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Men of Destiny 12

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君の横顔



「赤い眼のコーディネーターです、まだ少年の」
「いえ、そのような者を押さえたという記録はありません」
 アークエンジェルの艦橋で監視官はこの一週間の活動の報告を受けていた。レジスタンスのアジト突入から、反乱分子コーディネーターの一斉逮捕まで。
「ライトセイバーは見つかりましたか?」
「指示されたポイント周辺ではまだ」
「そうですか」
 獄中の彼らの扱いについては、この後到着する専門の部隊が業務を引きつく予定になっている。不必要に長居することもできず、彼らの滞在期限も長くて2週間である。
「こんな辺境の街で何をやっている・・・・・・僕は」
 各地できな臭い動きが起こり始めており、監視官の出番もそれに連れて増え、終に手が回らなくなった平和秩序維持機構は虎の子のアークエンジェルの派遣を決定したのだった。


 一方、シンは渡されたお金を手に一大決心を迫られていた。道の向かいにファーストフードショップが見える。戦前はよく入り浸ったシンの好きなチェーン店のバーガーショップだ。
 シンが迷っているのは白昼堂々とバーガーを買うということではない。コンタクトのおかげで誰にも怪しまれていなし、学校をサボっている不良と見られることはあっても、コーディネーターだと胡乱な眼差しを向けられることはない。問題は、シンと同じようにバーガーショップの道向かいで膝を抱えて店を見つめている少女がいることである。
 朝は晴天だった空も、にわかに雲行きが怪しくなり降り出した雨の雨宿り先に選んだ店先には先客がいた。慌てて駆け込んだら、いきなり顔を向けられて殊更がっかりされた顔をされたのだ。金髪にバイオレットの瞳が印象的な少女。ちょっとムッとした気持ちと残念な気持ちが混ざり合って、もう一時間も同じひさしの下でお互いぼんやりしている。
 誰かを待っているのかな?
 置き去りにすることを気にする必要はなくても、1時間も一緒に居たおかげで妙な連帯感を感じてしまって、シンはバーガーを買いにそこを離れるべきか逡巡しているのだ。


 ポケットの中のお金ならなんとか二人分買えるだろう。鳴り出した腹の虫にも催促されて、シンは覚悟を決めて駆け出した。
 カウンターに並び、メニューを見るシン。
 一人分も厳しいくらいの値段に口をだらしなくあけた。そんなの聞いてないよ~とポケットのお金を値切りしめて、二つ買えそうなバーガーを探した。
 戦争の痛手は大きかった。
 全くのプレーンのバーガーは涙が出そうなほど薄い。レタスもピクルスも申し訳程度に挟んである程度、それでも、二つ分の代金を払って店から出て真っ先に待ちぼうけの少女を探す。
 何が面白いのか水溜りを見つめる姿にほっと息をついて道を渡る。
「これ、食べる?」
 顔を上げただけで、返事はない。
「バーガーだけど」
 しゃがみこんで、袋から取り出した包みを差し出した。
「?」
 できるだけ平静を装っては見ても、内心結構どきどきだったりするから、早く受け取れよ!と心中叫んでいる。
「・・・くれるの?」
「そ! 一緒に食べよう、な」
 無理やり手を取って包みを握らせ、自分の分を取り出す。いそいそと包みを剥がしてまず一口。こっそり盗み見れば、不思議そうにバーガーの包みを見ている。
 食べたことないってないよな。シンは隣を気にしながらもう一口。それでハンバーガーは既に半分だ。
 とろとろした手つきで包みを剥がす仕草は実に危なっかしい。思わず手を出しそうになって、彼女の横顔がパッと明るくなる。包みからバーガーが出てきたらしい。食欲をそそる臭い。噛り付くのをじっと見られているのを感じて、気恥ずかしくなって一気に食べた。
 はむ。
 彼女の小さな一口に安堵して、口の中のバーガーを無理やり飲み込んだ。
 晴れやかな気持ちで立ち上がる。彼女が気づいてくれないのが少し寂しくて、ゆっくりと食べる彼女を邪魔したくないとは思ったけど。
「俺はシン」
 呼びかけられて顔を上げる彼女は不思議そうな顔をしていた。それでも小さく聞こえるか聞こえないかの声で『シン』とオウム返しに呟いて『ありがとう』と言ってくれた。シンだから辛うじて聞き取れたお礼に被って少しだけ細められる瞳。今のは笑ってくれたのかだろうかと、シンはそう思うことにして、上着の端で手を拭く。
 雨は上がっていて、青空が広がっていた。


 しかし、その日の夕方シンはまた同じ場所で彼女を見つけた。家路を急ぐ人たちの向こうで座り込んで何も見ていないかのような表情。通り過ぎる大人たちがチラリと彼女を一瞥して足早に去っていく。
 もしかしたら誰も待ってはいないのかも知れない。
 街角で一人佇む少女が何の目的で・・・と思い当たったところでシンはハタと気が付いた。例えそれが勘違いだとしても。
 もうすぐ、待ち合わせの時刻。厳戒令下の街が外出禁止になる時刻。
 夜。
 気が付いたら、彼女の手を引いていた。なんと言って誘ったのかなんてさっぱり思い出せない。


「初日から女性同伴とは恐れい居る、シン」
 アレックスの呆れ顔にシンはあることないこと捲くし立て、見事、アレックスの部屋に泊めてもらうことを許してもらっていた。
「それで、そっちの子の名前は?」
「名前? えっと・・・」
慌ててシンは彼女を見て、アレックスがため息を付く。
「ほら、名前だよ。君の名前」
「こら、シン。怖がってるじゃないか」
 彼女のどこか抜けた様子を見ているシンにはそうは見えなくても、黙り込んで顔を伺う素振りを見せる彼女は確かにハタから見ればそう見えたかもしれない。
「名前がわからないような奴、アンタは泊めてくれないかも知れないじゃないか」
 二人の事情を知るものが居れば『問題はそこなのか?』という突っ込み必死の返答に、アレックスがため息と共に額に手を当てる。焦るシンを気遣ったわけではないだろうが、彼女がおっとりと口を開く。
「ステラ」
 シンとアレックスが、ゆっくりと彼女を振り返った。

なんだかもう、当初考えていた話と全然違うんだけど・・・。どこでこうなってしまったのだろう。ここまで書いておいてなんですが、実は未だにシンのキャラがよく掴めていない。彼はガキで、でも孤独を知っていて。短気でおだてに弱く、捻くれ者なのに、本当はシャイ。自分正義で行動し、いつも絶望の淵の一歩手前まで追い込まれるけれど、運命が彼を未来へと導いている。こんなイメージなんだけど、激しく勘違いしてますかね。

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