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胸を貫くスリル



 気持ちのいい朝。
 カーテン越しの窓の向こうはすっかり明るくなって、昨日より晴れ晴れとして。そこでシンはガバッと飛び起きた。テレビの上に置かれた時計はとっくに朝を過ぎている。ドタドタとリビングを飛び出せば、ルナマリアと鉢合わせした。
「あら、シン!」
 朝の挨拶もそこそこにシンは台所につながるもう一つのドアを叩いた。
「もう思いっきり朝過ぎてんですけど!」
 ドンドンとシンのこぶしといい、手のひらがドアを叩く。そろそろ挙げた腕が疲れてくるだろうという頃、部屋の中で物音がした。コーディネーターの二人の耳にはそれが人の動く音だと分かる。シンが叩くのをやめたのとドアが開くのは同時だった。隙間から顔を覗かせるアレックスの髪はボサボサでたった今起きたのだとすぐに分かった。胡乱な瞳がシンとルナマリアの中間をさ迷っている。
「あれ、言ってなかったっけ? 今週から夜勤だからゆっくり寝れる」
「えっ、ちょっと」
 フアと欠伸した口に手を当てて、シンの目の前でドアがパタンと閉まる。つまり、寝に戻ってしまったわけで、シンとルナはあんぐり口を開けて立ち尽くした。
「本人が居ても、ここから出られないってことないわよね?」
 シンは天井を見上げて首を竦めた。
 全く持ってそのとーりなのだ。


『早く寝ろよ』とアレックスが仕事に出かける晩、シンは玄関先で彼を見送った。バタンとドアが閉まる直前に紙袋の切れ端をドアの間に滑り込ませた。
 振り向けば大人しく手を振っていたルナとメイリンが親指を挙げてグッジョブとサインを送ってくれた。早く寝るだなんてとんでもない。コーディネーターの自主独立を目指すレジスタンス戦士であるルナにとって夜の街は危険でもなんでもない。無論、それはシンにとっても同じこと。
「じゃ、行くか!」
 こうして、シン達は夜の街に繰り出した。
 外出禁止の時間までの晩方、シンはコンタクトを入れていることもあってごく普通の少年として街を練り歩いた。ルナとメイリンも帽子をかぶってシャバの空気を満喫する。
「はあ~、生き返るわ~」
「でもお姉ちゃん、これからどうするの?」
 メイリンがルナに聞く。ルナマリアは腰に手を当てて、にっこり笑う。
 日の落ちたバラックで商店街のネオンは灯火管制が引かれるまでの短い時間を謳歌している。屋台から鼻をくすぐるいい臭いが漂っている。
 先頭を行くシンが肩越しにメイリンを見た。
「後を付ける」
 真っ黒なはずの彼の偽りの瞳の奥で、深紅の虹彩が透けたようだった。


 3人は官警の眼を潜り、アレックスの後を見失わない程度に距離をおいて付ける。相手も十中八苦コーディネーターなのだから、油断は禁物である。黒塗りの車が静かに脇を通り抜ける裏通り。倉庫が立ち並び、金網のフェンスが張り巡らされている。
 向こうには完成したばかりの戦後復興企業のビル。
 ビルに明かりはなく倉庫群は闇に包まれていた。
 まさか正面ゲートから侵入するわけにもいかないから、ここは培ったレジスタンの経験を元にまず金網に電流が流れていないか調べる。とは言っても、夜間は電気が制限されているから警備を雇う必用があるわけで、ルナマリアは人一人が通れる穴をあける。
 倉庫の前には銃を構えた警備員がいた。
 シンとルナが目で会話をし、メイリンに指でサインを送る。眼をまん丸にするメイリンを置いて、シンは背を屈めて、フェンス越しに倉庫や建物があるほうへ走りだした。
 オレとルナでアレックスに襲撃をかける、メイリンは退路の確保。
 倉庫の前の警備員を一発で静め、暗闇の中を二人が駆ける。目指すはただ一人。自然と唇の端が持ち上がる。空気に混ざる緊張感に感覚が研ぎ澄まされていくようで、シンは倉庫と倉庫の間を音もなく進む。懐中電灯の明かりを紙一重で避け、飛び上がるついでに首をしめて気絶させ、ルナが落ちる懐中電灯をキャッチして明かりを消して失敬する。ガランガランと回る巨大な換気扇の前を通り、倉庫と倉庫の間の開けた場所に出る寸前、シンは壁に背をつけた。
 テリトリー。
 足を踏み入れるごとに広がる波紋のような肌のざわめき。
 同じように角に隠れるルナマリアが視線で示す先に超小型の赤外線センサーが取り付けてあった。急に人が動く気配が沸き起こり、向かいにある倉庫の出入り口に凭れているのを発見した。向こうがこちらに気が付いているかどうかは分からない。
 シンは仕事用の警備用のジャケットを着ているアレックスを視界に納めて、不敵に笑った。警備帽を頭に乗せ、肩にマシンガンをぶら下げている彼がひどく不恰好に見えたのだ。似合わないったらありゃしない。

 ミッション開始。
 クリア条件はアレックスに一泡拭かせること。

 倉庫にデカデカとペイントされた09番ハンガーの前に踊り出るルナを追って警備員が動き出す。にわかに騒がしくなる深夜の倉庫街。食糧や武器弾薬を盗み出すのではない、ちょっとしたゲーム。
 一日部屋に閉じ込められて、ルナやメイリンの相手をしなければならなかった窮屈な今日の憂さ晴らし。
 気配と物音だけで警備員をおびき寄せる。
「そっち行ったぞ、アレックス!」
 騒ぎにつられて警備員の配置は大きく変わる。異変を知れば彼も動くだろう。他の警備員と同じように、それでも無駄のない動き。常に視界の隅に捕らえながら、巧妙におびき出す。
「止まれ!」
 と、言われて止まる奴がどこにいるってんだ。
 シンの動きについてこられるのがアレックスだけだから、1対1になるのも時間の問題だった。
「お前!?」
 気づいたなら、その時がチャンス。
 シンは反転して身をかがめ怪訝な顔のアレックスに迫った。相手のリーチ手前で90度飛びのいて廻し蹴りを叩き込む。銃に阻まれたから一旦引いて、地面に手を付いて背面ジャンプ。心地よいスリルに全身が勝手に動く。
 銃口は向いていても火を噴かない。
 瞬時に伸びてきた手に捕まって、ノーモションに愕然とする。それでもシンは動きを止めることなく、それを逆手に取って腕を絡め、一気に間合いを詰めた。
 今度はアレックスが驚く番だった。額がぶつかるほど接近したのは一瞬。
『い た だ き』
 シンの口が音なき言葉を形どる。次の瞬間、アレックスの膝がシンを宙に追いやり、シンはアレックスの頭の似合わない警備帽を引っつかんでいた。


 倉庫と倉庫の間を縫って後方を攪乱しながら撤退する。脱出ルートを悟られないように、ゴールを目指す。マシンガンを撃つ警備員を横から回りこんで、蹴り上げた足で銃弾が夜空に向けて放たれる。膝で抑えてマシンガンを奪い、跳び箱の要領で越えていく。あっという間にシンは暗闇に紛れ込んだ。倉庫の屋根で待っていたルナマリアを合流して、サインを交し合う。
 どうだった?
 大成功! ちょろいぜ。
 シンはアレックスから奪った警備帽を指に引っ掛けて得意げにくるくると回した。ルナが少し驚いた顔をしたがすぐに破顔する。
 メイリンが別れた場所で待機してるわ。
 夜陰に紛れて二人の背中が倉庫の屋根の向こうに消える。やや遅れて、アレックスが消えた夜空を見つめていたが、時すでに遅し。
「逃げられたよ」
「アレックスが逃がすような相手か・・・それにしても被害はないらしいし、なんだったんだろうな・・・」


 倉庫街の警備員達が突然の闖入者相手に非常呼集がかけられた頃、シン達は金網のフェンスの場所まで戻ってきていた。詰め所らしき建物の裏で足を止める。壁越しにやっと聞こえた話の中で、レジスタンスという言葉が耳を掠めたのだ。

はあ。もうちょっと二人でやりあった方が良かったかもしれないなあ・・・同じ表現が続くよ、語彙力のなさとアクションシーンの単調さに精進精進です。