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 来る日も来る日もキラはコムコンとにらめっこしていた。あの地下鉄のホームにいた彼を探して情報を漁りまくっているのだ。少々法律に触れることもなんのその、公的機関のデータバンクにまで進入してデータキューブを破壊する。
 それでも、手がかりが見つからない。影一つないのだ。

 まさか、自動的に消去するような仕組みでも構築しているのか?
 僕の上をいうようなハッカーとでも?
 吸血鬼なんて時代じみた存在に出し抜かれるなんで冗談じゃないよね。

 そんなはずない。
 諦め切れず、かといって他に突破口も思い浮かばず、手が止まる。

「なあ、キラ。先祖の残した手帳にあるぞ?『吸血鬼は像を持たない』って」
「じゃあ何?鏡にも、カメラにも写真にも、窓にだって写らないって事? 怪し過ぎるよ」

 でも、確かにその通りなのかも知れない。
 カガリの言うとおり、彼の姿はどこにも残らない。唯一、直接目で見た自分の記憶の中にのみ存在する。

 ああ、脳の中を直接覗けたらいいのに。
 そうすれば、世界中の人の記憶から彼を探せるよ。

 物騒なことを考えて、ついに手を投げ出した。カガリと二人で、実質、一人で彼を追っていたが限界だった。考えてみれば、偶然あの場に居合わせた観光客かも知れないし、別の都市から来ただけだったのかもしれない。今、ニューヨークにいるのか、それこそこの国の中にいるのかどうかだって分からないのだ。
 地上の52億の中からたった一人を探し出す。改めて、その困難さの前に、事の重大さを思う。
 今は電気線を伝って世界中が繋がった時代。
 仮想次元化された領域の中に無限に蓄えられる情報。
 コミュニケーションコンピュータ、通称コムコン一つで学校、会社、ショッピングすべて賄えるのだ。データを追って行けばすぐに見つかるだろうと、軽く構えていた自分。

「ちょっと休憩しよう!」

 考えを変えないといけないのかも知れない。

「そうだ! ミリアリアからコールがあったんだった」
「なんて? いつ?」

 大学のサークルの友人から、いい加減こもってないで外に出てこいと叱咤激励があったらしい。彼らはキラが新しく始めた会社のことで首が回らないのだと思っている。最近特に人付き合いの悪くなった友人を引っ張り出そうとあの手この手で約束を取り付けようとしていた。
 今回はカガリを通じて。

「あっ、ごめん、キラ・・・えっと」

 カガリが気まずそうに時計を見る。
 それはなんと、今日。しかも、今から一時間後だった。
 カガリが手を合わせて誤っているが、自分にも悪いところはあったのだ。コムコンを弄っている自分は邪魔をされるのが大嫌いだからだ。
 同じハンターの刻印が出たのに、さしあたって何もできないカガリに気を使わせてしまっている。姉とは言え、双子なのに。

 ちょっと、自己嫌悪だ。
 カガリがさっぱりした性格で良かった。

 いつまでも根に持たないし、割り切りタイプの彼女だ。今日のことだってお互いに日常のひとコマとして記憶に埋もれてしまうだろう。手袋は持ったか、マフラーは巻いたかと口うるさくチェックするカガリが、姉であることに感謝する。
 キラは、コムコンのふたを閉じて、寒いニューヨークの街に繰り出した。



 20XX NewYork 5



 地上に出た途端、アスランはしまったと思った。
 先日のテロで厳重すぎる地下鉄を降り、ホームの混雑もクリスマスシーズンだからと高を括っていたのだ。

 なんだ・・・この人混みは。
 動かないじゃないか。

 急いで仕上げた設計図が功を奏して、プレゼンテーションの一次選考に滑り込みで残ったお祝いに、同じチームの皆が開くパーティ。街は一ヶ月前からクリスマス一色だし、浮かれ気分のアスランは時間を聞いて、二つ返事で答えていたのだ。OK!と。

 ノリノリで図面を引いたんだっけ。

 メインで設計を担当したわけじゃないが、コアの駆動分の回路設計を担当した。小型化と耐久性、強度の保持が大変だったと思い出す。ハロ・グループが仕掛けるユーザ・インタフェース革命プロジェクトだと知ったときは焦ったが、社内の別のチームとの競争にも絶えられる代物になった自信作である。
 人付き合いのほとんどないアスランでも、エンジニア同士積もる話がある。彼が参加する唯一のコミュニティと言ってよかった。だから誘われたことも単純に嬉しかった。
 好奇心や情熱に種別は関係なのだと実感できるから。

 それが、会場に行く途中で洒落にならない人混みである。
 通勤ラッシュの過ぎた5thアベニューにこの人だかり。

 人の流れを追いかけて、舞い降りていた天使に目を見開いた。
 細長いラッパを構えた光る天使の向こうに、巨大なツリーが立っている。ロックフェラーセンターの前のツリーの天辺には明かりのないオーナメント。

 今日が点灯式だったのか。

 腕時計を見て、少し遅れるだろうことを伝える。この人混みでは10分で付く所が3倍はかかりそうだ。天使に祝福されるどころではない人の山をどう泳ごうか、淡い電飾の一体の天使の前で考える。

 目的のビルは、チームの協力者が個人オフィスを構えている会社が入っているという、2ブロック先のあれだ。センター前のリンクでスケートが楽しめるほどニューヨークの街は寒い。着込んだコートと人混みで冷たい風は感じなかったけれど、空は今にも雪を降らしそうだ。

 こういうのは変わらないな。

 初めてこのツリーの点灯式を見たのは、いつだったか忘れたが、もうずっと前だ。初めてツリーが立ったのは、20世紀の大恐慌の時。

 確かあの時は、上海にいたんだっけ。
 記憶を探ってみれば、意外とまだ最近だ。

 とはいえ、あの頃と比べればプロムナードを飾る装飾もずいぶんと様変わりしている。けれど、点灯を待つ人々に変化はほとんどない。

 長いようで短いんだな。
 人々の顔が変わらない程には。

 少しくらい遅れたっていいか。

 アスランは天使像の下で、ロックフェラーセンターのクリスマスツリーが点く瞬間を待った。


 市長の挨拶が終わればカウントダウン。

 3

 2

 空から白い結晶が降りてきて。

 1

 クリスタルのオーナメントがツリーの天辺で光る。

 キラの目の前、5thアベニューの向こうで一斉に点される電球がツリーをニューヨークの街に浮かび上がらせる。沸き起こる歓声に、コールしてきたミリアリアやサークルの友人たちも拍手をする。

 キラは手を握り締めた。

 プロムナードで皆を迎える光る天使像の下。
 黒いコートの背中に、彼の髪が黒ではない深い藍色だと知った。

 点灯式に来ていた友人がツリーの点灯にはしゃぐのもそっちのけで、天使の足元のアスランの後ろ姿をずっと見ていた。





ニューヨーク行ったことがないので、ロックフェラーセンターの正確な位置とか分からなくて、突っ込みどころ満載だと思います。