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D&D 思惑

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匿名ユーザー

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 Level 12


 あっ、こら。あんまし前に出るなよ。
 でも、聞こえない・・・。

 ルナマリアが連れて行かれたと思しき部屋の天井裏でシンとステラが聞き耳を立てる。空気を通すためにある排気口から灯りが漏れ、ついでに話し声も聞こえるのだが、如何せん音が小さい。
 部屋にいるのは、ルナマリアと事情を連行した男。今の所はその男がなにやら聞いているようだ。
「だから、アタシは持ってないって言ってるでしょ!」
「とぼけるのもいい加減にしろ。貴様が言うような奴などおらん」
「もっとよく探しなさいよっ!」

 何かを探して・・・、人を探して・・・いる?
 シンはさあっと背中から汗が流れ落ちるのを感じる。探している人ナンバー1は自分達じゃないだろうか。

 ドアが開いて、また誰かが入ってきた。

「やはりいない。最初からいないのか、逃げたのか」

 金髪の男だ。こちらも若い。物腰や、格好からしてエルフだろう。尖った耳が見える。
「それとも・・・フフ、ねずみが入り込んでいるのか」
 まずい。
 シンは意識が向けられたと気付いてその場を離れようとするが、狭い天井裏では咄嗟の動きはどうしても制限される。土壁で頭を打ち、気の柱につかえているとすぐ真下に気配を感じた。
「ホールド!」
 あの若いエルフの声だ。盗賊にとっては、致命的な捕縛スペル。
「ステラっ!?」
身動き取れなくなったステラが否応無しに落下し、シンは身を躍らせていた。



 Level 13



「ドラゴンの瞳・・・か。何を指すのだろうな」

 存外に知らぬと言われて、シンは肩の力が抜けた。
 それは、ルナマリアも同じだったのだろう。がくりと頭を垂れる。

 くせのある黒い髪が背中のあたりで揺れる。シンの目の前で背の高い男が本棚からおもむろに古びた本を取り出した。デスクを挟んで金髪のエルフが立って、時折、確認するようにこちらを見る。

 ステラを助けようと踊り出て、罠に嵌るがごとくシンはあっけなく捕まっていた。
 連れられた場所は、こともあろうにギルドマスターの書斎らしき部屋。壁を埋め尽くす本棚と六文儀。デスクには本が数冊載って、ランプにビロード地の椅子が照らされている。
 そこに、シンとステラ、ルナマリアが連行された。
 部屋の中にいた人物がギルドマスターのギルバートだと知って、少なからず驚いた。盗賊のギルドマシターが駆け出しの盗賊やメイジの与太話を信じるはずがない。

 どうなっているんだ?

 彼らはルナマリアから地図や杖、ドラゴンの瞳のことを聞き出していたらしい。
 腕の中でぱらぱらと取り出した本を捲っては、本棚にしまってまた別の本を取る。
「その名の通りドラゴンの・・・瞳かね、今やとんと姿を見なくなったゴールドドラゴン・・・それとも太古の昔に滅びたはずのドラゴンか? ありえないな」
 最後の頼みの綱だったギルドマスターも知らないとなると、いよいよ事の真偽が怪しくなってくる。そこへ、ギルバートの声。

「ああ、これだ。ドラゴンズ・アイ」

 なんだ、知ってるんじゃないか!
 沈みかけた意識が浮上する。同じように顔を上げたルナマリアとは反対に、ステラはうつらうつらしていた。
 まずは、傍に控えるエルフに見せる。その後、書斎の上に載せて、数ページ繰る。
「老賢者の予言?」
「確か昔、タリアから聞いたことがある。闇の森のゲートを空けるスペル・・・ シンボル・オブ・パワーのスペルを」
 昔、王国中を探検する勇者が決して開かないゲートを前にして、老賢者の声を聞いたそうだ。

 その中のものを手にする覚悟があるか?
 あるのなら、その力を証明して見せろ。

 どこにでもある伝説だった。王国の各地に残る英雄伝説の一説。その後、勇者はゲートを開けられたのだろうか。伝承は途切れ、勇者が力を証明できたのか、それがなんだったのかは霧の中である。形あるものなのか、スペルなのか、それとも恐ろしい番人を打ち倒す事なのか。

 力の証。
 それが、どう関係がある?

 シンは黙って成り行きを見ていたが、ルナの呟きを耳にする。
「タリア・・・って」
 ギルドマスターも若いエルフも本から視線を話して、ルナマリアを見つめていた。


 Level 14



「タリアは、古い友人だが」
 どこか懐かしむように言うギルドマスターは、この時だけ寂しそうに感じた。
「こ、殺されたわ。魔導院で、ペガサスに乗った騎士に」
「・・・そうか」
 パタンと本を閉じて、ギルドマスターは書棚にしまう。
「ドラゴンの瞳は、門を開ける鍵だ。無論、ただの鍵であるはずがない、門の向こうに行くだけの力があることを証明するもの」
 書斎の上で手を組み、覗き込むようにギルドマスターがシンを見た。
 シンは真正面から彼を仰ぎ見て、うっすらと微笑を浮かべていることに気が付いた。

「それはどこに?」
 金髪のエルフが尋ねるが、ギルドマスターはシンを見たまま答える。
「さあ―――」

 シンも視線を逸らさない。

「―――だが、そうだな。闇の森には昔から、光る瞳があると言われているな。それはまるでドラゴンの瞳のようだと、ね」

 盗れるものなら盗ってみろ。
 ギルドマスターの橙色の瞳がそう言っているようで、シンは後手で縛られている両手に力を込めた。縄抜けは盗賊にとって基本中の基本スキルである。自由になった手で、ステラを起こしにかかる。
「行くのだろう? ルナマリアの縄を解いてやりなさい。彼には必要ないようだからね」
 そう指示するあたり、さすがはギルドマスターと言ったところか。シンの行動などお見通しであった。 

「レイ。すまないが、彼らの道案内を頼むよ」
「はい。ですが、貴族どもに歯向かうことになるのでは? ペガサスに乗った騎士と言うのはおそらく・・・」
「はは、レイ。これ位の意趣返しはかまわないだろう」
 シンは縛られた手をさすりながら、ステラの縄を解いた。
 何が楽しいのか、ギルドマスターは微笑から、ニコニコ顔に変わっている。
「闇の森では、ノームの集落に寄って行くといい。何かと便利なアイテムを揃えてくれるだろう」
 こうして、シン達はドラゴンの瞳を探しに闇の森に行くことになった。



議長が出てくると、どうしてもセリフが長くなるんですよね。もっと、ちゃきちゃき行きましょう。

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