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 事情を話してしまおうか。
 シンは朝の食卓でぼんやりとそんなことを考える。
 今日はもう金曜日、バレンタイン前の最後の週末である。週が明けたら13日。

 でも切り出しようがないよなあ。
 はあ~。

「シン。銜え箸やめなさい」

 行儀悪く朝食を取るのを、母親に見咎められてしまった。

 妹のマユが『今日は忘れないでお弁当持って行ってよ?』と念押しする。その甲斐あって、その日はちゃんと忘れずに弁当を鞄に詰め込むことができた。駅でヨウランと一緒になっていつものようにファミザに寄る。

「調子はどうよ?」
「何の?」
「そんなの決まっているじゃないか」

 分かっているが、シンはジロリとヨウランを一瞥して店内のドアを開ける。お客に声を掛けるアルバイト店員。

「はいはい」

 昨日より空いている店内でシンの声は意外とよく通った。レジの中の金髪のアルバイトがチラリとシンを見る。シンもそれを確認して、平然と正面のおにぎりが並んだ棚へと大股で近づいた。

 あのバイトとアスランさんは仲が良さそうだよな。

 補充を待つ棚にはいくつもおにぎりはなく、選ぶ必要はないのに、シンは手に取っては置き、手に取っては置きを繰り返していた。おかかと昆布の間を行ったり来たりする。

 あの人に頼んでみるとか。

 隣の寿司巻きに手が伸びて、急に止まる。
 付き合ってるとか言わないよな。

 二人が一緒のシフトの時の様子はどうだったかと思い出す。確かに仲が良さそうに見える。唯のバイトであそこまで親密になるだろうか。
 しかし、彼は誰にでもあんな感じだ。
 物腰柔らかって奴だ。

 だから、それはない。多分。

 結局シンは、梅おにぎりとペットを掴んでお金を払う。ヴィーノを待ちながら、ファミザの前で早速、封を切る。とても天気はいいのに、雲一つない空のせいでいつもより冷え込んだ朝は、ペットのお茶もすぐに冷たくなってしまっていた。

 まあ、でも、貰えなかったからと言って別に何があるわけじゃないし。
 こいつらの思う壺だと、シンはやって来るヨウランを見て思った。




 シン達の高校では屋上やベランダは立ち入り禁止である。それ故、昼食は各自教室で取ることになっていた。屋上で語らうなどの青春の1ページが見られないと言えども決まりは決まりなので、ほとんどの生徒はそのルールを守っていた。
 進学クラスでも上位の成績をキープするシンもその1人で、今は、ヨウランとヴィーノと一緒に机にお弁当を広げている。ヨウランは弁当、ヴィーノはコンビニで買ったパンとおにぎりをパクついている。その隣の島には机を引っ付けて女子共が小さな弁当をつついていた。
 あらかた皆が食べ終わろうしている頃、ルナがやって来る。

「アンタ、面白いこと始めたらしいじゃない?」
「は?」

 ちょうど机の位置ぎりぎりのところにスカートの裾があるくらい、超ミニを着ている。視界に素足が飛び込んできて、椅子に座ったまま彼女を見上げる。
 ルナは女子にしては背が高い方で、理系クラスの数少ない女子である。短く切った臙脂の髪が一房跳ねているのがトレードマークだ。

「×ゲームなんだって?」
「ああ・・・」

 その事か。
 面白くなさそうに相槌を打つ。反対にヨウランやヴィーノは面白そうだった。

 午後の授業は単調で、眠魔との盛大な戦いに勝利した後はただ暇なだけだった。勿論、授業に集中できるならそれがいいのだが、シンは昼休み時間中にルナからもたらされた情報を反芻していた。

 どうやら状況は芳しくないようね。
 腐れ縁のアンタのために一ついいこと教えてあげましょうか?

 ルナはこの高校にできたファン倶楽部の一員である。抱きつき事件の後の反応と比較すると反対のような気がしたのだが、彼女はシンのその疑問にあっさりと答える。

 首尾良く運んだら、アタシの口にも入るじゃない?
 だそうだ。

 そんな彼女が言うには、彼は今週末にどこかに遊びに行く予定があるらしい。
 お近づきになるチャンスだとルナは手をひらひらとさせて、人事のように言った。 

 ヴィーノの奴がしゃべったんだな?
 もうクラス中が知ってんだろうな。止めてくれってーの。

 このまま知らん振りでも決め込もうと思っていたのに、これでは、当日何を言われるかたまったものではない。自分一人だけ少しも面白くないゲームに、溜息を付いた。

 窓からは冬空の下にファミザの看板が見える。

 大学生ってどこに遊びに行くんだろうか。




「アスカ。窓の外がそんなに気になるか?」

 ハッとした時には、既にクラス中の注目を集めていて、指摘に教科書、ノート、黒板を見るが、返事をすることはできなかった。




「お前、5限の時って・・・もしかしてファミザ見てた?」
「は? ファミザ?」

 下駄箱から靴を取り出して地面に投げる。いつもより遠くまで飛んでしまったが、この際気にしない。知らず、シンは口を尖らせて鞄を背負いなおす。

「お前ってさあ・・・純情だよな」

 ギギギと音を立ててシンの首が回る。
 引きつった口元は笑みを浮かべているが、目は笑っていなかった。しかし、シンの友人達は気にせずに会話を続ける。

「見てると面白いんだよね。朝ファミザ入って行く時とかさ、さりげなーく、中確認しているだろ」
「そうそう、態度が違うもんな」

 真冬の時期に比べれば日が落ちるのも少し遅くなって、辺りはまだ明るい。油断しているとすぐに暗くなってしまうけれど。

「あ~あ、後は月曜日と当日だけか」
「ったく、お前ら」
「まっ、シンもあまり思いつめるなよな?」
「別に俺はっ!」

 弁当を忘れた事とか、今日、先生に注意されたこととか、関係ないから!
 喉まで出掛かって口を噤む。口に出したら最後、意識しまくりだと宣言するようなものだからだ。シンは必死に何でもない風を装ったのだが。

「そうそう、別にお前が本当にチョコ貰えるとは思ってないし」
「なんつーか、シン・アスカ君のいつもと違う貴重な一面って奴?」

 シンは足を止めた。
 その台詞に安堵すればいいのに、しかめっ面のまま二人に置いていかれる。

 それはそれでどうなんだ、と。

 こう見えても自分の方が人気がある。と、思う。
 マユの友達にも、カッコいいと言われたのだ。
 ヨウランもヴィーノも、順位だって自分より下だ。

 どうして俺がこんな目にあわなければならないんだ。

 純情なのかも知れない。
 先生に注意される姿が珍しいのかも知れない。
 けれどそれ以上に、シンは負けず嫌いだった。


 お前らがそういうつもりなら、マジでチョコを貰ってやる。


 ヨウランとヴィーノ、二人の後ろでシンの瞳が光る。
 些か、純情と言うよりは直情であった。




すみません。すみません。カウントダウンって難しいんですね・・・。