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 Level 23


 国の行事には必ず出席し、国民や王都の姿をその目に納めていた第1107エターナル王の最後は、あっけないものだった。

「おとーさまあぁぁ――――――っ!!」

 逝去の瞬間、王女が泣き叫んで崩れ落ちた。
 ズラリと取り囲んだ議会高官や神官達も一様に頭を垂れ、そして非情にも王女カガリへと向き直って告げる。貴方が次の王だと。
 そうして、自動的に第一子にして唯一の子供であるカガリへと王位が移った。
 だが、正式にエターナル王として即位する為には数々の儀式を踏まなければならず、その中の最たるものが、君主の杖の継承だった。

 君主の杖を携えてドラゴンズピークへ出向き、ゴールドドラゴンに騎乗して戻ってくるのだ。王としてその力を広く遍く知らしめる為に。

 ドラゴンズピークには数十体とゴールドドラゴン達が住み着いていて、頂上にいる長の下に統率されている。彼らは全て、これから会う長の子孫達だ。
 金の鱗と金の目をした竜に負けじと、金の髪となびかせ、金の瞳で睨み返して新女王がドラゴンズピークを登る。

 新王カガリが頂にある竜の門を潜る。ゴールドドラゴンに認められて初めて、エターナル王と言えるのだ。
 不安と恐怖に震える心を奮い立たせる為に手に光り輝く金の杖を握り締める。

「志は私が引き継ぎます・・・お父様・・・」

 門をくぐり、霧で覆われた通路の先に見えた巨大な鉄の扉。
 中央に大きく掘り込まれた金のレリーフはエターナルの紋章。

 その門がカガリが触れる前にゆっくりと開く。
 軽く息を吸い込む新王を待っていたのは意外な姿で。

「お、お前はっ!?」

 仄かな恋心を寄せていた王国最強のメイジ・キラ。執政に影のように寄り添う彼がどうしてここにと、カガリの思考が混乱する。口を開きかけては、パクパクと空気だけを食む。
 そんな彼女の様子に苦笑して、カガリの目の前の存在が視線を逸らした先には。

「紹介するよ。君は初めて会うことになる」

 たおやかな微笑を湛え、ピンク色の長い髪を揺らしている女性がゆっくりと歩いてくる。

「ラクス。エターナルの新しい王、カガリだ」
「始めまして。ラクス・クラインですわ」

 ゴールドドラゴンと共に悪を打ち倒し、エターナル王国を打ち立てた伝説の乙女。
 初代女王。その女性が目の前にいる。

「・・・ラクス・クライン様・・・っ!」

 夢や幻かしなのではない。王国が興る時に在った女性がなぜ、ここに。
 確かに肖像画や言い伝えどおりの姿をしているが。
 カガリはしばし呆然とし、はっとして最高礼を取った。

「お願いがあるのですわ」

 カガリがそろそろと顔を上げる。
 笑みを浮かべたままの顔で、興国の女王が言う。

「その杖、渡してくださいな」

 杖を両手で握り締めたまま、新女王が息を呑む。

「取り上げるのか?」
「杖で無理やり竜を跪かせて何になりましょう。力ずくで国を支配し、竜を支配して、それで満足ですか? 私は貴方のお父様にも、そのお父様にも同じ事を問いましたが、皆、貴方と同じ答えでした。もう一度言います。もうその杖に頼るのはお止めなさい」

「それはできない」

 カガリが小さな声で伝える。私にはこれが必要だ、と。
 議会と戦う為に、国の為に、国民の為に。だから、これを私から取り上げないでくれ。彼らの魔法に対抗するにはゴールドドラゴンの力が必要なんだ。そう、訴える。

「杖の力を使って、ゴールドドラゴン達に戦いをさせる気なのですか?」
「ラクス。別にそれはいいんだ。それが僕達の選んだ道なのかも知れないから」
「でも、キラ!」

 そう、初代女王の横に平然と立つこの男はキラだった。

「一体、何者なんだ。なぜドラゴンズピークの頂にいる?」
「君は、もう分かっていると思うけど?」

 キラは他でもない、ゴールドドラゴンなのだと。

「でも! ならどうして、執政の下で働いている!? どうしてエターナルの為に動かないっ! そのためにお父様は・・・」

 涙を散らして新女王が叫ぶが、ゴールドドラゴンは答えない。
 その昔、ゴールドドラゴンと共に悪の竜を倒した女性が打ち立てた王国エターナルは、竜に守護される国と言われている。君主の杖はドラゴン達の忠誠の証として送られたと。
 それが、本当はどうだろう。
 ゴールドドラゴンの加護など、どこにあると言うのだ。ただ、杖の力で無理やり彼らを従えているだけ。貴族達がメイジの力で国民を力ずくで支配しているのと何も変わらない。

 それが、この王国エターナルの真実。

「私は諦めない。今はまだドラゴンの力に頼らなきゃ何もできないけれど、いつかお父様が目指された、皆が平等に暮らせる国を作って見せる」

 そう言って、カガリは君主の杖を高く翳した。
 杖の先の宝珠が金色に光り輝いて、新女王はゴールドドラゴンに王宮まで送れと命じた。

 文字通りゴールドドラゴンの背に乗って王宮に舞い戻った新女王。歓喜に包まれて臣下が女王を取り囲む。王宮へ下がろうとする女王を臣下が一人、執政が待ち構えていた。

「何か恐ろしいものでも見られましたか、女王?」

 執政の後に控えるキラを盗み見て、硬い表情のままカガリ女王が侍女に囲まれて王宮に消える。程なくして開かれた議会で、女王が先王と同じ法案を議会に提出すると宣言する。

 その年、カガリ女王の即位と同時に、議会と女王との亀裂が決定的になる。



 Level 24



「ここが杖のある所・・・?」

 シンは小高い丘の麓で、辺りを見回した。
 鬱蒼と茂った森、深い渓谷とか怪しげな古城など、迷宮になりそうなものが何もない。

「なんだか、のどか~って感じですよね」
「ダンジョンなんてどこにもないし」
「シンの目の前にあるぞ」

 そう言うアスランが見上げる先には、青空とそこに続くなだらかな丘があるのみ。
 まさか、この丘全体が?
 杖は掘り当てるのかっ!?

「入り口は結界に隠されている。違いますか?」

 シンは声のした方を振り返れば、アスランの横にワイバーンに乗った金髪のエルフがいた。事も無げにワイバーンから飛び降りて、丘を前に立ちすくむシン達に近づく。

「レイっ!?」
「あっ・・・俺たち・・・」

 廃城からこちら、レイのことをすっかり失念していたシンとルナマリア。
 大怪我したシンの事でそれ所ではなかったし、レイは杖を狙う盗賊ギルド側だから一々報告する義務はないのだが、何か気まずい気がする。

「気にするな。俺は気にしていない」
「うっ」
 レイに先手を打たれて謝ることもできなくなってしまい、シンはもやもやしたものを抱えたまま口篭もる。
「おまえ達に事情があるように、俺にも事情がある。それだけだ」
「まだ杖を、狙っているのか・・・?」
「女王や、執政に渡すよりは」

 ただでさえ君主の杖でゴールドドラゴンを操る国王は巨大な力を持つのだ、さらに杖を手に入れて、手がつけられなくなったら困る。まして、国王と反目する執政側が杖を手に入れて王国が内乱に発展にするのも宜しくない。

 権力を持つ者が、過ぎた力を持つことほど厄介なものはない。
 レイが彼の主であるギルドマスターの言葉を借りて説明する。

「その点、お前は安全だ。ただの盗賊だからな」

 ちょっと、その言い方は傷つくよ。
 シンはムッとして、「そうだよねえ」と笑うルナマリアやメイリンを見る。アスランまで苦笑しているではないか。

「どうせ、俺はただのこそ泥だよ!」

「だからだ、シン。君は人が生きていくのに、本当に必要なものが何かを知っている」
 シンの肩に手を置き、誉めているのか疑わしい言葉でアスランが慰める。

 本当に必要なもの?

「俺は最初、君がドラゴンの瞳を手に入れられるなんて思ってなかったんだ。またギルドに騙されたかわいそうな盗賊がやってきたなあと思って。それが、見事リトルレッドドラゴンを倒して、あのキラとやりあうなんて信じられなかった」

 ああ、どうせ、そんなことだろうと思ったよ。
 この人は俺のことをまるで何も知らない子供を見る目で見る。

「今は、そうだな、シンなら杖を渡してもいいかって思う」

 それが今は。
 まるで自分が杖の持ち主みたいに、そんなことを。諦めた夢を託すように言って。

「忘れないで欲しい。ジュールの杖を手に入れても、力に飲み込まれるな」

 それが、今、アスランから託された杖の名前。
 恐ろしい呪いと引き換えに力を約束してくれる、その杖の名は、ジュールの杖。

 心地よくて、不思議と懐かしい彼の声が頭の中にストンと落ちて、一瞬、シンはこの場にはアスランと二人だけしかいないような気になっていた。

 トリップしてしまったシンを横目にレイが姉妹に声をかける。

「ルナマリア、メイリン、力を貸してくれ。丘の入り口を出現させる」
「えっ? あっ、分かったわ」

 シンがアスランに忠告めいたことを言われている後で、3人がかりで、隠蔽されている丘本来の姿を解除するリリースの魔法をかける。何の変哲もない丘の周囲には崩れ落ちた石垣を出現し、その一角に僅かに門らしき跡があった。




続く

うむ。取り留めのないつなぎの話ばかりで、まとまりがありませぬ。本当は、「次回、D&D 『嘱望』 王位の継承の為に訪れたドラゴンズピークでカガリ王女は王国の真の姿を知る!?」みたいな引きから、今回のお話に繋がるはずだったのに。そんな感じになってませんよねえ。元々、継承の話の一部だったからかなあ・・・精進。精進。