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『これ、おいしそうだったから』
 堂々と渡したら、何か勘違いされそうだよな。

『アスランさん、甘いものが好きなんですよね。とびっきり甘そうなの選んでみました』
 やっぱり、笑顔で言うもんだろうか。

『売り場すごいことになってました』
 と言いつつ、自然に渡す。


 渡すって、あのコンビニの中で・・・?




 シンは朝、電車に揺られながら、懸命にシチュエーションを考えていた。性格には昨夜からである。歩く場所もないデパ地下でチョコレートを選んでいる時から、どうやって渡そうかと頭の中をいっぱいにしていた。

 マユに手を引っ張られながらである。
 どの価格帯がいいのか、一箱の数や包装、手提袋など、考えることは一杯あるわよと凄まれて、デパチカを埋め尽くす女性達のたくましさを垣間見た。

 やっとのことで見つけたチョコレートは、フルーツのジェルが入った一口で食べられる小さなチョコレート。包装はブラックベースで赤と白のリボンがアクセントに添えてある。妹のマユに買ってもらおうとしたら、にやっと笑われて『お兄ちゃん、自分で買ってよ』と突き放された。

 顔を真っ赤にして、背中に汗を流しながら手に入れたチョコレートは今、鞄の中。明日チョコレートを貰うなら、今日渡しておいたほうがいいと、シンはいつもより早めに家を出たのだった。



 しかし、週が開けた月曜のコンビニはやけに人が多かった。いつもは見ないクラスメイトもファミザにやって来て、一つ二つ買って行く。
 なかなかレジが途切れずに、ひたすら立ち読みをする羽目になる。

 随分と待って、レジ待ちが一人となった所でシンはいつものおにぎりとペットボトルをすばやく掴むとレジへと向かった。隣のレジにも誰もいず、ローテーションが一緒の金髪のバイトはお弁当を並べに出て行った。千載一遇のチャンスである。
 バクバクと心臓が鳴り、必死で練習した台詞を頭で繰り返す。もしかしたら、口からちょっと出ていたかもしれない。

 チョコレートを探そうと鞄の中に手を入れた時、入り口のベルが鳴った。

 肩の力が急に抜ける。



 入ってきたのはヨウランとヴィーノだった。
 どうして今入ってくるのだと、目で訴えるも、二人に分かろうはずもなく、いつもどおり声を掛けてくる。

「ーーっす、シン。早いじゃん」
「・・・。」

 シンは手に当たった財布を何事もなく取り出して、レジに小銭を出した。
 せっかく、アスランさんにチョコレートを渡せるチャンスだったのに。白い袋を取り出して、商品を詰める彼の手がふと止まる。

「足、大丈夫なのか?」

 シンの中で声を掛けられて嬉しい気持ちと、ヨウランとヴィーノの前で秘密にしていたかった気持ちが混ぜこぜになる。

 二人がアスランに声を掛けられたシンを見てびっくりしている。それはそうだろう、先週まで声を交わしたこともない二人なのだ。よほどの常連や地元住人でなければ、アルバイトが客に世間話を持ちかけるなど滅多にない。

「全然平気です。ちょっとひねっただけだと思うから・・・」

 案の定、買い物を済ませたシンに二人が寄って来る。

「何、お前、仲良く会話しちゃったりしてるの?」
「何があった、シン!?」

 こいつらの前じゃあ、渡すに渡せない。 

「別にたいしたことじゃないよ」
「言え~、吐くんだ~」

 丸秘作戦を感づかれるわけにはいかないし、さてどうしたものかと考え込むシン。

 そうする間にも、刻一刻と始業の時間が迫る。
 朝のHRの時に教室にいなければ遅刻である。
 チョコレートを渡しそびれて遅刻とは、なんともかっこ悪すぎるし、何より、クラスメイトの追求を逃れられない。何しろ、ずっと、ファミザにいたことは周知の事実なのだ。

「それはそうと時間だぜ?」
「あっ、本当だ」

 慌ててレジに行く二人をシンの視線が追う。
 レジ袋を持ってコンビニを出て行こうとする二人に付いてファミザから出ようとするが、足が重い。

 何をやってんだよ俺は。
 あれだけ彼に派手に抱きついておいてさ、今更だろ?
 今を逃せば、今日はもう渡せないんだぞ。

「ごめ、俺、追加。先行ってて」

 シンは言うなり、店内へと引き返していった。
 ギリギリまで粘れば、まだ時間はある。




 鞄の中のチョコレートが取り出すタイミングもなければ、あんなに練習した渡し方を披露することもできそうもない。コンビニのドアが開くたびに鳴るとベルが、さっきからひっきりなしに鳴っている。

 いくつかベルが連続した後、ざわめきが起こった。
 チラッと入り口を見ると、入ってきた男がレジの中のアスランに声を掛けていた。

「アスラン、偵察に来ちゃった」
「どうしたんだ、お前。こんな朝早くから」

 彼の知り合いである、キラという男。
 友人だから、二人は随分と砕けた感じで会話を交わしている。先程、シンに『大丈夫か』と問いかけたものとは随分と違う。

 シンは棚の向こうから二人の様子を眺めていたが、チラリと視線を寄越されて息を呑んだ。睨むような、からかうような意味不明の瞳。

「決戦はもう始まっているからね」
「はあ・・・バレンタインは明日だろ? 俺はバイト中なんだよ。また後でな」

 タバコのカートンをばらしながら応対するアスランに、真面目に取り合ってくれないのを感じたのか、ホットウォーマーに方に回りこむキラ。

「アスラン、知ってる?」
「何を?」

 ATMに手を掛けて、二人がカウンター越しに会話している。内緒話をするように少し顔を近づけた途端、店内に居合わせた女子から黄色い悲鳴があがった。

「あの子さ、君に告白するチャンスをずっと待っていたんだよ。バレンタインで告白なんて少女マンガみたいだよね」

 あの子って俺のことか? と、ここぞとばかりに投入されたチョコレートのデザートを見ていたシンの耳が反応する。しかし、よくよく内容を吟味してみると。

 告白するチャンスをずっと待っていた?

「友達と数の勝負してるって言っていたぞ?」
「もう・・・どうして君は、恋する少年の気持ちが分からないかなあ。お互いにチョコを渡し合うって事にすれば、いきなり告白してチョコ渡すよりはずっと気が楽でしょ。男が年上の男にチョコレート渡すなんて恥ずかし過ぎるよ」

 恋する少年って何だよっ!
 大体それっ、違うから。逆だからっ。

「お前・・・。大丈夫か?」
「でも、あの子さ、棚のチョコ見て溜め息付いていたぞ」

 バイト仲間の金髪が要らぬフォローをするから、シンは居た堪れなくなって聞こえないフリをして冷たいペットの冷蔵庫へとフラフラと流れていく。

 寄りによって、俺がチョコを渡すって話になっているのかよ!

 なけなしのシンのプライドが頭をもたげる。
 ヨウランをヴィーノを見返してやる。元々、その気になれば俺だってチョコレートの一つや二つくらいと、思っていたのだから。




 ヨウランやヴィーノ、ルナマリアも混ざっての厳しい追及にも、シンはだんまりを決め込んだ。チョコレートの渡し合いを提案したのは自分だけど、貰うなら向こうからが良かったのだ。

 自分は彼からのチョコレートが欲しい。
 けれど、どうにもしっくり来ないこの気持ちはなんだろう、と、一日中考えていた。





いよいよ明日なのに、結末にちょっとアタフタし過ぎですよ>私。