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 Level 25



「アンタの友人って何て名前ですか?」
「は?」
「だから、中にいるかも知れない友達の名前!」

 何を戸惑っているのだろう。
 シンはびっくりして、口に出すのを迷っているアイテム屋を見上げた。聞き出すまではダンジョンに行かないぞ、と暗に脅して「教えてくださいよ」と駄目押しした。

「イザーク・・・イザークって言うんだ。もし会えたら、よろしく伝えておいてくれ」
「イザークさん、ですね」
「チェスでよく勝負をしたんだ。次のチャリオットで俺のチェックメイトだったのに」

 シンの肩に置かれたアスランの手がかすかに震えているのか伝わってくる。
 それも彼が手を離すまでの短い間のことで、すぐに笑顔で説教をかましそうに見下ろして懇々とダンジョンでの心得を話し出した。先輩としてアドバイスをしているつもりなのだろうが、現役のシンには大きなお世話だ。

「分かってますってっ!」
「分かっていない。ここのダンジョンは普通じゃないんだ。だからしっかり装備を整えてだな・・・」

 まだ買わせる気かよ。森の中の小屋でアイテムをしこたま買わされたシンには反って逆効果で。もう結構とばかりに軽く聞き流して、手を振る。シンはなおも言い募ろうとするアイテム屋を残してレイ達が何とか解除した結果の向こうにある石の門へと向かう。

「待てっ、シン!」
「まだ、何か―――っ!?」

 急に額に乗せられた冷たい手に目を瞠れば、アスランの碧の瞳が目の前にあった。
 シンよりも背の高い彼の瞳が目の前にあるなんてありえないのに、シンの頭の中に直接入り込んでくる瞳。

 君にドラゴンの加護を。
 俺にはこれが精一杯だから。

 いつかも見た、美しい瞳の奥でバチバチと上がるもの。それが炎だと気がついた瞬間、燃え上がる炎に身を包まれる感覚がして、触れられた額からそれを押し留めるように冷気が流れ込む。

 いっ、いやだっ!

 身体を震わせて咄嗟に身を離そうとした瞬間にはその手は離れていて、アスランもただシンを見ているのみ。
「あっ、びっくりした」

 炎に包まれる感覚が懐かしいなんてあるわけない。心地よい感覚を手放したくないと思ったことを考えないようにして、門を目指して気を引き締める。レイやルナも装備を点検し、メイリンが背負い袋の中を確認している。

「よし! 行って、玉砕して来いっ。骨は拾ってやる」
「そういう言い方ないだろっ!」
「ひどいですぅ」

 スマンスマンと広げたアイテムをしまい込んで、もう一度シン達4人を見回した。

「無茶するなよ」

 シンに限らずレイもルナマリアやメイリンも緩んだ頬を引き締めて、丘の迷宮へと進んでいった。一人、アスランを残して。

「行っちゃった」

 空中から姿を現した小さな妖精が、アスランの肩に留まる。
「行かないの? あの子の炎を媒介に中に入れるんじゃないの?」
「もう一万年も待ったんだし。それに、手助けしたところで、ドラゴンの瞳にはお見通しだ」
「そんなこと言って、危なくなったら駆けつける気でいるでしょ」
「それは・・・否定しない」

 桃色の髪をふわりと浮かせ、背の虹色の羽を振るわせて妖精が浮かび上がる。
 拳大の大きさしかない妖精がアスランの顔の前に陣取って、片手はしっかり腰に当てて、小さな指でびしっと指す。
「こらっ、甘やかさないっ! いくらシンが―――」
「まあまあ、ミーア。俺はただ嬉しいんだよ」

 イザークのこと聞かれたの、初めてだったから。

「だから、今回はスイッチ入れただけで良しとし・・・っ!?」
「ミーアっ!!」
 アスランの服の内側に妖精のミーアがもぐりこむ。
 太陽の光が遮られ、頭上で羽ばたきがした。

「やっぱり君だったんだ」

 丘の迷宮の麓に真っ白なペガサスに乗った騎士が降り立った。

「あの時、カオティックの奴らを退ける為に貼った結界だね。おかげで僕達ローフルも手出しできなくなっちゃったけど、竜封じの結界もまんざら無駄じゃなかったんだ。こんな所で何をしているの?」
「お前こそ、何の用だ」
 ペガサスから降りて白いマントをファサッと翻す。アスランを見てニコッと笑い、さっとその笑顔を引っ込めると、紫の瞳が彼の碧の瞳を射た。紫の瞳の中の縦長の虹彩に、碧の瞳の虹彩がキュッと引き締まる。

「そんなの、レッドドラゴン以外にないじゃない」



 Dungeon GF


 明かりの届かない地中でシン達は早速道に迷っていた。
 外からは丘だったこの迷宮の中のどこに杖が眠っているのか皆目検討がつかないのだ。石の門をくぐり、崩れかけた階段を下りて入り込んだはいいが、内部は文字通り迷路のようになっている。

「これは難題だな」
「開封の呪文、メイリン使えるわよね」

「モンスターいないのかな」

 まだ一行は一度もモンスターと遭遇していないが、いつ襲ってきてもいいように準備だけは万全だ。先頭を行くシンがランタンを持ち、続いてメイリン、ルナマリア、レイと続く。一歩を進むたびに亀裂を生んでひび割れていく石の階段にそろそろとしか進めない。
 丘なのだから、石の階段は登るものだ。
 登りきった先にある、これまた崩れそうな石の扉。見たこともない金属で補強されているから、辛うじて扉の役割を果たしている。

「皆、準備いいよな・・・」

 シンとレイが二人かかりで動かして開けた向こうには、暗闇の空間が広がっていた。


 Dungeon F1


「何よ、何もいないじゃない」
「行き止まりなの?」

 ガランとした空間には何もなく、いや、元はテーブルだったろう石化した木や衝立、石の壁に備え付けられた武器らしきもの。ただ一つ違ったのは、そこが石に覆われていなかったという事。歩くたびにかび臭い湿った土の匂いが沸き立つ。

「いや、何かいる」

 シンはランタンを高く上げて、目に付いた大昔のテーブルに置く。目を凝らすが「やはり何もない」と言おうとした時、がらんどうの空間の中央部分が盛り上がるのが見えた。

「何だっ!?」

 それは人の大きさまでに盛り上がると、土が凝縮して人の形を取り始める。ご丁寧に土でできた鎧をつけ、盾と剣を装備をしていた。

「大地のエレメンタルだっ!」

 シンは初めて見るモンスターだが、レイやルナマリアが知っていた。大慌てで、エレメンタル用の装備を身にまとう。メイリンも咄嗟に防御体制を取る。

「なるほど。閉ざされた空間だったからモンスターはいないが、変わりにエレメンタルか!」

 何が、どう変わりなんだ!?
 シンは見えない会話に苛立ちつつ、そんなことを問いただしている余裕はなかった。暗がりの土のエレメンタルが動き出した。

「完全形になるまでに片付けるぞっ!」
「疾風!」

 ルナマリアの魔法がエレメンタルに向かう。風の刃が土の盾を吹き飛ばし、と同時に土が盛り上がって、足元の地面を牙のように向かって来る。慌てて除けて、ルナマリアが次の魔法を放つが、今度は弾かれてしまった。

「土のエレメンタルの固さは半端じゃない。シン、お前の剣じゃないとダメージを与えられない」
「分かっているよっ!」
 しかし、エレメンタルを中心に放射状に伸びる土の壁が行く手を阻む。メイリンが除けきれなかったルナマリアに回復魔法をかけている。もたもたすればするほど、こちらの被害が増えていく。

 こんな、土のモンスターごときに手間取ってたまるかっ!
 シンは向かってくる土の牙を剣で薙ぎ払って、痺れる手に力をこめて振り下ろす。
 同時にレイが放った火矢がシンのソードに絡みつき、空間を照らす。
 頭を砕き、横殴りに思いっきり振り払った。

 オオオォォォ・・・ 

 後方に飛ばされるエレメンタルが、壁にぶち当たってボロボロと崩れてしまえば土のエレメンタルの消滅は一瞬だった。今のはなんだったと言うほどの静けさと暗闇が。

「あれ、見てください!」

 エレメンタルが崩れた場所。土の壁が崩れて、変色した石の扉が見えていた。



 Dungeon F2


 エレメンタルとは。
 地水火風の4大元素が長い時間をかけて個体化としての力を持った存在だと言えばそれまでだが、ローフルとカオティックの2大属性を省けば魔法の基礎属性でもある。元々、全ての物体が何らかの属性を帯びていて、それは人にもモンスターにも物にもあり、行き過ぎた属性は存在を歪ませる。つまり、自然や動物のモンスター化だ。
 ソードに炎の属性をつけると、どうもダメージがアップするらしい・・・程度にしか知らない属性のことを、レイとルナマリアから懇切丁寧に説明される。

「シンはどう見ても火属性よね」
「怒りっぽそうですもんね」

 昔から切れやすい性格で、ってそんなことは関係ないだろ。

「で、なんでエレメンタルがいると他のモンスターがいないんだよ」
「エレメンタルはある意味、属性だけのモンスターなのよ。エレメンタルが生まれると、モンスターを産み出すほどエレメント属性が残らないわけ」

 今までとは格段にマシなフロアーを進みながら、随分と気楽な気分の4人である。要はエレメンタルにさえ出会わなければいいのだ。土のフロアーを上がった次の階はまともな床で、気をつけないと床石を踏み抜く危険はあるにしても、各部屋の保存状態も随分とマシである。

「なんと言うかさ、このダンジョンって・・・」

 下の階は意味不明だったが、この階にははっきりとした部屋がある。
 いくつもの部屋が廊下沿いに並び、左右に展開している。開かない扉も魔法で開けて中を確認してみる。これらは皆、ダンジョンにありがちな、ただ壁を作って宝箱を隠しておくだけの空間ではなかった。

「誰か住んでいたみたい」
「ほーんと、これって超骨董品なんじゃないかしら」

 朽ち果てずに残っていた鏡の前でルナマリアが髪を直す。鏡台らしきそこの引出しをあければ、石細工の髪飾りが出てきた。4人が部屋を移動するたびに空気が揺れて、埃が舞い、くもの巣を掻い潜ってまた別の部屋に入る。

「ここってっ!」
「・・・台所?」
「あまり弄るなよ、エレメンタルの住処だ」

 シンは思わず壁にかけられたフライパンを持ち上げ、無造作に並べられた鍋に目が言った。勿論中身はなかったが、その代わり、ずっと奥にあった一つに目が止まる。

 周りが波波のなった変わった形の鍋と、ちゃんと被さっている蓋。
 脳裏にちらつく金の髪と無邪気な瞳。
 殆ど無意識の内に鍋の蓋を取っていた。

「シンっ!!」

 吹き付ける熱風が頬を打って、シンは慌てて蓋を閉じる。
 取っ手が持っていられないほどの熱を持ち、あまりの熱さにその鍋を落とす。

「今度は・・・火のエレメンタルかっ!」
「もう、シンの馬鹿っ。せっかくやり過ごせるかと思ったのにっ」
「気付いているなら教えてくれよっ」

 背中合わせにシンとルナマリアが言い合う。
 台所の床に落ちた鍋はちょうどいい具合に落ちた表紙で蓋が外れ、そこから火のエレメンタルが膨れ上がった。

「アンタ、火属性でしょ。てっきり気付いているもんだと思ったわよっ!!」
「んなもん、分かるかっ」
「はあ。なんでっ??」

「二人とも、喋ってる場合かっ!」

 大きな火球がシンとルナマリアに向かって放たれた。 
 防御も間に合わず火に包まれる。
 シンはルナマリアを突き飛ばして、ソードで斬り付けた。斬れた筈の火がソードに纏わりついて、シンにまで襲い掛かる。まるで活きている火だ。

 こんな火ごときっ!

 シンの深紅の瞳に飛び交う火の球が移り、エレメンタルの火を纏わりつかせたまま眼前のエレメンタルに向かう。
「馬鹿はよせっ!」
「メイリン、アイスシールドっ!!」
 もう殆ど火達磨になったシンとエレメンタルがぶつかり、大きな爆発が起こった。オレンジ色の火が燃え上がり、紅い火柱がドォオンと天井を突き破った。メイリンの補助を受けたルナのシールド魔法がシンを守ったが果たして間に合ったのだろうか。
 崩れた天井から吹き込んでくる風が、埃と煙を舞い上がらせて視界はゼロ。

「おねえちゃんっ!?」
「やな・・・予感」

 吹き込む風が勢いを増して、これはおかしいと思ったのもつかの間。
 まず倒れたシンが巻き上げられたかと思うと、3人が暴風となった風に浚われて台所の天井に吸い込まれた。



続く

くっ。キラが出て来てしまった。そんな予定なかったのに、なぜ。と言うわけで、エレメンタル戦行きますよ。