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 Dungeon F5 Dragon's Eye


 図書室への扉しかなかった通路の突き当たりに石の扉が出現していた。
 見事な竜のレリーフはこのダンジョンが長い間放置されてきたとは思えない。

 シンはその前に立って、ドラゴンの瞳を取り出した。
 嵌めろと言わんばかりに、竜の片目が空洞になっている。もう片方には同じような青いクリスタルがはめ込まれていて、4人を映している。一度、手で持ち替えて、シンはドラゴンの瞳をレリーフに嵌め込んだ。

 ・・・・・・。

「何も起こらんな」
「向きとかあるんじゃないの?」
 ルナマリアがドラゴンの瞳を外して嵌め直すが、今度は間髪いれずに反応があった。

「お前じゃないだろう」

 ルナマリアに見つめられて、シンは首を振る。
 その後、ルナマリアに同じ事を聞かれたレイも否定していた。

「ギャ―――ッ!」
 一斉に皆が2・3歩下がって、レリーフを見上げた。
 シンがそろそろと近づいて、ドラゴンの瞳を嵌める。やはり何も起こらないから、背伸びをして自分よりやや高い位置にあるドラゴンの瞳を覗き込んだ。

 ギョロリ。

 青い瞳の中の細長い虹彩がシンを見下ろした。
 シンは口から心臓が飛び出る程びっくりして、息を止めた。

「ふむ、なるほど・・・何とも頼りないことだが、一万年も経つとなれば仕方あるまい」

 今までただのクリスタルだった反対の目も、ギョロリと目を剥いてシンを見下ろす。
 そのドラゴンが二つに割れて、内側に扉が開いた。


 Dungeon F6 Mater's Room


 書斎、としか言いようがない部屋。しかも、それほど広くない。
 調度品は素晴らしいが、年代物であることに変わりがなかった。
 部屋を見回していた4人の目が、ある場所で留まる。

 窓があったと思わしき所で、外を眺めるようにもたれている物体。
 何よりそれが抱えているもの。

 ジュールの杖。

 シンは駆け寄って手を伸ばす。
 カタリと杖を抱えていたそれが首を回す。回すほどのものは何もないけれど。

「お前がシンか?」

 ビクっと手を引っ込める。声が聞こえたのだ。入り口のレリーフから聞こえた声と同じもので、まだ若い声だが・・・。
 有り得ないだろう。 
 杖を抱きかかえている物体、それは等身大の骸骨なのだ。

「どっから声っ!?」
「貴様の目の前だろうが、細かいことは気にするな」

 うっわ。まじ? 骸骨がしゃべってるよ。
 シンは恐る恐る、杖に触れてみる。
「杖を手に入れてどうするつもりだ」
「アンタ、誰だよっ」
 もはや骸骨だろうが、言葉を話し、会話が成立するなら細かい事を気にしないシンが誰かと問う。

「俺はイザーク・ジュール。この杖を創ったものだ」

 えっ。イザークって・・・?

 ジュールって杖の。でも、イザークってアスランの。
 ってか、骸骨だし。

「どうした何を驚いている。一万年も経ったんだ、こんな姿になっても不思議じゃないだろうが」

 そうじゃないけど、いや、それも驚きだけど。いっそ、何から何まで驚きの連続なんだけど、この骸骨がイザークって奴なら、アスランも一万年前からいるって事で。

「それとも、アスランの事か?」
「なっ、なんで・・・」
「分かるさ。ドラゴンの瞳は俺の目も同然だ」

 一部始終を見られていたのだ。だから、ルナがはめ込んだ時に違うと言ったのだ。
 だけどそれだけじゃ説明できない問題もある。

「だって、あの人よろしくって・・・チャリオットで勝ちだって」
「ははん。それはついさっき、お前がやっただろうが」

 カタカタカタ・・・と骨を打ち鳴らすだけで笑っているように聞こえるのはなぜだろう。
 表情なんて頭蓋骨のどこにもないのに。

「今のアスランは俺が無理やり動かしている人形だ」
「人形って・・・」
「奴の手、凍えるほど冷たかっただろう」

 掴まれた手首も、額に載せられた手のひらもとても冷たかった。そう、とても生きている人間とは思えないほどで。レイとルナ、メイリンさえ、驚いているのか息を呑むのが分かる。

「・・・そういう事だ。だが、それも杖がここにあるまでだ。もう終る」

 アスランの望みは一体なんだったのだろう。
 まるで杖が暴かれればその存在をこの骸骨と共に消してしまいそうだ。
 闇の森のように、いつか消えてしまうのではないだろうか。

 シンには分からないことだらけで、目の前にジュールの杖があることだけが唯一確かなことだった。その杖を手に入れて、杖の力でステラを・・・。それが叶わない時は、ねぐらの壁にでも飾ってやろうか。

「まあいい。貴様はここまで辿り着いた、その資格はある。杖はやろう」

 シンは骸骨の抱えている杖に手をかける。
 骸骨のイザークも杖を握っている。力ずくで引き抜けば奪えそうなのにびくともしない。

「この杖が、レッドドラゴンの封印を解くと知っていて、覚悟はいいか?」

 建国の昔にゴールドドラゴンに討たれたカオティックの雄。
 残らず討ち取られて、今や伝説の中にのみ存在する邪悪な存在。

 そのドラゴンがこの杖の力で蘇る。
 シンには必要のない力だ。
 王国に戦乱をもたらすだけのこんな力、王女にも執政にもいらないはずだ。では、なぜこの杖を求めるのだろう。

「杖の力を振るえば災いをもたらすだろう。その災いは決して消えることはない。呪いを解くまではな」
「呪いはどうやって解くんです」
「それは自分で見つけることだ」

 お前がその血の重みに耐えられればいいがな。
 いや、寧ろ、お前でなければ駄目と言うべきか。
 レッドドラゴンの血を引く人間よ。

 骨の指が杖から離れて、ジュールの杖がシンの手の中に収まる。

 今、何と言った。

 骸骨はしばらくシンを見ていて、ガクリと頭を垂れた。それっきり動かなくなって、シンは手の中の杖を見下ろした。シンプルな紅い杖で、先端に宝珠がついている。思ったよりそれは短く、さして重さを感じなかった。

 骸骨はもはやただの骨の固まりとなって、何も語ろうとはしない。

 軽い振動が始まる。崩壊が始まるのだ。
 丁度類が揺れて、埃がぱらぱらと降って来た。

「シン・・・それ、どうするの」
「杖のこと、知らせたい人・・・でいいのかな、いるんだ」

 ルナマリアが頷いた。レイにも依存はないだろう。メイリンが反対するはずもない。
 シン達はすぐにその部屋を出て、図書室を横目にホールに飛び降りた。走りに走って、丘のダンジョンの外に出る。振り返れば、たった今飛び出してきた丘が崩れ形を変えようとしていた。

「もう隠す必要はないってことかな。イザークの城かあ、久しぶりに見るね」

 次第に姿を現す、ダンジョンだったものの真の姿よりも、声のした方を恐る恐る見た。一万年前の城にしては、その石造りの城は形を残していて、それを感慨深く見つめる男。
 白いマントを羽織り、ペガサスを連れて。

「ア、アスランっ!?」

 ペガサスの翼の間に背負われている人物は、シンがイザークの最後を伝えようとしたその人で。気に食わない笑みを浮かべて、シンに手を差し出した。

「渡してくれるよね、それ」




続く

せっかくの骸骨が~。このシーンが書きたくて始めたD&Dだったのに、意外とあっさり? 骸骨だって、イザークなんですよと言い張ってみる。