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20XX NewYork 9

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匿名ユーザー

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 プロジェクトのメンバーは全てこの攻撃を知らせるメールで、先日侵入した奴じゃないかと盛り上がっていた。本来なら次回コンペに出品する試作品のレビューする集まりだったはずなのに、誰も机に置かれた試作品には手をつけようとせずに、攻防戦に熱中している。

 お前も災難だな。

 出来上がったばかりの試作品を手に取る。
 アスランは自分のデスクでコムコンを繋げ、早速現場を覗く。仮想空間に飛び出す丸い防衛ツールが散在するデータに跳ね返っては、ポンポンと進む。

「これは突破されるかも知れない、けど」

 この前とは処理速度が段違いである。目で見えるほどに仮想次元を食い荒らしている青い8枚の羽根を持つ攻撃ツール。

 今はまだやめて、欲しいんだけどな。
 俺、今のプロジェクト気に入っているし。
 アスランは侵入者が躍起になって攻撃しているデータキューブを、寄って来た他の防衛ツールと共に見下ろした。

 トリィが落ちて、攻撃ツールが闇に飲み込まれる。
 ここまでは前回までと同じ。同じ部屋の同僚が落胆のため息を付いたが、今度は少しばかり様子が違った。
「おい、これって・・・巨大な」
「ハロっ!?」 

 攻撃ツールを飲み込んだ暗闇が渦巻いてチカチカと中心が光る、そう、ブラックホールのように収縮している。ついに輪郭を現した真っ黒な物体は、誰もになじみのあるハロの形をしていた。真っ黒だと思った闇も、よく見れば紺色だった。

 そして、風船が割れるように小さくなって爆発する。

「うわっ!!」

 豆粒ほどのブラックホールでも、爆発の影響は大きく、傍観していた防衛ツールを巻き込んでカウンターツールを打ち破っていた。ブラックアウトした皆のコムコン画面に、部屋の中は奇妙な静けさが一瞬落ちる。誰かが、ポツリと呟く。

「おい、監視記録のデータキューブさ」
「やばいんじゃないか?」

 アスランは今までの光景を傍観していたが眉を寄せた。
 ネイビーまで。
 こんなに短期間に。

 真っ黒なコムコンを見る。唯一この結末を予想していたから、実際には落ちてはいないが、それを気づかれないように蓋を閉じる。

 どこかに場所を移動して、メインイージスに繋げないと。
 と、その時目に入る、手に取った試作機。

 コンペに勝ち残れる自信作。

 こいつだって、コムコン機能はある・・・か。
 いたずらを思いついたような、ドキドキ感を久しぶりに感じて、試作機を起動した。 

 少し置いて、ハロ・フォート地下の巨大なコンピューターが低い振動を始めた。
 通常は眠っている演算装置が起動し、命令通りに管理記録のデータキューブの次元シフトを開始した。

 公には発表されていない、秘密の仮想次元技術。
 デジタル信号は全く同じで、しかし、中身を摩り替えた仮想次元で現在の空間を置き換えるのだ。突破されることを前提にした防衛策に、アスランは苦笑した。

 赤いLEDを点けた試作機を手に取って、フロアを後にした。




 20XX NewYork 9




 キラは、クリスマス前の華やかなショッピングモールのデータ端末の前にいた。隣のブロックにはハロ・フォートが林立していて、同じバックボーンに位置するこのSCは攻撃にはうってつけだった。一見、セール品の情報をキオスク端末でチェックする青年に見えるが、キラはブースの端末に自分のコムコンをつなげていた。

 あのカウンターは巨大な地場だ。
 全ての返信を遮断してあっという間に分解する。
 飲み込まれたが最後、一切のレスポンスが帰ってこないブラックホール。

 それなら、出口、ホワイトホールを作るまで。

 キラは、入口と裏口を準備した状態で再度アタックを開始する。
 ガーディアンを破った後の攻撃。

「まだまだっ!」

 裏口から逃がした情報で、微妙にブラックホールの中心をずらす。何度も中心を移動させてついに、カウンターツールそのものがぶれ始めた。中心を動かすたびに生まれるベビーブラックホールに飲み込まれ始めたのだ。

「落ちろっ!」

 思わず声に出してしまって、周囲から注目されてしまった。
 けれど、カウンターの消滅は確認できたから、喜び勇んで裏口に設定したブースに向かう。

 SCの中には47ものキオスク端末があるのだ。エスカレータを下り、キラは目的のブースで自分のコムコンを繋げた。

「では、中身を拝見、アスラン。君はそこにいる?」

 監視記録のデータキューブに潜り込んだ途端、背中がざわついた。

 なに?

 何の変哲もない監視記録。整然と並び、揺らぎも破損も何一つ無い見事なものだ。
 それなのに、キラは後ろを振り向いた。ブースが空くのを待っている人はおらず、キラの後ろはSCのテナントが電飾で飾られている。

 交互に入れ替わる細い電飾のモール。進んでいるのか、戻っているのか、唯、点いて消えているだけだというのに、目が離せない。急激に無音になって閃く。

 このデータキューブは罠だ。

 仮想空間の攻撃ツールの背後にピンクにバウンドするハロが垣間見えた。

 探知されている。
 そう思ったが早いか、キラはすぐさまブースを離れて、別のブースへ走る。

 追って来るなら、返り討ちにしてやる。
 ターゲットをデータキューブからピンクのハロに変えて、キラの攻撃ツールは進行方向を180度転換した。

 そのハロ。君でしょ?

 追いかけっこの最中に、自分の仮想次元からデータサルベージ完了のビープ音。
 数日間掛けて洗った、関連会社のデータキューブも今のこの追跡には役に立たない。自動的に始まるデータマイニングを確認して、ハロを追いかける。
 今、追っている防壁ツールがどこに辿り着くのか分からない。けれど、確信があった。

 追い続けた背中が目と鼻の先にあるのだ。
 データキューブが散在する仮想次元の海をピンク色のハロが逃げる。

 けれど、データマイニングでヒットを告げるポップアップにキラは目を見張った。
 IDカードを製作する会社に残されていた写真データ。

 青い髪に緑の瞳。

 その人物の名は、アレックス・ディノ。

 ディノ・・・って。
 ハロ・グループの創始者と同じファミリー・ネーム。
 唯、名前を盗んだだけ?
 それとも本人?
 でも、パトリック・ザラとは似ても似つかない。

 頭の中を駆け巡る、推測、憶測を端に押しのけて、キラは自然と浮かぶ笑みを押さえられなかった。

 捕まえた。
 今、どこにいるの?

 ニューヨーク中を、ハロ・フォート内をアレックス・ディノの記録を求めて、キラの探索ツールが飛び立った。





吸血鬼全然関係ないじゃん!すんまそん、翌朝誤字脱字修正しています。文的にちょっとおかしいところも。

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