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 寒いなあ。

 降りだした雨を窓から見上げて、ため息を付いた。
 原因は複数考えられる。
 休み明けのテストが散々だった事、いいなと思っていた隣のクラスの女の子に彼氏がいた事、傘を持っていない事、それともため息を付いた少年、シンが思春期真っ只中だからかも知れない。

「シン。何をぼうっとしているのよ。HR終わったわよ?」

 あごを乗せていた手がしびれているのに気が付いて、顔を上げた。目の前に立っていたのは同じクラスのルナマリア。

「ねえ、知ってる?学校の前にできたファミザの店員の話」

 ファミザとは業界4位のコンビニ・ファミリーザフトの略称で、コンビニにしては珍しく休憩スペースがある。店内で買った飲食物を食べることができたので、できて早々、店内で飲食しないようにというお達しが学校から出ていた。

「えっ、何が?」

 まだできて一週間。シンは特に気になる話があったかと探すが、興味がなかったのか何も浮かばなかった。

「すっごくキレイな人がいるって話よ」
「別にいいよ、俺」

 そういえば隣のあの子も髪がきれいでかわいかったなと思い出して、またため息をついた。少しぽや~んとしている所があって思わず「こいつ大丈夫か?」と心配だったけれど、すでに彼氏持ちだった。

 聞く気がなさそうなシンにルナマリアが腰に手をあてて口を尖らせる。同じ中学からの腐れ縁の彼女のいつものポーズに、シンは大きくため息をついた。入れ替わりにいつもつるんでいるヨウランとヴィーノがやって来る。

「シーン、帰ろうぜっ」

 新年そうそう代わり映えしないよなあ。
 そう、心の中で呟いて、鞄を手に取った。





「これ、まじやばくね?」
「持たないでしょ、これ」

 雨が段々強くなる。
 シンだけでなく、二人とも傘を持っていなかったので小走りに駅まで走るのだが、校門を出て最初の信号までの間にずぶ濡れになっていた。

「あー、俺達が駅に着くまで降るなっての」

 そうは言っても、降り出してしまったものはどうしようもない。

「コンビニで傘買っていくか?」

 信号の向こうにはできたばかりのコンビニ、ファミザ。HRの後、ルナが何か言っていた店だ。ヨウランとヴィーノが駆け込むのを見て、シンもコンビニの軒先で頭を降って水滴を散らした。

「いらっしゃいませ」

 レジの向こうのバイトにシンはドキっとする。失恋した子と同じ金髪に、思わず目を逸らしてしまった。視線を落としたそこには、雨が降ってきたのを見て表に引っ張り出されたビニール傘が並んだ棚。さっさと買って出ようとしたのに、ヨウランがホットのペットボトルを物色していた。

 いやな予感。シンがヴィーノを探すとホットプレートのアメリカンホットドックを注文している。

「ちょっと暖まってから行こうぜ」
「俺、肉まんにしよ。シンはどうする?」

 完璧休憩モードの二人に、シンは「俺も肉まん」と告げて財布を取り出した。

「ちょっと待ってくれな。今・・・」

 こいつが、ルナが言っていたキレイなバイトか? シンはこっそり見て女の感覚は分からないと眉を顰める。

 なんだよこの口の利き方。全然なってないじゃないか。
 ちょっと不機嫌になったシンは、なかなか肉まんを取り出そうとしない店員に急かすように言葉を投げつけた。

「早くして下さい」
「あー、分かった分かった」

 それでもじっとバットを持ったまま動かない女性アルバイトをシンがじろりと睨みつける。後ろではヨウランとヴィーノが温かい補給にあり付いているのが感じられて、憮然と会計を済ました後、少し自分の腰より高いスツールに腰掛ける。

 肉まんの袋を開けると食欲をそそる匂いがした。
 ほわっと湯気が出てくるのを見ると、本当にお腹が空いていたような気がして、パクリと食いついた。



 なんだ、これ?! 冷たい・・・?



 一気に機嫌が急降下したシンはレジ向こうにいた店員を振り返った。
 レジカウンターの中でタバコのカートンを並べている。

「すいませんっ!」

「あっ、はい」

 金髪のアルバイトがシンに気が付いて振り返る。その表情がなんでもないように見えたから余計に腹が立つ。

「ちょっと、これっまだ冷たいんだけどっ!」

 投げつけてやろうかと思った。
 本当は傘を買ってさっさと家に帰るつもりだったのだ。

「ちゃんと―――」
「すみません、今」

 声が違う方向から聞こえたのには気づかずに、身体を反転させる。

「温めて下さっ」

 足を踏み出した先はスツールの足を置くわっかで、見事に引っ掛けたシンはバランスを崩す。

 い・・・

 宙を飛ぶ食べかけの肉まん。

 ・・・よ?

 ドサっと凭れ掛かった先が反動で少し後ろに揺れる。
 柔らかいような硬いような、冷たいようでそうでもない不思議な物体。目が真っ先に認識したのは赤。それがファミザのエプロンと頭が認識した時、耳が音を拾った。

「あの・・・えっと」

 シンが見上げる。

「暖めるって何を・・・?」

 困ったように見下ろしている店員を見て、弾かれたようにシンは飛びのいた。
 何って・・・肉まんだよ。まだ冷たかったんだよ、んなもん出すなよ、さっさと温めろよ。と、頭の中で叫んでいる理性が必死に出口を探している。

「アスラン、多分これ」

 バクバクと心臓は耳元でなる癖に、アスランって名前なんだと反応している頭。金髪の店員が床に転がっているものを拾い上げ、目の前の店員に渡している。

「肉まん?」

 シンと肉まんを交互に見る店員はシンより拳一つ背が高かった。
 ルナはHR後に何て言っていたっけ?

 耳がじいんとするのは雨に濡れて冷えたせいだ。
 鳴り止まない心臓は、冷たい肉まんを出されて怒っているからだ。

「もう、いいっ! 行こうぜ、ヨウランっ」
「へっ?」

 鞄を肩にかけて買ったばかりのビニール傘を乱暴に引っつかむ。コンビニを突然出て行くシンに驚いて、ヨウランとヴィーノが急いで口に詰め込んで後を追う。





 外はザーザーと白い雨が降っていて、ほとんどガラスが曇った店内からは、あっという間にいなくなった高校生の行方を見ることはできなかった。

「この肉まんを温めてくれっ、てことだよな」
「そうじゃないか・・・やっぱり」




あちゃーって感じで、季節物なんちゃってカウントダウン開始しちゃいました。