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D&D 若葉

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匿名ユーザー

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 Level 10



 渡し守に、森一つ越えた町まで送ってもらった一行。
「で、この地図なんなのさ」
 ステラと二人で覗き込んで、落ちてきた女に聞いた。
 本当なら徒歩でギルドマスターのところまで行く予定だったのだ。予定外の出費にシンは何が何でも、地図からお宝に繋がる何かを聞き出そうと思った。
「誰だよ、あいつ」
「あたしだって知らないわ。先生を殺した・・・」
 殺す、と言う単語にびくりとステラが震えた。
 驚くほど冷静に状況を見る少女も今はただの少女だったから、恐ろしい言葉にシンにしがみ付いた。
「先生が持っていた地図を狙って・・・あたしは先生が逃がしてくれたけど・・・あたしだって、何がなんだかさっぱり分からないのよっ!」
 ギュッと両手を握り込んで、肩を震わせる。
「杖って・・・ドラゴンの瞳って何よ、何が王女を助けろなのよっ・・・分かんないわ」
 突然の激白にシンもステラも、呆然と彼女を覗き込んだ。
 自分でも信じられないのか、彼女がばつ悪く居住まいを正す。
「ご、ごめんなさい。巻き込んだのはアタシなのに」
 杖。ドラゴンの瞳。地図はそれらを記したものなのか。
 よりによって、ドラゴンの瞳とは。いかにもやばそうな代物だが、それだけに何かが大きく変わりそうな気がした。

「あたりはルナマリア。見てのとおりメイジよ。まだ見習いだけど」
「あー、俺はシン、こいつはステラ」
 シンだって盗賊のまま一生を終える気などない。
 いつか一山当ててたいと夢見る少年なのだ。
 だから、盗賊とは名乗らない。
「まあ、とりあえず、この先の町までは一緒に行こう。今更だしな」
「うん!」
「なんでステラが返事すんだよ・・・」
「アンタら・・・さっさと地図返しなさいよ」
 シン達は渡し守が転送した先の出口で小休止するのを切り上げて、すぐ先にあるはずのギルドマスターがいる町まで歩く。


 町の中心から少し南よりの外れの軒先にぶら下がる看板。

 踊る子犬亭。

「これって・・・どこにでもあるの?」
「ああ、大陸全土にあるぜ」
 盗賊御用達のギルドの宿とは言えない。相手は由緒正しい魔導院の出身だ。この辺りで一番の大きな町であるメサイアの子犬亭にギルドマスターがいる。
「俺たちは持ち物を金に換えるけど、アンタどうする?」
 何をするにもまずは先立つものが必要だ。宿を取るにも旅をするにも、だから旅人は町に入るとまず身辺を整理して金を用意し、宿を探す。
「もしかして、あんた達、探すつもりなの?」
「探すも何も・・・これはもう俺達のもんなの」



 Level 11



「そうは行かないわっ」
「なんで?」

 ステラが首をかしげていた。相手が言葉に詰まって口をパクパクしている。
「ステラとシン、盗賊なの。これ・・・もうステラが盗ったから、これステラのなの」
「ちょっ」

 ルナマリアが手を伸ばして奪おうとするが、そうは問屋が卸さない。ステラが素早く隠し、シンが庇うようにして踊る子犬亭の中に入る。ついて来たならついて来た時だ、ここはギルドマスターがいる盗賊たちの居城だから、なんとでもなるだろう。

 シンはその後、その見通しが少し甘かったことを知る。


 この町の踊る子犬亭の殆どは地下にあって、地上部分に立っている2階建ての崩れそうな建物に普通の旅人はまず長居しない。
 シンとステラは地下に潜って、その地上部分からは想像もできない地下に広がった踊る子犬亭に行く。今回の戦利品を早速換金して、情報収集を開始した。
 曰く、ドラゴンの瞳。
 曰く、杖。

「お宝じゃないのかもなー」
 取っ掛かりも掴めずに、子犬亭のテーブルに突っ伏すシン。ステラはのほほんと木製のマグカップでハチミツを飲んでいる。

 ドラゴンの瞳がその名のとおりの物なら、それ一つで一生遊んで暮らせだろう。
 今やドラゴンと言っても、王国を守護すると言われるゴールドドラゴンが残るのみで、殆どが太古のドラゴン同士の戦いで滅んでしまっているからだ。そのゴールドドラゴンだって、その姿を見たという噂は聞かない。
「お・たっからッ! お・たっからッ!」
「何、浮かれてんだよ、ステラ・・・」
 杖だって、この世には掃いて捨てるほどある。
 国王が持っている君主の杖から、果ては見習いメイジが持つただの棒切れまで。貴族どもは皆持っているし、この国におけるステータスの証のようなものだ。
「素直に渡しときゃよかったかも」
 早計だったかと、シンはマグカップの中を覗き込む。
 ペガサスに乗った男が余りに平然と見下ろすから、妙な対抗心が芽生えてこんなことになってしまった。だが、冷静に考えれば相手は上級術者で、剣も携えている騎士。

 はああ・・・。
 ため息を付いて、最後の一口を口に運ぶ。
「おいしくない? シン?」
 不安になってシンの様子を伺うステラ。どこか、頭の中に別世界を築いている彼女だって、もっと楽な暮らしがしたいに決まっている。
「んえ、あ? やー、もうないな!って」
 飲み干してしまったマグを片手で持ち上げて、頼みの綱を思い浮かべる。
「でも俺、あのギルドマスター、苦手なんだよな・・・」
 この子犬亭にいる盗賊のギルドマスターは驚くほど博識だと言う噂だった。

 そんな時、カウンターの向こうから悲鳴が上がった。ステラと二人して振り返れば、ルナマリアと名乗ったメイジが、ギルドの連中に拘束されていた。
「何するのよ! ファイアウォール!!」
 こともあろうに、酒場内でスペルを使った。

 馬鹿じゃないのか?
 相手を追い払うはずだった炎の壁は、背の丈に達する前に掻き消えて、ルナマリアが連行されていく。

 勝手について来ただけだ。
 こんな地下の酒場で炎の魔法を使うなんて間抜け過ぎる。
 ギルドマスターの店でそんなことをして無事で済むはずがない。

 放っておけばいいのに、シンは彼女のことが気になって仕方がない。

「あー、クソッ」

 ところがシンが席を立つより早く、ステラが立ち上がっていた。
「面白そう・・・シン。見に行こ」
 現在売り出し中の少年少女の盗賊ペアが、ルナマリアが消えた奥の扉に忍び込んだ。



もっと簡潔に!簡潔に! ちょっとサブタイを変更してみました。進まなんだよ。

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