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Men of Destiny 16

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全てが崩れ去るとしても



『隣の倉庫屋、騒がしいな。こそ泥でも忍び込んだか?』
『コーディじゃあるまいし、こっちに影響はないだろうさ』
 明かりのないビルと倉庫街を隔てる金網。詰め所はビル側の警備員の建物のようだ。
『でもお忍びのお偉方は気にするんじゃないか? 情況確認来たぜ』
 話から察するに明かりのないビルには大人の遊び場があるらしい。
『そりゃおめえ、監視官殿が来ているからな。お膝元じゃ羽根も伸ばせないってこったろ』
『明後日までの辛抱さ』
『ほとんど最初の突入でコーディネーターの奴らとっ捕まえてんだろ? えらく長居してるよなあ』
 シンはルナを見た。険しい顔で会話に集中している。
『まあ、終戦の浮沈艦アークエンジェルの考えるこったあ、俺達下っ端が分かるわけねえか』
『あいつらプラントにぶち込んでくれりゃあ、なんでもいいぜ』
 まさか飛び出したりしないよなと、シンはルナの硬く握られた拳を見た。ヨウランとヴィーノは捕まっている。レイやギルバードがどうなったかは分からない。
 唇を噛み締めるルナとメイリンがシンに帰ろうと言うから、シンも背を離して金網沿いに走って倉庫街を後にする。サーチライトの変わりに暗がりを照らす平和を呼びかけるネオン。
 3人はそれに背を向けて、深夜の街に紛れ込んだ。
 まだ、夜明けは遠い。


 家主の帰りを玄関で出迎えたシンは、呆れを通り越した静かな怒りをアレックスから感じた。テーブルの上には昨夜シンがかっぱらった警備帽があり、教師といたずらがばれた生徒のように、食卓を囲んで説教を食らう羽目になった。
「今がどういう時期なのか、君達は分かっているのか?」 
 できたての朝食に手をつけることもできず、昨日まともに食事をしていなかったすきっ腹に、彼の静かな声は正直かなり答えた。
「シンも君達も、捕まったたらプラント送りになるんだぞ」
 全部種類の違うカップから立ち上る湯気。昨日商店街で買い足したマグカップ。シンとルナ達はコーヒー牛乳、アレックスがコーヒーなのはすぐに寝る気がないからなのか。
「監視官もいる。用心に用心を重ねたって万全じゃない。アークエンジェルと言ったら、最強の監視官を載せる平和秩序維持機構の旗艦じゃないか。そのすぐ下でなんてことをしているんだ」
 うなだれる以外できることがない。
 確かに、今だ監視官が駐留する情況で夜間にあれはまずかったか、シンでなくても思うのだ。
「しかも何の真似だ。この警備帽がそんなに欲しいのか?」
 相手がアレックスだったから冗談で済む話である。張り倒したり、蹴り倒した警備員達には怪我を負った者もいたかも知れない。
「コーディネーターの力はそんなこと使うものじゃない」
 しかし、思わぬ収穫もあったのだ。
「でも、監視官いるのは明後日までだって」
 少し頭を動かしてシンは吐き捨てた。言い訳にはならない自己弁護。一日中部屋の中にいては決して得られぬ生きた情報だ。
「それがどうした。どれほどの信憑性がある」
「監視官がいなくなるって事は保安部隊が来て、プラントに護送されるってことよ、チャンスだわ」
 ルナが助け舟を出してくれた。いや、ここは素直に話題を変えたいのだ。シンだって、それが本当の話なら腹を括らなければならない。アレックスが今再び問う。
「シンはどうするんだ? レジスタンスの仲間を助けに彼女達と行くつもりか?」
 アレックスに助けられた朝に、思い知ったはずだ。ヨウランやヴィーノを見捨てることなどできないと。即答できないシンはただうつむいて唇を噛み締める。ルナやメイリンの前で見えきってレジスタンスの仲間を助けに行くとなぜ言えないのだろう、と。
「まずは朝食を食べろ。話はそれからだ、シンも君達も」
 シンが口をつけたコーヒー牛乳はもう冷めていて、生ぬるさが胃に落ちていく。トーストしたばかりの黒パンは少し焦げてほろ苦かった。


 洗い物をするアレックスの背中を見て、ルナがふうとため息を付く。
「ここって、不思議なくらいなんでもあるわよね。シャワーとか、冷蔵庫とか」
 言われてみればその通りである。夜間、冷蔵庫の電力とかどうしているのだろうと問題提起。試したことはないが、もしかしたら深夜でもシャワーも使えて、テレビも見られるのではないだろうか。
「まあ、シンの気持ちも分からなくはないわよ。でもね、レジスタンス作戦本部としてはシンの力当てにしているから」
「作戦本部ってなんだよ。大体、まだ裏だってとれてないし」
 食卓の上に広げられた街の地図を広げて、ルナマリアとメイリンが覗き込んであれこれマーキングしている。
「監視官が一つの都市に2週間以上滞在したことなんてないわ。だとしたらちょうど頃合よ」
「アレックスさんはどう思いますか?」
 ほお杖ついていた手から頭を挙げてシンはアレックスを見る。片づけが終わって、エプロンを外して手を拭いているところだった。そんな所が妙に主婦くさい。
「妥当な線だろうな。アークエンジェルは神出鬼没と言われているくらいだから一ヶ所に長居しないだろうし」
 なんだよ。さっきは信憑性ないって言ったくせによ。シンはほおを膨らませる。それに気が付いたのかアレックスがシンを見て肩を竦める。
「だからと言って、今回もそうだとは限らないけどな。フリーダムは気まぐれだし」
 監視官最強と噂されるコーディネーター。
 どんな奴か会ってみたい気がするし、知りたくない気もする。パンドラの箱を開けてしまうような、そんな漠然とした不安。
「ルナとメイリンと俺、3人でやるのか?」
 いつか固めた決意と平穏な日々とを天秤にかけているのだと。
 シンはアレックスを見た。気が付けばルナとメイリンも彼を見ている。視線が集中した当の本人だけだ、のほほんと地図を覗き込んでいるのは。
「いくらなんでも無理・・・ですよねえ」
 メイリンの伺うような声。
「せめて後一人いないと、シンと同じくらい腕の立つ人が」
 何の根拠で残り一人なんだとは、シンは言わずにおいた。言いたいことなど百も承知、シンだって喉まで出かかっている。
「それは俺に手伝って欲しいってことか?」
 アレックスが顔をあげてシンを見た。
 この人はずるい。分かっていて平然と言う。
「俺は・・・アンタが手伝ってくれないなら、この話は降りる。分が悪すぎる」
「ちょっと、シン! 何言い出すのよ!? あたし達に二人で行けって言うの!」
 今度はシンがアレックスを見返す番だった。
「そうなったら二人は確実にプラント行きでしょうね? 見捨てるんですか?」
 アレックスに彼女達を助ける義理はない。それでも、初めて会った時からシンはアレックスに救われっぱなしだった。ステラもルナもメイリンも、元はと言えば彼には全く関係ことなのだ。それでも、彼は厳戒令の街で何も言わずに部屋に泊めてくれる。
 これは賭けだ。
 彼を巻き込めるかどうかの。
「お前は俺が手助けしなくても、どうせ彼女達と行くのだろう」
 地図の上に両手を付いて、身体を起こして姿勢を正す。ただじっとシンを見るアレックス。
 心臓がバクバクと鳴っている。
 アレックスの緩んだ表情に気づいた時には心中でガッツポーズをしていた。


「それで、俺は何をすればいい?」
 ルナとメイリンが手を合わせて喜んでいる。
 シンは肩の荷が下りたとばかりにイスにドサリと座り込んで、救出作戦のことを聞くべくルナを見上げた。
「車の運転です」
「調達出来ているのか?」
 ごもっともな質問にシンは慌てる。はっきり言って情報だの準備だのと言うことをシンは何もしていない。頼みは本当にルナとメイリンなのだ。むしろあちらが首謀者なのだから当り前と言えば当り前である。
「勿論です。これから忙しくなるわよ! シン!!」
「ホント、人使い荒いよな、ルナは」
 シンの愚痴にアレックスが笑った。
 そして救出作戦に向けて、本格的に準備が始まった。夜勤のアレックスを除いた3人が情報収集と必用物資の確保に追われる。アークエンジェルの動向は最優先事項として、例のビルの警備員詰め所は定期的にマークされた。
 何事もなければ決行は予定通り。
 車両も2台用意完了。
 逮捕されたコーディネータの護送ルートも調査済み。留置所から輸送機に護送されるまでの短い時間が勝負。アークエンジェルと入れ替わりに後処理を引き継ぐ部隊が到着して、レジスタンスの臨時作戦本部は浮き足立った。

ステラに会う前に1週間くらいあったと思ってください。後でその下りを入れるかも・・・駄目じゃん!つか、セリフ追加しました(6/29)

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