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 自己紹介しちゃったよ、俺。

 どうせならもっとましなシチュエーションが良かったんじゃないかと後悔しても後の祭り。シンがドアに手をかける時、アスランは近くの病院に電話して、夜間窓口が空いているかどうか確認していた。

 ドアを良く見たら、ピンクと言うよりは赤色だった。
 シンは自分が乗り込むのを待っている彼を見る。ピンクだか赤だかのコンパクトカーに乗っているのが意外で、彼に対するイメージに疑問符が浮かぶ。

 車内のエクステリアもエンジン音も、かわいい系。辛うじて、掛かっている音楽が地元FM局の洋楽だったから少しホッとした。

「シートベルト締めて」
「はっ、はい!」

 カチカチとウィンカーの音がして、道路に出る。

「君は・・・毎日、朝来てるのか?」
「そうですけど」

 ステアリングを切る彼の動きに澱みはなく、話掛けていいものかと逡巡していたシンはある意味拍子抜けしていた。気を張っているのは自分だけらしい。

「コンビニで朝食代り?」
「そんな事ないですけど・・・昼までもたないんで、俺・・・」

 夜の道は空いていて、対向車線ですれ違う車が時々いるくらい。暗闇に浮かぶ街路灯が等間隔に並んでいてまるで異空間のよう。むしろ、却って洋楽に違和感を感じた。

 乗っているこの車は、テレビでもよくCMをしている今流行のスモールサイズにぎゅっと機能を詰め込んだコンパクトカー。正直、この人のイメージからは程遠かった。
 端からアスランが自分で選ぶわけがないと思っているシンは別の可能性に思い当たって、妙に納得した。

「この車、もしかして彼女さんのですか?」
「・・・うーん、半分あたりで半分外れかなあ」

 完全否定ではなかったことでどういう反応をしたものか困った。

「知り合いで車を制約しちゃった後に無用になった人がいて、俺が替わりに買うことになったんだよ」

 替わりに買ったとはどういう意味だろう。
 小っちゃいけれど、車ってものすごく高い・・・よな?

「それがさ、彼女も、俺の親友も俺が嫌がるとか、断るとか思っていないんだよ。可笑しいだろ? 150万はする自動車をさ、右から左みたいに彼らの中で俺がこの車を買うのが決定みたいで」
「それで、買っちゃったんですか?」
「そういうことになるな」

 大きな国道だけはトラックが一杯走っていて、高架を降りた所に病院の建物が見えた。ビルの屋上に緑色の十字のネオンが夜空にぼんやり浮かび上がっている。

「そういう事・・・って変ですよ」
「うん、まあ・・・でも元カノの言うことだからね。俺が車探していたってのも事実だし」

 元カノって事は、彼女ってことは。
 シンは道路から病院の駐車場に入っていくのを見ながら、心臓がドクドクと動き出す。

「も、もしかしてアスランさん、今フリーなんですか?」
「それは、君もだろ? バレンタイン前に一人ふらふらしているくらいだ」

 笑いながらアスランがステアリングを右に左に切って病院の中を進む。建物を通り過ぎて、夜間外来窓口の近くで小さな車が止まった。

 フリーなんだ、この人。
 シンはピンと頭に閃いた名案を咄嗟に口に出していた。

「だったらっ、一緒にチョコ贈りあいっこしません?」

 ナイスアイデア、俺。

 シンが言ったのと同時にエンジンが止まって、キーホルダーがガチャガチャと音を立てた。シンはアスランが何が言ってくれるのを待ち、ずっと息を潜めて暗闇の中、窓口の光が映しこまれた瞳を見ていた。

 ところが、アスランの口から出た言葉は、まるでシンの提案を聞いていないかのように、全く関係ないことだった。

「そう言えば、君は家に連絡しなくていいのか?」

「あっ」

 忘れてた!
 慌てて、携帯を取り出すシン。
 アスランが車から降りるのを見て、携帯で家に連絡しながら後を追う。耳元では母親がきつい声で何か言っている。

 どう説明したものか困ったシンは、一言「ちょっと遅くなる」と十分遅い時間に連絡して強引に通話を切った。

 看護婦に何か話しているアスランを見つけて、病院独特の灰色の世界と消毒液が混じった空気に、シンは足が痛いのをようやく思い出した。




 担当医が内科の先生だったらしく、レントゲン写真を撮った後に湿布を出されて診察は終わってしまった。詳しくは分からないから、痛みが引かないようならまた来なさいと言い残されて、二人は真っ暗な病院の中を歩く。

「災難だったな」
「はあ・・・」

 まだそうと決まったわけではない。輝かしい栄光のための困難の一つだと思えば、この怪我も巧妙となるかも知れないのだ。

「じゃあ、お見舞いはチョコかな」

 えっ?

「さっきの話、面白そうだと思ってさ。一度バレンタインのチョコ売り場ってのを覗いてみたいと思っていたんだ」

 じゃあ、じゃあ、アスランさん!
 シンは顔を輝かせて彼を見る。

「そんなに嬉しいのか? チョコの数が一個増える事」

 足を捻った事など安いもんだと、心の中でガッツポーズをした。
 ヨウラン、ヴィーノ、見てろよ。

「当たり前ですっ!」
「そんなもんか・・・・・・?」

 その時、談笑するシンとアスラン、二人だけの靴音に、一つ遠くから靴音が聞こえてきた。




「アスランっ!」

 靴音は駆け足になって、ぜーはーと肩で息をする見知らぬ男。

「これから病院行くって、びっくりしたじゃないか。どうしたの?!」
「キラ。怪我は俺じゃなくて、彼。ファミザの駐車場でちょっとな」
「まさか、交通事故!? 今から警察?!」

 突っかからん勢いの男は、詰め寄って矢継ぎ早に質問を投げる。やや押され気味のアスランが逆に驚いていた。

「あ、こいつはキラって言って俺の友人」
「友人だって、ひどーい」
「違うのか?」

 アスランがシンを見て口を噤む。
 自分の事だと、シンは彼の視線の意味を読んで、アスランに迫る男に説明した。側溝で足をひねって、彼の世話になったことを。
 その時になって、もう二つ靴音が響いてきた。

 夜間の外来出入り口で5人の男女が立ち止まる。男三人と女二人。
 後から現れた女性は二人で、一人は長いピンク色の髪の女性で、残る一人はシンも知っている、ファミザの金髪のアルバイトだった。

「なんだそうか、心配した~」
「俺は彼を家まで送っていくから、その後でいいか?」
「まあ、しょうがないか」

「すみません」

 何だか謝らなくてはいけないような気になって、訳もわからず、シンはアスランの知り合いらしき男に謝っていた。病院の光に照らされた車はやっぱり、赤かピンクか微妙な色合いだった。

「やっぱりアスランには赤が似合いますわね」
「ラクスが選らんだ色だしな」

 背後から聞こえた会話に、先ほどの会話が蘇る。
 振り返りたくても振り返れない。ラクスと呼ばれた女はきっと、ピンク色の髪の女だと、それが彼の元カノだと確認したくて、シンはしっかり見ることもできずに、元カノから譲られたという車に乗り込んだ。



 エンジンと同時にヒーターがガンガンに掛かって、運転席の彼が窓を開けた。覗き込むのは、病院の中を走ってきた男、キラ。
「僕達、先に行っているから」
「ああ」

 キラが視線を逸らして、助手席のシンを見る。その後、横にいたカガリを見上げた。
「何、あのちまいの?」
「どうやらアスランのファンらしい」
「あー、彼が噂の・・・」

 二人がボソボソと何かを話している。
 キラが顔を戻してまたアスランに話しかける。

「相変わらず無駄にモテるね。いたいけな青少年の人生狂わせてどうするのさ」
「どういう意味だそれ」

 エルボーと共に窓からたたき出され、窓がジーと上がっていく。
 段々少なくなる領域から、アスランの友人とやらが言う。

「そうそう、君、アスラン甘いもの好きだよ? ピーチとかストロベリーとか大好きだし、頑張りなね」

 途端、回転数が上がって車が走り出す。
 シンは驚いて、後ろを振り返った。
 平然と立つキラと両脇の女性達と彼の間に、まるでドラマのような関係を垣間見た気がして、慌てて前を向いた。

 行きよりスピードを上げて、小さな車がカッ飛んで行く。

「あいつ、ちょっと変だから、まあ気にするな」
「あっ、俺も気にしてませんから」

 シンの道案内とナビですぐに家に着いた。

 もう日付は日曜で、2月12日。
 バレンタインデーまであと2日。

 彼にチョコレートをあげる代わりに、彼からも貰う。
 その日、シンはマユに引っ付いて、デパートのチョコレート売り場でもみくちゃにされながら彼に渡すチョコレートを買った。




あーもう次の日になっているよ。ご都合展開はいつものことってことで。