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勝利者などいない



 監視官は屋上に留まって、今回の一網打尽作戦の報告を聞いていた。
「あと1時間でレジスタンス組織アジトへの突入準備が整います、現場へ行かれますか? ヤマト殿」
「遠慮するよ。それより、あのキーホルダー知らないかな」
 殿上人の監視官と会話がかみ合わないのはいつものとおりと、報告をした下士官は、首をかしげた。アークエンジェルに乗る監視官はその中でも特別、話が合わないと聞こえた、スーパーコーディネーター。しかし、次の一声は、また一層脈絡のない、とんでもない命令だった。
「厳戒令敷くよ」


 過去の情景に気を取られていた一瞬に、相当落下していた。
 あまりの迂闊さに、地表を感じてワイヤーを飛ばす。振り子のように隣のビルの窓ガラスに突っ込んだ。ガラスが突き刺さる衝撃と床を転がる衝撃がない交ぜになって、思わず呻き声が出る。
 こんな所でプラント送りなんて冗談じゃない!
 コーディネーター専用の監獄。そこで待ち受けるのは普通の人間ではできない危険な仕事や重労働、人体実験。武装警官が押し寄せる中、シンは必死に脱出の方法を考えていた。勿論、相手にコーディネーターがいるのを前提だ。
 夜目が利く。動きも動体視力も同じだとして。
 多勢に無勢だ、ちくしょう!
 地の利を生かせるとしても数で迫られればひとたまりもない。階段を上がり、隣のビルに飛び移り、そのビルも包囲されていることに気がつく。すぐ下の階にまで武装警官が来ている。
 辺り一体はすでに封鎖済みかよ!
 思わず息を呑む瞬間。
「こっちだ」
 手を引かれて、振りほどこうとして、できなかった。
「あんたっ、ア!」
 すぐに口に指で口止めされた。
 シーッ・・・
 エレベータシャフトを下る二人は、地下何階かも分からない場所から昔の廃水路
を辿って地上に出た。


 終始無言だったシンが口を開けたのは、ドアを閉めてから。
 既に日は昇り、上空を引っ切り無しにヘリが飛び、サイレンがどこかでなっているいつもより騒がしい朝。
 場所はかつてヤキソバをご馳走になった一部屋。
 シンを助けたのはアレックスだった。
「どういうことだよ!」
「どうって、君を助けただけだ」
「どうして助けたのかって聞いているんだ」
 玄関先で怒鳴りあう、と言っても一方的にシンが怒鳴っているだけである。
「ここじゃなんだし、まず上がって、それからシャワーを浴びよう。ひどい臭いだ」
 うわっ、すげー臭い。ってそうじゃねーだろ、俺!
「二人同時は無理だからな、お前先に使っていいぞ、シン」
「あっ、ハイ」
 だから、ハイってなんだよ、ハイって。
 今はそんなことしている場合じゃない。ルナ達がどうなったか、この騒がしさはなんなのか、どうして俺は助かったのか、シンは今考えるべきことを列挙してみた。
「じゃない!」
 振り向いたアレックスが呆れた視線で振り向いた。彼の手が挙がる先にテレビがあって、電源が入る。コーディネーターの耳にはその微かな高周波さえ捕らえることができてしまう。
 だから、シンには、テレビのアナウンサーが言っていることが分からないはずがなかった。


『これは、本日未明に実施された東地区レジスタンス一斉逮捕の現場です』
『ここ一ヶ月頻発していた襲撃事件のほとんどに絡むと見られており、これからの事態究明が急がれます』


 勝手に体が動いていて、モニタの前でその映像を見ていた。
 シンには見知った建物で、窓からは白い煙があがっている。突入する部隊。銃撃戦。映像は何度も切り替わり、最後に投降してきたレジスタンスが映る。
「ヨウラン! ヴィーノ!!」
「知り合いか。これで分かっただろ。今はシャワーを浴びて、まず休め」
 お湯のはずのシャワーがちっとも温かく感じられなかった。
 彼らのことを考えて、壁を叩く。
 地下をさ迷っているうちに、事態は大きく動いてしまっていた。


 濡れた髪をそのままに、部屋の住人の前に出れば、彼がタオルを投げて寄越す。突然だったから、洗いざらしのタオルがシンの顔面に激突する。
「ちゃんと拭け、それから、冷蔵庫にあるもの食べていいから。助けに行こうとか考えるなよ」
 アレックスがシャワールームに消えてすぐ、テレビでは街に厳戒令が敷かれたことを伝えていた。街に溢れるMPが映し出され、街の住人が取調べを受けている。
 映像が切り替わって、シンは髪を拭く手が止まった。住人の消えた東ブロックは終戦直後のように瓦礫の山と化していたのだった。
「そんな・・・」
 呟きと共に力なく手が下がる。
 喫茶店、学校、全てが瓦礫の下だった。鍋ややかんを修理するじいさんは、荷物運びをする少年達はどこへ行ったんだ。


『東ブロック再開発プロジェクトの開始に伴い、今後は一層の治安悪化が懸念されることから、当局は各ブロックの警備強化を打ち出すことを発表』


「ローラー作戦でもする気かな、監視官達は」
 Tシャツにジーパンのアレックスが、自分は半乾きの髪のまま現れた。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。シンはただ彼の動きを目で追い、耳は朝のニュースを聞いている。
「居場所。どうして分かったんだ?」
「そのキーホルダーには、居場所探知機能があるんだ」
「は?」
 ニュースと2重音声だから、シンの応答は短い。
「家出常習犯のペット用だから」
 そんなものを渡されていたという事実と繰り返される投降の瞬間。
 テレビでそのシーンを繰り返し眺めているシン。
「どうして」
「なんだか、放って置けなかったんだよ」

前回、ちょっと長かったので、今回ちょろっとです。