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明日を夢見るもの



 特別な賛辞はなくても、出迎えてくれたレジスタンスのメンバーが自分を待っていた事が嬉しかった。しかし、分け前を受け取って「ハイ終り」ではなく、強奪した物品を売りさばくという二次作業が待っていた。
 持ち運び用の箱に詰め替えて、各自がいつもの店へを持っていく手はずになっているのか、シンにも箱が一つ。ルナマリアについて、日用雑貨を売りに行くことになった。


 東ブロックには様々な人種が居る。
 コーディネータという新種を抜きにしても、様々な人種がいた。
 戦争で国という形が崩壊し、移民で街が溢れ返っていた、と言うのはもう昔の話。3年も4年もすれば大抵は故国へ還る。だから、ここに居る彼らはシンと同じ還る場所を無くした人たち。所謂、難民。
 彼らにとってコーディネータは敵の敵なのか、それともやはり憎悪の対象か。感情の読み取れない表情ばかりでシンは緊張する。昼間に姿を偽らずに街中を歩くことに抵抗がない訳じゃない。
「シンが気にするほどじゃないわよ?」
 同行するルナマリアが、近道をくねくねと進む。裏通り、抜け道、誰も居ない部屋等など。
 狭い路地で建物と建物の間に渡されたロープにつるされた洗濯物を見上げる。屋根がないとか、ビルの途中から崩れて半分もフロアーを使えていないなど、復興が進む地区と比べると明らかに整備が遅れている。
 老人。戦災孤児。
 彼らもこの地区では何かしら担っている。軒下で家財道具を手直しするとか、腰を曲げて麻袋を運ぶとか。
「活気あるんだな」
 夜間に仕事で通り抜けたり、とんぼ返りで街の最下層に行って帰ってくることはあっても、じっくりと街の様子を見ることなどほとんどなかったと言っていい。手押し車を使っている人を見てシンは記憶を漁る。
 街の中心であれば自動車で事足りることをシンとルナマリアが荷物を背負って、歩いて店に向かっている。
「でもまだ、ここは戦後だ」
「まあね。街の中央のように物が溢れているってわけにはいかないけど、学校だってあるのよ」
 復興と共に教育が主要都市から再開され、主だった国では、完全とはいかなくとも、教育制度の拡充が始まっている。そんなニュースを店頭のモニタで見たのはいつだったか。
「無認可だけどね」


 目的の店についた二人は、背負っていた小型の箱を下ろす。カウンターから店の主を呼ぶルナマリア。
「助かったわ」
 店主が品定めをした後、受け取った金額は驚くほど少ないものだった。正直、こんなもので自分への報酬が出るのか不安になる。
「私一人じゃ、運びきれなかったわね」
 受け取った報酬の半分をポッケにしまいこむ彼女。
「いいのか?」
「大丈夫、大丈夫。どうせただ働きなんだからこれ位貰ったって罰当たらないわ」
 耳を疑うシン。
 今、タダバタラキと言わなかったか。
 不安も何も、もともと払う気がなかったのだ。
 がっくりと肩を落すシンを尻目にルナマリアが自分の買い物やレイに頼まれた物を買い込んで行く。ほとんどが生活必需品で、年頃の少女が欲しそうなものは何一つない。
「そりゃ、私だって欲しいものは一杯あるけど、ここではどうせ手に入らないし、高いし。だけど」
 煤けた看板の下で立ち止まる彼女が、いきなり小金を渡してくる。
「これは私からの気持ち? この店おいしいのよ」
 突然の奢り発言に疑う。
 実は自分が飲みたいんじゃないか、とか、何か裏があるんじゃないのか、とか。
 とは言え、喫茶店に入る入らないごときで、右往左往するのも大げさかと思い、シンは店内に入った。


 この街で1年暮らしたシンが聞き取れない言葉だった。
「ジョ?」
「ジョーでいいだろ? つーかここはジョーしかねえし、いいなっ!ガキ」
「あーもうそれでいいよ。ジョー一つ!」
 まさかコーヒーが出てくるとは思わなかったシンは、自分がコーディネーターだということをすっかり忘れていた。コーヒーを飲むフリをして慌てて周囲を伺うのだが、隣で偲び笑いが聞こえる。
「ね? 平気でしょ」
 コーヒーの苦さは平気ではなくて避けるように舌をカップの端に滑らせる。
 シンが危惧したようなことはなく、テイクアウトコーナーを睨みつけているような客はいない。暢気なもので、店が面した裏通りを行き交う人は多く、身なりも粗末ではあるものの、街の中央の都市とさして変わらない。
「まあ確かに、コーディネーターは色々普通の人とは違うけど・・・だからと言って、私達ばかり我慢するのって不公平じゃない?」
 最後まで飲めずに、カップを手に持ったまま復路を歩き出す。ひどい音を立てるカブやトラックが通り過ぎて埃が巻き上がる。
「さあね」

やっぱりコーヒーネタ出ました。眠さに負けてしまったぜよ、よよよ。