り戻したアスランがシンから顔を背けて肩を震わせる。
「まさか、君とこんなことになるなんて」
「何ですか」
 シンとて齢18を数えた成人男子である。
 俺、ちょっと傷ついちゃうかも。
「ああ、不覚。・・・いつまで乗っかってる気だ、さっさとどけっ!」
 シンを押しのけようとするアスラン。
「お客に向かって『どけ』は、ないです」
「こんな不埒なことをする奴が、いっぱしの客を気取るんじゃないっ」
 怒った口調も本気で言っているわけないじゃないことくらい一目瞭然。民宿の主は今も剥き出しの肌から神経を刺激する色香を漂わせているのだ。すぐにでも下半身が回復しそうで、身体を離したそこに転がる光を見つけて、思わず隠してしまっていた。
 これって、まさか・・・。
 でも、俺は人間で。
 ちょうど桃の種のような形をした、透き通ったガラスのような塊。
 中心がオーロラ色に光ってとてもきれいだった。
 身じろぎするアスランから見えないように後ろ手に持って身体を起こした。朝露に濡れた早朝の森はいつのまにか、ちゃんと、シンの部屋へと変わっていた。
 カーテンの隙間から光が差し込んでいる。 


「また、来ます」
「勝手にしろ」
 やはり彼は、憮然としつつも優しさをほんの少し滲ませて、シンを送り出した。
 小さなカバンを背負って、シンは歩き出す。
 懐に仄かに光を放つ種を隠して。


 バス停でバスに乗り込む瞬間、声を掛けられる。
「それ、絶対大事にしてよね」
 アスランの古い友人。こうして見ればただの青年と変わらないのに、彼の正体は大地の精。
「諦めたら朽ちるよ。人間にだって霊力がないわけじゃない。芽が出たら、見せに来て。それから、これ」
 強引に手渡されたのは、小さな袋。紺と碧の刺繍が施された巾着のようなものだった。
「守り袋だから、僕からの餞別」
「あ、ありがとうございます」
 さすが、大地の精。紫の瞳に有無を言わさぬ力がある。
「絶対だからね。枯らしたら許さない」
 シンも負け時と見つめ返す。
 いつまでも乗り込まないシンに、バスの運転手がクラクションを鳴らす。
「ああ、約束する」
 タラップに足をかけてバスに乗り込む。運転手の横を通り過ぎて、どこに座ろうかと車内を見回して車窓からバスを見送る人影が見えた。
 その数は二つ。守り袋をくれたキラと民宿の主人。アスラン。
 シンはバスの中、窓に走り寄る。
 軽く手を上げる姿が遠くなる。
 俺、前を向いて歩いていけますから。
 家族はもう戻らないけれど、思い出して嘆くこともあるかもしれないけど、それだけじゃないって分かったから。
「俺って、やっぱり馬鹿なんだなあ」
 そんなことに今まで気が付かないなんて。


 あなたがくれた希望に負けないように。
 今度会う時に、見せたいものがあるから。
 シンはバスが山道を走って山間の温泉郷が見えなくなると、深く腰掛けて、懐の種を上からそっと抑えた。 


「シンと何を話していたんだ?」
「ひみつーっ」
 先に歩き出したキラを追って、アスランもバス停を後にする。
 谷から望む山頂は白く雪が冠を作り、山麓に紅葉を棚引かせていた。
「冬支度はじめなきゃね、今年こそ、家にお出でよ」
「いい、いつもの木で眠る。それに、お前のところじゃ身体が持たない」
「身体なんてないくせに」
 長い冬を越えて、全てが息吹く春に、シンがまたここを訪れるまで、あと少し。




終わり


ふう。難産でした。シンがどこまでやるかで二転三転。なんだか、暖かい話になっているし、違うよ、暗い話にする予定だったんだよ。おかげで、前半と後半で全く毛色の違う話になってしまった。

こういうエロシーンを含む話って、どこまでの表現で止めておくかって難しいです。いざ、自分が書くとなると困るなあ。