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3.ニコル・アマルフィ


「何をじろっと見ているんです、貴方は」
「ニコル!」
「アスラン、お久しぶりです」
 きっとチェスの勝負がついたところなのだろう。ニコルの前で、いつもの光景が繰り返されている。その中でいつもと違ったのがディアッカ。たた、面白そうに見ているだけの彼が、心なしイザークに残念そうな視線を向けている。
「遅いぞっ、ニコル!」
「早々に王宮を抜けてきたあなた達と違って、ギリギリまで仕事していたんですから仕方がないでしょ。で、どちらの勝ちです?」
 分かりきっているが聞いてみる。
 肩を震わせて睨み付けてくるイザークが毎度のごとく負けたようだ。そして、殊更アスランが晴れ晴れとしている。
「どうかしたんですか、アスラン。すごく嬉しそうに見えます」
 ニコルは二人の勝敗に賭けられたモノに心中複雑になる。
 イザークが勝ったら、王宮へ上がると約束する。
 アスランなら王国の大きな力になるだろうし、その能力もある。
 しかし、ニコルは思うのだ。
 彼には向いていない。
「アスランにはマイスターになるって野望があるんですから、無理言ったってしょうがないでしょう?」
「ニコルだけだよ、そう言ってくれるのは」
 彼は切り捨てることができないから、無理なのだ。
「伯爵と奥方はどちらですか?」
「案内するよ。すまないイザーク、ちょっと待っていてくれ」
 ニコルはドアを開けるアスランの手を見る。
 形ある何かを作り出す手だ。
 ディセンベルには有名な工房がいくつもあって、アスランもその工房に出入りするうちに大人顔負けの技術を持つ少年になっていた。アカデミーで知り合った時には既に工房を持てるほどの腕だったのだ。
 持って生まれた才能もあるだろうが、努力や試行錯誤を惜しまない性格。
 瞬時の判断よりは慎重さを選ぶ性格。
 それは時に美徳だけど、そうとも限らない。
「今は何を作っているのですか?」
「今? 今は髪を乾かす機械、かな」
 長い髪の友人がいて、いつも髪を乾かすのが大変だと零しているのを聞いて思いついたのだとか。
「もう目処はついているんだ。驚くだろうな」
 いつだったか、彼が色々なものを作るのは、作り出すことも勿論楽しいけれど、受け取った人の反応をあれこれ想像するのが楽しいからだと言っていた。
「女性に喜ばれますよ!」
 例えば戦争に勝って領地を広げるとか、街道や宿場町を整備して減税するなんてことでも人々には喜ばれるだろう。チェスがこれだけ強いのだから、戦略や政略を練らせると面白いことになるだろうという予感はある。
 だけど、彼には産み出す手があるから。
 それが彼の全てではないと知っていても、今はまだ、せめて王国が平和なうちはそれでもいいじゃないかと思うのだ。


4.ミゲル・アイマン


「騎士様! もしかして城へ行かれるので?」
 街中で声を掛けられた。
 呼び止めたのは街道筋から街にやって来たと思われる郵便馬車。
「そうだが?」
「ちょうどよかった、これお頼みできますかね、若いの?」
 そう言って手渡されたんだよとラスティからの手紙をディセンベルの城主に渡す。
「ありがとうミゲル」
 アスランが手紙を読みはじめると、イザークが寄ってきた。
「ラスティは国境警備か?」
「ああ、張り付いてるらしいな」
 さすがにイザークは情勢を知っているから、この件の話ができる。各言うミゲルもつい先日まで国境にいた。
「で、ラスティからはなんて?」
 ニコルはあれで、意外とちゃかりしている。今も、和やかな雰囲気の中、手紙の中身を聞きだそうとしていた。手紙を読んだアスランが一気に脱力したように見え、誰もが興味があるのか、二人の会話の行方を耳で聞いている。
 一向に内容を話したがらないアスラン。
 そればかりか、ため息を付いて目を覆うから、ひょいと手紙を取り上げる。
「ちょっと、失礼」
 こんな時は、年長がうまく取り持ってやらないといけないのだ。アスランが慌てて手を伸ばすが、そこはそれ、うまく交わして羊皮紙を広げてラスティの手紙を読み上げる。
「えー何々・・・どうしても戻ることができないので今年は行けそうにない。お前の顔が見られなくて、残念だ。こっちは飯はまずいし、寒いし散々だ。やっぱり騎士なんてなるもんじゃないな・・・っておいおい」
 ミゲルはラスティの置かれた立場は痛いほど分かるが、なるものじゃないと言われてしまったら自分の立場がない。
「・・・それから、お前は早く女を作ってさっさと子供を産ませること。勿論、女の子で頼む。お前、本当に顔は俺の好みなんだから、お前そっくりの女の子なら即OKだ」
 ここまで読めば、さすがに突き刺さる視線が痛い。
 それも一つや二つじゃない。
「冗談に決まっているだろ? 冗談だよ。国境付近なんてたいした娯楽もないし、女くらいなんだって」
 咄嗟のフォローにも怪訝な顔をしている後輩達を無視してミゲルは手紙を読み進める。
「あっ、爵位はいらないから。これを俺の遺言として、是非実行してくれ」
 ラスティ・・・。お前はアホか。
「遺言って、死んじまったら、アスランの娘と結婚できないんじゃね?」
 ディアッカが最もな突っ込みを入れ、ミゲルがアスランに手紙をどうするか手振りで示すが彼は受け取るから渡してくれと手を差し出す。
「アスランの娘なんて、きっと傾国の美女になるでしょうね」
「ニコル・・・お前まで・・・」
 本人を差し置いて、その娘へと想いを馳せている。イザークなど既に妄想の彼方へと飛んでいってしまった。
 ミゲルは国境の状況を知っているから、ラスティからの手紙をアスランに渡さずに懐にしまうと、後輩達の頭を一発ずつ殴った。勿論、目を覚ませと付け加えることも忘れずに、だ。弾みでアスランまで叩いてしまった。
「何で俺まで」
 お前も目を覚ませとは、言えなかった。


5.ミーア・キャンベル


 バターはいいかしら。
 チョコレートはいいかしら。
 アーモンドは? レーズンは? 卵は? 牛乳は?
 朝から台所でワタワタしている女性、その名をミーア・キャンベル。まるでこの国の王女のようなピンク色の長い髪を惜しげもなく振りまいて、ところ狭しと動き回っている。
 ブリキの型を準備して、大きな木のまな板の上にはこれまた細長い木の棒。
「あー、小麦粉が足りないじゃない!」
 なんて迂闊なの、ミーア。
 ただでさえ即席なのに。彼女は台所の引き出しの中の小さな袋から硬貨を一枚取り出して慌てて家の外に飛び出した。軒下にぶら下げたカブの飾り物を指でつつく。
 ハロウィーン。ハロウィーン。
 お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ。
 かぼちゃを呼ぶよ。かぼちゃ大王が来るぞ!
 街は万聖節を目前に控えて、オレンジ色に染まっていた。各言うミーアも街のお祭りでミゲルと一緒にかぼちゃソングを歌うことになっている。収穫祭と霊を向かえ送り出す古い祭りはいつのまにか魔よけのかぼちゃが主役の祭りに変わってしまっていた。
 だけど、今ミーア一番気になるのは、プディングが間に合うかと言うこと。
 万聖節の2日前にある誕生日に向けてのプレゼントだった。正直、得意な歌で感謝の気持ちを表したいと思ったけれど、昨年の反省を踏まえてちゃんと形のあるものにしたかったのだ。
「だって、誰も聞いてないんですもの!」
 騒ぎでミーアも歌うどころではなかった。アルコールが入ってまともに歌えない。よく考えなかったミーアに敗因があったはずなのに、落ち着いてからミーアは謝罪されてしまった。
 俺がちゃんとしてればよかったのに、すまない。と。
 お母様のことでつらい筈なのに、期日に間に合いそうもない工房に助っ人で入ったり、基本的にお人よしで苦労症。その代表例がまずもって自分である。
 ピンクの髪。類稀な王女の歌声に似た声。
 王女の替え玉に仕立てられそうになった時も、彼だけはミーアを呼んでくれた。城下に匿っているだけでも危険が及ぶかも知れないのに、彼は爵位を継いだ今も変わらない。
 だから、今回はお菓子にするのだ。
 これなら酔っていても、人数分切り分ければ皆に平等に行き渡るだろう。
 そう思い立ったのが今朝。慌てて材料を確認すれば、小麦粉が足りないと来た。だけど、それはもう角のお店で買えば問題ないわと、歌いだす。
 魔法をかけるのよ。
 また、彼が顔を見せに来てくれるって。
 小さな願い、ささやかな願い。それは、本当は誰もが心に奥底に静めている闇。何が起こるか分からない世の中だから、本当は不安なの、前の伯爵はずっと王都にいらしたから、いつか、居なくなってしまうのじゃないかって。
 だって、私達みんな彼が大好きなんですもの。
 この時がずっと続けばいいのに。
 それが叶わない事を知っているから、彼女は歌って、ひと時の魔法をかける。 
 ハロウィーン。ハロウィーン。
 みんな早くおうちに帰るのよ。
 パンプキンソングが聞こえてくるよ。
 歌いながら、角のお店に飛び込むと出てくる人物とぶつかった。


6.ハイネ・ヴェステンフルス


 砂糖菓子を袋に詰めてもらってドアを開けると、勢いよく飛び込んでくる女性とぶつかった。
 ピンクの髪。
「ミーア!?」
 なにやらとても急いでそうだったから、とりあえず身体を受け止めて、ちゃんと立たせてやる。歌声が聞こえていたと思ったら、彼女だったわけだ。
「やだ、ハイネじゃないっ!?」
「これはこれは、お嬢さん。ケーキ作りか何か?」
「残念。惜しいけど違うわっ」
鈴を転がすような声で彼女は答えて見せの奥に駆け込むから、ハイネはその足で店を出た。ケーキじゃないとしたらなんだろうか。
 女性はいろいろ武器があっていいね。と、彼はかぼちゃで飾り付けられた街を見渡す。ハロウィーンのお祭りが過ぎればあっという間に冬がやってくる。空の高い快晴の空がどこか物悲しく感じる。
 街はこれだけ浮かれているが、本当は誰もが冬の足音を聞いている。
 加えて、街の丘に城を構える伯爵の奥方の病状。
 代替わりを引き起こすほどの大病で、この冬を越せそうにないと言う噂だった。もとは一ヶ月と持たないと言われていたのだから、幸運な方なのだ。
 もしかしたらこうして皆が集まるのも最後になるかもしれない。
 いや、それは殆ど確信に近かった。
 アカデミーの生意気な後輩達。
 アスランが拾った少女。
 生まれも境遇も違う少年少女たちが凝りもせずこんな北の辺境に集うのは、決まっている。彼のことが心配なのだ。
 眉目秀麗、文武両道、彼を称える言葉は数多くあるけれど、彼は優柔不断だ。
 何をやってもそつなくこなすだろう。好きな工作に掛かれば寝食を忘れて打ち込むだろう。それでも、工作一筋に打ち込むことができない。
 彼はディセンベル伯で、3人の選定侯の1人。自ら動かなくてもいずれ、王宮の動きに巻き込まれるに違いない。
 今、時代は大きく動いているのだ。
 事実、この国も辺境に軍を駐留させている。
 何かを選ぶために、捨てるものがいつか出てくる。
 その時、俺はあいつの傍にいるだろうか?
「それは誰もが同じ・・・か」
 ハイネはヴェステンフルス男爵家の次男で騎士だ。国王の命令一つでどこへでも行かなければならない。現国王クライン王は既に娘婿に任せきりで、他国の王子に顎で使われることに難色を示すわけではない。しかし、こんな時、それが彼ならどれほど良かっただろうかと思わずにはいられないのだ。
 昔、まことしやかに流れていた噂。生まれる前から決まっていた、ラクス王女の婚約者。
「俺もたいがい、未練たらたらだな」



ぐはっ。厳しいですね。本当に計画って必要だなと。更新にしても、内容にしてもです。・・・すいません、ミゲルとラスティ、どんなだったか、あまり記憶になくて人物が果てしなく違うような気がします。それを言ったらハイネもミーアも違うような気が。