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Men of Destiny 52

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運命の男達




 議長が微笑みながら言う。
 この人は、いつもこんな風に笑っていたか?
 死んでくれと笑いながら、歩み寄る。
 俺がシードって奴を持っているから、それは危険な力だから、必要ないって。
「SEEDを持って生まれた時から、こうなる運命だったのだ、シン」
 アスランさんはこの事を知っていて、議長を倒そうとした。
 俺やフリーダムの、過去、親友と呼び合ったあいつを助けるために、誰もシードの秘密に触れることのないように、倒すために、また破壊するために力を振るった。
 殺すだけが全てじゃないと言ったあの人でさえ、議長の言うとおり、話し合いよりも戦うことを選んだ。
 全てはシードのせい。
 シードは敵を倒し、壊すための力。
 これからもずっと、俺は戦い続けるのか?


 馬鹿だな、俺。
 さっきみんなに言われたばかりなのに。
 アスランやフリーダムに乗っている奴は、きっと一人だったんだ。
 でも、これからはそうじゃない。


「生まれた時から運命が決まっているなんてこと、そんなもの、言い訳だっ!」
 人は生まれる時と場所を選べない。
 だけど、逆に、決まっている事なんてそれだけなんだ。
「俺が歩いてきた道・・・決めてきた事全部―――それが、運命だっ!!」

 悔やんだって何も変わらない。
 父さん、母さん、マユを守れなくて失ったこと。
 俺を庇ってハイネが死んで、アスランさんがいなくなったこと。

 否定したって何も変わらない。
 戦場で誰かの大切な人を大勢殺してきたこと。
 それがSEEDの力を使っていたということ。

 ずっと隣に居て、同じように人生を歩んでいるもう一人の俺。
 大切な何かを決めなきゃいけない時、形となって俺の前に現れるんだ。
 望む未来として目の前に広がるのならその道を歩めばいい。
 それは努力した証だから。
 望まぬ未来と言って拒むのなら、抗い、立ち向かえばいい。
 それを人は後悔と言うのだから。
 一歩を踏み出す度に、そこからまた新しい運命が始まるんだ。


 議長が階段の一番端まで歩いてきていて、厳しい目つきで言う。
「だが、SEEDが危険であることになんら変わりはない」
「どうしてそうやって決め付けるんだ!」
 今までがずっとそうだったからと言って、どうしてこれからもそうだと言える。
 コーディネーターとナチュラルが分かり合えないって事。
 シードを持つ者が人類に仇なす者だって事。
「力を前にすると、人は臆病になるのだよ」
「確かに不安さ、また同じ事の繰り返しだったらどうしようって、誰だって思うさ」
 だけど、そんなことを言っていたら何も変わらないんだ。
 そんな未来を誰も望んでいないのに。
 何より、俺はここで死にたくない。
「議長はシードを持つ者に滅ぼされたいのかよっ! 」


 一息で言い切って、荒く息をつぐ。
 段上の議長を睨みつけても、シンの位置からでは表情の動きはよく分からなかった。
 そこにけたたましく鳴るエマージェンシーのアラート。
 透過パネルに映る外の戦闘にかぶさって、危険、危険とレッドアラートが点滅する。
「議長、貴方の負けですよ」
「ア、アスランさんっ!?」
 ゆっくり身体を起こすアスランに、慌てて伸ばした腕を拒まれる。
「貴方も俺も、見えもしない恐怖に負けたんです」
 透過パネルで刻む赤いカウントダウンを議長がチラリと見る。
「時間切れか」
 急激に薄れた殺気が声から読み取れる。
「二人ともちゃんと仲直りして、早く逃げますよっ!」
 それは、もしかしたら諦めだったのかも知れないけれど、今、ここで生き延びることを諦めるわけにはいかなかった。中央指令所からデスティニーを乗り捨ててきたドックまで急いで戻って、どうだろう、ギリギリ間に合うかだ。もう一刻の猶予もない。
 シンがアスランの手を今度こそ取ろうとして、逆にその手に捕まれていた。
「大丈夫。直撃はしない」
 アスランに掴まれた腕から、ひんやりとした波が広がる。
 落ち着け、シン。
 そう、聞こえるような気がしたけれど、微笑むアスランを見て違うと悟る。
 シンは今ではすっかり頭の中に誰も声も聞こえないことに気が付いた。
「進路にずれが生じているな。アスラン、君か?」
「議長のせいですよ。俺の意識を止めるから、ちょっと手元が狂いました。今も意識が纏まらないじゃないですか」
 対象物から離れていると、コントロールが難しいんです。
 と、アスランが無駄に爽やかに言う。
 議長とアスランの会話がシンにはのどかな談笑に見えても、カウントダウンは今だ続行中で。
「だー、そんなことはどうでもいいです! 今は脱出が先ですからっ」
 今度は掴むのではなく、手を差し出した。
「立てますか?」
 今だ膝をつくアスランに。
 視線の先で一瞬目を瞠り、すぐに緩められた口元。
「お前、俺を誰だと思っている?」
 アスランが立ち上がって、中央指令所の死んだコンソールを弄る。
 それは電源も落ちて、仕えないはず・・・。


『シン! まだ、メサイアの中にいるのなら返事して、ステラがっ!?』
 飛び込んできたのはルナマリアの声。
「えっ、ステラっ!?」
 ステラがまさか、メサイアの中に?
『今、ルナマリアとで追っているが、迷子になられたらアウトだ。彼女の位置を分かるようにしておく』
 レイの声に安堵しても、不安で意識がステラへと向かってしまう。
 いくら、直撃はしないと言っても衝突自体は避けられないのだ。
 無事で済むわけがない。
「シン。お前はステラの所に行くんだ」
 早く駆けつけたい。でも、二人をこのままにして置けない。
「何言ってんだよ、一緒にっ」
 肩に乗せられる手はパイロットスーツ越しで少しも暖かくはなかった。
「ステラを追って、ルナマリアとレイが別ルートでメサイア内を移動中だ。俺はルナマリアのところに行くべきだろう」
「では、私がレイを拾っていこう」
「えっ?」
 議長がただ一人のパイロットの為に?
 シンは、議長を振り返る。階段を下りてきていた彼はシン達のすぐ後ろにいた。
「私を慕ってくれた部下だ」
 シンの前で議長はキリッと向き合う。
「では、シン。君はミネルバ所属のステラ・ルーシェを救出後、速やかにこの宙域から離脱したまえ!」
「はいっ」
 敬礼の後、アスランを見れば、強く頷いていた。
 シンは天井に向かって腕を伸ばす。
 と、飛び込んでくるライトセーバー。
「アスランさん、議長も、早くっ!」
「ああ」
 二人が動くの見届けて、シンは中央指令所を飛び出した。
 もぬけの殻になったメサイア内は物資が散乱し、あちこちの隔壁が降りて、さながら迷路のようになっていた。シンはレイから届けられたステラから発進されるパルスを頼りにメサイア内を突き進んだ。


 閉じかけて止まった隔壁をライトセーバーで切断して、手元の小さなパネルでシグナルを確認する。パイロットスーツについていたレーダー端末ではメサイア内のマップを表示することができない。
 こっちか!?
 方角を頼りに、無重力の中を泳ぐ。
 一直線にいけたらすぐなのに、いろいろなものが邪魔をする。
 メサイア内に流れる、警告メッセージが絶え間なくカウントダウンを刻む。
 同じような壁をいくつもくぐるうちに、横合いから流れてきたコンテナにぶつかりそうになる。慌てて切りかかったが、相手はコンテナではなく警備ロボだった。
「うわっ」
 不意を疲れて、シンの手からライトセーバーが飛ぶ。
 バンバン撃ってくる射線を交わして、レーダーパネルを腰に戻す。
 手でロボットを倒すことはできないから、ライトセーバーを探す。
「時間がないってのにっ!」
 赤色ライトの中、シンの更に赤いライトセーバーがついに警備ロボを黙らせる。
「あっ、レーダーがっ」
 破片が飛んだのか、レーダーが壊れてしまっている。
 示していた位置がどこらへんだったのか、全く覚えていないシン。
 気ばかり焦って、踊り出た十字路で道に迷う。
 くそっ、どっちに行けばいい!?

 こっちだ。

 ブオンと赤いライトセーバーが持ち上がる正面の通路。
「えっ!?」
 それどころか、シンを無視して勝手に動き、まるで引きずられるように通路を進む。 
 閉じた隔壁を薙ぎ払い、動かないエレベータのシャフトを下り、ぼんやり光を放つライトセーバーを握り締める。
 虎じまで覆われた隔壁を突き破った時、通路の先にパイロットスーツ姿が見えた。
「ステラっ!」
 ヘルメットのなかで金の髪が揺れているだろう。外部マイク越しにステラの声がする。
「シン!!」
 シンは思いっきり天井を蹴って、彼女を抱きとめる。
 くるくると舞う二人の周りで、朱色のライトセーバーが光の刃を消す。
 この剣は。
 海上の牢獄・プラントの最深部で見た光。
 かつてあの人が手にしていたもの。
 ありがとう、ございます。
 一度、額の前で両手で握り締めて、腰に括りつけた。
「ステラっ、急ごう。時間がない!」


「いいのかね?」
「何がです」
 閉まる中央指令所の入り口ゲートの直前でひらりと身体を翻す二人。壁に手をついて、再びコンソールの前に降り立つアスラン。
 やや遅れて、議長がその横に立つ。
「ルナマリアやレイが別ルートを進んでいるなどと嘘を言って」
「ああでもしないと、シンは行かないでしょう」
 死んだと思われるモニタに再び電源が入り、衝突寸前のダイダロス要塞とメサイアの予定コースが描写される。
「直撃はしない。だが、これは・・・」
 驚きを隠せない議長をアスランが振り向いた。
「議長、貴方はまだこの世界に必要です」
「それは彼に対する裏切りになるのではないのかね?」
「あの場で芝居に乗った貴方も共犯でしょう。ここの脱出ポットを使ってください」
 壁面の足元がガコンと相手、滑り込むようなスペースができた。
 大人一人がやっと潜り込めるような穴。
「一人乗りだ。そしてこれが最後の一つだが・・・」
「議長。俺はSEEDを持つ者です。何でも有りですから」
「しかし、君は―――アスラン!?」
 誰も手を触れていないのに、デュランダル議長の身体が脱出ポットに投げ込まれる。何かを叫んでいるように見えたが、プシュと短いエア音をさせて閉まった脱出ポッドはすぐに宇宙に射出されてしまった。
「さて、これからが大変だ」
 アスランが透過モニタに囲まれた上部に繋がる階段に腰を降ろす。背中を壁に預けて拳を握り、ため息をついて天井を見上げた。
「あれ・・・まだ使えるかな」

 そんなのいらないって。アスラン・・・―――僕が手伝うよ。



 ステラをつれて、ドックに戻ってきたシンに映ったのは2機のインパルスとレジェンドで、すぐに通路から姿を現した水色のパイロットスーツを抱えたルナとレイに息を飲んだ。
「そ、そんな・・・」
 じゃあ、アスランは? 議長は?
「・・・シン?」
 不安そうに伺うステラになんと説明したものか言葉がない。
 自分はあの二人に乗せられたのだ。
「立ち止まっている時間はないぞっ!」
 ああ、レイ。議長はお前を助けると言って俺を行かせたんだよ。
 ルナ。アスランさん、さ。
 ありがとう、そいつを助けてくれて。あの人の部下が誰も居なくなってしまうところだった。ステラの兄弟かも知れない彼はレイに渡されて、レジェンドのコックピッドに消える。
 非情にも火を噴く要塞は目前に迫っていて、ステラを抱えたままデスティニ乗り込んだ。スロットルを噴かす前にもう一度、ドックの奥を見る。
 青白くぼんやり浮かび上がる姿。
 あの人が軽く手を上げている。
 シンのヘルメットの中でしょっぱい水の粒が浮かんで、メサイアから飛び出した。
 涙で滲んだ視界の中でダイダロスがメサイアに衝突する。遠く離れた機体すら震わせて、衝突の瞬間、宇宙を震撼させる。目を焼く閃光が広がって、とんでもない数の破片をばら撒いて、要塞がいくつもに分裂していく。
「シン、何?」
「なんで・・・アスランさん・・・」
 これで戦争は終わる。
 コーディネーターは宇宙で暮らしていけるようになる。
 それなのに、こんなに悲しい。
『シン! 大変よっ』
「なんだよ、ルナ」
 おれ、今、めちゃくちゃなんだけど。
 幾度となく経験した喪失はそうそう慣れるものじゃない。
『メサイアが、この衝撃で地球に落下するわっ!!』
 アスランさん。
 分かっていたんだ。だから、メサイアに残って何とかする気なんだ。
『ちょっと、冗談じゃないわよ』
「シン、あれ、地球に落ちるの?」
 レイやルナの通信を聞いたステラが不安そうに聞いてくる。
「大丈夫、そんなことにはならないから」
 だって、アスランさんがなんとかしてくれる。
『うそっ!?』
 ほら。
『フリーダムもいる』
 微妙に軌道をずらしていくメサイアにフリーダムが張り付いている。きっと二人であの巨大物体の移動ベクトルを無理やり捻じ曲げているんだ。
 酷いな、俺は呼んでくれないんだ。
「アスラン、あそこにいるの?」
「分かるの? ステラ・・・」
 狭いコックピッドの中から地球をバックにしたメサイアを見つめているステラ。シンよりもずっと直感に素直な彼女には、シードに関係なくいつも本当の気持ちを言い当てていた。
「うん。だって、聞こえる。また、会えるから、泣くなよ・・・って」
 ヘルメット越しに涙をぬぐおうとして、バイザーに邪魔された。
 シンは苦笑してバイザーを上げる。飛び散る小さな光の珠。
 あんた達、本当に自分勝手ですね。
 シンはステラを片手で抱きしめる。
 メサイアが崩壊しながら、地球から逸れて行くのをただ見下ろしていた。


 地球に隠れていた太陽が、ダイアモンドリングを煌かせて顔を出す。
 戦場に差し込む光の矢は確かに、戦争の終結を示していた。


 さよなら、アスランさん。
 さよなら、戦場。
 さよなら、子供だった俺。


 いつかまた、会えることを願って。
 シンはミネルバへとデスティニーの機首を向けた。






 おわり



最後まで、触ったこともないFLASHで映画のようにエンディングを作ろうと四苦八苦してましたが諦めました。そこまで気力がない。いろいろ、その後も考えてましたが、あえて固定しないでおこうかな。


今までに触れてきたいろんな作品がそこかしこに顔を出しました、気付いた人もそうでない人も、楽しんできただけたのなら幸いです。ここまでお付き合い頂きましてお疲れ様でした。そして、ありがとうございます。


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