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×チョコゲーム 3

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匿名ユーザー

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 こういうのをお近づきになれたと言うのだろうか。
 シンは尻餅を付いた冷たいアスファルトの上で漠然と思った。




 前の日、ヨウランとヴィーノに期待していないと言われて俄然やる気になったシンは、彼のシフトを思い浮かべた。月・木・金が朝、火・土が夜シフトだ。朝の彼はバックヤードで補充をした後、パンや弁当を並べてレジ打ちをしていた。何て所まで思い出す。

 月曜日から金曜日は一分一秒でも寝ていたいシンも、土日はすっきりさっぱり目が覚めてしまう体質だった。もし、本当に彼からチョコレートを貰うのであればこの週末が勝負である。なんと言っても自分は、衝撃的な出会いとは言え、まだ彼に名前さえ覚えてもらってないのだ。
 ルナの情報によれば週末にどこかに出かけるらしいから、その前になんとか印象をつける必要があった。

 一時間後、大したプランもなしに、シンは電車に乗っていた。
 いつもより遅い時間でも、癖でついファミザにふらふらと入ってしまう。
 店内では金髪のアルバイトが赤いエプロンを付けて、レジの中を動き回っていた。

「いらっしゃいませ」

 彼女の視線がいつもより長く自分に縫い付けられているのを感じて、思わず目を逸らせば、レジ前の棚に大量のチョコレート。

 そっか。コンビにでもチョコ売っているんだ。
 このチョコをアスランさんが俺に・・・。

 あー、どうやったらそんなシチュエーションになるって言うんだよ。
 一瞬脳裏を掠めてピンク色のビジョンを頭を振って追い払うと、シンはおにぎりの棚を掠めてパンの棚へと回り込んだ。

 しっかりしろ。
 考えるんだ。

 もし俺が女だとして、チョコレートをあげたくなるってのはどんな相手だ。
 パンを片手にまたレジ前の棚のチョコレートを見る。

 どんなって・・・そりゃ付き合ってる相手だと思う。何気なく棚のチョコレートを一箱手にとって見る。こんなのを両手で突き出して『好きです』って憧れの相手にこっ、告白したりとか。うっかり裏面のラベルを見てその値段に目を剥いた。

 こんなぺらい箱が、こんなに高いのか!?

 慌てて棚に戻して、違うのを取る。ルナが毎年、義理でくれそうな箱だった。
 そう言えば、母さんやマユは父さんに毎年あげているよな。そうか、家族か・・・その手があったか。

 アホか俺。
 家族は無理だろ。

 ため息ばかりで、力が抜け、下を向いたままレジに出す。

「温めてください」
「・・・お、おう」

 レンジに入れる後ろ姿を見る。
 彼の後姿を自分は何度となく見ていた。目の前の女とは違うのだ。
 義理チョコくらいしか狙えないのに、相手は男でバレンタインデーには貰う側。ヨウランやヴィーノが言うとおり、声も顔もスタイルもよく、ファミザの少しダサいエプロンも気にならない。バレンタインデーにはきっとたくさんのチョコレートを貰うのだろう。

「お待たせしました」

 ビニール袋を受け取ってすごすごとコンビニを出る。
 時間は朝の9時15分。
 いつものようにコンビニの前で今温めてもらったパンを食べて、紅茶で流し込む。
 ごみを入り口近くのゴミ箱に入れて、当てもなく歩き出す。行くあてがないので自然とその歩みは遅くなる。




 夕方になったところで、朝いた金髪のバイトに頼むという手もあったのだと思い出す。
 チョコレートのことを直接言えなくても、週末どこに行くのとか聞けたではないか。

 見ず知らずの自分がどこまで相手にされるかは大きく疑問だが、こうやってうろうろしているよりかはいい。

 だー、つべこべ悩んでいたって拉致あかない!
 やっぱり、事情を話して協力してもらおう。

 この時点でシンは自分の決意をたった一日で反故にしてしまっているのだが、足は勝手にファミザへと向かっていた。
 時間はもう夜。
 土曜の夜はアスランがファミザにいる。

 夜の街に煌々と看板が見えてくる。
 シンは視界に紺色の頭を見つけて立ち止まった。

 赤いエプロンをしていないが、あれはアスランに違いない。
 コンビニの裏手から出てきて、こちらに歩いてきていた。
 チャンスだと頭の中でサイレンがなり、何か声を掛けないと思う傍からなぜか駆け足で近寄っていた。

 あのっ。
 そう声を掛けようとして、がくりと視界が揺れた。



「いってっ!」

 歩道と駐車場の間には溝があったらしい。シンは運悪くその間にあった蓋のされていないところに足を突っ込んでいた。

「・・・大丈夫か?」
「何でもないです」

 何でもない風を装って立とうとしたのに、片足に上手く力が入らずにペタンと尻餅をついてしまっていた。
 唯でさえ格好悪いのに、余計にダメダメな状況になってシンは動揺した。
 目の前の彼が困ったように笑っている。

「大丈夫じゃないみたいだな」

 彼、アスランがシンの様子を伺おうとしゃがみ込んだ。その様子をシンはただ黙って見つめる。彼が腕時計を確認して少し思案するように考え込み、すっくと立ち上がった。

「病院へ行こう」

 シンは何か言おうと必死に言葉を捜したが、肝心なことは言えずに『はい』、『少し痛いです』、『高校2年生です』だの答えていた。
 自分でも嬉しいのか恥ずかしいのか分からない。

 おそらくその両方なのだろう。冷えてきて寒い夜だというのに、顔がやけに熱かった。自然と両手が頬に上がる。

「俺はアスラン・ザラ。君は?」

 彼は携帯でどこかにメールを打った後、車のキーを取り出して何気なくシンに問うた。
 シンは心臓が一つ大きくなるのを聞く。

「えっと、シンです。シン・アスカ」

 彼が乗れと指した車はピンクのコンパクトカーだった。




急展開なのは仕様です。ご都合主義クオリティ万歳。あ~、この話どうなるんでしょうね・・・。

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