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朽ち果てた夢



 カチン。
 シンは自分では見ることの出来ない首の囚人錠に手をやった。冷たい金属の感触。
 質素な生成り色の囚人服。
 簡単な身体検査や質問の後に入った部屋でプラントに送られたコーディネーターは全員に首輪を付けられた。
 四方八方海だっつーのに。
 武装した機械化兵に見張られる中、シン達はいよいよプラントの中へ進むことになった。


 今回送られた中では一番の最年少だった。すれ違う看守や囚人達が必ず一瞥くれていく。プラントは広く、中は多層構造になっていて、囚人の能力に応じてプラントのどの階層に収監されるか決まる。肉体労働、頭脳労働、それも歳若いシンがいっぱしにこなせるものではなく、残されたものは強靭なコーディネーターの身体を使った被検体として使い道のみ。
 アレックスですらここではひよっこ扱いなのか、官吏がシンや後に続くアレックスを見てニヤニヤ笑うのが気に入らない。ぺロッと紙を一枚渡されて、ゾロゾロと一列になって細い通路を歩いて行く。紙を見せては判子をいくつも貰って、シンはついに看守服を着た男の前に来た。
「何ができるんだ坊主?」
「何って・・・?」
「コーディネーターなら、何か特技があるだろう」
 紙を渡しながらシンは考え込む。色々な部屋で説明を受けたように、ここで行く先が決まる。じっと探るように看守がシンを下から上に観察している。
「あの、すいません」
「なんだ、お前は」
 いきなりアレックスが肩越しに看守に話し掛けるから、シンはビックリして振り返った。同じように首に囚人錠を付け、囚人服になったアレックスが表情の読めない顔で看守を見下ろしている。視線でシンを制す『黙って見てろ』と。
 看守がシンから視線を外してアレックスを見る。 
「俺達、兄弟なんだ」
「・・・そうか、兄弟か」
 シンの行く先も決まっていないのに、アレックスがさりげなく紙を差し出す。看守はついくせで受け取ってしまったかのよう。
「特にできることもないけど、荷物の運び出しくらいならできる。搬出セクションでいいだろ」
「そ、そうだな、搬出セクションだ」
 ええっ。んなあっさり決まるのかよと、看守を見れば、焦点の定まらない目にシンは眉を寄せた。看守が二人の紙になにやら書き込んでいる。アレックスの言い方は決して強い言い方ではないが、じっとその目を覗き込むように話し掛けている。
「もう行ってもいいか?」
 看守とアレックスを交互に見る。
「二人とも行ってもいいよな」
「あっ・・・ああ、二人とも行っていいぞ」
 アレックスに背中を押されて、シンはわけもわからず最後の部屋を後にした。ただ一つ分かったことは、何をしたのかは分からないが、アレックスが何かした、ということだ。
「あ、あのさ」
 シンが問い尋ねようとした時、自動のドアがスライドして、急に視界が開けた。


 覆われた天蓋にいくつも並ぶライトが、広大なドーム空間を照らしていた。
 縦横に渡された通路を動き回る看守と囚人達が豆粒のように見える。シンは思わず天井から下まで、足元の暗闇を覗き込んだ。
 とても一つの都市だったとは思えない。
「こらっ立ち止まるな!」
 早速、看守の目にとまり、急いで移動用のシャフトまで歩く。まるで荷物のようにエレベータに突き入れられなんの合図もなく急降下するボックスにしがみ付いた。そのボックスにいるのはシンとアレックスだけ。
 ガタガタと金具が擦れあい、ドーム状のプラント内部を下に向かう。ただの空間に見えたプラント内部はいくつものブロックに仕切られて、本当に多数の囚人が労働に従事していた。部屋が密集した研究所のような階層を抜けると一気に明かりが落る。
 一瞬ちらりと覗く、研究所の窓の向こう。
 ここに行けと言われたら、あんなモルモットになっていたかも知れない。
「あんた何モンなんです?」
「コーディネーターだ」
 腕を組んでボックスのシャフトに凭れるアレックスも同じくプラント内部を見ている。初めはコーディネーターだと言い、ルナには明言しなかった。
「そこはもう誤魔化さないんですね」
「今更だろ」
 確かにそうだ。
 コーディネーターの強制収容所まで来て白を切ったところで意味はない。
「アスランって誰ですか?」
 ただ下りつづけるエレベータのベルが一つ鳴る。また一つ研究室の階層を抜ける。その建物の形状がショッピングモールに似て、しかし、流れる音楽は工事現場の騒音で、空気の質が変わったよう。
「彼はもういない」
 ゆっくりと首を回してシンに向き直る彼。確かにシンの知っている彼のようでいて、まるで別人のようでもあった。輸送機に飛び移った時のように、また彼の知らない一面。
「じゃあ、あいつは? アークエンジェルの監視官となんで知り合いなんです?」
「ただの戦友だよ。前の戦争で少し同じだったんだ」
 シンは拳を握り締める。脳裏を過る、家族が吹き飛んだあの場所。
 キーキー音を立てて止まるエレベーターがシンの思考を中断した。


 機械化兵に案内されて、シンはこれから自分が世話になる階層を見回した。
「キョロキョロするな!」
 いきなり銃で頭を叩かれて、一歩踏み出して転倒をこらえた。キッと睨もうものなら撃たれていたかも知れない。アレックスがうまく背中に隠してシンの反抗的な視線が看守に届くことはなかったが、変わりに男達の歓声が上がった。
「新入りだ!」
「ガキ二人だ」
 電気でも流れていそうな金網のドアの向こうにこれまた屈強そうな男達がたむろしている。恐ろしく場違いな気がして、シンは恐る恐るアレックスを見る。
「このセクションが一番楽で安全だって聞いていたんだが・・・」
 少し弱り顔で見返す。そんなところはシンの知る彼だ。
 電子錠を開けて二人を押し込むと機械化兵がエレベータの警備に戻っていく。
「これまたガキが回されたもんだ」
「もう一人はきれいな顔の兄ちゃんか。こいつぁ俺達に対するご褒美か?!」
 下卑た笑いに平然として、アレックスがずいと中に進んでいく。シンは遅れまいと慌てて付いて行くが。
『どっかで見たことある顔だな』
 集団の中の小さな呟きが耳に止まった。
 意識が飛ぶが、その男がすぐに人込みに隠れてしまい、またシンも右も左も分からぬ所で一人になりたくなかったから、それ以上探すのを止めた。何より搬出セクションのその名を現す場所が目の前にあった。壁に括りつけられた細い階段と、それを上り降りする囚人達は皆一様に荷物を背負っている。
 シン達がいる場所はちょうど穴の上に突き出たハンガーで、その奥から荷物を背負って登ってくるのがこのセクションの労働だった。海底にめり込んだプラント最下層から掘り出されるメタンハイドレートをプラント上層へと運ぶエレベータに搬出する荷役。

夢の燃料。運び出すなんて無理なんですけど、ここは何かいい海底資源が浮かばなかったので、まあ未来の科学の力ってことでご容赦。すんません、かなりキーのセリフを改竄しました(6/30)