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諦観。いい英単語がありません。4/27は名駅で大変なことがあったのですがあまり触れられていませんでしたね。
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弟に連絡を取って臨時を手配させた。中央西にも連絡をしてくれるといいが、おそらくあいつのことだから問題ないだろう。大阪駅の臨時もなんとか間に合うといい。ただ、深夜のタクシー代を請求されてもそれはちょっと払えないだろうな。東海道は25時を過ぎ、社中泊用列車の状況を確認してようやく息をついた。運行見合わせは一時間程度だったと思うが、時間が時間だ。深夜に駅についてもおそらく帰るあてがない乗客が大勢出ただろう。
なぜ、もっと早くホームをドアを設置しておかなかったのか。ホームの狭さは認識していたのに。慣れた駅、慣れた乗客だと思っていたのか。今更思い返してみても失った命は返って来ない。
その日、夜の22時、人身事故が発生した。7号車と8号車をジャッキアップして搬出した遺体は病院へ搬送することはなかった。
そして改めて思う。夜でよかった。暗い夜なら自分の状態も目立たなくていい。運行再開を優先した為着替えなどは一切していない。乾いた黒くなれば濃緑の制服ではそうそう分かりはしないだろう。もっとも匂いを誤魔化すことはできなったので、さっそく血相を変えた職員が駆け寄って来た。手にしていたのは大きなタオル。受け取ろうとして失敗したと思った。差し出した手は、白いはずの手袋は、それはさすがに、元の色が分かる赤黒い褐色をしていた。慌てて引っ手繰って足早に通路を進む。
薄い看板を隔てた在来線のホームから二本の臨時が滑り出していく。やはり東海道はうまくやってくれたらしい。一人でも帰路に付けることを願って本社の部屋へと続く階段を下った。あまり足を運ばない本社の部屋はひんやりしていて、結局使わなかったタオルをテーブルに置いて、その足でバスルームへ向かう。
一秒でも早くこの状態を何とかしたくて、制服のボタンがまだるっこしい。一つ外したところで、手袋を先に取る。冷たい真っ黒な手袋はしかしランドリーの籠を茶色に汚した。服を脱ぐたびに鼻腔を突く鉄分の臭い。シャワーのコックを捻って熱湯を頭から被るとその臭気は一層酷くなった。
足元を流れていくモノ。
つい先ほどまで考えないようにしていたのに、脳裏に蘇る光景。西日本であったばかりじゃないか、どうして事故はなくならない。それでなくても今は非常時だというのに。なぜ、なぜ、なぜ。
朝には今日の顛末の報告が上がる。
責められるだろう。
それは仕方がない。人身事故だ、運行も止まり、在来に迷惑をかけた、西日本にも、考えたくはないが九州にも遅延は及んだ。どれだけの人に影響が出ただろうか、やれるだけの事はやったが、それでも限界があった。
いや、仕方ないで済むか。
洗っても洗っても拭えないモノに気がついて、腕を上げようとしてようやく手が震えていることに気がつく。自分が受けたダメージも相当なものだった。一人で片付けなくてはならなくて、気を張っていた。助けは来ない。まして本社のお膝元だ、醜態などさらせようはずもない。
私はちゃんとできていただろうか。
至らない所はなかっただろうか、緊急時のマニュアルを頭の中で探してみるが、疲れ切っていて中々反芻することができない。もう少しでゴールデンウィークに突入する、あと一日もすれば東北が全線復旧するこのときにダウンするわけにはいかないのに、東海道はふら付きながらバスルームを出た。
日報を書かないと。今日の始末書を仕上げないと。明日の車両計画を再点検しないと。東海道に礼をしないと。やることは一杯あるのに何一つできずに、ベッドに倒れこんだ。そしてようやく、山陽に謝罪しなければ、そう思いかけて意識を手放した。
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ネタの種] - &trackback() - 2011年05月02日 23:55:22
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