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 コンビニの中は色々な匂いがある。
 真冬の今は入ってすぐにおでんの匂いがして、ホットプレートの香ばしい匂いが漂う。誰かがお弁当を温めているならその匂いも。そして、入り口近くの本棚には競馬新聞と雑誌のインクの匂いが。

「だから悪かったって言ってるだろ?」

 週間雑誌を立ち読みしながら、シンとヨウランが件のコンビニでヴィーノを待っていた。

「来週は遅れるなよ? 大体、携帯くらい変えろよ」
「妹に先越された」

 シンの携帯はバッテリーが経立っていて、メールの最中に頻繁に落ちるようになっていたのだ。

「お前、本当に妹に頭上がらないな」
「関係ないだろ」
「シスコンの次は、アレだし」

 そう言ってヨウランが見たのは日配品を棚に並べているアルバイト店員。
 赤いエプロンの下は黒のセーターにグレーのジーンズで、シンより若干年上の青年。彼がシフトの時はいつもより店内に人が多かった。




 毎日のように通えば大抵の場所は覚えてしまうし、コンビニなどどこも陳列の仕方は同じだ。シンはアルバイトの店員の名前も彼らの仕事の順番もほぼ覚えてしまった。
 弁当は毎日持参だが、食べ盛りの16歳男児に12時まで待てと言うのは酷な話で、1限と2限の間食用にパンやおにぎりを買う。

 あの金髪の女がカガリ。オレンジ頭がラスティと言い、おそらく大学生だ。よく分からないのが緑の頭をした奴で高校生か、しかし、同じ学校ではないだろう。

 そして、アイツが、アスラン。

 シンはカウンターに彼がいる時は、できるだけ、隣のレジに並ぶようにしていたし、その日も彼がカウンターから出るのを見計らってパンとペットを買う。

「何笑ってんだよ」

 ヴィーノにジッと見られているのを感じて、シンがアガッと開けた口からパンを引っ込めて問い質す。

「お前って、意識し過ぎだろ~」
「そりゃ、なんつーか、キレイだし? 男の俺から見てもクるものあるし、女子どもが騒ぐのは分かるけどさ・・・相手は男なんだぜ」

 何を言いたいのか分かって、シンは一瞬目を見開く。
 脳裏に閃いたのは自分を覗きこむ翡翠の双眸。
 その時、背中を駆け抜けたのは電撃。

「お、お前らっ何言ってるんだよ! わっ、け分かんない事言うなよなっ!」
「判りやす過ぎだぜ、シン・・・」

 ヨウランの呟きがチャイムにかき消された。





 月が変わって、シンは教室の机の上で組んだ腕の中に頭を埋めていた。椅子に逆向きに座っているヨウランとヴィーノが詰め寄っている。

「ったく、お前って奴は」
「あと一週間でバレンタインだって分かってる?」

「だから、俺は別にいいって言ってるじゃないか、チョコなんて」

 3人とも特定の彼女がいない独り者。

「そりゃお前は失恋したばっかで、気が乗らないのは分かるけどさ、俺達は違うの」
「そうそう。もらえるチョコが母さんだけっての、さびしいじゃん」

 街はピンク色に染まり、チョコレートの甘いシーズン。
 犬も歩けばチョコレートに当たるというほど一色。

「せっかく、お友達を作ろうって場を持っても・・・何回すっぽかすわけ、アスカ君?」
「これ、私が作ったの、もし良かったら食べてください・・・きゃッ」

 声のトーンを上げて手を組んで言うヴィーノにシンだけでなくヨウランまでが横目で見るが、一呼吸置いてヨウランとヴィーノが二人して頭を垂れる。今のところ、チョコをくれそうなお友達はできそうもなかった。

「男のロマンだろ・・・シンはいいよなマユちゃんがいるから」
「マユなんていつもくれねえよ。母さんと一緒とか言ってさ」

 未だ失恋の痛手を引きずるシンは正直チョコのことなどどうでも良かったのだが、反比例するように世の中バレンタインデーへとまっしぐらである。あのルナでさえ、妙にうきうきしているから不気味である。

「ルナはお前を恨んでいるから今年は義理もなさそうだし」

 ルナマリアにはシンが失態を晒した翌日に、開口一番「あたし達のアスランさんに何をするのよー!」と、肘鉄を食らっていた。

「よし、シン! お前は3回もブッチした罰だ。あの人からチョコを貰え」

「あの人って?」
「お前が『暖めてくださいっ』って抱きついた人」

 ニヤりとする二人。
 シンはかぁーっと赤くなるのに気が付かずに、咄嗟に訂正する。

「あれは違うって言っているだろっ! 転びそうになっただけでっ」

「耳まで真っ赤にしてよく言うよ」

「俺達にはさびしいバレンタインが待っていることが確定なんだから、シンが責任取れっ」


 誰が誰に何を貰うって?
 俺があの人にチョコを貰うって、普通逆だろ!?

 いや、いや、いや、そうじゃなくて。

 何で俺が。


 今日は2月8日。
 バレンタインデーまであと1週間。




言った傍からものすごいギリギリじゃないですか。