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ベルが鳴る夜 3

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匿名ユーザー

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 では天気概況です。
 低気圧が接近し、上空には冷たい寒気が下りて来て、典型的な降雪の気圧配置になります。明日の午後から天気は下り坂。今年のクリスマスイブはホワイトクリスマスになりそうですね。しかし、平野部でも雪が強く降る所があり、防寒対策や雪対策はしっかりしましょう。それでは各地の天気です・・・。

 もう、期限まで何日もない。
 買い物を頼まれて来たスーパーでは最後のクリスマス商戦の追い込みが行われている。

 真実なんてどこにもないじゃないか。

 シンの焦りは諦めに大きく傾いていた。ルナの言うとおり、サトゥルナリアのせいで世の中は事件事故が相次ぎ、上空を飛び回るパトロールの天使や、人間に紛れて事後処理に追われる天使たちを大勢見た。当然、先輩達にシンも見つかるわけで。

「お前、なぜここにいる?」

 職務質問である。
 シンはまだ見習いだから、歯向かったっていい事は一つもない。素直に卒業試験のために来ていると話すと、彼らは気の毒そうに解放してくれた。こんな地上で人間に混じって後処理をしている彼らは天使のなかでも下級である。
「見つけたら、教えてくれ」

 同情なのか、変な仲間意識を持たれて、指名手配犯のデータを渡された。
「こんなもん渡してどうしろって言うんだよ」
 スーパーのフードコートで昼ごはん代わりに書類をぱらぱらとめくる。
 パトロール達も成績をあげようと躍起になっているのだ、使えるものは見習いでも使おうというのだろう。
 もっと上を狙うシンにとって、地上の軽犯なんてほとんど興味の範疇外だったのだが。

 ん? このページだけ姿がない。

 罪状も犯人の姿も何もない書類が最後に一枚あった。
 ただ、下のほうに名前だけがひっそりと残されていて、シンは釘付けになった。


 アスラン


「同じ名前なんて、びっくりした」 


「そいつは霊格が高くて姿を転写できなかったらしい」

 4人がけのテーブルにいきなり合席した来たのは、金髪を肩まで伸ばしたレイだった。ルナとは違って、肉の体を纏っているから、会話をしても怪しまれない。
「レイも旅行なのか?」
「いや、知り合いからパトロールを手伝って欲しいと言われて、地上に降りているんだ」
 見習いのレイにまで応援を頼むなんて、よっぽど切羽詰っているとしか思えない。
「点数足りないのか?」
「そういう事だろう」
 レイが無造作に取り出した書類はシンがもらったものと同じで、最後のページまで書類を捲る。

「噂によれば、そいつは宵闇の髪でリンの炎の色をした魔眼だそうだ」



 レイの残した言葉が気になって、シンは孤児院に帰るなりアスランにカマをかけた。同じ名前、容姿もまんざら外れじゃない。

 周囲に誰もいないのを確認して、零体に戻る。 
 自分自身が安心したいがために、階段の後ろから手を触れずに突き落とした。

 と、あっけなく転げ落ちるアスラン。

 あ。

 何してんだよ、俺。

「アスランさんっ!!」

 階段を転がり落ちていく彼を見て、あわてて駆け下りる。ドサドサと派手な音を立てて階下でうずくまる彼が、身体を動かすのを見てシンは止めていた息を吐き出すことができた。

「・・・イッ」

 よかった、死んでない。
 打ち所が悪ければ、人は死んでしまう。

「アスランさん、俺っ」
 ごめん。のどまで出掛かったところで、ミーアやスティング達がやってくる。

「ちょっと。すごい音がしたけど!」
「うわっ、アスランどうしたんだよっ!?」

 アウルが真っ先に駆け寄って、後からミーアとスティングが、最後にステラがやってくる。今日は確か、リビングでクリスマスツリーの飾り付けをするといっていた。
「大丈夫だから」
「でも・・・」
 シンを見上げる彼の顔は明らかに沈んでいて、痛みに耐えるとか、疑念を浮かべていたとかそんなじゃなくて、あえて言うなら悲痛。

「いいんだ」

 傷つけてしまった。
 俺のこと、どう思ったんだろう。
 アスランが手配犯じゃないことに安心できたのはいいけれど、代わりにシンはアスランの信用を失ってしまった。いきなり背中を押すなんて、普通じゃ考えられない。しかも、彼はシンが人間じゃないと知っているのだ。手を触れずにアスランを階段から突き落とすことなど造作もないことを。

「大丈夫ならいいけれど。さっ、みんなは戻っていなさい。シンもよ」

 ステラに優しく諭して、ミーアはアスランを子供達の中から連れ出した。
「アスランは湿布を張らないと駄目ね。痣になってるわ」
 腕の青あざを指して、立ち上がった彼を引っ張っていく。付いていこうとしたシンはミーアにやんわり制されてしまって、現場に最後まで残ることになった。


 翌日はアスランとまともに顔を合わせることができなかったのに、彼はいつも通り変わらなかった。一晩、重苦しい思いをして眠れずに過ごしたのだ、シンは朝一番に彼に謝ろうと決めていた。

「アスランさん。俺、昨日、あんたにひどいことしたよな。ごめん」
「一晩かかったか。本当はかなり痛かったから、どうしようかと思ったけど」

 空を飛べる天使にだって、あんなことすれば怒られるってのに。

「シンが本当に悪いと思っているなら、いいか」
「俺、どうかしてた。アンタの見た目が手配書にある奴と似ていたから、どうしても確かめたくて・・・」
「そっか。けど、二度とこんなことするなよ。運が悪かったらそれでおしまいなんだから」
「本当にごめん」

 朝の洗面台でシンは一息ついた。

「朝から元気ないな」
「当たり前です」
「そんなことより、お前試験はどうするんだ。もう日にちがないぞ」

 ああ、それは。

「なんだか、もう何でもいいって感じで」
「お前」
「真実なんてどうでもいいって言うか、だから何?って感じで」
「駄目だぞシン。ちゃんと考えないと、俺も一緒に探してやるから。今日は早く帰れそうだし、今まで見つけた真実で一番良さそうなものを選ぼう」

 だから、今日中にリストアップしておけよ?

 アスランが出かけた後、シンは部屋で地上で見つけた小さな真実を一つ一つ思い出してみた。それを紙に書き出して候補に丸をつければ、その作業に一日を費やしていた。アスランが帰るなりその紙を見せようと待ち構えていたのに、2階にある部屋から着替えて出てきたアスランの目の前で、ステラが、ツリーの飾りを追いかける。

 部屋からコロコロと。
 廊下を転がるのは金色の鈴で。
 まだ小さいステラは手の伸ばした手すりと手すりの間をすり抜けてしまっていた。

 シンよりも早く動いたアスランがステラを抱えて、1階の床にストンと降りる。
 良かったと胸をなでおろすよりも、限界まで見開かれたシンの瞳が信じられないものを見て、一歩も動けない。

 普通の人には見えないかもしれないそれ。
 2階から1階へ飛び降りたにしては静か過ぎる着地を可能にするそれは、羽根。

 漆黒の。
 違うと思っていたのに、手配書の最後のページは。

 無邪気に笑うステラに微笑を返したアスランがシンを見上げた。
 その顔はまた微妙な表情で、階段を上がろうとするから、シンは思わず叫んでいた。

「来るなっ」
「シン・・・」

 堕天使の癖に俺の名前を呼ぶな。
 なんで、あんたが、あのアスランなんだよ。

 部屋のドアを閉めて、鍵もかけて、布団にもぐりこんで頭まで毛布をかぶる。

 冗談じゃない。
 今まで、手配中の堕天使と一緒にいたなんて。
 全然気が付きもしなかった。

「説明させてくれるか」

「聞きたくもないねっ。今まで馬鹿な見習いだと思って、さぞや面白かっただろうなっ。これじゃ、あんたを信じていた俺がバカみたいじゃないか。ちっくしょう!」

 これ見よがしに空間転移かよ。

 デスクの椅子を引いてベッド脇に腰かけたようだったが、顔を見る気もおきない。あんなにきれいだと思っていたのに。

「隠していたのは、あんたのほうじゃないかっ。この嘘吐き野郎っ!!」

 これじゃあ俺、たとえ卒業できたとしても、どの宮にも入れてもらえない。
 何のために地上にまで来たんだか。

「・・・すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
「うるさいっ。どっか行けよっ」

 気配が去ったのが分かる。
 考えないと。これからどうするか。
 このまま知らん振りして、黙っていればバレナイダロウカ。

 駄目だ。パトロールの連中やレイはきっと知っていたんだ。きっと俺はもうマークされているんだ。どっから情報が漏れたんだ?

 まさか、ルナ?

 そんな前から・・・。
 だったら、誤魔化せっこない。

 シンが毛布をかぶって、震えながらぐるぐる考えをめぐらせていると、コンコンとノックが聞こえた。アスランでもステラでもない音はミーアのものだ。

「いるんでしょ? 入るわね」

 ドアが開く音がして、ベッドのすぐ近くで気配がした。

「シン。何をしているの? お風呂の時間よ」
「いい」

 ガタンと音がした。ミーアが椅子に座ったのだろう。
「顔を出しなさいな、シン」

 いつもと違う声にそろそろと首を出す。

「何がそんなに怖いの?」
「怖い?」

 俺が、怯えている?

「だって、そうじゃない。毛布引っかぶって、震えているなんて、怖がっている子供と同じよ」

 嘘だ。俺は怖がっているんじゃない。

「アスランが堕天使だったことがそんなに恐ろしいことなの?」

 ミーア・・・何を言って・・・。

 シンは這い出した頭をもたげて、ミーアを見る。彼女の灰色がかった青い瞳がシンの瞳を射て、そらすことが許されなかった。
「アスランが言おうとしたことを何一つ聞かないで、勝手に怖がって、もう終わりだと思い込んでいるだけじゃない」
「ミーア。・・・アンタはアスランのこと知っていたのか?」
「勿論よ。そして、あなたが天使の見習いだって事もよ」

 言われて気が付いた。

「そんなに驚かないでよ。シンが天使だって事はすぐに分かったわ。アスランもシンも必死に隠していたけれど、ね」

 シンは毛布から這い出て、上半身を起こした。
 椅子に座るミーアが、窓の外を見て、雪が降り出したわねと呟く。
 窓は半分曇っていて、その向こうには降り出した雪が見える。

 俺があの人と合ったのも雪の夜だった。
 寒さに凍えていた俺に傘を差し出してくれて、暖かいペットボトルをくれた。悪い人には見えなかったのに。あの人は・・・アイツは・・・。

「アスランは私と、この孤児院を助けたから、白い羽根を失ったのよ」
「アンタと孤児院を助けた?」
「私、本当はもうとっくに死んでいたのよ。記憶は残らないそうだけど、親切なアスランの友人って言う天使様が教えてくれたのよ」

 嘘だ。
 いくら天使でも、死人を生き返らせることはできないはず。

「きっとたくさんルールを破ったのね、見ず知らずのあたしのために。アスランの罪状は輪廻への干渉だそうだわ」




この話は最初のうちはネットで集めたクリスマス音楽を、後半はSimplePlanの「Untitled」を聞きながら書いていたのですが、この曲の書かれた由来を知って(だって、真摯過ぎる。メンバーの親友をが飲酒運転による交通事故で亡くなったのを機に書かれた曲だったなんて。しかも、飲酒運転してた側から見た曲ですよ)なんとなくこんなfanartsにはそぐわないなと、AC4の「Operation Buncarshot」に変えました。今は、Robbie Williamsの「Feel」を聞いてます。

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