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Men of Destiny 18

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傷ついた痛み



 砲弾がまっすぐ伸びてくる。
「げっ、まじかよ!」
 辛うじて上空を通り過ぎて直撃は避けたものの、一向にスピードを落とさない飛行船はもろ突撃体制だった。
 まさか。
「突っ込んでくるっ!?」
 ヨウラン、ヴィーノ救出どころではなかった。既に滑走路を離れている情況では、自分の生命が危ないではないか。炎上していたカーゴのトラックのことも気になるしシンの頭は軽いパニック症状になっていた。
 強い揺れと、急激なダウンフォースに床を転がった。すっぽり挟まった柱とボックスの間で、クルー達の叫び声が初めて耳に止まる。
『反コーディネーター組織だってっ!?』
『消火急げ!!』
 煙が充満して息苦しい。風が一方方向に流れるからどこか気密が破られたのかもしれなかった。信じられないことに銃声がした。
「むちゃくちゃだな!」
 振動は徐々に激しくなり、単発ではあるが小さな爆発音が絶えない。
『ファントムペインだっ! ぐわっ』
 立ち上がって振り返ったそこあるのは、血を流すクルーと銃を持った男数人。
「はじめまして」
 銃口が火を噴く。狭いキャビン内でシンは転がった。兆弾した弾がどこに行くか分からず、背中をつうっと汗が滑り降りていく。
「ほう。その動き、その瞳の色、君はコーディネーターか。下部デッキから逃げ出してきたのか?」
 相手の男は金髪をなびかせ、可笑しな仮面を被っていたが、シンはとても笑える情況になかった。容赦なく放たれる銃弾を避けるのに精一杯。そりゃ息も上がる。彼らが通った後には爆煙が渦巻き、ただこの輸送機を落とすつもりなのだと悟った。人質を取るとかハイジャックするとかそういう次元ではない。
 反コーディネーター組織の過激派。ファントムペインは確かそれだったはずだ。彼らにとって、大量のコーディネーターが乗るこの輸送機は格好の標的だったわけだ。
「ネオ! ・・・こっち終わった」
 爆煙の中から出てきた少女にシンはこれでもかと言うくらい眼を広げた。ひどく場違いな格好で手に大ぶりのサバイバルナイフを下げている。
「・・・ステラ・・・なのか・・・?」
「シン?」
 ナイフがにび色に光る。ソレは血と肉の色。
 しかし感じが、受ける印象が、何もかも違った。戸惑うシンを凝視して、ステラが軽く眉を寄せる。
「あれも敵」
 言うが早いかナイフを振りかざして飛び掛ってくる。片手で受け止めたが信じられない位強い力で後に押し倒された。
「ステラ!?止めろ! なんでこんなっ!」
「コーディネーターは全部敵だっ」
 床を転がる。通路の凹凸が背中に当たって痛い。大人しく見ているだけかと思ったファントムペインの男達は、予想に反して銃でシンの動きを封じに来た。
「やめろっ!」
 どっちに何を止めろと叫んでいるのかシンにも分からなかった。
 ステラに刺されるのも、彼らの銃弾が彼女に当たるのも。狭い通路にはたいした逃げ場などなくすぐに行き止まりになった。
「こいつ、あんの時のガキじゃん?」
 街で彼女を迎えに来た少年達・・・シンはあの日出合った彼らを思い出した。思い出したはいいが、ステラに押さえ込まれた今はどうすることも出来ない。
 なんなんだよ、この力は。
 確実に狙いはシンに迫っており、動きが止まった時が終りの時だった。
「シン!」
 割り込んだ声は、アレックスのもの。
 突如開いたキャビンのドアに当たってステラの力が緩まる。シンはその瞬間を逃がさず、素早く身体を話すと彼女からナイフを奪った。
「どうしてこんなところ・・・」
「そんなの今更だろ。それよりこれを、彼女達が来るぞ」
 ステラを前にしてシンの前にアレックスが出た。渡されたのはインカムで、そこからルナマリアの声が聞こえていた。
「ここは俺に任せてお前は救出に向かえ、時間がない」
「でも・・・」
 シンは彼の肩越しにステラと彼女を後ろに下げる男達、ファントムペインの戦士達を見た。それぞれ手には獲物を持って好戦的な視線を向けている。そこで彼の背中の筋肉が動く。正確には後手で腰に挟んだ何かを取り出したのだ。
 それは、シンがあの時が無くしてしまったもの。
「これを持って行け」
「・・・ライトセイバー」
 なぜ、アレックスが持っている。どうして今頃になって。
「今の君には必要なものだろ?」
 アレックスが振り返らずに、前方を見据えたまま託す。シンの疑問は尽きずとも、時間が問いただす猶予を与えてはくれなかった。事情などお構いなしに彼らは発砲してきたのだ。突き飛ばされて後のスペースに背中から落ちた。目の前で閉まるキャビンのドア。


 そこがただの床なら、シンはきっと、ドアを開けてアレックスの加勢に加わっただろうが、それはできなかった。倒れこんだそこは階段で、シンは後転よろしく階段を転げ落ちた。
「いってえぇ」
 腰をさすりながら起き上がれば、カーゴ内に設置された留置所があった。中にいるのは紛れもなくプラントに護送される予定のコーディネーター達。
「シン!」
 聞き知った声。
「ヨウラン!? ヴィーノッ!」
 すぐにライトセイバーで電子ロックを焼き切って、捕らえられた彼らを解放した。
「後部ハッチに急いでっ」
「助けに来てくれるなんて、お前っ」
 涙目のヨウランを見て思わずもらい泣きしそうになった。しかし、今はまだ脱出の途中で、和んでいる暇はない。振動はどんどん激しくなり、煙はここまで降りてきていた。外の様子が伺えなくても異常事態だと分かる。
「二人とも早く。ルナ達が来るっ」
「この輸送船、ヤバイだろ・・・」
 3人は他のコーディネーター達と一緒に後部ハッチめがけて、揺れるキャビン内を走った。臥しているクルー達を股いてハッチを空ければ猛烈な風が煙と共に舞い込んできた。


 ロープを伸ばす後方にルナ達が乗る飛行艇がいた。爆風、破片が舞う中、けなげにも脱出を心待ちにしていたのかと思うと本当に感心する。
『シン! 早くして!! 平和維持軍が出てる!』
 空中給油のようにロープをキャッチした飛行艇に向かって、コーディネーター達が一人一人滑り降りていく。きっと、コーディネーターのレジスタンスだからできる芸当だ。中にはかなりびびり顔のヨウランやヴィーノがいたが、輸送機のやばさが実感できる今となっては迷っている暇はない。


 だが、シンには迷う理由があった。
「先行っててくれ!」
 数人を残して、シンはキャビンの奥へと舞い戻った。耳元でルナマリアの声が聞こえるから、シンは理由を説明した。
「アレックスがまだ!」
『!?』
 インカムの向こうでルナが息を呑む。シンはガタガタといよいよやばくなった船内を逆走した。転げ落ちた階段を駆け上がり、閉ざされたキャビンのドアを開ける。
「いないっ!」
 クルーだけが倒れた船内にアレックスも、ファントムペインの影も形もなかった。そこへかすかな銃声。物が盛大に壊れる音と共に、また気流が変わる。
「くそっ、どこ行ったんだよ」
 倒れたクルーにアレックスが混じっていないことを確認して、シンは輸送船の前部へと急ぐ。乗員の待機スペースを抜ければコックピットと言う所で、彼と鉢合わせした。
「シン!」
「アンタ、もう何やってんだよ」
 どこも怪我をしていないことを確かめて、ほっと胸を撫で下ろす。もし何かあったらルナ達にどやされるどころではない。しかし、それも無事に生きて脱出できての話。
 またも起こる爆発音。金属がきしむ嫌な音が足元から響いてくる。
 アレックスが目を見開くのでシンは急いで振り返った。船体に亀裂が入り始めていた。気密も何もあったものじゃない。空中分解しようとしているのだ、この輸送機は。
「ルナ! 左前のハッチ側に回れるか!」
『やってみるわっ』
 ドアが吹き飛んだ左前のハッチにシンとアレックスが辿り着く。傾きかけた太陽の陽射しを受けてノロノロと飛ぶ2番機と、それを護衛する戦闘機。そしてやや後方に離れていくファントムペインの飛行船の間でミサイルと機銃が飛び交っている。
「あいつら・・・正規軍が来たから、とっと逃げやがったのかよ!」
「・・・こっちも早く逃げないとやばいな」
 アレックスの言うとおり、足元の地表は随分と離れてしまっている。飛び降りてとても助けるような高度じゃなかった。しかし、まだルナの飛行艇が来ない。
 動くに動けないでいると、ガクンといきなり高度が落ちた。
 飛び散る火花と洒落にならない揺れ。
 そして終に、輸送機は傾いた。よりによって左に。ドアに片手をかけて身を乗り出していたシンは空中に投げ出されてしまった。

あらら。ステラとの再会がこんなんでは、やばいんじゃありませんかね。でもあの片言しゃべりだとまともな会話させるの難しいんですよね。うむ、どうやって話させたらいいのだろう・・・。

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