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「ニコル遅いぞ! 俺を待たせるとはどういう了見だ」
「了見だなんて。時間どおりじゃないですか」
店の壁時計の時間は16時55分。約束の時間は17時だから、実はまだ5分前である。
「たまに自分が早く着くとこれなんだから」
 ニコルはカウンターでドリンクを受け取って、イザークのいる一段高い奥のテーブルについた。目まぐるしく変わる街の地下ニュースを映すディスプレイ。明かりと言えば、天井にある僅かなライトと店内のネオン、裏番組を垂れ流すディスプレイという如何わしい店なのに結構な客の入りであった。店内で流れる音楽も何語か分からない言葉をブレークダウンビートに乗せるラップ音楽だが、踊っているお客はない。
 一段高いフロアーから、裏番組を流すディスプレイとは違うディスプレイを見ることができた。
「あっ、今月もイザークがトップですよ!」
 今映っているのは『ASランキング』
 エンジェル・スレイヤーズ・ギルドに加盟しているスレイヤーズ達の月間撃墜天使数をランキング表示したもの、と言えばいいだろうか。スレイヤーズと言えども人間には変わりなく、衣食住を賄うために先立つものが必要である。
 ただ闇雲に天使を狙っても彼らも黙って殺られてくれる訳はない。天使側が公的権力を盾にセブンスフォースと言った形で悪魔やスレイヤーズ達の一大捕獲網を築いているのと同様に、悪魔やスレイヤーズ達にも対抗する地下組織があった。
 それがギルドである。
 いつからあるのか分からない古い組織で時代と共に変遷し、今はこうして肥大した都市に紛れていくつもの店を構えている。ギルドに登録したスレイヤーズ達は屠った天使数を申告することでその代金を受け取ることができる。ギルドの活動を影で支えているのは言うまでもなく悪魔である。いや、悪魔と契約した経済的に成功した人間達だと言われている。都市の上層部に食い込んでいるのが天使達ならば、悪魔たちは経済界に食い込んでいると言えた。
「そんなものを喜んでどうする。第一、当てになるか」
「アスランいませんもんね」
ギッとイザークがニコルを睨みつけたが、ニコルは知らぬ素振りでグラスを傾ける。
「ギルドに登録しないでも食べていけるのですから、羨ましいです」
「片手間だとは思えん。奴の天使に対する攻撃は容赦がない。なぜギルドに登録しない」
「よっぽど大きなバックが後についているとかなんでしょうか」
 大抵のエンジェルスレイヤー達はチームを組んでいる。極秘にパトロンを得たり、情報屋を雇ったりすることもあるが基本はギルドに登録しチームで活動する。イザーク達も二人とは言えチームであり、山がでかい時はヘルプで知り合いに応援を頼む。
「僕にとってはこの街に住む人全てが羨望の対象だったんですけどね」
 ニコルは大事そうに少しずつグラスを口につける。イザークがもうほとんど残っていないグラスの氷を鳴らした後、ディスプレイの音を届けるサウンドバルーンがふわふわと漂うフロアがざわめき立つ。数あるニュース番組で一斉に報じ始めたニュースに口を開く。
「ああ、やっぱりですね。対テロ法案可決されたみたいですよ、動きにくくなりますねえ」
「天使どもが拠ってたかって、市民の安全にかこつけて訴えたんだろう」
 夕方のニュースキャスターが市の評議会前からリポートしている。バックに映る映像は2週間前の発電所爆破テロで、その後の犯行声明や相次ぐ小規模爆破事件についに対テロを視野に入れた取り締まり強化を目的とした法案が議会に提出された。表向きは反乱分子やテロ組織を対象とした法案だが、おそらくはその対象にエンジェルスレイヤーも含まれるだろう。都市の治安を脅かすものとして。
「フン。奴らの活動が活発になれば願ったり叶ったりじゃないか」


 しかし、活発になったのは警察だけではなかった。
 複数のテロ組織に横の連携などないのに、いくつもの犯行予告が寄せられた。標的は政府機関、警察機関、教育機関、市と癒着しているのではないかと噂される大企業など多種多様に渡った。当然、その予告は伏せられたものもあればメディアを通して市井に流れたものもあった。
 テロ予告から早一週間、都市も落ち着きを取り戻して通常の生活リズムが戻りつつあった。いや、どちらかと言えば街そのものは大して変わらなかった。市民はいつもどおり出勤し、通学し交通機関も滞りなかったのだから。
「だいぶ落ち着いてきたよなあ」
400人収容の大教室の後の席に陣取ってテロの噂話をするのは、昼を食べ損ねたサイで。
「犯行予告多すぎだろ、やっぱ」
と相槌をうつのはトール。
「これだけ派手に取締りしてるから、テロリストの人達もあきらめたんだろうね」
 最後に結論付けるキラの言うとおり、大方の予想はそうであった。そうでなければ法案が通った意味も、警察のがんばりも無駄と言うものだ。
 「でもねパパの仕事場の辺りは大変だったんだって。空路封鎖とか警官隊がなだれ込んで来たりとかで昨日は一日仕事にならなかったって言っていたわ」
市政庁の高官を父に持つフレイの情報どおり、公にはされずに防がれた事件もあっただろうが、一般市民のキラ達には預かり知らぬことだ。4限の授業をほとんど雑談で過ごしたら彼らは、馴染みのカフェに拠る。
「俺ん家もカレッジ終わったら早く帰れって言ってるからな。何考えてるんだろうなテロリストはさ。何のためにやってるのか疑問だよな」
「あたしバイトの時間だから、じゃね」
トールとミリィが席を外すとサイとフレイのカップルにキラがお邪魔することになり、キラはまだ少しバイトの時間には早かったが退散することにした。
「僕も、もう行くよ」
 カフェの外に出ると夕日がビルの谷間を照らす。ガラス張りのエレベーターで一気に空路の階まで上がる。エアバス乗り場でバスを待つ間に一つため息を付く。
 やっぱりこういう時、一人はつらいかな。
 トールとミリィのカップルに気を使って、サイとフレイのカップルにも気を使って。4人とも早く彼女を作れと言う。でも、無理だな。とすぐに否定する。『キラは誰にでもやさしい』から『誰もキラの特別にはなれない』と言う。
 よく分からないんだよね、正直。
 フレイのことを可愛いなと思ったことは事実。でも、その時には既にサイがいたし、サイと付き合っているフレイを見ても特別何かを思うことはなかった。ああ、なんかいいな。と思っただけだ。トールやミリィといてもそれは同じ。
「簡単に言うなよな」
 付き合った女の子がいなかったわけじゃない。でも、誰も彼も続かず、最後にはキラが相手の女の子に泣きながらフラれるのだ。来るものを拒まず、去るものは追わずにいるから結果は同じ。毎度毎度、同じようにフラれれば、そろそろウンザリとなってくる。
 18歳にもなって恋愛感情が分からないヤマト青年であった。
 バイト先に向かうエアバスの中でまた深くため息を付き、追い抜くエアバイクやエアビーグルを眺める。最新型のマシンで夜のドライブとしゃれ込む二人連れに比べて、キラはエアバスにボヘボヘと揺られている。
 車、か・・・。でも二人だけだと会話に困るし。
 こんな事を思っている時点で負けであるのだが、女性運下降基調のキラの気持ちはなかなか浮上しない。
 何か面白いことないかなあ。
 何度目かのため息をついた時、空路の真中でエアバスが急停車した。危うく頭を前の座席にぶつける所を持っていた教科書で防いで、窓の外を見る。何台もの車が急停車し、後では衝突音も聞こえ、前方を望めば何台も玉突き事故を起こしていた。何より振ってくる破片にいぶかしんで顔を上げると、煙を上げる高層ビルが目に入った。


 ものすごい勢いでエアパトがすれすれを追い抜いていく。交通整理が始まって動ける車が次々に別の空路に割り当てられていくが、倒壊する危険のあるビルの周辺を避けるためにあちこちで大渋滞が始まっていた。
 バイト先に遅れそうだとコールを入れた時はまだよかったが、シフト時間内には到底間に合いそうもないと再度コールを入れようと思った時には、もう全く繋がらなかった。
「爆破テロ、だよね」
 のろのろと空路を動くエアバスから煙をあげるビルを見る。日が落ちてしまったのに天を焦がす勢いで煙がもうもうと上がる。取り囲むように消防や警察のエアビーグルが取り囲んで救助活動を行っている。更に遠巻きにしてメディアのエアバイクやエアビーグルが飛び回る。今まさに倒壊するビルの映像を納めようと躍起になっている。
 ギシギシと鉄筋がきしむ音を立てて60階以上の部分がずり落ちる。
 埃が炎と隣のビルに凭れかかる崩落部分を隠し、ビルに群がっていたエアビーグル達が一斉に離れる。
 あんな密集したところで崩落したら、ぶつかるじゃないか。
 ドミノ倒しのようにビルがビルにぶつかって押し倒していく映像が頭に浮かぶ。舞い上がる埃があっという間に周囲に広がり、キラの乗っているエアバスはパニックになった後続に衝突された。傾く車内。
「うっわあぁ―――っ!!」
掴んだ手すりがもげてキラは車内を前方に飛んだ。運転席と乗客のスペースを分けるしきりに背中から激突して、完全にバスが逆立ちしているのを知った。
 乗客が少なくて助かったよ。この状態で満員だったら僕圧死してる・・・。
 何とか身体を起こすと、頭から血を流した運転手がすぐ横にいて心臓が跳ね上がる。
「ってことはっ!」
煙で目が霞む中運転席を見れば、ハンドルが右に左に揺れている。加えて微かな下降感に咄嗟に運転席に乗り込んだ。高度維持システムに異常はないが、パネルを見れば緩やかにこのエアバスは下降していた。
「どうしてっ! 重量。何かが上に乗っているんだ」
 アクセルを踏んでバスの姿勢をも度に戻そうとして、戸惑う。
 もし上に乗っている乗り物に人が乗っていたら?
 ここで僕がバスを動かしたら彼らはどうなるだろうか?
「くそっ」
 本来、エアバスは直立して運行できるようにできていないから、キラはその場でバスの運動制御プログラムを書き換えた。モジュールそのものをリコンパイルして再配置することはできないから、設定や補助モジュールを駆使してそれを成し遂げた。
 視界ゼロの中、センサー画面だけを頼りに降りられる所を探す。埃と煙の中ぽっかり開いた空間を見つけた。同じように非難してきたのだろうエアビーグルが何台も止まっている所に向かうよう、そろそろとバスを動かした。
「ごめんっ」
 もう大丈夫だろうと言うところまで来て、キラはバスの姿勢を元に戻した。当然、バスの上に載っていた物体が音を立てて衝撃と共に落ち、反対にエアバスも大きく姿勢を崩す。横倒しのままバスはビルの屋上に着陸した。


 あっ、荷物。僕のカバンどこ?
 運転席から這い出て、車内に自分のカバンを探す。倒れたまま頭を抱えて動けずにいる人、気を失っている人、けが人も何人かいるだろう。座席の下にカバンを見つけて引っつかむと、ヴィジホンを探した。
「救急車、救急車呼ばなきゃ」
息を吸った途端、ゴホゴホと咳き込んだ。
「生存者いるかっ!?」
声はバスの乗降り口からした。起き上がれずにいると数人がバスの車内に乗り込んできて、目の前に現れるブーツに顔を上げた。無理な体勢の上、埃が充満してよく見えないがその人物は手を差し出しているようだった。
「大丈夫か、ぼうず」
 目の端で倒れた乗客が運び出されているのが映る。
 まだコールしていないのに。ここが病院のビルだったのだろうか?
「・・・けが人がいるんですっ! 早く手当てしないとっ」
「まあ落ち着け、俺の部下がもう動いているから心配するな。君は見た所怪我はないようだが、起き上がれるか?」
 随分とざらざらとした床に手をついて立ち上がる。手を差し出していたのは、2週間前、ビルの屋上であったセブンスフォースのペアの男性だった。
「君・・・あん時の、ぼうずか?」
 車内から出た外も同じような情況だった。埃のせいで隣のビルさえ見えず、サイレンやクラクションがひっきりなしに鳴り響く。
「バスの中に何人いたかなんて、覚えちゃいないよなあ」 
「ここは・・・・・・」
「よくここを見つけたな、お前すごいね」
呆然と辺りを見回してもさっぱり分からずに動きの止まったキラを見て、彼が振り返って手招きをした。すると寄ってきたのはやはりあの時の女性。
「マリューさん」
 やっぱりセブンスフォースの人、で、こっちの人が・・・えっと。
「ムウ・ラ・フラガだ。フ・ラ・ガ。覚えて、ないかあ」
「もう、ふざけないで下さいフラガ隊長。バスの乗客はすぐに病院に搬送したわ。貴方は?どこか怪我してないかしら」
「僕は大丈夫です」
「そう。また会ったわねキラ君」
 すぐには解放してくれなさそうな雰囲気にキラは息を飲んだ。マリューの優しい笑顔やフラガの笑った顔とは裏腹に、距離をおいて二人の部下が数人取り囲んでいた。降りた場所のまずさに気づいても後の祭りだった。きっとここは対テロ対策の最前線。
 お呼びじゃないってことだよね。
「あのっ」
 ごめんなさい。貴方達の邪魔をするつもりは全くなかったんです。ここに降りたのは本当に偶然で仕方なかったんです。しかし、キラの訴えは声になる前にマリューに遮られていた。
「キラ君」
「はいっ!」
 挑むようなマリューの眼差しと声音になぜか居住まいを正してしまう。
「貴方、第7機動隊の隊員になる気はない?」


 最後は疑問形だった。口をパクパクすることもできずにキラは立ち尽くす。
 何を言っているのだろう、この人は。あっ、人じゃないか、天使だっけ。
「今回テロにあったあのビルね、第7機動隊の新事務所になる予定だったの」
 今度の対テロ法を受けてやっとスレイヤー監視を強化できることになってね。でも先手を打たれてしまったわ。とキラを無視して続ける。
 僕はふっつーの学生なんですけど・・・、そんなこと一般人に話していいのかなあ。
 ナンパとかそんなんじゃないよな。でもこの人スタイルいいよねって、あれ? 天使って性別あるのかなあ、あっでも、この人が天使って決まったわけじゃないんだよな。うん。
「もう一度聞くわね。キラ君、セブンスフォースにならない?」
 冗談きついよ。
「でも、どうして僕なんかに」
 マリューが一度フラガを見る。彼は軽く頷いてマリューに続きを即したようだった。取り囲む隊員の突き刺さるような視線が痛い。敵意とは違うのだろうが、諸手を上げて歓迎でもない。
「貴方がエンジェルコアを持っていられたからよ。普通は一晩もすれば、地上の悪意に汚染されて聖性を失い消えてしまうの」
 それはたった3週間前のことなのに、随分と昔のことにように感じ出されるあの日の事。あの夜からキラの周りは到って平穏だった。エンジェルスレイヤーの影などどこにも見えず、勿論、彼とも会うことはなかった。
 セブンスフォースに入ればまた彼と会えるのだろうか。
「人間はどちらも持っているのよ、善と悪と。だからキラ君のようにエンジェルコアを持ち歩ける人間はとても貴重なの」
 エンジェルコアとは天使の核。
「奪った天使の核をスレイヤー達はどうするのか知っていて?」
 食べる、とか?
「想像つかないです」
「そうね。まず気づかないと思うわ」
 埃と煙に曇った夜空を見上げるマリューが目を細めるから、何か空にあるのだろうかとキラも夜空を見上げた。
 さすがにこう曇っていては星は見えないな。
「これが本来の夜の姿よ。夜空に浮かぶ星は全て天使の核なの、本当は夜空に星なんてないのよ」
「うそ・・・」
 でも、星は無数にあって、僕が生まれた時から多分あって、だって星だよ?
 何を言っているんだ、と、キラはマリューを見た。
「信じられないでしょうね」
 視線を向けて彼女が目を伏せた。
「夜はとても暗くて寒いわ、だから天使のコアを飾って明るくするのですって。そうすれば少しは暖かく感じられるから、悪魔達はスレイヤー達に天使を狩らせるのよ」
 これが全部、エンジェル・コア。無数の星が―――そんなことって―――。

 エンジェルスターとも呼ばれるな

 彼の声が脳裏に蘇る。
 嘘じゃ―――ないんだ。夜空に瞬く星は全て天使達。こんなに沢山。
 目を見開いたまま足元を見つづけるキラにマリューは眉を寄せ、キラの心を読んだがごとく言葉を紡いだ。
「ずっと昔からこんな事を続けてきたのよ私達。でも、どんどんエスカレートしていって、ついにこんなことになってしまった」
 彼女は先ほど、先を越されてしまったと言わなかっただろうか。
 こんな事と言って、倒壊したビルの方角を見ているのはどういうことなのだろうか。
 キラは頭を振ってこの真実を否定したかった。でも分かってしまった。この騒ぎはテロリストが市民権欲しさに市政府を狙ったテロ事件などではなく、本当は天使を狙った事件で、僕達一般市民を巻き込む事になんの躊躇いもないエンジェルスレイヤーが起こしたのだと。
「できるなら私達を手伝って欲しい」
「僕はただの学生で・・・」
 何メートルもジャンプして飛行船を叩き落したり、エアバイクを何台も使う特殊部隊を相手に僕が立ち向かう?
「大丈夫だって。坊主はなんたって、結界が張られたこの場所を見つけたくらいだからな。それに、エアバスの運行制御いじったの君だろ? たいした腕だ」
「迷うのも無理ないわ。答えを今すぐには求めないから、最初は見習いってことでどうかしら?」
「おいおい。見習いはないんじゃねーの? せめてアルバイトなりパートとかさ」
「カレッジが終わってからでいいから、本部に顔を出してもらえると嬉しいわ」
 僕まだ、了解していないけど。
 でも、いいか。面白そうだし。この二人もいい感じだし。
「分かりました。じゃあ、見習いってことでお願いします」
「感謝するわキラ君。それじゃあ、早速、現場に行きましょっ!」


かなり苦しくなってきました。多分ちょこちょこと修正入るだろうな、と。もうイメージソングはGarnetMoonでOK。Prideの2番の歌詞だったんだが、そこまでいくのにまだまだ掛かりそうだし。キラが天使サイドに付くまでと思っていたら長くなってしまった。もっと簡潔に書けるようにならねば。最後は息切れしてしまったからやっぱり会話が目立つなあ(涙)