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吹き荒れる嵐



「どうして・・・こんなことになるんだっ!!」
 水分を含んだタオルがテレビモニタを覆い尽くし、床に落ちる。
 握った拳が細かく震えて、シンは画面から目を逸らした。もう見ていたくないと硬く目を閉じる。できれば耳も塞ぎたかった。
「相手が悪かったな。アークエンジェルが来てるじゃないか」 
 それなのに、彼は遠慮なく言葉を紡ぐ。
「最強の監視官だぞ」
 知っているさ。
「あんな奴ら、俺がっ!」
 その先は声にならなかった。
 ゴン!
「いてっ」
 ミネラルフォーターのボトルで叩かれていた。慌てて両手で抑えようとしたら、ボトルはとうに持ち上げられていた。
「頭を冷やせ、バカが」
投げられたボトルを受け取って、キッチンに戻るアレックスが冷蔵庫を開けて朝食の準備を始める。テレビのニュースはとっくに違うトピックに変わっていて、シンはボトルに口をつけながら、テレビモニタの久々につぼみをつけた花の話題とやらを横目で見つめた。


 シンに休めといったアレックスが仕事だと言って出かけてしまった。
 なんとなく定職についてなさそうだと感じていたシンは、見せられた就労証明書を穴のあくほど見返してしまった。それは身分を証明するもの。市民IDを持つこの街の住人であることの証。
『仕事って、どこへ』
『警備会社』
 Tシャツの上にジャケットを着て、アレックスは玄関でキーや財布やらを確認する。
『キーホルダーは・・・金になるって』
『あのなあ・・・あれは副業。警備会社の仕事なんて安いもんだからな』
 壁にかけた古い時計と腕時計の時間を合わせている。
『ああ、安心しろ。お前一人にご馳走する分には問題ない』
 頼んだわけでもないのに、勝手に世話を焼いておいて気にするなと言う。
 ちょっと待てよと、口を開く。
『それから何度も言うが、変な気を起こすなよ。一日おとなしくしていること、いいな』
 言いたいことを言って、さっさと出て行った後姿をぽかんと見送って、シンは閉ざされたドアの前で立ち尽くした。2・3度瞬きをして挑戦的に笑う。出るなと言われて、大人しく待っているシンではない。


「何なんだよ、この部屋はっ!?」
 玄関はおろか、窓の全部が全部閉じられていた。シンの力を持ってしてもあけることができない。彼が部屋を出たときに、ロックがかかるようになっていたのだろうが、力ずくてあけることも叶わなかった。窓を破るわけにもいかず、正攻法を試みるシンが試した手段と言えば、ピッキンング位だった。四苦八苦し、あきらめてテレビの前でごろ寝をはじめて半日、日が落ちて一刻程でアレックスが帰ってきた。
「えらいえらい。ちゃんとお留守番できたか」
「えらく頑丈な鍵でございますね」
 開口一番にシンは口を尖らせる。
「街はすごい警戒だな。3回も職務質問されたよ」
 紺の髪と緑の瞳のアレックスは、パッと見、コーディネーターには見えない。顔の造作がいいから呼び止められることはあっても、就労証明書を見せればすぐに解放されるだろう。
「さすが正義と平和の使者、アークエンジェルだな。政庁の最上階に横付けされた姿は壮観だよ」
 暢気に言う彼にカッと頭に血が上る。
「アンタもコーディネーターなら、何か思わないのか! どうして俺達ばかり迫害されなきゃならない」
 彼は紙袋から色々と取り出して自作の冷蔵庫に仕舞いこんでいく。野菜や貴重なハム、ソーセージが目に入る。
「コーディネーターか。俺は戦争はいやだよ。それに彼らの言うことは正しい、憎しみのまま武器を向け合っても平和にはならない」
「あいつらに正義なんてあるもんか!」
 冷蔵庫に仕舞われていく食糧が一瞬霞む。なんだと思う前に、額に冷たくて硬いものがぶち当たった。
「うわっ!」
 ガラス? 白いって、これ牛乳ビン?
「君はカルシウムが足らないな。シン。そんなことじゃ、アークエンジェルのフリーダムには勝てないぞ」
 アークエンジェルの守護神。
 コードネーム・フリーダムを持ち、監視官の頂点に立つスーパーコーディネーター。戦中は敵なしで戦闘を続ける両軍を追い詰めた、最強と謂われる存在。
 そんな彼が停戦を監視するからこそ効力を発揮しているのだ、平和秩序監視機構は。そこまで名が知れているのに、メディアには一切出ず、どんな奴なのかは誰も知らないという秘匿性を持つ謎の存在。
「いつか、越えてやる」
 そうさ。あの時は、構えるだけで精一杯だったけど、いつか。
 シンは無意識に昨夜、対峙した男のことを思い出して身震いをする。場を支配する圧倒的な力。
「俺だって・・・」
「牛乳ビンも避けられないお前がか?」
 笑いながらエプロンをつけるアレックスに一蹴される。シンは手の中の牛乳ビンをアレックスに向かって投げ返えそうとして、勿体無くて寸でで止めた。乱暴に蓋を開けると、キッと彼の後姿を睨みつけながら一気に飲み干した。

うーむ。まとまりがないというか。