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D&D 終焉

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 Level 30



 女王の一撃を余裕で受け止めるキラがシンの前に回りこむ。
 腰からクナイを投げるがそれさえ撃ち落されるのを見て、いや、それこそがおとりで。

 かかったなっ!

 執政に向かって振り上げる透き通った刃。
 動けない執政にシンは取ったと確信した。
 杖を持つ右手に届くその時、黒い風が視界を覆った。剣は軌道を逸らして鉄仮面を掠める。ちょうど、留め金の部分だったのか、議会塔の吹きさらしの床に落ち、ごろんと転がって、塔の端に消えた。

 ザア―――と流れる長い、ピンク色の、髪。

 鉄仮面の下に隠されていたのは、まだ若い女の顔だった。
 真っ先に声を上げたのは、女王カガリ。

「あなたはっ!?」

「ラクスっ」
「大丈夫ですわ。掠めただけです」 
 腕から血を流す長い髪の女を庇うように、キラがシンに向かって剣を向ける。
 見下ろす瞳には一切の光を宿さず、有無を言わさぬ響きがあった。シンは動けずにただ睨み上げた。ピンク色の長い髪の女と当代最強と謳われるメイジにして騎士の男。

 その正体は、おそらく、ドラゴン。
 そいつが見を挺して守る、この女は一体何者だ。

「ラクス様っ! なぜですかっ」

 ラクス。ラクス・・・・・クライン。
 その名は遥か昔、王国建国の時に出てくる名。
 今までのシンならきっと「でたらめを言うな!」と一蹴したことでも、散々経験した衝撃の事実の前には認めざるを得ない。目の前の女が一万年も生きているエターナル初代女王なのだ。

 若く、その容姿に衰えもない。
 憐れむように、ラクス・クラインがジュールの杖を手にしたまま新女王を見る。
「カガリ。あなたもエターナルの女王となり、真にエターナルのことを考えるなら、ゴールドドラゴンを引かせなさい」
「何を言われるっ!? もはや私の命など聞きはしないのにっ」

 先ほどからレッドドラゴンに特攻を仕掛ける光景が続き、今だ止まらない。
 女王は君主の杖で「引けっ!」と命ずるが、虚しく風に流されるだけ。

「それ程までにカオティックの力が恐ろしいものだという事です。だからこそ、暗闇を打ち破る為に明聖があるのです。ゴールドドラゴンこそ、我が王国の要」

 まだ若い、即位したての女王の目から涙が零れていた。

「そんなことは分かっている。だが、ドラゴンに頼ってばかりではエターナルはますます疲弊していくばかりだ。貴族だけでなく、国民から才ある者の力を集めなければいずれ滅びてしまう。貴族だの平民だの言っている余裕はないんだっ!!」



 Level 31



 それが女王の戦う理由。
 シンが願って止まない事。

「いくら人が力を合わせようとも、キラがローフルの頂点に立つ、世界の導き手である事は変わりませんわ。下らない事で使役していいものではありません」

 平然したたおやかな女の言葉をシンの耳は聞き流さなかった。

 下らない? 下らないだって?
 国民と貴族を平等に扱おうとすることが、下らない。

 大人しく聞いていれば、何を勝手なことをぺらぺらと。

「ふざけるなっ!」

 何がゴールドドラゴンだ。
 何が世界の導き手だ。

 シンの胸で金の鱗のペンダントが揺れる。
 ルナマリアがくれたステラの形見となったそれ。

 だったら、なぜステラが死ななきゃならなかったんだ。
 ローフルの頂点に立つ生き物だと豪語するなら、ちゃんと世界を守れよ。
 邪悪の欠片も残さないほどに、幸せで暖かい世界を作ればいいのに。

 レッドドラゴンの封印を解く杖?

 そんな物があるから。
 シンは女王が持つジュールの杖を狙って剣を繰り出す。
 案の定、それはキラに防がれてしまうけれど、何度でも打ち込んだ。重さを感じさせない剣はシンの思うままに空を切り裂き、白いマントの切れ端が舞う。

 こいつが何者であろうとも。
 エターナルの守護竜だろうが、そんなことは関係ない。

「ローフル? カオティック? それが何だ!」

 切り結んだ弾みで腕が痺れようが、炎の球をモノともせずに睨み合う。
 曖昧な言葉で未来を語っても、今日を生きるのに人は精一杯なのだ。
 明日のことなんて、分からない。

「俺たちが欲しいのは言葉じゃないっ!」

 深紅の瞳はまるでレッドドラゴンの色に似て燃え上がり、弾けた剣が両者、突き出される。
 炎が透明な刃に宿って黒い鎧を突き抜けた。

 そこは、偶然にも金の鎖帷子にあって、唯一覆われていない隙間。
 キラの剣先から、シンの心臓を守る小さな一欠けらがあった場所。

 胸を押さえる最強のメイジが、シンを呆然と見つめていた。
 紫の瞳が限界まで見開かれて、息が止まった口が開いている。

「こんな・・・まさか僕が君ごときに・・・こんなこと・・・」

 シンは容赦なく抜き払うと、王国の守護者なるものが議会塔の最上階から落ちた。
 いつかのシーンの焼き写しのように、血の糸を引く。


 Level 32



「キラッ!?」

 二人の女王がその姿を追って覗き込んだ所に、階下から黄金の光が吹き上げる。
 みるみる容を整えて、竜を形作る。
 レッドドラゴンとはまた違う竜は、金色をした中で唯一、同等の大きさだった。2体のドラゴンが対峙していたのは一瞬で、傷ついて血を流すレッドドラゴンにゴールドドラゴンが牙を立てる。首の付け根に噛みつかれ、咆哮をあげる赤い竜。
 牙がめり込んで、そこに新たに血の滝が生まれる。
 ぎこちなく動く紅い翼を、ゴールドドラゴンが翼をはためかせて叩き伏せる。

「大人しくするのですっ!」
 建国の女王がジュールの杖を再度振った。

 シンは、嬉々としてこの悲惨な光景を見下ろしているピンクの髪の女を見る。
 このまま、喰われてしまうのか。
 冗談じゃない・・・あれはアスランなんだぞ。

「お前らって奴は―――っ!」

 キラさえいなければ、強引に杖を奪うことなど盗賊のシンには造作もないことで。
 取り戻したジュールの杖を振り上げて、レッドドラゴンを見下ろした。
「何をする気だっ」
「ただの人間がレッドドラゴンを操るなど、おやめなさいっ!」
 悲鳴のような声を上げる女と駆け寄る女王。

 ジュールの杖があればレッドドラゴンを自由にできる。
 そうだ、この、上から下まで金ぴかの女王とおなじ力がこの杖にはある。
 一生遊んで暮らすことだって、エターナルの王になることだってできる。



 ・・・力に取り込まれるな・・・



 蘇る忠告は、この時の為にあったのだ。
 どうか自分をただの力として扱わないでくれ、と。

 振り下ろすジュールの杖が最上階の床にぶつかり、先端にあった宝珠が粉々に砕け散った。その瞬間からレッドドラゴンが翼が大きく広げる。ゴールドドラゴンの牙が外れ、2体の竜がぶつかり合う。

「なんて事をっ!!」
 髪を振り乱して、ピンクの髪の女が叫ぶ。
 新女王も驚いて目を瞠っている。

 制御を外れたレッドドラゴンと押さえ込もうとするゴールドドラゴンがもつれ合って議会塔に激突した。その衝撃に耐えられるはずもなく、議会塔は大きく揺れて途中から折れる。最上階にいた3人は、為す術もなく空中に投げ出されたのだった。




いよいよクライマックス。ってか、バーサス・キラがクライマックス!だったはず(にしてはあっさりだよ)。後は〆に入るだけのはずですが、例によって予定は未定で、もう怒涛の展開。ウワワン。

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