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誰のための未来



 シンは今日のジープの運転手をまじまじと見た。自分より若い少女。どことなく誰かに似ていると思ったら、それはルナマリアの妹だった。
「何、人の妹じろじろ見てんのよ」
 ルナマリアに説明を求めれば、ヨウランたちの変わりにメイリンが作戦に参加することになったらしい。どうやら本当に人手不足のようである。
 ルナマリアとメイリンは一つ違いの姉妹で実際そう言われればよく似ていた。勿論、瓜二つと言うわけにはいかない。顔立ちも若干お姉さん気質が混じったルナマリアのほうが大人っぽかったし、茜色の髪も髪質も長さも違う。
「ルナは髪伸ばさないのか?」
 こうして、作戦に参加するようになって1ヶ月以上。シンはルナマリアをルナと呼び捨てするようになっていた。
「こんなに物資が不足しているのに、髪なんて伸ばせないわよ」
「水だってそんなにないし」
「そりゃ、お湯はヴィーノやヨウランのおかげで何とかなっているけど、洗面器一杯のお湯で、お風呂を済ませるテクニックも身についたわ」
 立て続けにルナは蒔くし立てたが、なるほどそういう使い道があるのだと、シンは初めてヨウランとヴィーノの二人を見直した。そう言えば彼の家にも沢山の家電製品があったことを思い出す。
「でも、メイリンはどうしているんだ?」
「全部、シャンプー代につぎ込んでいるわよ。私の分までね」
必死にジープの運転をするメイリンは肩まで伸びた髪をツインテールにしている。ルナマリアに比べればそれはずっと長く、柔らかだった。


 ターゲットの輸送車は1台。列車のコンテナをそのままトレーラーに繋いだだけ。その前後にはバンとジープが1台ずつ。
「情報どおりね」
 廃墟から覗いていたルナマリアが手を振って襲撃の合図をした。この先迂回することもできなくなる場所で両脇を取ったシン達がまずバンとジープを片付ける。通常では考えられない運転と、射撃であっという間にトレーラーは裸にされてしまった。間髪おかずにロケットランチャーでトレーラーが横転する。
 横倒しになったコンテナから銃が発砲されるが、シンとルナマリアはそれを避けて、ドアをライトセイバーでこじ開けた。
「早く運び出して!」
 詰めるだけ積んで、撤収の時間を計るルナマリアにシンは近寄って耳打ちする。
「簡単すぎると思わないか?」
「舐めれられているんでしょ。でも、貰うものは頂いたから」
 甘く見られている。そんな感じではない、コンテナの中身は確かに情報どおり小麦と印字された麻袋だった。それでも頭の奥で何かが引っかかる。
 ルナマリアが撤収を告げた時、サイレンが響いた。まるで機を伺っていたように、わらわらと出てくる官警の武装部隊。
「今頃何よ」
「文句言ってる場合かよっ!」
 装甲車の出現に、慌ててジープを発進させる。
「メイリン、変わって!」
 運転をルナマリアに変わり、レーダーをメイリンが受け持って退路を検索しながら追撃をかわす。打ち込まれる銃弾に荷台に積んだ小麦の袋が犠牲になる。
「貴重な食糧が・・・」
 その度にシンはマシンガンを持って後部座席から追いすがる官警の車両を稼動不能にしていく。


「あと何台だ!」
 座席越しに叫ぶ。ルナマリアの運転は荒く、どこかに捕まっていなければ軽く外に飛ばされてしまう。
「今ので最後よシン! お姉ちゃん!」
「じゃ、通常の迂回ルートを取って東ブロックに向かうわよ」
 シンは念のためマガジンを交換して周囲に目を光らす。これだけ派手にやらかしたのだ、増援が来ないとも限らない。その証拠に胸騒ぎが止まらない。静かな夜なのに、何かを伝えようと空気が振動している。
 何か。何かが・・・来る。
 いや、来ている。耳に届く騒音にシンは上空を見上げた。夜空を覆う黒い形が月明かりを受けて浮かび上がっている。息を呑んだ瞬間、急ブレーキで強か体を打った。
「ルナっ!」
 ジープの前方、ライトの中に浮かび上がる人影。


「その物資、奪ってどうするの?」


 若い男の声。
 上空に白く輪郭を浮かび上がらせる航空母艦。戦争末期、浮沈艦と名を轟かせたあの戦艦の名をなんと言ったか。シンは記憶を探る。テレビモニタで新聞で散々目にしていたのに咄嗟に浮かばない。
 ああ、確か、アークエンジェル。
 今は、監視官達の母艦。
 という事は、目の前にいるのは?
 白と青の制服をあれだけモニタで目にしていたというのに、今の今まで気が付かないなんて。こめかみを流れる冷や汗が絶体絶命を告げていた。
「貴方達はコーディネーターですね? 投降してください」
 言葉遣いは丁寧だか、抵抗すれば容赦しないと暗に表している声だ。
 周囲に気をめぐらせば、包囲されている。
「もう一度言います。投降してください」


「プラントで強制労働させられるって分かっていて、できるわけないでしょ!」
 ルナの言葉に一呼吸遅れて、撃鉄を上げる音。空気に怒りが混じり、トリガーを引く音が耳を捕らえ、シンは飛び上がる。眼下では蜂の巣にされたジープからルナがメイリンを抱えて地面を転がっていた。
 残りのメンバーは駄目だったかも知れない。
 シンは照準が向く前にバラックの上に逃れるとすぐさま走った。現場で指示する若い男の声を背中に受けながら、闇の中へと走る。
 トタンや布で覆われただけのバラックの天井は走るにはおよそ向かない場所だった。トタンは走れば盛大に音がたち、布は一気にスピードが落ちる上、気を抜くと足を踏み抜く危険があった。
 くそっ、まさか監視官とこんなとこでチェイスすることになるなんて。
 レジスタンスの連中とつるむのも、潮時だったってことか?
 それだって、ここで逃げ切れなきゃ意味ないだろ。
 感じる無言のプレッシャーに、思考がまとまらない。
 バラックの上を飛び、ビルの谷間を駆け抜ける。街の端っこからスタートした追いかけっこが、灯火管制のひかれた暗闇の街に唯一許された光を横切る。


『私達は争う必要などなかったはず』
 壊れたように繰り返される非戦のメッセージ。


 大戦末期、戦争終結をもたらした歌姫が、モニタに映っている。一日中流されている電波を受信したモニタが休むことなく流しつづけるそれには、長い長いピンク色の髪が棚引いている。
 いい加減にしろよ!
 崩れそうなビルにワイヤーを使って飛び移る。シンはビルの屋上で膝を突いて、汗をぬぐった。うしろを確認して息を整える。
「撒いたか?」
「素早いね」
 給水塔の後ろから姿を見せる監視官に一気に神経が緊張する。
 なぜ。どこから!
 こいつも、コーディネーター!?
 当り前だ。素手で一般人がコーディネーターに叶うはずがない。
 シンは腰に指した、ライトセイバーを手に取った。ブォンと出現した赤色の刃が二人を浮かび上がらせる。相手が抜いたライトセイバーの色にシンは体が震えた。
「僕に、君を撃たせないで」
 その言葉は頭を素通りして、ただ全てを奪った青白い光が視界を覆う。
 一気に距離を詰められたことに気が付いても、構えることすらできなかった。ただ、戦後を生き抜いて体に染み付いた動きがその一撃を避け、後方に飛ぶ。柄の部分で右手を打たれたのだと気づいた時には、手を離れたライトセイバーの刃が消えていた。着地した途端に、足場が崩れて支えを失った。
 放り出された空中で、倒壊した屋上の端に立って自分を見下ろす監視官が少し驚いているのが目に入る。
 無様に落下する様を笑われた気がして、シンは睨みつける。その視線の先で、一瞥して翻す背中に、ダブる後姿。
 シンは深紅の瞳を極限まで見開いていた。

なんつーか。怒りモードで徹底的にやりたいって気分です。草取りするぞーとか言っている声が聞こえるが、来週分のシャツのアイロンがけをする。白状します、ピンクの歌姫の演説、実はちゃんと覚えていません。