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 Dungeon B7 Ice Spring - 1


 スペルに光が満ちて、テレポートが発動する。
 同じくして、ドラゴンのブレスが放たれた。

 眩しすぎる光。
 遠く聞こえる衣擦れの音。まだ麻痺してうまく音を拾えないシンの耳は、それが名前を呼ぶ声だと分かると急激に覚醒した。

 そして、手の届く位置に転がるステラを見て安堵し、あたりを見回した。ルナマリアもレイも倒れてはいるが息はある。そして、そこが今だ地底の凍った湖の上だと死って愕然とした。さっきまで対峙していたドラゴンの背が見える。
「そっ、そんな・・・」

 テレポートできなかったのだ。
「ちくしょうっ! ここで終わりかよっ」
 上半身を起こしていたシンが、氷の地面に拳を打ち付ける。いや、打ち付けるはずだった。

「そうでもないさ」

 シンの拳を掴んでいる氷のように冷たい手に、ばねのように起き上がって見上げる。
「無茶苦茶寒いな、ここ」
「アンタ・・・アスラン?」
「俺のやったスペルカードを使っただろう。いきなり転送されたぞ」
 少々悠長に話す相手は、ノームの村のアイテム屋の主人。あまりに暢気に笑われるから、シンは一瞬、この場の状況を忘れた。

 ドドォンとドラゴンが頭をめぐらして、ハッと我に返る。
「話し込んでいる時間はないな」
「何をいまさらっ!」
 シンの目線になるように彼が膝を付く。この切羽詰った状況で、見つめられた瞳から目を逸らすことができない。蒼い髪も珍しいけれど、彼の瞳だって不思議な色だった。グリーンアイズ、だけど、その虹彩の奥で火花が散ってそうな。
「さて、シン。ここにアイテム屋います。君がすることは何だ?」

 アイテム屋。
 そうだ、この人はアイテム屋だ。
 アイテム屋ですることなんて決まっている。だったら何を買うか?
「上の階で手に入れた金の腕輪がある」

 だけど、買えるだろうか? だって、それはアイテムじゃない。

「それで?」

「リバースの発動」

 例え薬草で傷口を治しても、アイテムで体力を回復するにはちょっとは時間がかかる。
 もう一度、このダンジョンにチャレンジするなんてとんでもない。ここまで来るのに大変だったのだ。
 だから、時を戻す。
 時間は戻らないけど、過去の自分に警告を出すことはできる。
 上級の術者じゃないと難しいそれ。だけど、この人はテレポートのスペルをわざわざカード化できるほどのアイテム職人だ。

「ここに降りる前の俺たちに、ドラゴンがいることを伝えたい」
「驚いたな。再挑戦するつもりか」
 そういいつつ、彼は笑っていた。まるでそれを望んでいたかのように、手元のカードにスペルを書き込んでいる。無造作にスペルブックを取り出すことから、腕は確かな職人なのだと思い出す。
「いい瞳だ」
 出来上がったカードを受け取り発動させると、シンの意識が違う現実にシフトした。最後に交わした言葉は既に、葬り去られるべき時間軸に載って、頭から掻き消える。未来が変わるのだ。

「ここまで来たの、お前が初めてだ」
 氷の地底で、彼のグリーンの瞳だけがシンの記憶の片隅に残った。


 Dungeon B7 Ice Spring - 2  


「遺言どおり、ドラゴンかよっ!」
「ステラっ、行くぞっ!」

 ゴーレムの最後の言葉に驚いた一行は、急いでできるだけ対ドラゴンとなるように万全の装備を整えた。
 スピードブーツを履いて、動きを軽くした前衛の二人が、ドラゴンのブレスが来る前に切りつける。いつもより早く走れ、高く飛べる。
 シンの一撃にドラゴンが膝を降り、ステラの一撃で頭を振る。
 間髪おかずにレイの矢が打ち込まれる。

 炎のブレスも来るタイミングさえ掴めれば直撃を食らわなくて済む。
 氷の中の光る瞳がぼうっと光を放っている。それは美しい赤い色で、まるで戦っているリトル・レッドドラゴンのよう。
 攻撃を除けながら、鋭い突きや横殴りを除け、少しづつ、お互い消耗しながら戦い続ける。

「このままじゃ、拉致があかないわっ」

 いずれ、回復アイテムが切れて窮地に陥るだろう。それまでに目の前の敵を倒せるかどうか分からない。誰も、リトルドラゴンと戦ったことなどなかったのだ。シンとステラは言うまでもなく、ルナやレイまで。
「無茶言わないでヨ! ドラゴンが本当にいるなんて信じられる?」
「ゴールドドラゴン以外、死に絶えて久しいんだぞ」
「じゃあ、これは何なんだよ!」

 話しながら弱点を探るが、そんなもの見つかるはずがない。
 ドラゴンの動き、ブレスの方向、羽ばたきなど、注意して見ても、何の規則性など見つけることなどできず、その場その場の攻撃の対処をするだけ。あとは僅かな隙をついて切りつけるがどれだけ効いているのか分からない。

 最初は結構いけると思ったのに。
 膝を着かせるほどのダメージを与えられたのは最初だけで、今は、とんと効いているのか怪しいものだ。シンはドラゴンを見上げ、睨みつける。既に息があがり始めている。

「白い光・・・」
「はあっ、何言ってんだよ!?」

 ステラの独り言が聞こえて、思わず聞き返していた。目の前のドラゴンは真っ赤な鱗を持っている。レイが打ち込む矢も氷の属性をつけて、少しでもダメージを増やせるようにしているくらいだ。

 ブレスが来る。
 デ、デカイ!

 今までになく、強大なブレスにシン達は一気に壁際まで押しやられてしまった。

「色、変わった」
「だから、何のっ」
 ソードを構え直すシンが、ステラを庇うようにドラゴンに向き直る。
「瞳のよ。氷の中の光・・・色が変わってるじゃないっ!!」
 ルナマリアが急に叫ぶ。
 さっきまで白かった光は、今は緑色で、そう言えば、始めてみた時は赤色ではなかったか。
 シンはひらめき共に切りかかっていた。
 ドラゴンがガクリと体制を崩す。

「これって・・・つまり」
「氷の中の瞳の色によって、ドラゴンのコンディションが変わるってことだ」

 赤や緑の光の時に攻撃がよく決まる。さらに言えば、ダメージの大きさから言えば赤色の時がいい。
 だって、おかしいだろ? こいつは小さいけれど、レッドドラゴンなんだ。
 普通に考えれば、赤い光の時に強くなって―――

 ちょっと、待て。
 それで行くと、ものすごい前提が崩れないか?
 シンの直感を代弁するように、レイが告げた。

「見た目に惑わされるな。こいつはレッドドラゴンじゃないっ!」

 赤い光の時に弱体化し、炎の属性を纏ったシンのソードで大きなダメージを被る。
 それはつまり、目の前のドラゴンが氷の属性を持つという事だ。
 そうと分かれば、対処の方法もある。
 もしかしたら、万が一がありえるかもしれない。

 次の赤い光までシン達はひたすら力を温存し、準備を整えてチャンスを待った。
 ルナがファイアボールのスペルを唱え、シンのソードとステラのナイフに炎の属性をつける。レイが炎の矢を放ち、赤い光の時、一行は一斉にドラゴンに攻撃を放った。
 レイとルナマリアがひたすらサポートに回って、ステラとシンを補助スペルで強化する。
 氷に対する防御を上げ、俊敏性を上げるスペルをかける。

「シン! 止めだっ!!」
 大きくジャンプして、振り下ろされるソードがドラゴンの頭に突き刺さる。
 その瞬間、ピシッと赤い角に亀裂が走った。

 ついに、リトルドラゴンが力尽きて膝を折る。
 竜の羽を力なく氷の湖に打ち付けて、地響きが起こる。
 振動が収まった時、ドラゴンの瞳から徐々に光が消えていった。

 そして、リトルドラゴンが息絶えると、湖の氷が溶け出し始めたのだ。
 慌てて、上の階に避難するシン達は、途中の階で見つけた宝箱を改造して即席のボートを作る。それに乗ってそろそろと湖に繰り出した。
「この湖・・・このドラゴンが凍らせて、あれを守っていたのね」

 ドラゴンの瞳が湖の中で光っている。
 鋭いほどの青い光。

 湖面に飛び込んだシンが、湖底で光る瞳に手を伸ばした。
 ギョロリと瞳が瞬くのを知らずに。

 シンはドラゴンの瞳を手に入れた。



続く

情景とかくどいですか。ああ、もっとうまく話がかけるようになりたい! なにわともあれ、ドラゴンの瞳ゲットです。