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 Level 19



 踊る子犬亭の地上部分は跡形もなく破壊されて、地下部分も居酒屋にいた人達、ギルドマスターの部屋へ続く通路にはことごとく倒れて臥した屍が転がっていた。

「何が争い事が好きじゃない、だ!」
 シンはギュッと掴まるステラを連れて、踊る子犬亭の外に出た。
 まるで嵐でも通り過ぎたような惨状に、誰もが顔を顰めている。表立って知られてはいなくてもここは盗賊のギルドマスターがいる店だ、王国は手出ししないという暗黙の了解があったのに。
「よほど切羽詰った事情があると見える」
 ギルドマスターが何か考え込むようにかつての自分の店を見回している。

 シンはその事情を今まで考えようともしなかったが、ルナマリアが降って来たあの日から何か大きな流れが動き出しているのだと感じる。彼女も詳しいことは分からないと言っていた。一体、何が起こっているのだろう?

「ねえ、シン。ルナいない・・・どこ?」

 兄弟のようだった。
 仲良くする二人が少し羨ましくて、ルナにステラを盗られそうで疎ましくて。
 それが、こんなことになるなんて・・・。
 地図まで盗られてしまった。

「ステラ、探す。ルナは?」
 盗賊が盗ったお宝を奪われるなんて、なんとも、盗賊の名折れではないか!
「迎えに行こうか。地図も取り返さないとなっ」
「地図もないの? ボケェ・・・シン・・・」

 誰のせいだと思ってんだよ、ステラ・・・。

 シンは地図につけたマーカーを追うべく、アイテムを取り出した。
 おそらく、ギルドマスター側も地図を狙うに違いない。
 こうなったら、どちらが早く手に入れるか競争だと思ったのだが、ギルド側が思わぬ助け舟を出してきた。
「見せてくれと言っただけだよ、私は。何も盗ってしまおうと言うのではないさ」
 ギルドが抱えるメイジが、シンがつけたマーカーを追跡していたのだ。地図に付けたのが盗賊御用達のマーカーだったのが幸いしたらしい。
「部隊の駐屯地かな。この先の廃城で、移動を止めたようだね」

「俺はここでおまえ達の帰りを待つ」
「そうか。ありがとう」
 レイが廃城の近くまでテレポートで送ってくれた。
 シンはステラにナイフを向けた彼に礼を言う。使えるものは使う、それが、何の力もない二人がこの世界で生きて行くコツだ。
「俺だって彼らのやり方は、気にいらない」
 こんな世の中だから、全てが信用できるわけじゃない。それでも、全てが信じられないわけじゃない。ドラゴンの瞳を手に入れるために、力を合わせてダンジョンを攻略したのは事実だから。シンとステラは日が暮れるのを待って、王国の親衛隊が野営を行う廃城に近づいた。

 城壁は半分は崩れ落ちて見張りの兵士達も船を漕いでいる。月明かりの影を選んで、ロープをかける場所を探す。ちうまい具合に崩れた場所を見つけて二人が城壁伝いに走る。
 シンは回り込んだそこで、目を丸くした。

「アンタ、なんでココにっ!」
 闇の森でノームの村ごと消えたアスランがいた。

「そこはほら。アイテム屋だから」
「は?」

 意味が分からずシンは聞き返すが、構うことなくアスランがそこで店を開き始める。聞きたいことが山程あるのに、何から聞けばいいのかシンは詰まる。しかし、ステラは品物の中にアクセサリーを見つけて、嬉しそうに手を取っていた。
「シン、見て。金の腕輪」
「それは5600ゴールドだよ」

 これ・・・どこかで。
 頭に引っかかるものを覚えながら金の腕輪をそっと戻して、もっと役に立ちそうなものを探した。せっかくだから、装備を整えるにこしたことはない。
 薬草、シップ薬、煙玉、目くらましと有り金と相談してピックアップしたら結構な量になっていた。
「うーん、全部で850ゴールドだ」
「結構痛い・・・こんなに買うんだからさ、おまけしてよ」
「言うね、お前。まあ、お得意様だから、これサービスな」
 そう言って、渡されたのはやはりスペルカードだった。

 シン達が買い物を終える早速、店じまいを始めるアスランに別れを告げる。あらかじめ狙った城壁の裂け目に向けてロープを投げた。



 Level 20



 こっちだ。

 シンはステラに目で合図して、廃城の中をルナと地図を探して動き回る。親衛隊達は自分達の任務に不満なのか酒が入っており、寝静まったのを見計らって動いたので、彼らは深い眠りに落ちていた。
 シンとステラはそんな彼らを他所にとんとん拍子で、奥へ奥へと進んだ。

 ちょろいもんだぜ。

 ルナを崩れかけた牢に見つけた時、シンは親衛隊もたいした事ないなと思う。シンやステラのちょっとした機転や業だけで、ここまですんなり来れてしまったのだ。
 所詮は、あのキラって奴一人だけだ。
 牢を開けた時(鍵開けこそ盗賊の真骨頂だ)ステラとルナが泣いて再会を喜びそうなのを慌てて制す。一息ついた所で、ルナが二人を見て涙目で告げた。

「ごめん。アタシ、ドラゴンの瞳のこと話してしまった・・・」
 ルナはキラというあの騎士の魔力で自白させられてしまったのだという。どうしても抗えない強迫観念と苦痛を思い出したのか、ルナマリアが震えて顔を覆う。

 今もドラゴンの瞳は懐にある。
 シンは皮のベストの上からそっと押さえて、ルナを連れて閉じ込められていた端の部屋を抜け出した。残るは奪われた地図だけ。

「地図はきっとキラの所にあるわっ」

 ルナの記憶を頼りにキラが陣取っている部屋を目指す。途中で何人もの親衛隊とすれ違ったが、何とかやり過ごす。さすが側近、キラの部屋まで行くのにかなりの時間を要してしまった。崩れた石の窓から見える月が随分と傾いている。

「誰もいないみたいだ。よしっ!」
「今のうちよ、探しましょ!」

「見て見て、キラキラ~」

 シンとルナマリアが屋探しを始めたのに、ステラがかけられた金ぴかの鎖帷子を見つけた。憎きメイジ兼騎士は黒いメイルを纏っていたが、中にこんなものを着ていたのだ。
 よく見れば、それは金の鎖ではなく、打ち付けて伸ばした金の板だった。丸い金の板は本当に薄く、まるで鱗のような形をしていた。

「こらっ。地図を探せよっ」
「うう・・・わかった」
 ステラがそれでも名残惜しそうに、金の服に指を伸ばして、シャランと音を立てる。
 シンとルナマリアは溜め息をついて地図探しを再開してすぐ、いろいろなものが散乱したデスクらしき場所の上で地図を見つけた。コンパスや消えたランプ、羽ペンと言ったものに混じって地図が広げられていたのだ。
「見つけたぜっ」
 早速、手を伸ばして丸めようとしたところで、キンと空気が張り詰めた。

「しつこいね君達。もしかして王女の使いか何かなわけ?」

 鎧を脱ぎ捨てた最強のメイジが腕を組んで部屋の壁にもたれていた。
 シンは息を呑んで咄嗟に地図を引っつかめば、間髪おかずにデスクが真っ二つに割れて、慌てて飛び退く。しかし、足をついた瞬間、嫌な感触が伝わってきた。
 ぐらりと揺れる。
 うまく身体をコントロールできなくて、ルナマリアとステラが目を丸くするのが見える。
 そう、ずぶずぶと沼に落ちたように体が沈んでいく。
 さっきまで硬い石の床だったのに!

「ドラゴンの瞳を持って来てくれるなんて、ご苦労様」 

 ステラとルナマリアが引っ張りあげようと肩や腕を掴んでくれるが、少女二人の力では沈み込むのを食い止めるのがやっとで。
 ここまでくると、もはや盗賊のプライドにかけて何一つ渡したくなかった。
 地図に続き、あんなに苦労して獲ったドラゴンの瞳まで失うなんて。

 舐めるな。

「シン・・・」
 分かっているさっ。
 一歩一歩近づいてくる敵に、勝機を見出そうと神経を研ぎ澄ます。どんな小さな隙も逃さぬように身構えた。
 相手の優しげに笑う顔が月明かりに照らされて、反って不気味に浮かび上がる。前触れもない攻撃に反応して真っ先に動いたのは、さっきまで金の服とはしゃいでいた少女。

「ステラっ、駄目だっ!」



続く

ちょっとあれだ。不完全燃焼です。「ダモダーだも~ん」に匹敵する言葉遊びができないよ・・・。