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 Level 35



 エターナルはもう竜に守られし国じゃない。この国には貴族も平民もない。そう、ドラゴンだって平等に暮らす国にしてみせるから。

 そう言い残した女王が、辛うじて残った王宮のバルコニーに姿を現す。
 王宮の塔のようにバカ高くなく、王都を一望などできなかったけれど、その場所からはきっと皆の顔がよく見えるだろう。

 王宮の崩れた塔から飛び去っていくドラゴンを背にして新女王が宣言する。

 王都の民の歓声が聞こえる。
 市街に横たわるゴールドドラゴン達の死骸は確かに一つの時代の終わりを示していて、燃えた王都の中心で、力を合わせてエターナルを再建しようと協力を呼びかける若い女王に、貴族も平民も共に歓喜の声を上げている。

 その声が離れた森の中にも届く。

「無様だな」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「俺がお前を封印したからだな」

 足を止めた先頭にアスランがいぶかしむ。
「シン・・・何をしているんだ?」

 イザークに支えられて、アスランが立っている。その前にルナマリアとメイリン、少し控えてレイがいて、皆に見守られてシンが立っていた。

 王都の外れ。
 静かな森の中の墓地でシンは石を積み上げただけの墓石にステラと刻んだ。

「杖はちゃんと手に入れたぜ。使い物にならなくなったけどさ」

 中身の無い墓石への、これは報告で。
 胸にぶら下がる金の鱗を握る。キラと対峙した、あの最後の一撃の命運を分けたのはこの金の欠片だった。ステラがあの時手を伸ばして、剥ぎ取ったこの小さな欠片。

「これのおかげで助かったんだぜ」
 この旅を終えて、シンは大切なパートナーを無くしてしまっていた。杖を無事に手に入れ、新女王が新しい国づくりを始める今、シンが一番それを与えたかった少女はいないのだ。ルナマリアがシンの名前を呼び、アスランが躊躇いがちに声を掛けた。
「あの・・・さ、シン」
「そんな声して気遣ってくれなくていいです。俺、この杖を手に入れて、ステラをあんたに生き返らせてもらおうと思ってました」

 ゴールドドラゴンと同等の力を持つ、レッドドラゴンに。何でも叶う魔法のようなものだと思っていた時もあった。もしかしたら奇跡だって、と思っていた。
 だけど、シンは王宮の塔の上、崩れた瓦礫の中で、王国とドラゴンの現実を知った。
 ステラのことは、正直、まだ諦め切れないし、納得いかないけれど。

「それは・・・ごめん。死んだ人間を生き返らせるのは無理だ。だがシン、あのな・・・」
「だから、いいですって」
「俺は治癒術とか回復術とか苦手で、彼女を助けることはできなかったけれど」

 その時、唇を噛むシンと、おろおろしてシンを見るアスランの間に、ピンク色の光が下りてきた。ピュルルルと効果音でもつきそうな妖精が姿を現して、イザークの頭上を回る。

「アスラン! イザーク! あの子、目が醒めたわよっ」

 妖精と、イザーク、アスランが一斉にシンを見る。
 なぜだろう。あの妖精が言うあの子がステラだと思ってしまうなんて、ついさっき、ドラゴンの力でも死んだものを生き返らせることはできないと言われたばかりなのに。

 自然と足が向いて、妖精に「どこだ!」と尋ねる。

 向かった先は、シンが身体を休めていた森の小屋。
 ベッドに横たわっていたのは、間違いなくステラで、シンの呼びかけにうっすらと目を開けた。もう泣くもんかと思ったシンの両眼は涙で潤んで、腕でごしごしとふき取った。

 シンはステラの眠るベッドの傍らに跪いて、手を握ったまま言う。いくら礼を言っても言い足りない気分だ。
「ありがとう、アスラン」
「礼はイザークに言ってくれよ、俺は凍結させただけだからって、これもイザークのおかげだな」

 死んだ人間は生き返らないと言うけれど、これが奇跡と言わずしてなんと言おう。
 凍結の魔法も治癒の魔法も、人に扱えない呪文じゃない。

「そう思うなら、態度で示して欲しいものだな」
「分かっているよ」
 言った途端、アスランがイザークに抱きついたから、小屋の中の住人が目を丸くする。身体から零れる、深紅のオーラは心なし熱をもっていて、珍しくイザークが慌てていた。
「ア、アスランっ!」
 抱き返せずに、イザークの手が泳いでいる。
「一万年もの間、俺を活かし続けただろう。さすがに俺だって、同じ事ができるようになるさ。イザーク、無理をさせてすまない・・・礼を言う」

 コホン。

 と、ルナマリアが咳払いをするまでアスランはイザークを抱きしめ続け、その後、二人はどちらからなく吹き出す。
「お前、シンにも感謝しろよ。こうして自由になれたのは奴のおかげだ」
「チェスの手は俺が教えてやったんだけどな。俺の勝ちだっただろ」
「あの勝負は無効だろう。指し手が貴様じゃなかったからな」

 腕を組んで僅かに背の低いアスランを見下ろすイザーク。

「素直じゃないなっ! 君は」
「なんだとっ! 久しぶりに会えたというのに何だその態度は。勝負だっ、表に出ろっ」

 元気になった途端に言い争いを始める二人に、妖精のミーアが肩を竦める。
「こらっ、ミーア。お前どっちの味方だっ。シンも、笑ってないで、ちゃんとステラの看病をしてろよ!」
 そう言って、ドアを蹴破ってドラゴン2匹は小屋を飛び出していった。

 くすっ。

 振り返る。
 シンはベッドの上で目を開けたステラを見た。

「ステラっ!」



  Level 36 (読むかどうかかは各自の判断ということで)



 Ending



 ステラが歩けるようになって安心したのかメイリンとルナマリアが王都に帰り、レイがワイバーンに乗って去って行って1週間。妖精のミーアがルナマリアの手紙を届けに来た。

 内容は、大至急手を借りたいと。
 内乱の混乱に乗じて王家の宝が盗まれてしまったと言う。

 ちょうどいいタイミングだ。

 ステラの怪我が治ったのもあって、シンは腰を上げる。
 ついに、シンとステラもこの森の小屋を離れる時が来たのだ。旅立ちの朝。見送りに出たアスランにシンは呼び止められた。

「そうだ、シン!」
「何ですか?」

「これ、やるよ。俺を自由にしてくれたお礼だ」

 そう言って手渡されたのは、人の頭より一回り小さい丸い物体。
 真っ赤じゃなければ、大き目の卵と言って差し支えないもの。

「シーン―――っ!」
「今行くからっ」
 ステラの呼び声に、シンは急いでそれを背負い袋の中にしまう。
 小走りに近寄って、ステラのずり落ちそうな背負い袋を背負い直してやる。小屋の入り口でその様子を見ている二人の会話は届かなかった。

「いいのか? お前は古の悪しき竜の直系だろう」
「だからこそ、だ。シンなら信頼できるし、一族の血を遠く受け継いでいる。俺が一万年の間この世界を流離ったように、人の目線でもっと世界を知ったほうがいいんだ。何より、シンだから、俺は託したい」
 アスランが眩しいものでも見るように、待っている2人を見る。
 ドラゴンの時代は終ったのかも知れない、だが、絶えたわけではない。シンのように、人の血に混じって薄く広まっていく。
「確かに、貴様が二人も三人も子育てをするのは無理だな。キラやあのガキに預けて正解だ」
「何言ってるんだ? イザークが育てるんだぞ」
 顎に添えていた手を離れてイザークの顔が横を向き、アスランを見る。
「だって、イザークなら、躾とかバッチリそうじゃないか」

 一向に来ないアスランに業を煮やしたステラが手を振って呼ぶ。
「アスラン、早く―――っ」
「はいはい」 
 森の小屋の前、2人が待ち構えているところにアスランが加わる。
「じゃ、いいか?」
「俺っ、竜の背に乗るのって初めてですよ!」

 シンはアスランからの申し出に、その背に乗せてくれと頼んでいた。王都で女王がゴールドドラゴンに乗って、空を縦横無尽に飛び回っていたのを見て、ちょっぴり羨ましいと思っていたのは内緒だ。

 紅い光に包まれて、シン達の前にレッドドラゴンが出現する。
 あの時感じた恐怖は今はもう感じなかった。感じなかったのだが・・・。

 ちまっ。

 目の前に現れたのは、2人を辛うじて乗せられるかという竜。
 王都で見た、ゴールドドラゴンと張り合う巨大な竜の影も形もない。いや、形はある。紅い鱗に覆われ、鍵爪のついた大きな翼、碧のドラゴンの瞳に後に伸びた二本の角と、その形はレッドドラゴンそのものであるが。

「なんですか、アンタこの大きさはっ」
「だって、竜態を取るの久々だったからさ、ちょっと筋肉痛で。あのサイズは辛い」
 戸口から歩いてきたイザークの一喝が飛ぶ。
「この腰抜けがっ」
「一万年ぶりだったんだから仕方ないだろうっ!」

 声だけはしっかりアスランの声だった。最初にシンが乗って、ステラを引き上げる。2人がそれぞれの場所を分捕ると、アスランが翼を広げた。
「じゃ、行って来るから」
 羽ばたきが森の木々を震わせ、草花を舞い上がらせた。
 イザークがみるみる小さくなり、レッドドラゴンが舞い上がる。

 青空と大地の境界線に王都が遠く見えた。
 ドラゴンがシンとステラを乗せて空を飛び、シン達の新しい冒険が始まる。


 一つはドラゴンズピークの金の竜に。
 一つは姿無き丘の城の主に。
 最後の一つは、人に。

 竜の卵は託された。



終り


あー終わりましたよ。大変だった。でも、この書き方は楽だ! 次からこのスタイルで行こうかな。なあんてね。