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 Level 21



「あうっ!」

 刃が届く直前で透明な壁に跳ね返されて、ステラが部屋の壁にぶち当たる。
 シンの時もそうだったが、己の周りに空気のバリアでも張っているかのようだ。

「女の子だからって、次はないよ」

 微笑を湛えて、軽く手を一振りする度に、空気が割け、部屋の中のものが寸断されていく。
 シンの髪も、ルナの服も余波を食らう。

 狭い部屋がお城の大広間のように、時間が間延びしているように感じられるのに。
 何もできずに接近を許すことほど口惜しいものはない。
 腕の力だけでシンが這い出ても、よくなる方向に行くわけじゃなかった。 
「ああ、もうちょっと何かないの!?」
「お前だって、メイジだろっ」
 両手をひらひらさせて、メイジのトレードマークの杖がないことを見せる。
「まだ、見習よっ! カード無しじゃ魔法の発動なんてできないわっ」
 ルナマリアがシンの荷物を取り上げて中をさばくるが、山のように買い込んだ回復薬や非常食のおかげで使えそうな物が見つからない。

「作戦会議は終りかい?」
 月の光を反射して、剣がきらりと光る。
「あったっ! スペルカード」

 ルナが取り出したのはアスランから貰ったカード。
 カードのスペルはやっぱりテレポートで、ルナがスペルを唱えると、部屋の外のバルコニーの空間が口を開けた。
 しかし、ステラが反対側の壁際に倒れている。
「行くわよっ!」
 引きずられるように崩れたバルコニーに踊り出て、石でできた小さな空中庭園の静寂を突き破る。
「待てって!」
 ルナが手を掴むけれど、ステラを置いていけるわけなかった。ずっと一緒にペアを組んできたのだ。

 一歩一歩近づいてくるキラがルナが発動した魔法を見て腰に下げた剣を抜く。
 剣筋は見えなかった。シンは殆ど勘だけで、声を出して衝撃が飛んでくる方向を予想した。

「危ないルナマリアっ!」

 咄嗟に突き飛ばしたが、間に合わない。
 ルナマリアがシンの荷物もろとも床に転がって、右肩に痛みが突き刺さった。

「かはっ・・・」
 剣を抜かれた時にも同じだけの痛みを感じて、シンは両膝をついた。左手を肩にやれば、生暖かい血で濡れていて、少しでも触れようものなら痛みが脳天を突き抜ける。
 右手は痺れて、空気さえ神経を刺激した。

 過敏な神経が、刃が空を切る振動を捉える。
 見開いたシンの瞳に映る一振りの前に、ステラが飛び込んで来る。

 ああ、ああ・・・。
 自分が食らうはずの魔法の一撃が全て彼女に。
 ナイフをもった手が、だらんとぶら下がる。

 彼女の懐から零れた金の欠片がシンの目の前に落ちて、感覚のない手で拾い上げる。
 いやだよ、ステラ。
 ナイフは何でもないのに、スプーンやフォークを握る手はまだぎこちなくて、光るモノにすぐ伸びるまだ小さな手。それが、シンの目の前で、力なく揺れる。

 つまらないものを見るように、刃を小さな体から引き抜いて血糊を払う。
 ステラがぐらりと傾く。
 月光の中、崩れたバルコニーを越えて、血の糸を引いてステラが夜の大気に消えた。



 Level 22



「シン! テレポートのゲートが閉まる。早くっ!」
 ルナの声もどこか遠くて。
 鉛のように思い足。
 ルナが必死にテレポートの空間に引っ張り込もうとしているのに、シンはただステラの消えた夜の闇を見つめる。すぐそこにゲートがあるのに、敵の大将がさして急ぐ風でもなく歩いて来るのは、そんなシンの様子を見切っているからだ。

 最期の時を迎えるだけのシンに、ゲートの中から声が掛けられた。

「君は、ここで死ぬつもりか?」

 全員が目を見張る。
 いち早く動いたのはキラで、風のようにシンに迫り、閉じようとするゲートから伸びた手がシンを無理やり引っ張り込む。
 氷のように冷たい手にシンはびくりと身体を震わせて手の持ち主の方を見る。 
 ゲートが閉じるのと、キラが剣を振り下ろすのとは殆ど同時で、剣の切っ先がすぱっと持って行かれていた。

「今の声―――」

 切っ先が欠けたまま鞘に収めて、さっきまで空間が開いていた場所を掴む。バルコニーの石の床に落とされた紫色の瞳が、中空に浮かぶ白い月を見上げる。

「そんなはず―――ない」

 もう一度、自分に言い聞かせるように掃き捨てる。
「幻聴が聞こえるほどガタが来ているってことかな、はは・・・もう時間がないんだ」
 黒い手甲に覆われていない手に視線を降ろし、ピシピシとひび割れる程、拳を握り締めた。
「地図もドラゴンの瞳も取り逃した、か。ジュールの杖が駄目なら、まずはあの王から何とかしよう」

 夜の闇にその声は吸い込まれて、廃城はおろか、シン達を待つエルフのレイにさえ届かなかった。
「ギルに報告、すべきだろうな」

 ルナマリアと血まみれのシンがテレポートで消えたこと、シンのパートナーの少女が廃城のバルコニーから落ちたことを。




続く

よし、今回は短いぞ。って、そんなことより、なんだかますます違う方向へ転がりそうな気配、えっ、バレバレですって? うーん、そうかも知れませんね。