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 Level 33



 議会塔が傾いて王都をゆすり、埃と煙と炎が王都を覆う。
 いつのまにかドラゴンはゴールドドラゴン1体きりになっていた。王宮の塔の天辺に留まっていて、まるで針の上にいるように、塔が小さく見えた。

 お、落ちるっ!

 飛んでいる感覚はすぐに落ちる感覚に変わって、シンは地上までの距離を測ろうとしてあまりの高さに諦めた。それでも、万が一を探して、必死で身体を動かす。

 あれは・・・。
 見覚えのある色を認めた瞬間、ふいに身体が軽くなって落下が止まった。
 そろそろと炎と瓦礫の間に足を下ろす。

「シンっ、無事?」 
「ルナマリアっ?!」

 駆け寄るルナマリア。メイリンとレイもいて、すぐに3人に囲まれてしまった。
「どうして、ここに・・・お前ら」
 丘の迷宮から王都までは馬車で丸3日はかかるだろう。
「それが、驚きなのよっ!! 私達をここまで運んでくれたっ・・・てのが・・・」
 両手を握ってルナマリアが身を乗り出したが、視線がシンから下のほうへと移る。右手に持っているものに気が付いて目を丸くした。
「ちょっと、それ! あんたっ!?」

 そう。シンはジュールの杖の宝珠を叩き割ってしまったのだ。
 もはやレッドドラゴンを操ることなどできそうもないそれに目を落とす。

「あっ、これ・・・」

 シンが事情を説明しようとした時、再び、ドオォォンと轟音が響いた。それとともに突風が鼓膜を打ち、空から瓦礫が降ってきた。頭上を覆う金色の翼はゴールドドラゴンのもの。
 竜が飛び立ったのだ。一直線に向かう先にいるのは―――。

 4人が目を向けた先に、四肢をついて起き上がろうとしている人物がいた。
 服は破れ全身から血を流すその人を4人の誰もが知っていた。
「アスランっ!?」
 彼が顔を上げる。けれど、目前にゴールドドラゴンが迫っていて。
 ぐわっと牙を剥き出しにした口蓋の奥に炎の揺らぎが起こる。

「やめろ―――っ!!」

 シンは手を精一杯伸ばして叫ぶ。

 シン達の視界の中に落ちてくる塔の残骸が掻き消える。
 ゴールドドラゴンが見事な静止を見せて、アスランの前に降り立つ。巨体を納めるのに邪魔になる地上の建物が崩れて埃と煙が舞い上がり、薄れて引いたそこに、佇む姿があった。まるで静かに立ちはだかるように。

「運んでくれたの、彼よ」

 イザーク・ジュール。

 ルナマリアが先ほどの会話を続ける中で、銀の髪が白いローブと共に揺れている。
 どこかでその名前を聞いた。
 ああ、そうだ。確か、この杖の作者だ。迷宮の書斎にいた・・・骸骨・・・。

「えええぇぇぇ!?」 

 だって、骸骨で、アイツ死んでだじゃん・・・。ナニ、あれ。
 シンは目を瞠り、切りそろえられた銀髪のオカッパ男を見る。

 ゴールドドラゴンを前に全く動じず、ドラゴンが光り輝いて人の大きさに収束する。今度はシンの変わりに、ルナ達3人が驚く番だった。
「うそっ。あの人、ゴールドドラゴンなの?!」
 最も驚いたのは王宮勤めのメイリン。
 4人がそれぞれに驚きを隠せない中、玲瓏な声が降ってきた。もはやシンにとっては耳障りこの上ない女の声に反射的に顔を顰める。

「エターナルの危機にイザーク様まで御出でくださったのですか?」

 瞬時に返される答え。

「そんな分けないだろう」

 骸骨だった時と寸分違わない声。

「そこのバカを連れ戻しに来ただけだ」
「それは困りますわ。エターナルの為に、キラの為に、アスランが必要なのですから」

「ラクス・・・」

 キラに寄り添い、イザークと対峙する建国の女王は勝ち誇ったようにイザークを見る。しかし、全幅の信頼を寄せていた相手が、両肩に手を置いて、距離を取る。安心して背中を任せていたはずのキラの態度に、ピンクの髪の女が振り返った。

「もう、いいだろ・・・僕達は間違ったんだ」



 Level 34



「ローフルもカオティックもどっちも必要なんだ。・・・だから・・・」

 一万年前に、僕らはローフルだけを正しいものとして彼らを駆逐してしまった。
 光溢れるこの地。悪や闇のない世界。邪悪なものに脅かされない世界。

「この世界は、不自然なんだ」
「何を今更言っている。失った時間、散った命が戻ってくる事はない」

 本当に今更だ。

 シンは静かに言葉を紡ぐ3人を遠巻きにして、アスランに近づくチャンスを狙う。ルナマリアとメイリンに小突かれて、再びイザークの後のアスランを見る。あちこち切り裂かれた血塗れの姿。

「それとも、そこまで考えてなかったか? カオティックが滅びれば世界は安定すると思っていたのだろうが。いざ、うまく行かなくなれば今度はアスラン頼みか?」

 抽象的な話はシンにはよく分からない。
 シンの生まれた時代にはもう、カオティックなど伝説と成り果ててローフルが当り前のものとしてあった。両者の争いなどどこにもない。
 ただ在るのは、自分の中で常に葛藤する心。
 善い事と悪い事の線引きと、今日を生き抜くことを天秤にかける毎日。
 善い事がローフルで、悪いことがカオティック。
 世の中はそんな単純じゃない。

 それなのに、世界の安定を単純な二元論で語るキラとそれを糾弾するイザーク。
 いつまでも下らない話なんてしてないで、アスランを助けろよ!
 拳を強く握りこんで、レイに目配せを送った。

「地上に降りて、彼らと戦っているうちに分かったんだ。どっちも必要なんだって、なんとなくだけど」
「当たりまえだっ! 違う考えを悪だと決め付けて、自分達は善だと気取って、あんな山の頂に引き篭っているからだ。見るものも見えん」

 黙って聞いている建国の女王。
 イザークの指摘に一々反応して、苦い顔をするエターナルの金の竜。

「そんなつもりじゃなかったんだ・・・僕達は・・・ただ・・・」

 ただ、何だ。
 今更、大昔のことを世界に対して責任を取れとは言わない。
 シンが言っても仕方がないことだし、例え、裏がどうなっていようとも、エターナルが大陸で一番大きな、一万年も続く比類なき大国であることには変わりない。だけど。

 そんなつもりじゃなかった。

 それで済むなら、誰だって悩まないさ。
 後悔するんじゃないか、間違っているんじゃないか、もしそうなった時、何が自分に降りかかってくるのか。現実に直面した時、言い訳をして許してもらえるなら誰だってそうしたいさ。
 だけど、そんなことは有り得ないのだ。

 盗賊には盗賊なりのルール、王なら王の逃れられない責任がある。
 贖える枠を越えて、決して自由にはなれない。

「お前の言い訳なんてどーでもいいんだよっ!」

 シンは叫び、ルナとメイリンを庇いながら走る。背負い袋をルナマリアになげ、手にした剣を構える。相手は、杖を作った奴と、ゴールドドラゴン。

「その剣を使いこなすか。皮肉なものだ」

 イザークがキラを見据えたまま、シンに話し掛ける。背中越しに聞こえる声は明らかにシンの手にある透明な刃の剣を指していて。

「これでもまだ、戦いますか? ラクス・クライン」

 イザークの後には剣を構えたシンと、ルナマリアとメイリン。弓を結わえたレイに囲まれるようにして顔を上げるアスランがいた。
 対する古の女王には、キラ。

「竜殺しの剣と、銀の竜であるあなたを前にしてできるわけありません」
「ふん。賢明なことだ」

 あたかも竜が相手では部が悪いと言わんばかりだが、建国の女王が穏やかな顔をしてシンを見る。ルナマリアやメイリン、レイへと視線を移していく。時は流れ、今、世界を形作っている、この時代に生きているもの達。

「かつて同じ陣営で戦ったあの頃から、随分と時間が経ってしまったのですね」
「死へのいざないは誰にでも平等だ。例えそれが、王国の為に無理をした結果だとしてもな」

 それが、因果応報というものだ。

 小さく零す。
 イザークが振り向いて、シンの肩に手を置く。ひんやりとして冷たい手は、かつてのアスランと同じ感触だった。

 シルバードラゴン。
 蒼い瞳はドラゴンのもの。 

「お前の選択は間違ってない」
「俺・・・杖を」
「世界はもう、伝説からは解放されるべきなのさ」

 明聖と言う絶対の価値基準から。
 ゴールドドラゴンと言う、絶対の護り手から。




続く、か?


あああ・・・やっぱりこんなありがちな展開に。寝る前はあんなに口からポンポン出てきていたイザークのセリフも、二晩寝たらさっぱり覚えていません。そして、シン、なんか背景だよ。