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 Dungeon B1



「シンがソード、ステラの武器はナイフで、アタシはスペル。アンタはその弓?」
 なぜかエルフの武器は弓と相場が決まっていて、ご多分に漏れず、レイも弓筒を背負っていた。となると自然とパーティーの役割は前衛がシンとステラ、後衛がルナマリアとレイ、という事になる。

「ステラ、薬とヒールのスペルカード、ちゃんとしまったか?」
「うん」
 シンはステラに腰のポーチに入れたアイテムの確認をする。咄嗟の時に、背負い袋の中に入れていたのでは間に合わない。

 レイが案内した地下迷宮の入り口で一度装備を確認した一行は、入り口を隠すように垂れ下がった蔦を掻き分けて、ついにダンジョンへと乗り込んだ。

 小さなランタンを手に下る坑道を進む。
 ひんやりとした壁伝いに進めばなるほど、そこかしこに人が分け入った後がある。
 最近の物から、朽ち果て、剣がさび付いたいつの時代か分からないものまで。


 Dungeon B2


 暗闇で襲ってくるこうもり。
 岩穴に隠れて、背中に飛びついてくるコボルトに悲鳴をあげる。

「ルナマリアッ!」

 ナイフを持つと人が変わるステラが舞うように、コボルトを切り刻んでいる。4人で進むダンジョンも地下2階となるとさすがにモンスターが手ごわくなってくる。全員がどこかに擦り傷、切り傷を抱えて、小休止をするたびにヒールのスペルと薬草の出番。


 Dungeon B3


 その上、盗賊の悲しい性がさらに歩みを遅くさせる。
 宝箱を見ると開けたくなってしまうのだ。いや、探したくなってしまう・・・だろうか。既に開けられていたりと、がっかりすることも多いけれど、中にはまだ鍵が閉まっているものもある。

「うわっ!?」

 中から飛び出すモンスターに驚くこともある。
 そこに残ったわずかばかりの財宝を懐に収めて、慌てて階段を下りる。地下に一つ潜るたびに冷えていくダンジョン内。

「灯りの残りに注意する必要があるな」
「どこまであるのかしらこの迷宮は。もう下に続く階段ないわよ?」 


 Dungeon B4


 地下にあって、割と大きな広間に出る。
 転がる物体は人の形をしていて、朽ちてはや数十年は経ているのだろう。シンはしゃがみこんで、彼らの着ているものに手をかけるとボロボロと崩れる衣服。使えそうな物が、ない。

「ここで大きな戦闘があった?」
 ここが最下層なのか・・・。
 奥で折り重なるように倒れ込んでいる。レイが壁に手を触れ、大きな傷痕を調べている。ルナとステラが、奥へと歩いて行き、シンと同じように彼らの持ち物に手をかける。
「あっ、腕輪・・・」
 ルナマリアがやや顔を背ける中、ステラが臆せず骨だけになった腕から金色の腕輪を抜く。盗賊じゃなかったら、到底平気な顔ではできない芸当だ。
「シン―――っ、見て、きれい!」

 僅かな灯りを反射してキラリと光る。
 確かに、このダンジョンで初めて見つけた、売れそうなお宝である。しかし、最後で蠢く影が目に入った。
 何かが・・・。
 シンがステラとルナマリアに離れろ! と言う前に、朽ちたはずの屍がカチャカチャと鳴り出す。

「アンデットだっ!?」

 レイの叫びと共に、ユラユラと立ち上がる屍の兵士達。朽ちた剣を構え、切れたはずの弦を引き絞る。一体一体はたいしたことないが、数が半端じゃない。
「逃げるぞっ!」
「って、どこへよっ!!」

 行くとしたら上に戻るしかないが、追って来ない保障はない。
 それではドラゴンの瞳は手に入らないのだ。ここを抜けて、さらに下に下りなければならないのに。

 ドオオォォン。

 シン達は一斉に振り向いた。
 アンデット達のさらに後ろに大きな影が見える。
 そいつが何かを振り回して、天井と壁を震えさせている。
 岩の塊に見えるそれは、ダンジョン内では滅多に見ることがない、ゴーレム。

「マジかよっ!?」

 とても敵う相手じゃない。
 ノームの村で言われたことが蘇る。駄目だと思った時には引き返すんだぞ、と。
 だけど、これが本当に駄目な時?

 アイツに比べれば、怖くない。
 本能が戦うことを拒んだ、夜空に浮かぶ騎士。
 本当に駄目な時って言うのは、ああいう相手を言うんだ。

 シンは手の中のソードを握り返して、身体を反転させた。

「シン!?」
「あれを倒すっ」
「何ですってっ!!」

「ステラ! 炎のスペルっ」

 シンはステラのスペルカードでファイアーソードにして、ゴーレムに切りかかった。


 Dungeon B5


 ただの土塊と化して崩壊するゴーレムの土煙で皆がゴホゴホと咳き込む。
 シンの最後の一撃が、最後まで残ったゴーレムの頭にヒットしたのだ。ゴーレムが倒れると、糸が切れたようにアンデット達も同じように、砂となった。シンは殆ど力押しと属性剣でゴーレムに勝ってしまっていた。相性のいい炎の剣だから、ゴーレムになんとかとどめを指すことができた。
「無茶するわね・・・」
「意外だな。君は盗賊じゃないのか?」
 ルナとレイが、剣士顔負けだと口々に言うのを、どこか遠くで聞く。
 シンとて、最初から盗賊になりたかったわけじゃないのだ。

 盗賊だからって、盗みしかできないみたいに言うなよな。
 シンは無言でソードをしまう。

 ゴーレムが崩れた所には大穴ができていて、満身創痍の皆が大穴を覗き込んだ。さらに冷たい冷気が吹き上がってきて、ランタンを翳せば白っぽい床が見える。

「ステラ。腕を出して」
 ゴーレムの攻撃を受け、強打して血を流している。薬草を塗って、包帯をぐるぐると巻く。それが最後の薬草でも、ここで使わないわけにはいかない。ルナマリアもレイもマジックスペルを大量に消費してしまったのだ。
 集中力を要するスペルは、肉体的な疲労から、どうしても際限なく使えるわけではない。
「痛くないか?」
「うん。大丈夫。シンこそ、痛くない?」
 頬の切り傷を腕でぬぐって、『大丈夫』と答える。心もとない装備でも、その下に出現した下の階にロープを降ろした。


 Dungeon B6


「氷?」
「こんな所に下りてきちゃって大丈夫なの?」

 下の階層は一面の氷だった。空洞を埋め尽くす氷の湖。
 相当深い地下のはずなのに、凍えるように冷たい風が頬を撫でていく。

 風が渡ってきた向こうにぼんやり浮かび上がる光があった。

「光ってるっ!?」

 その光に向かって走り出そうとした時、ゴゴゴと頭上から轟音が響き渡った。
 一斉に振り仰いだ洞窟の天井には、みるみる色を変えていく一角があり、それが何かと分かった時には、シンは大きく目を見開いていた。

 真っ赤な鱗に覆われた、四肢の他に角と背に翼を持つ生き物。
 それってさ。
「ドラゴン!?」

「リトルドラゴンだっ、どうする!?」

 どうするって言ったって。俺に聞くなよっ・・・!?
 小さくたって、本物を見たことがないなら、ドラゴンはドラゴンだ。
 どうしたらいいか、逃げるか、戦うか。シンが逡巡する間に、氷の上に降り立ったドラゴンは、大きく口を開いた。
「シ―ン―――っ!」
 ステラが抱きつく。
 目の前に迫る猛烈な炎。

 一行はリトルドラゴンの吐くブレスに吹き飛ばされ壁に激突した。


 Dungeon B7


 全身が痺れて動けなかった。
 シンもステラも、ルナもレイも倒れたまま、悠然と構えるドラゴンを見上げるだけだった。炎で背負い袋が焼け焦げ、中身があたりに散乱している。皆の身体には煤けた後があって、何か治療をしなければ危ないのは分かるのに、誰一人起き上がれない。

 ここで、死ぬのか?
 ドラゴンの瞳を取りに来て、ドラゴンにやられて?
 ああ、そりゃ、ドラゴンにやられるよな。なんてたってドラゴンの瞳だ。
 この氷、よく溶けないな。

 シンは遠くなる意識でくだらないことを考える。
 回復して、動いて、この場から逃げなければならないのに、為す術もなくやられれて。あの時と同じ警鐘が頭の中で鳴り響く。

 絶体絶命。

 シンの前に落ちているスペルカード。
 これは・・・アスランに貰ったサービス品だった。
 今更、どうしようもないけれど。ドラゴン相手にどんなスペルだって太刀打ちできないだろう。
 霞む目でシンはカードのスペルを読んだ。

 テレポテーション。

 そうか・・・。なんだそうか、お見通しって訳だ。
 シンは、泣き笑いを浮かべる。攻撃なんて無駄なのだ、だからここはもう逃げるしかない。全員が助かる道はこれだけだ。力を振り絞って、スペルカードへと手を伸ばす。ここにいる4人が無事に地上へ出れるようにと、シンはスペルを発動させる。




続く

一気にドラゴンの瞳まで行きたかったけど、やっぱり長くなーる。長くなーる。元々、ここは全然予定になかった所ですよ、トホホ。