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20XX NewYork 10

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匿名ユーザー

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 いた。
 ハロ・フォートの3番ビルの中だ。

 映像データは重いから、ログデータから入退出データを洗う。こんな時、最新のセキュリティで守られたビルは便利だ。わざわざキラに居場所を教えてくれる。

「ドキドキしちゃうね」

 君のフィールド内に僕が現れたら、どうする?

 キラはショッピングセンターの中を突っ切り、出口へと向かう。すぐ隣がハロ・フォートなのだ。参上しないわけにはいかない。同じプロジェクトで今日いないメンバーのIDをコピーして、ビルに乗り込む準備を整える。

 外の風は冷たく、出た途端吐く息が白く凍る。
 カガリに連絡を取って「トラ・トラ・トラ」と短くメッセージを送った。

「今頃、逆探知に気が付いたって遅いよっ」

 移動し始めた気配に、キラは他の防御ツールに妨害されないように次元空間を厳重にロックした。ピンクのハロが消え、追いかけるキラと、見え隠れするアスランの影。仮想次元に再現されるビル内のデータをキラは頭の中で組み立てていく。

 道路を突っ切って、隣のブロックに入る。20段ほどの階段を上ればそこはハロ・コミュニケーション社の本拠地。3つのビルが立ち並ぶ中心広場にあるモニュメントがライトアップされているのが見える。

 会社のロゴ。お馴染みの防御ツールも皆同じ形をしている。丸く、耳のような左右の蓋を手のように広げたかわいらしい愛嬌のあるキャラクター。

「ホント、意外だよね。全然イメージできないよ」

 それを作ったのが本当に彼なのか。
 今日の所は顔合わせだけど、そうだ、ちょうどいい。
 ホントかウソか確かめよう。

 キラが息を切らして階段を上り切った時、ハロのモニュメントの下の噴水が一斉に吹き上がった。照らされた明かりの中、雪も降ってきて、北欧の国にでも紛れ込んだようだった。

 バチンッと震える仮想空間。
 キラが追いかけていたアスランのいた空間から、イメージしていたアスランが振り返る。

 まだ、ビルの中じゃないのにっ!

 キラが閉鎖した空間が別の次元に飲み込まれて、キラはビルのグラウンド・ゼロで静かにたたずむ黒いコート姿の男を見た。


「待ちくたびれたよ」


 風もないのにゆれる髪、ゆっくりと振り向く顔の瞳はビルのネオンを反射して妖しいほど緑色だった。




 20XX NewYork 10




 追いかけっこが始まったのはすぐに分かった。
 向こうが隣のブロックのショッピングセンターにいると分かったとき、随分大胆だと改めて関心したのだ。同じフィールドで競える相手だと、背中がゾクゾクする。

「それなら、こちらも相応の対応をさせてもらうさ」

 仮想次元デバイスの産みの親は俺だ。

 言うなれば化かし合いで、キラには次元シフトした仮想アスランを仕向け、自分はビルの入り口で待つことにしたのだ。途中で追跡に気づいたように見せかけてビルを出ようとする偽の自分を操り、キラの登場を待つ。

 開発中の新しいインタフェースを頭に引っ掛けて、寒い中、噴水の縁に腰掛ける。

 さあ、追いかける仮想空間が現実になる瞬間だ。
 アスランはショッピングセンターのドアから飛び出してきたキラを見つけて、腰を上げる。

 キラが走るスピードがゆっくりになり、目を見開くと共に足が止まる。

 キラが閉鎖した空間が立ち消えて、彼が見ていた俺が、現実の俺に戻るはずだった。
 けれど、キラが閉じた空間はあまりに固く閉ざされていて、消滅せず、反発しあって境界面が溶け合っていく。

 アスランが咄嗟にキラが閉じた空間へと意識を向けた途端。
 どこからか、溢れ出した情報が境界面の障壁を突き破った。

 あっ、しまった。
 俺、まだ繋げたまま―――。

 ハロ・グループが今度、世に送りだろうとしているのは、脳の領域を仮想次元化する技術。形として残っている書物、映像などの人類が蓄えてきた知識は、ほとんどデジタル化が終了した。
 となれば次は、残された最後の領域。形にできない、まだ、脳の中にあるものをデジタル化する技術。言葉を介さず、直接イメージで伝え合う。膨大なイメージは無限の仮想次元技術が保障する。


 それは。

 夢であり。
 想いであり。


 記憶。


 キラの仮想次元に、アスランの記憶が流れ出してしまった。



 1096 Toulouse



 茶色の髪は首の後ろで括られて、剣を手にしていた。
 夜着のまま外に出る。ちゃんと手入れされていない庭はガサガサと草の音を立てた。

 月のない闇夜。



「誰?」




ようやくプロローグ終わりです・・・しかも短い! なんだか、さっさと次に進めたい感がありありと出てますね。次は中世!中世!

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